初めてアイツに会ったのは大学のキャンパス。
春だった。

長かった受験勉強からようやく開放されて
何もかもが光り輝いて見えた。

何か素晴らしい事が起こりそうな予感。

桜並木の通りをワクワクしながら駆け上る。
舞い踊る桜の花びら。

そんな中、すれ違った。
一瞬の出来事。

目が合ったんだ。

あんまり綺麗だったので最初は女だと思った。
でも次の瞬間、服装や体格が目に入り
ああ・・・男か・・・・と思った。

不思議と落胆はなかった。

紅い瞳がまるで射抜くように俺を見て
そして何事もなかったように瞳を伏せて行ってしまった。

時間にしてみればほんの2〜3秒の事だったと思うけど
俺には永遠にも感じられたんだ。







次にアイツを見たのは校舎の中庭。
空き時間なのだろうか、木陰で本を読んでいた。

青い空に緑の美しい大木。
木漏れ日の中、読書するその姿は
まるで一枚の絵のようだった。

俺は立ち尽くして、ただ遠くから見つめるだけ。

友達に促されてハッと我に返り
また馬鹿言いながら、その場を後にした。







それは突然だった。
真っ赤な顔で交際を申し込んできた女の子。
すごく驚いたけど、無意識に出てしまった言葉に俺はもっと驚いた。
「ごめん、俺、好きな子いるから。」

好きな子?
好きな子なんて、いたっけ?

女?

そんな女なんていない・・・・。

女・・じゃない。


アイツ・・・・アイツ・・・だ・・・・・・。

俺はアイツが気になって気になって仕方がない。

まだたった2回しか会ってない。
いや、「会った」というより「見た」と言うほうが正しい。

なのになんで?
いや、そもそもアイツは男じゃないか!

なんで俺が男なんか・・・・。



その時。
アイツが俺の目の前を通り過ぎた。

その瞬間、時間は止まった。


端整な横顔。
そよ風になびく柔らかそうな髪、のぞく項。


俺は無意識にアイツに駆け寄った。

「おい!」
そして腕を掴む。

アイツが見るからに怪訝そうな顔で振り向いた。



・・・・・・。
どうしよう・・・・。何を言ったらいいんだ?
俺、なんでこんな事・・・・・。

・・・。
ええい!!なるようになれ!!

「あ、あの・・・・。俺、木ノ宮タカオ!お前は?」
俺の方が少しだけ背が高いようで、僅かに見上げる紅い瞳。
その瞳に驚きと困惑が浮かんでいた。

「・・・なんだ?貴様は・・・。」
貴様って・・・。
見上げているのに明らかに見下すその態度。

「名前。名前教えてくれよ!」
「何故だ。」
取り付く島もない。

「・・・・友達になりたいんだ。」
「友だと?・・・くだらん。」
そのまま踵を返してしまいそうなのを、もう一度腕を取って
「なあ!名前!!」
血も凍りそうなその瞳。
「・・・・。火渡・・カイ。」

そして今度こそ、俺の手を振り払って行ってしまった。
「火渡カイか・・・。お〜い、カイ!!またな〜〜!!」

カイは振り返らなかった。

華奢な腕だったな・・・・。

俺はカイの腕を掴んだ自分の手を見つめた。






それからも時々カイを見かけた。
そして気づいたのは、カイはいつも一人だということ。
俺の周りにはいつも馬鹿ばかり言う男どもが群がってたけど
カイはいつも、どんな時も一人だった。

そして思い出す。
カイの名前を尋ねたあの時。

・・・・。
いつもあんな態度じゃ・・・友達もできないよな〜・・・。

俺は一人苦笑い。

でもあんなに綺麗なんだ。女どもが群がってもおかしくないと思うのだが・・・。
きっと女にも同じような態度なんだろうな・・・と想像した。

友達もいない。彼女もいない。
一人。
どんな時も・・・・・。

きっとカイはまだ、誰のものでもない。
そう思うと、どこかで安堵している俺がいる。

相手にしてもらえない、という点では俺も他のヤツラも同じなのだが・・・・。













ある日、街中でカイを見かけた。
高級ホテルの前だった・・と思う。
カイはスーツ姿だった。
そして珍しく携帯で誰かと話していた。
誰と話してるんだろう・・・一体何の話を・・・。
俺は電話の相手に嫉妬していることに気づいた。
パチン・・と携帯を閉じると、間もなくカイの目の前で静かに車が止まる。
黒塗りのメルセデス。
車から運転手らしき男がカイに礼をしてドアを開けると
カイは当たり前のように静かにベンツへと乗り込んだ。

・・・・!
カイ!あいつ・・・・何者だ!?


