翌日はそこに留まり遺跡を存分に観察し記憶に焼付け、またスケッチなどをして
そしてその次の日、帰路についた。
無事、牙族の村に着くと、その翌日には仁はまた旅に出ると言い出した。
「なんでまたそんな急に・・・。」
「俺のガイド役はここまでだ。後はお前達が考えるんだ。」
仁は自分の荷物を纏めていた。
「まさか兄ちゃん、カイの爺さんに会いに行くんじゃ・・・。」
兄の手の動きが止まる。
「・・・。よく分かったな。まあいつかは対峙しないといけない相手だからな〜。」
事の大きさとは裏腹に、仁は飄々と答えた。
「俺も行く。」
「駄目だ。」
即答された。
「何で!」
思わず俺は食い下がるが
「お前にはやる事があるはずだ。」
真正面から俺を見据え、キッパリと言い放つ。
「やる事ってなんだよ。」
「いつまでも甘ったれるな。もう子供じゃないだろう。」
「・・・!」
仁は溜息をついた。
「俺は四神じゃない。俺には青龍の成す事は出来ない。それはお前にしか出来ないんだ。
お前の代わりはいないんだよ。俺の代わりはゴロゴロいてもな。
だが俺にも色々と修羅場を潜り抜けてきた経験がある。それを生かせる時に生かすさ。
火渡総一郎と話をつけるのは、社会的地位がある大転寺さん。
俺はオマケみたいなもんだが・・・俺もできるだけの事をしたい。
お前はお前でなきゃ、できない事をするんだ。」
「俺でなきゃ、できない事・・・・・。」
「まずは青龍としての覚醒かな。修行を積みながら今後の事をじっくり考えろ。
それがお前のまずやらなければならない事だ。」
「・・・・・。」
「あ、そうそう。お前とカイ、そしてマックスだが・・・帰りたくなったらメールをくれ。すぐ迎えに行くから。」
「メールって・・・こんな山奥でメールなんか・・・!」
「大丈夫だって。後で李に見せてもらえ。
・・・ホントはこっちのカタがつくまで、できればここで大人しくしてて欲しいんだけどな。まあ、それぞれ事情もあるだろうし。」
「・・・仁兄ちゃん・・・。」
「じゃあな、タカオ。頑張れよ。」
兄は昔、まだ俺が小さかった頃よくやってくれたように、俺の頭をくしゃ・・っと撫でて、そして大きく手を振ると行ってしまった。
俺は兄の姿が小さくなって見えなくなるまで見送っていた。






「仁は・・・行ったのか。」
背後から声をかけられた。
「ああ。」
声の主は振り返らずともわかる。
「俺・・・ホント、ガキだな。
カイの為にも俺の為にも・・そして李やマックスの為にも、俺が・・俺達がカイの爺さんと話をつけなきゃいけないのに・・・・俺には何もできない・・・・!」
悔しくて悔しくて・・・・。
「自分を責めるな。」
「だって・・・だってよ・・・俺、自分が無力だって思ったの、これがはじめてじゃないんだ。
お前に玄武が見つかったって知らされた時、逃げようって言われた時。
本当だったら俺、逃げたりなんかしないで自分でなんとかしたかった。
でも!俺には何もできなかった!!」
「・・・やめないか!!」
ハッ・・・とした。カイの声で我に返った。
「・・・・。ゴメン、俺・・・・。」
「謝る事はない。本来なら爺と話をつけるのは他の誰でもない、この俺だ。
俺こそ・・逃げてばかりで何もできなかった。」
「カイ・・・。」
「行こう。お前はまず青龍として覚醒する必要があるのだろう。
そして俺にも・・・できる事はある筈だ。一緒に考えよう、と言ったのはお前だろう。」
「そう・・・だったな。悪い、ちょっと感情的になりすぎた。」
「・・・気にするな。」
そう言いながら、カイの方が険しい表情をしていた。
俺はカイにこんな顔などさせたくない。
カイを守りたい。そして二人で幸せになりたい。
その為にも。
俺には俺にできる事を・・カイも、李もマックスも・・・・きっと何かあるはずなんだ・・・何か・・・・。



