「・・・・。どうした。怖気づいている時間はない。」
「・・・・。」

怖気づく?俺は怖気づいてるんだろうか。
どうしても言葉が出てこない。
そもそも何の後ろ盾もない俺達が・・・。
今のカイは、あの火渡の御曹司だから色々できるのだ。
その火渡を出たカイと、只の学生の俺。
そんなカイと俺が今二人で逃げて、どうやって生きていける?

「それとも・・・。」
やけに冷たい口調。
俺はハッとした。
「お前は全てを捨てて俺と逃げる気はない・・・か・・・。」

全て。そうだ、俺は躊躇している。
この大学に入る為に必死に勉強した日々。
金額面でかなり無理をしてくれた祖父。
この大学を出ることによって得られる輝かしい未来。

・・・・そして。
必死の眼差しのカイ。

「そうか。」
カイはふっ・・と哀しい色を一瞬見せ、そのまま踵を返して行ってしまった。


追いかけようと思って手を伸ばしたんだけど
俺は一歩も動く事ができなかった。
声を発する事さえ・・・・・・・。







それから。カイに会う事は二度となかった。

風の噂によると
カイはアメリカの名門大学へ入学が決まったので、この大学を退学したとか。




そして年月は流れた。












俺はネクタイなんか締めて、それなりの企業で働いている。

家に帰るとジッちゃんと、俺の嫁さんと子供達。
どこにでもある平穏な家庭、平穏な暮らし。




────時々思い出す。


あの時を。




何故あの時、俺はカイと一緒に行かなかったんだろう。

俺はカイが好きだった。
青龍とか朱雀とか言われたけど、そんな事はどうだって良かった。

本当に・・・・好きだったんだ・・・・・!



・・・・だけど。
あの時一緒に逃げていたら
今の平凡な暮らしはない。
どうやって生きていただろう・・・そう思うと空恐ろしい気もする。

あれから、誰かの視線を感じたり捕まったり・・という事はなかった。
俺の所在なんてちょっと調べればすぐ分かるって事かな。
それとも白虎がどうしても見つからずに、計画は断念されたのかな。


それとも・・・・そもそも四神なんて話自体・・・夢・・・・だったのかな。




─────夢。

そうだ。カイとの日々は夢のようだった。

甘くて切なくて・・・・狂おしいほど愛おしくて・・・・。



カイ・・・。

お前は今、どこで何をしている?

もう結婚しちゃったかな・・・・お父さんに・・・なっているのかな・・・・・。






カイ・・・。

忘れない。

あの大学での日々

あの植物園

お前の綺麗な紅い瞳

唇の感触

そしてはじめての夜。




若さ故の

最初で最後の・・・夢のように激しい恋。















end



novel top




ノベルゲームでいえば、「bad end」というところでしょうか。
話の本流は「一緒に逃げる」の方なんですが
こういう展開の妄想も止まらなくなっちゃったので選択方式にしました。
というより・・・
こういう「どこか夢みたいな若さ故の恋」、「危なっか過ぎるあまりに実らなかった恋」
・・ってのが元々書き始めた時の構想だったんですが
書いているうちに「逃げる」方の話が発展してしまった・・といった方が正しいのかな。
しかも「逃げる」方は行き詰まっちゃってどうなるのか全く分からないし・・・ああ、泥沼(涙)。
Happy Endじゃなくてすいません・・苦情はご遠慮願えますと助かります・・!

それではここまで読んで下さりありがとうございました!
(2008.9.30)