「カイ・・・。俺、初めて四神の話を聞いてから、ネットでだけど色々調べてみたんだ。
・・・どう考えても四神の力を手に入れたからといって
この世の自然界全てを自由に操れるようになるとは思えないんだ。」
「何?」
「俺自身、青龍だって言われても使える力なんてないし・・せいぜい周りの自然の声みたいなのを感じるくらいで。
カイには何か使える力があるのか?」
「俺は・・・・。火を・・・炎を操る事ができる。お前にも見せた事はないが・・。」
カイは手の平を見せた。
そしてカイが目を閉じると手の平に小さな炎が。
「今は小さな火だが、この植物園を一瞬で全焼させるくらいの炎は難なく出せる。」
カイが手を閉じると炎も消えた。
「お前はまだ目覚めてないだけだ。覚醒すれば巨大なハリケーンを起こすことくらい訳ないだろう。」
「・・・そう・・・なの・・か?」
驚いた。そんな事ができるなんて。でも・・・。
「でも俺はそんなもん、起こしたいとは思わない。」
「俺も紅蓮の炎など真っ平だ。だが、爺に監禁されて拷問されたら・・・。
爺はアメリカへ発った。暫くは戻ってこない。
アメリカではそのハーフに研究費用や充分な設備を説き、給料などの面で優遇するとでも言って火渡の研究所へ入所させ、そうして手元に置きつつゆっくりと白虎を探す気だ。
今しかないんだ、木ノ宮。
爺が日本にいない今が一番のチャンスなんだ。」
「・・・・・。カイの言い分はわかった。
でも今逃げ出せたとしても、いつか捕まるんじゃねーの?
火渡といえば世界でもトップクラスの会社だろ?情報網だって飛びぬけてるんじゃね?」
「だからと言ってこのままみすみす捕まる気か?」
「俺、玄武や白虎に会ってみたい。そしてお前の爺さんにも。
どうせいつか捕まるならどこへ逃げたって同じ事だよ。」
「お前は!・・・お前は俺の祖父を知らないから、そんなのんきな事が言えるんだ・・・。」
「そんなにすごい爺さんなのか?」
カイは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「・・・・・。木ノ宮・・・頼む。逃げると言ってくれ・・・。」
「カイ・・・。」
「木ノ宮!」
今まで見たこともないような必死の形相。
「・・・・・わかった。」

カイがそこまで言うのなら・・・。
俺が青龍なのもカイが朱雀なのも
二人が今、ここで出会ったことも愛し合ったことも
そして二人で今、逃げねばならぬ事も・・・・運命なのかもしれない。
ただ、己の無力さが情けなかった。

「わかった、カイ・・・。一緒に逃げよう。」
「木ノ宮・・・。」
心底ホッとした表情のカイが可愛くて。
俺はそのままカイを抱きしめ、そしてキスしようとしたその時。
「タカオ〜〜〜!ただいま〜〜〜〜!!」
突如現れたその男。
「わ〜〜〜〜〜!!!」
もう、驚いたのなんのって。
なにせその現れ方が・・・木にぶら下がって逆さまの状態でぶらーんと目の前に顔が・・・・。
そしてその男というのは。
「・・・・仁兄ちゃん!!」