俺は車が去った方をいつまでも見つめていた。









誰も寄せ付けないカイ。
誰に対してもそっけない態度のカイ。
そして運転主付きのベンツに、当然のように乗り込む貴公子のようなカイ。
色々なカイが頭に浮かぶ。

この無気力な現代に
誰とでも無意味な会話をして楽しそうに笑うヤツラの中
カイは孤高の存在に見えた。
その存在はどこか謎めいていて・・・・。


もっと・・・もっとカイを知りたい。
もっと・・・・・。


気づくと、いつもカイの事を考えている。
昨夜などは夢に出てきた。
夢の中のカイは綺麗な笑顔で俺に語りかけてくれた。

あんなカイを現実に見たい。
カイ・・・・。


まずい。
重症だ、これは・・・・。


女なら普通の片想いで済む。
だが、カイは男だ。

どう考えても絶望的。



悶々と日々だけが過ぎていく。










その日はいつもより早く目が覚めた。
何もすることがなかったので、少し早かったけど大学へ行った。

まだ人が少ないキャンパス。
その中庭の、いつもの大木の元にカイがいた。

「・・・・驚いたな・・・。」
思いがけず巡ってきたチャンスに胸が高鳴るのを感じた。

「おはよ、カイ。」
「また貴様か・・・・。」
俺が声をかけると溜息混じりに答えた。
「覚えててくれたんだ。」
俺は素直に嬉しかった。
「・・・・・。」
「カイ、お前っていつも一人なのな。」
「・・・・・。」
「友達作んねーの?」
「・・・くだらん・・・。」
「俺、本当にお前と友達になりたいんだ。」
密かな感情は抑えてそう告白した。
するとカイは珍しくちょっと驚いた風な顔をした。
「・・・・。なるほど・・・・。青龍自ら近づいてきたか・・・・。」
「?せいりゅう?なんだ?それは。」
「・・・違うのか?」
「なあ、なんなんだ?その「せいりゅう」って。」
「・・・。違うのならいい。忘れろ。」
そう言うと、カイはまた本へと視線を戻した。
「おい・・・・。」
俺はドサクサに紛れてカイの隣へ腰を下ろした。
するとカイはもう一度本から視線を俺に移し、見覚えのある射るような瞳で
「俺に近づくな。」
と言い放った。
カチン・・ときた俺は事もあろうか、カイの腕を取ってそのまま・・・・
唇付けていた。

カイの唇はどこまでも柔らかく、そして甘かった。

その感触に感動していると次の瞬間、腹に凄まじい衝撃が。
カイの拳骨が決まっていた。

「二度と俺の前に現れるな。」

ゲホッ・・・ゲホゲホ・・・・と咳き込んだものの、俺も必死だった。
立ち去ろうとするカイの腕を取り、引き寄せ抱きしめた・・・・と思った。
が、カイは俺の腕をすり抜け行ってしまった。

腕の中はただ、果てしない空白。



やってしまった・・・。
やってはいけなかったんだ。

カイはどう思ったろう。
男が男にキス・・・なんて・・・・・。

なんてこった・・。
できることなら時間を元に戻したい・・・。

激しい自責の念。




だがやはり思う。

やっぱり俺、カイが好きだ。

あの射るような鋭い、とても綺麗な紅い瞳。
ちょっと掠れたハスキーボイス。
端整な顔立ち、柔らかそうなツートンの髪。
華奢な腕。
柔らかな唇。
思い出すだけで胸が高鳴り、渇望にも似た気持ちになる。

こんな気持ち、初めてだった。
今まで何度か好きな女の子ができたり付き合ったりもしたけど
こんな気持ちは・・・・初めてなんだ。







その日、アパートに帰り「せいりゅう」を調べてみた。
「清流」じゃないよな。イントネーションが違うし。
「せいりゅう 青龍
四神の一。天の東方の守護神で、竜にかたどる。蒼竜。」

・・・これ・・・か?
神様?なんで俺がそれなんだ?
それとも何かと聞き間違えたかな?