その日から。
俺は一人で行動する事が多くなった。
良く行く場所は高い山の中腹、見晴らしのいい所。
そこに座って地上を見下ろす。
牙族の村、それを中心に辺りは深い森が広がっている。
木々と、そこから感じられる「気」と、そして上空から吹き付ける風とを。
それを全身で感じてみる。
無心になって、ひたすら自然が送ってくれるメッセージを感じた。

マックスも俺と同じように一人で動き始めた。
マックスはよく川や滝、湖へ足を伸ばしていたようだ。
マックスも懸命に水の声を聞こうとしていた。

そして元々力を使えたカイと李も、それぞれ気を研ぎ澄ませ遠方まで広範囲に気を馳せた。


木の声、気の声、風の声・・・いや、それだけじゃない。
全ての・・・自然の声、生き物の声・・・この地球の・・・声・・・・・・。

大宇宙、銀河系の外れに浮かぶ、一粒の真珠。

聞こえる・・・声が・・・・・。
苦しんでる。悲鳴を上げている。
でもみんな、生きたいって・・・言ってる。
生きたい・・・もっと・・・もっと自由に・・・もっと伸び伸びと・・・生きたい・・・!!

そんな声だけが聞こえてくる・・・
ここで世界に想いを馳せて気を落ち着かせると、以前よりずっとそういった声が聞こえるようになった。
でも聞くだけじゃダメだ。
どうしたら?何をしたらいいんだ?
俺にできることって・・・一体なんだ!?

気づけば、その日も夕焼けが空を覆う時間になってしまった。
オレンジ色の空、地上の全てを朱に照らす。
夕日も・・・どんな宝石だって適わないくらいに・・・・綺麗だ。
涙が出そうなほどに、綺麗だ。

天も地も・・・・
空も緑も、水も太陽も空気も・・・何もかも、こんなにも美しい。
それに亀裂を入れたのは人間。
人間だけが、自然に調和できない。
何故、この美しい世界に人間がいる?
何故・・・・人間はこんなになってしまった・・・・。
自然と共に暮らしていた頃は良かったのだ。
しかし、現在は・・・・・。


一日の最後に俺は最近、ある大きな木に立ち寄るようになっていた。
大木を抱きしめると、不思議と何か大いなるものに包み込まれているような心地よい気持ちになれる。
この木は一体何年、ここで生きてきたのだろう。
この大木に刻み込まれた気の遠くなるほどの記憶。
大木を抱きしめていると、それが俺の中に流れ込んでくるような気がする。
大木と同化できるような、そんな気が・・・。
それがとても心地いいんだ・・・・。
とてもあたたかくて・・・気持ちいいんだ・・・・。

「じゃ、また明日・・・・な。」
俺は木に別れを告げると、村に戻った。

集落へ近づくと、それぞれの家から湯気や煙が立ち昇っているのが見えた。
そう、夕食の支度をする時間だった。
「やっべ〜、今日も支度、手伝えなかった!」
タカオは慌てて李の家に向かった。

「ごめん、李!何かすることあるか?」
既に集まっていた他のメンバーが一斉にタカオの方を振り向いた。
カイも既にその場にいた。
ニコリ・・ともしないカイだったが、カイが視界に入るだけで俺は幸せになってしまう。
「タッカオ〜!遅刻しといてカイに見惚れてないでね〜!」
「い、いや・・その・・・・。」
俺は返す言葉も無かった。
「って・・実はボクも今来たところネ!」
とマックスがウインクした。
「いいさ。タカオもマックスも・・そしてカイもお客さんだしな。それにこういう暮らしには慣れてないだろ?」
「・・・・・・。」
しかし、こんなに長い間世話になっているのだから
いつまでもお客様をやっている訳にもいかないので、皆自発的にできることはするようにしていたのだが。
「じゃ、テーブルの準備を頼む。」
「OK〜!」
マックスが陽気に返事をして俺の腕を引っ張っていった。