「驚いたな〜!」
やけに明るく声の大きな兄に、カイが警戒を示す。
「そりゃコッチのセリフだってーの!
久し振りに帰って来たと思ったら、いいトコロで現れやがって・・・。」
ブツブツ俺が文句を言うのに
「うんうん、済まなかった!しかしまあ、さすが俺の弟というかなんと言うか。
お前も隅に置けないな〜!」
そう言ってまた、はははは・・・と豪快に笑った。
「ところでタカオ。カイ君。」
カイの瞳に警戒の色が鋭く走る。
「貴様、何故俺の名を・・・。」
「ずっと聞いてたからな、お前たちの話を。・・と言っても元々君の名前くらいは知ってたがね。」
「なんだと!?」
「単刀直入に言うが、ヨーロッパに逃げるのはやめておけ。」
「貴様には関係な・・。」
「あるんだな、これが・・・。
考えてもみろ。カイ君とタカオが逃げた。どこへ?
まず考えるのが、世界に散らばる火渡の別荘かカイ君のご友人の所だ。
そして総一郎氏の手が伸びる。ご友人がいくら匿っても、いずれバレる。」
「じゃあ、どうしたらいいって言うんだ?」
俺が聞くと
「中国へ行こう。」
「中国だと?」
「実は俺は白虎に会った。」
「貴様・・・何を知っている。」
「まあ、色々とな。四神について興味を持ったのは君のお爺さんだけじゃなかったって事さ。
色々わかった事もあるんだが、君のお爺さんは他人の言葉に耳を貸すタイプじゃないからな〜。」
「わかったこと?」
「お前、無用心に白虎の話など・・・・。距離があるから聞えぬとは思うが・・。」
「ああ、お前たちを覗き見していたスケベなストーカーなら今頃お寝んねしてるよ。」
「・・・・!」
「仁兄ちゃん、これでも結構強いんだ。趣味で忍者修行もしてるし。」
俺は苦笑いしながら補足した。


「それより今夜にも中国へ発つぞ。ストーカーが気づく前に少しでも先に進めなくては。」
「白虎って中国にいたのか・・・。」
「ああ。・・・ある方が君たちの旅を手助けしようと言ってくれている。
その方の飛行機で中国へ行けるよう、準備が進んでいるんだ。」
「誰だ、それは。」
「君も火渡の次期社長なら聞いた事くらいはあるだろう。大転寺さんだ。」
「大転寺だと?あのBBAの・・。」
「そうだ。BBAは考古学の団体だが、他にも色々手を伸ばしているからな。
玄武は先に見つけられてしまったが、白虎はこちらが先に見つけた。
まだ火渡にも誰にも知られていない。まずはその白虎に会いに行こう。
それからの事はまあ、それから考えるさ!」
のんきに楽しい旅行の計画でも語るような仁。
「お前たち・・・・似てる・・・。」
「そうか?あんまり似てないって言われるんだけどなー。」
「・・・・御気楽なところが。」
「なんだよーそれは〜!!」
俺がぶー、と怒ると
「はいはい痴話ゲンカはそのくらいにして。
ストーカーがお寝んねしているうちにこの場を去って最小限の荷物をまとめるんだ。
そしてひとまずBBAに転がり込んで今夜、発つ。
ストーカーには眠り薬も飲ませといたから数時間はあのままだ。」
「まさか死んだり・・・。」
「それはないよ。気候も良いしまだ昼前だ。
あのまま4〜5時間寝てたってせいぜい風邪をひく程度だ。」
「そうか・・・。」
俺はホッと溜息をついた。
「じゃ、カイ君。午後1時にはタカオの部屋に来てくれ。その後は俺が案内する。」
「・・・わかった。」