結局俺にはさっぱり分からず、きっと何かと聞き間違えたのだと結論付けた。
また・・・カイと話す機会があれば・・・あるのか?・・あって欲しい・・・・
その時にでも聞いてみよう。












そんな時、ある噂話を聞いた。
「火渡エンタープライズの御曹司がこの大学にいる。」

火渡といえば世界レベルの大企業。
そう・・・か。
カイがその御曹司なんだ。
だからあの時、運転手付きのベンツなんかに・・・・。

その関連性を全く考えなかった自分が腹立たしかった。
この大学は一応・・いや、れっきとした超名門私立大学。
ここの卒業生で政治家になったり社長になったりしたヤツは数知れず。
皆、自分と同じ一般庶民だと思ったら大間違いなのだ。

そうか・・・・そういう・・・・ことか。


カイの何処かミステリアスな雰囲気も魅力の一つだったので
一つ謎が解けたことによって安堵したと言ったらいいのか
がっかりしたと言ったらいいのか。










「おはよう!」
俺は何事もなかったように話しかけた。
一限目、俺は空き時間だったけど
この時間にカイがこの講義を取っていることは知っていた。
「・・・・貴様・・・・。」
チッ・・・とカイが舌打ちを打つ。
「隣、いいか?」
「俺の話を聞いてなかったのか。俺の前に・・・。」
カイの話の腰を折って俺は続けた。
「この前お前が言ってたのってなんだ?
『せいりゅう』って聞えたから俺、調べてみたんだけど、よく分かんなくて。
青龍は東の守り神か何からしいけど、それと俺が関係あるとは思えないし。
お前にもう一度聞こうと思ってさ。」
「・・・・。聞えなかったのか。二度と俺に近づくな。」
「なんで?」
俺は臆した風もなく、わざと飄々と答えた。
するとカイが言葉に詰まった。
その時、教授が現れて講義が始まった。
俺はそのままカイの隣に。

やりぃ!

100分もの間、言葉こそ交わさなかったが
ずっとカイの隣にいることができてドキドキが止まらなかった。
真剣に講義に聞き入るカイ。
シャープペンをスラスラとノート上に滑らせるカイ。
片肘をつくカイ。
全ての動きがどこか洗練されていて。
それを横目で見ているだけで俺は幸せだった。


チャイムが鳴り、講義が終る。
それを心から残念に思っていたら、驚いたことにカイの方から話しかけてきた。
「木ノ宮、話がある。」

2限目は講義があったのだが当然サボリ!
カイの方からのお誘いなんて、この先あるかどうか。

連れて行かれたのは大学内のひと気のない森林。
聞いた話によると自然の植物園らしい。
新入生歓迎の行事としてここで夜、肝試しをするサークルが多いとか。
カイはそこへ勝手知ったるふうで分け入り、辺りにひと気がない事を確認すると
俺に向き直った。