「その様子じゃ、今日も収穫は無かったノ?」
「まあな。お前は?」
「ボクも全然ネ〜!でもここの水は綺麗だネ。
湖も川も滝も。そして緑も青空も!本当に素晴らしい所!」
「ホントに・・・。アメリカは広い国だから自然のままの場所も結構あるだろ?
日本は狭いからな〜。俺、真面目に感動してるよ、ここの大自然に。」
「タカオ・・・どうしたノ?なんだか・・・落ち込んでる?」
「・・・・。俺、そんな顔してるか?」
「馬鹿が・・・。」
すると、とても愛おしい・・ハスキーで少し掠れた声が俺達の会話に割り込んできた。
「お前は何もかも正直すぎる。少しは内面を隠す事を覚えろ。」
「・・・・!」
「簡単に青龍として覚醒などできる筈が無い。
俺もはじめて自分の力を自覚して、ここまで何年かかったか。
・・・焦るな。ここの環境は俺達にとって最適だ。そのうち何かしら掴む事もできよう。」
ぼーっとカイに見惚れていたタカオだが、ニッコリと微笑んだ。
まるっきり二人の世界になってしまって、マックスは顔を赤く染めつつ肩を窄めて退散。

「李〜、あの二人、本当にラブラブネ!見てられないヨ。」
「まあ・・・な。初めてここに来た時からあんな感じだ。」
そう言って李は笑った。
「ワオ!当てられっぱなしネ〜!」
「・・・。日本は同性のそういった事には敏感で排他的だから・・・あいつら、幸せになれるといいが・・・。」
そう言う李の横顔をマックスは見つめた。
「アメリカも州によっては同性愛が認められているけど、また別の州に行くと眉をひそめられる。
・・・タカオ達はそういう事に理解のある国へ行ったほうがいいかもしれない。」
マックスも鍋をかき混ぜながら、珍しく真剣な口調で答えた。
「ボク、あの二人が大好きネ!勿論、李も大好き!みんな幸せになって欲しい。
身近な、大好きな人が幸せになれる、それが世界中の人を幸せに導く第一歩ネ!」
そう言われて李は瞳を見開いた。
「確かに・・・確かにそうだ。身近な人を幸せにできずして何が世界だ、四神だ。」
「そう。ボクらには四神でなくてもできる事はある。そういう事から道は開けるんだって信じてるヨ。」
マックスはニッコリと笑った。
つられて思わず李も笑う。
「マックスは・・・本当にすごいな。俺も・・・お前達が大好きだ。出会えて良かったと思っている。」


「それでさ、話は戻っちゃうんだけど・・ボク、今日、すごい所見つけました!」
「すごい所?」
「ハイ!なんて言うのかな・・日本の段々畑のような、真っ白の池の棚がずーっと続いている所!」
「あ・・ああ!随分遠くまで行ったんだな。」
「素晴らしいネ!あんな美しい湖というか池というか・・水はとにかく青くて透き通っていて・・とにかく初めて見ました!
確か似たような池というか湖をテレビで見たことはあったんですが・・やっぱり実際見るとすごいネ!!」
「あそこは石灰が多く含まれていて・・なかなか神秘的な風景を生み出しているからな。」
「そうみたいですね。別の似たような景色をテレビで見た時もそう説明していました。
そこだけでなく、他にもすごい所が沢山!!
とても青い・・・素晴らしく青い湖も見ました。見る角度や時間帯によってその色が微妙に変化してどれも綺麗でした。
それから・・・静かな、神秘的な滝も見ました。
そうそう、その滝を見ていた時に思ったんだけど、中国や日本では龍は水の神様でもあるんでショ?」
「ああ、「龍神」といって崇めているかな。滝の流れ落ちるその様を、まさに龍神に例えたりもする。」
「でショ?それと四神が関係あるかどうかはボクにはサッパリだけど、でもボク、タカオと一緒にその滝を見に行きたいな〜と思いました!」
「・・・なんだ?俺がどうかしたのか?」
自分の名前が聞こえてきたので、タカオがその会話に割って入った。
「ハイ!ボク、今日すごい景色を見つけました!あ、でもそのことじゃなくて・・・日本には龍神様っているでしょ?」
「え?まあ・・よくお話で・・・。」
「龍神様は水の神様ですよネ?」
「・・そういや、そうだっけ・・・。」
「だから!一緒に行きましょう!!」
「・・・・??」