それからは慌ただしかった。
俺は兄ちゃんとアパートに帰り、世界中を渡り歩いている兄ちゃんのアドバイスを受けながら荷物をまとめたころ、カイがやって来た。

めまぐるしく事が進み、その夜には大転寺氏の自家用ジェットで中国へと飛んだ。
中国に着くと今度はヘリコプター、その後は車。
最後は徒歩の旅となる。

「なあ、兄ちゃん、いつまで歩くんだ?本当にこんな山ン中に人なんか住んでるのか?」
「まあな。その存在を隠し続けている一族だから、ちょっとやそっとでは行き着けないような場所に村があるんだ。」
「どんな一族だよ〜!」
俺が不満をぶつけると
「そう言うな。そんな場所だからこそ、お前達を匿う事ができるんじゃないか。」
「だが・・・これは道なのか?ただ樹海の中を無謀に進み続けているように見えるが・・・。」
「心配するな。これは彼らにとってはれっきとした「道」なのさ。
牙族は・・・日本で言う忍者の末裔のような部族で
古来から皇帝の護衛をやったり、場合によっては暗殺なんて事もやってきたらしい。
王朝の影の部分を一手に引き受け、暗躍してきた。だからその秘密は絶対なんだ。
牙族の存在はごく一部の者しか知らない。
その村へ辿り着く方法を知るものは更に限られる。そんな・・・現代の陸の孤島のような所さ。
駆け落ちの末、落ち着くにはもってこいの場所だろ?」
「駆け落ちって・・・。」
俺は苦笑した。
「で、その白虎は・・・。」
「ああ、その牙族の次期長の金李だ。」
「金李・・・。」
「その青年がまた美形でな?金の瞳が、そりゃーもう、綺麗で!!」
「・・・・。兄ちゃん、ヨダレ・・・。」
俺は呆れながらハンカチを手渡した。
「お、済まんな!」
ヨダレを拭う仁。
「俺好みの美青年なんだがさすがに次期長を手篭めに・・いや・・・その・・・だから・・・・・。」
仁は咳払いをして誤魔化す。
「貴様等・・・・・。」
「え!?カイ、ちょっと待った!俺と兄ちゃんを一緒にするなよ?
それはそうと・・・カイ、兄ちゃんには気をつけろよ?
絶対に!何があっても!二人きりにはなるなよ?」
「・・・・わかった。気をつけよう・・・。」
呆れ顔のカイ。
「酷いな〜、いくら俺でも弟のモン取る程落ちぶれちゃいないぞ?」
「どーだかな〜。」
俺と兄の会話を聞いていたカイがフッ・・・と笑んだ。
「・・・・。やっと笑ったな。カイ。」
「・・・・。」
俺がそう言うのに、カイは少し驚いたような顔をする。
「昨日からずーっと張り詰めてたみたいだったからさ、心配だったんだ。ま、無理もねーけどな。」
「木ノ・・・。」
目を見開くカイ。
「まあ・・・さ。ここまで来ちまった以上腹、括ろうぜ?」
「・・・すまない。巻き込んでしまった。」
「違うって。俺が青龍である以上、巻き込んだも巻き込まれたもないからさ、気にすんな。」
「・・・ああ。」

「あのー、いい雰囲気の中悪いんだが・・・ようやく牙族の村まであと10分ってとこかな。
それから『木ノ宮』だと、俺もそうなるんだが。ま、俺はいつでも大歓迎だけど?」
気がつけばカイの隣をぶん取り、カイの肩に手を回してニコニコ笑顔の仁。
「こら!言った傍から何やってんだよ!!・・ったく油断も隙もねー!!」
カイを奪還した俺は
「カイ!これからは俺を『タカオ』って呼ぶんだ!間違っても『木ノ宮』なんて言うなよ?貞操の危機だ!!」
「・・・構わんが・・・木ノ・・・いや、タカオ。コイツはいつもこうなのか?」
カイに名前で呼ばれて天にも昇りそうな気持ちになる。自分で言ったのに実際そう呼ばれると・・・。
「カイ・・・もう一回呼んで?」
「・・・?」
「だから『タカオ』って・・。」
きっと俺はすごい阿呆面してたんだろうな・・。
「・・・・・。やっぱりお前たち、そっくりだ・・・。」
「ははははは。カイ、タカオに飽きたらいつでも俺が慰めてやるぞ〜?と、そうこういってる間に・・・。」
前方の茂みに男が二人。
「あの辺りから牙族の村になる。」
「ようやくか〜!・・でも・・・なにもないんだけど・・・。」
「天然の要害さ。この樹海も岩山も。それらを抜けると集落が見える。」


「お待ちしておりました。火渡カイ様、木ノ宮仁様、タカオ様。」
「・・・・に、日本語〜!?」
「わざわざ出迎え、ありがとう。」
とその男に言うと仁は
「牙族の人たちは世界の主だった言語が話せるのが必須条件だ。日本語も幼い頃から教えられている。」

そしてその人達と共に歩く事一時間。ようやく木々が少なくなっていき、その向こうに・・・。
「集落だ〜〜!!」
俺は嬉しくなってつい、駆け出した。
「ふふ・・。全くタカオはいつまでたっても子供みたいだな。お前もそういうところが気に入ってるんだろ?」
仁はカイに振り向くと
「さあな。」カイは薄く笑んだ。






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BBAが何の略か、どういう言葉からBBAとなるのか。
申し訳ありませんがそんな事、聞かないでくださいね(笑)。私が聞きたいよ〜!
(2008.8.27)