「お前だけは俺に近づくべきじゃなかった。」
「?何のことだ?」
「俺には監視がついている。今も恐らくどこかで俺を見張っている。
もうお前の事は調べ上げられているだろう。」
「え?」
「お前は青龍だ。本当に・・一目で分かった。」
「・・・?あの、サッパリ分かんねーんだけど・・・。」
「お前、不思議な現象を経験したことはないか?」
「不思議?」
「なにか神秘な力を感じる、そんな現象だ。」
「不思議ね〜・・・。
・・・そういやー、俺の母ちゃん・・もう死んじまったけど・・・
その母ちゃんが俺を身ごもってた時に龍が腹に宿る夢を見たとか・・・笑っちゃうよな。「日本昔話」かよってさ!俺は当然信じちゃいなかったけど。」
「他には?」
「そーだな・・・・こんな事言うと笑われそうだけど・・
俺、植物の気持ちとか、なんとなくだけど・・・わかるような気がするんだ。
ここの木々は自然に育って元気だけど
都市の街路樹は生きるのに精一杯っていうのが、なんとなく分かるような・・・。」
「木々の気持ち・・。なるほどな。お前が目覚めればもっと使える力が増えるだろう。」
「??俺、そんな事はどうでもいいから・・・お前と友達になりたいんだけど。」
「その気持ちは恐らくお前が青龍だからだ。
四聖獣は互いに惹かれあう。
特に龍は古来より皇帝の象徴。その妃の冠に鳳凰があしらわれる事も多い。
鳳凰と朱雀は本来別物だが・・・。」
「・・・・。」
「古来より四聖獣の力を持つ者が時々現れた。
青龍、朱雀、白虎、玄武。
だが4人同時にそろった事はない。
少なくとも神話の時代以外は。
これ等が一度に揃うと・・・大いなる力がもたらされる・・・・と神話にあるらしい。
俺がその朱雀だと知った俺の祖父が、他に四神はいないかと探し始めたのはかなり前の事。
四神は互いに惹かれあう。
俺を監視していれば、もし他に四神がいるのなら放っておいても俺に接触を図るだろう。」
「俺が青龍?お前が朱雀?」
「・・・・そうだ。」
カイは静かに目を閉じた。するとカイの周りの空気だけ少し光って見えて風が起こる。
その風に舞い上げられたカイの髪。
額に鳥のような文様が浮かび上がった。
「な・・・・!」
「これはその辺の雑魚には見えん。俺を監視しているヤツにもな。
見えること自体お前が只者でない証拠。
そしてこれは・・・お前にもできる筈だ。」
俺もやってみようと額に力をこめてみたけど何も起こらなかった。
がっかりしていると
「焦る事はない。それにそんな力、使う必要もない。
・・・・・。
俺の祖父は・・・四神の力を手に入れようと考えている。
最初は俺も本気にしなかった。
第一神話以外、有史以来そろった事のない四神を探すなど馬鹿げた事に思えた。
だが、お前が俺の前に現れて・・・・・初めて・・・・・。」
思いもしなかった壮大な話に腰を抜かしそうになる。
「だからお前は俺に近づかない方が良い。
お前が青龍だと知れれば、祖父の手によって拉致される。」
「・・・・・。」
「だから、俺から離れろ。今ならまだ間に合う。
お前が俺と友になりたいというのも、四神故だ。他に理由などない。」
「カイがいつも一人でいたのって、もしかしてそういう事だったのか。」
「・・・・。・・元々人と馴れ合うのは好きではない。」
「・・・・・・・・。
俺、初めてお前を見た時、女だと思った。あんまり綺麗だったから。
でも、体形とか服装とかで、すぐに男だと分かった。
なのに俺、お前に一目惚れしちまった。」
「だからそれは・・・。」
「俺、それ以来お前の事ばっかで。
今までのどんな恋よりも、激しい気持ちになった。
それは青龍だからとか、そんなんじゃないと思う。
百歩譲ってその気持ちがその青龍だったからとして・・・・
ということはもしかしてカイも俺に惹かれたって事か?」
「!!」
カイは虚を突かれたように目を見開きうろたえた。
その頬はほんのりと赤く染まっていた。
可愛いと・・・・思った。
そして俺はその隙を見逃さなかった。
カイをすぐ傍の大木に追い込み顔の両側に肘を突いて。
「何も言わなくていい。その顔を見れば一目瞭然ってか?」
「・・・・!」
俺はカイとの距離を縮める。
「カイ・・・。」
そしてその距離はゼロへ・・・。
今度はカイは抵抗しなかった。
思い切って舌を差し入れてみたら、おずおずとカイのほうからも絡めてきて。
嬉しくて・・・・。
感情の湧きあがるままにカイを抱きしめた。






「木ノ宮・・・。」
俺の腕の中でカイが口を開く。
「・・・・こうなった事は恐らくもう祖父の耳に入っている。」
「・・・そうか・・・。」
「気をつけてくれ。必ず祖父はお前を・・・。」
「俺、剣道と合気道、段持ちなんだ。空手も少しかじってる。
ちょっとやそっとじゃ、捕まりゃしないぜ?」
「・・・・・。」
カイが心配そうな瞳で俺を見上げた。

「ところでさー。もし本当に俺が青龍でカイが朱雀なら・・・もしかしたら白虎や玄武もいるかもしれないって事か?」
「それは分からん。
歴史を紐解いてみると大抵は青龍だけ、朱雀だけと一人だけ現れたのだが
時々二人そろったこともあったようだ。
それ以上揃った事は有史以来ない。神話の中だけの話だ。」
「そうか。なら安心だな!」
「何がだ。」
「もし白虎や玄武が現れて、カイがそいつに惹かれちゃったらやだな〜って思ってさ!」
「お、お前は何を悠長な事を!!そんなことより自分の身の心配をしろ!」
カイが真っ赤な顔で抗議した。
その姿があんまり可愛くて。
俺はもう一度カイに唇付けた。