一方。

大転寺会長と木ノ宮仁が通されたのは、アメリカにある火渡邸の、とある豪華な部屋。
高い天井、大きな窓、大理石の床。細密な美しい模様が織り込まれた、弾力のあるペルシャ絨毯。
床から天井に至るまで、何もかもが重厚感に溢れおり
全てのものが重くのしかかってくるような心理的圧迫を来訪者に与えるのに十分過ぎる程の効果を感じた。
いつの年代のものだろうか、相当値が張ると思われるアンティーク家具、偉大な巨匠による彫刻、絵画。
二人はそんな部屋で、革張りのソファーに腰掛けるように言われ、そして出された紅茶を飲みつつ待たされること一時間。

「遅いですね。」
仁が溜息混じりに言う。
「・・・ま、偉い人っていうのはとかく、勿体ぶるのが好きですから。」
と大転寺会長はニコニコと笑った。
「気長に待ちましょう。さすがにこの紅茶は美味しいですね。このお菓子も。」

そして更に10分程過ぎた頃、ようやくその細かな彫刻が施された重々しい扉が開かれた。
「お待たせしました。」
そう言いながらも全く悪いとは思っていない様子で現れたその老人は体格も良く
そして先程大転寺会長が言ったように、いかにも「偉そう」だった。
人を有無を言わさずに従わせる、異様な威圧感を漂わせたその老人、火渡総一郎もソファーに腰掛けた。

「わが孫、カイを何処へやった。」
そして開口一番がこれである。
話があると持ちかけたのは大転寺会長の方だと言うのに。
「はて・・何の事ですかな?カイ君がどうかされたのですか?」
しかし大転寺も、なかなかの狸である。
「しらじらしい・・・。カイがそこの木ノ宮仁の弟、タカオと行方不明になった事はとっくに分かっておる。
大転寺、お前が誘導した事もな。」
大転寺はどこ吹く風、とでも言うように平然と紅茶をすすった。
「カイは何処にいる。そして木ノ宮タカオと水原マックスを何処へやった。」
「火渡さんは、彼らに何をさせようというのですか?」
「・・・・・。」
「カイ君もタカオ君もまだ大学生です。
マックス君は既に社会に出ていて非常に優秀な研究者ですが、一体そんな彼らに何ができると言うんです?」
「・・・・白々しい化かし合いはやめましょう、大転寺さん。
あなたもカイやタカオ君、マックス君が何者か、分かった上で拉致したんだろう。」
「拉致などと・・・!滅相も無い!私は彼らが旅行を望んだから手を貸してあげただけです。
そして彼らは誰にも居場所を知られたくないと言うので彼らの意見を尊重したいと思っております。」
「ふん・・・相変わらずの狸め。まあよい。しかし、私は被害者。孫のカイを誘拐されたと届け出れば大変なニュースになる。
この「火渡」の次期社長が誘拐されたとなれば。調べはすぐに大転寺、貴様へ及ぶ事になる。」
「これは驚いた!貴方の方から警察沙汰にすると仰るのですか?探られたら困る事が沢山あるでしょうに!」
「・・・何が言いたい。」
火渡総一郎の瞳には凄まじい威圧感。
「今、貴方が思った通りの事ですよ。」
しかしまたしてもどこ吹く風。ニッコリと笑う大転寺。