それから何回目かにカイと会った時。
俺のアパートで、カイと俺は・・・・。

幸せ・・・・だ・・・・・。
こんなに心から幸せだと思えて
こんなにも満ち足りた気持ちになれたのは初めてだ。

カイは、綺麗だった。
どこもかしこも、綺麗でどこか儚げで・・・。
カイのその表情も仕草も、何もかもがこんなにも愛おしい。

本当に・・・カイは掛け替えのない・・俺にとってはただ一つの存在。

カイに出会えたこと、今までのこと全てに感謝したい・・そんな気持ち。
こんな気持ちも初めてだった。














それからは。
もう人生薔薇色!
人目を避けて時々カイと会って。
抱きしめてキスをして・・・時々俺の部屋で夜を過ごした。

誰かに襲われたり拉致されそうになったことはなかったが
誰かの視線を感じることは時々あった。
二人そろっただけではその「大いなる力」は手に入らないから
次なる白虎や玄武を見つけるために泳がされているのだろう、とカイは言った。
っつーことは、俺とカイがにゃんにゃんしてる時もどっかから見てるって事か?
悪趣味〜!

・・・・。
まあ、いいか。
実害はない訳だし。
このまま白虎や玄武が見つからなければ、俺たちの蜜月は続く。

どうかこのまま見つかりませんように。












そんなある日、携帯にカイからメールが届いた。
「話がある。いつもの植物園で待つ。」

全くカイのやつ〜。これじゃあ果たし状かなんかみてーじゃん!
もうちょっと色気のある文を・・・。
・・・でもまあ・・・本人に色気があるから(言うと怒ると思うけど)・・・ま、いーか!
俺はウキウキしながら植物園へ向かった。
いつもの場所へ着くとカイはまだおらず、俺は木の根元に腰を下ろした。
何の話かな〜、と考えながら木々や青空に瞳を向ける。
自然のままにすくすくと育ったその植物園は、一見無計画にも見えるが
なんて美しい姿なのだろう・・と感じる。
今日もいい天気だな〜と考えていたら、カイがやって来た。
やって来たというより駆け込んできたって感じだった。
「・・・木ノ宮・・・。」息を切らしながらカイが言う。
「木ノ宮・・・逃げよう。今すぐに!」
「なんだ?一体どうしたんだ?」
「木ノ宮、早く・・・!」
カイにしては珍しく、酷く焦って慌てているように見えたので
とにかくカイを落ち着かせようと、俺はカイを抱きしめた。
「何を・・!そんな事してる暇は・・!」
「カイ・・・・まあ、落ち着けって・・・・。」
カイはすこしの間、俺の腕の中でジタバタしていたが暫くして動くのをやめ、俺の背にゆっくりと腕を回した。
「・・・・すまない・・・・・。」
「いいって・・・・で。一体何があったんだ?」
「玄武が見つかった。」
「え・・・!?」
「本当だ。今まで二人以上そろったことがないというのに。
こうなるときっと白虎もどこかにいる。白虎が見つかったらお前は捕まる。確実に。
そうなる前に逃げたほうがいい。外国の・・・何処かへ。
ヨーロッパがいいか・・・それともアジアの山奥か・・・・。
アメリカはダメだ。今祖父が向かっている・・・。」
「玄武ってアメリカにいたのか?」
「ああ。アメリカの研究者だとか。
俺たちと同年代だが、飛び級に次ぐ飛び級ですでに研究職についている。日本人とのハーフらしい。」
「へえ・・・会ってみたいな。」
「何を悠長な事を言っている!
木ノ宮、今すぐ大学に休学届けを。
ヨーロッパには嫌なヤツだが友人もいる。そいつの所へでも転がり込むぞ。」
「・・・・・。」
「・・・大学には戻れないかもしれない。だが贅沢を言わねば二人で暮らしていけるくらいの所持金はある。」
「・・・・カイ!」
「木ノ宮、荷物をまとめるんだ!」
「カイ!待てって!!」
「・・・・。どうした。怖気づいている時間はない。」




一緒に逃げる              一緒には逃げない


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今回はここまでです。
大学パラレル?
カイとタカオが同じ大学の為、タカオもかなり頭が良い設定になっています。
そしてこのタカオ、ちょっとストーカーですね・・
さて自然の植物園、私の大学に実際ありました。
鬱蒼とした森林で肝試しにも使われていた事も実話です。
私、肝試しやらされましたから・・・(苦笑)。

「一緒には逃げない」話はもう出来上がっていますが(近日中に上げますね)
「一緒に逃げる」の方は行き詰っています・・・すいません。
甘ちゃん的展開が情けないですが、私にはこれが精一杯で。
一応連載予定。宜しくお願いします。
(2008.7.31)