火渡総一郎は演技じみた大きな溜息をつくと。
「大転寺さん。腹の探り合いはお互いこの辺にしましょう。
貴方はカイが何者か、タカオ君やマックス君が何者か、よくご存知だ。
そう、カイは朱雀、タカオ君は青龍、マックス君は玄武。
伝説の四聖獣のうち3つまで見つかっている。
過去、長い歴史の中、時々これらの聖獣の魂を持つ者が現れたが
同時に四人揃った事は有史以来ない。伝説の中だけの出来事だ。
ごく稀に、二人揃った事はあったが三人以上はない。それが今、三人揃った。・・となれば恐らく。」
大転寺はゆっくりと答えた。
「そうですね。三人揃ったのなら、四人目も・・・白虎もどこかにいるかもしれない。」
「そうです。そしてこれもご存知だと思うが、四聖獣は互いに惹かれあう。
これは過去、稀に二人揃った時もそうだったようだ。
今回も、カイにタカオ君が接近した。まだ、覚醒もしていなタカオ君が。」
「・・・・・・。」
仁はタカオとカイの関係について触れられて、表情を硬くした。
「そしてあろう事か、あっという間に二人は特別な関係になってしまった。」
苦々しげに火渡総一郎は吐き捨てた。
「火渡さん、そういうお話はとりあえず横に置いておきましょう。要するに、カイ君とタカオ君は、あっという間に仲良くなったと。」
「・・・。まあ良い。マックス君はアメリカにいたので、マックス君が彼らに接近する事はかなり難しい状態だったが、私は彼が玄武だと突き止めた。」
「はて・・・。一体どうやって突き止めたのですか?」
総一郎は面倒そうに溜息をつく。
「お前も知っているだろう、大転寺。四聖獣には血筋がある。
我が火渡に朱雀の血が受け継がれてきたように、マックス君の遠い先祖に玄武がいた。
血筋と言っても人間が作った家系図の直系の子孫にのみ受け継がれる訳ではない。
分家のそのまた分家・・・と考えるとキリが無いが・・・それをなんとか洗って行ったまで。
そして木ノ宮仁。お前の家にも青龍の血が伝わってきた。だから初めからお前達には目を付けてはいた。」
「・・・・そうですか。」
仁は初めて火渡総一郎に対して口を開いた。
「でもそう考えて行くならば、白虎だってある程度は見当がつくのではないですか?」
「木ノ宮仁。お前の行動範囲も大体は把握しておる。・・まあ、貴様は雲隠れも上手いがな。
さすがは忍者かぶれだけあって。我が部下もお前を見失ってばかりだ、とこぼしておったわ。」
「・・・・・。」
仁は気を引き締めた。
あの火渡総一郎が、他者をそうそう認める発言はしない筈。
「木ノ宮仁。」
「はい。」
「白虎はどこにいる。」
「私達も探している最中です。」
総一郎は仁の言葉を無視して続けた。
「・・・・。四聖獣を集めて何をしようとしているのか、と聞いている。」
「別に、何も。ただ、彼等を会わせたら面白いと思っただけです。
彼等3人は年齢も大体同じくらいですし、良い友達になれると思いませんか?」
仁はニッコリと、その人好きのする笑顔を見せた。
「面白いだと?友達だと?たわけたことを申すな!」
総一郎は声を荒げた。
大抵の者なら、総一郎の怒声に縮こまって震え上がる所だが、しかし仁も負けてない。
淡々と続けた。
「白虎は知りませんが、他の3人は先ほども大転寺が申しましたとおり、まだまだ若輩者です。
そんな彼等に何ができると言うのですか?何をさせたいのですか?火渡さん。」
総一郎は黙って仁を睨み付けた。
「貴方は既に大きな力を持っておいでです。
世界中の有力者達、諜報機関や警察などの組織・・・例えCIAもFBIも・・
そう、アメリカ大統領と言えども、貴方に真っ向から逆らったりはしないでしょう。
これ以上、何をお望みですか。」
仁の真っ直ぐな瞳が総一郎の瞳を捉えた。
そして今度は大転寺。
「火渡さん。私達も貴方方については少々調べさせて頂きました。
四聖獣を全て手に入れた所で、地球上の自然を操る事なんて出来ません。
貴方もカイ君で良くご存知の筈。
カイ君は炎を操れるが、せいぜい目に見える範囲の巨大な炎。
タカオ君やマックス君に至っては覚醒もしていない。
まあ、確かに巨大な炎は大きな武器にはなるでしょう。
超能力者として、カイ君たった一人で、お金もかけずに大きな武器にはなる。
しかし、現在の貴方の力をもってすれば、それに代わる・・いえ、それ以上の力を振るうことができるでしょう。
そして。例え彼等を超能力部隊として力を使わせたところで、敵さんだって馬鹿じゃない。
誰が敵なのか、私には見当もつきませんがね。
その敵だって総力を挙げて調べるでしょう。
これはなんなのか、誰がやっているのか。すぐにカイ君達が浮かび上がります。
そしてカイ君始め、彼等も人間。隙は幾らでもある。
誘拐されたら貴方が逆の立場に陥るのですよ?」
すると。
「ふふ・・・はははは・・・!!」
総一郎はひとしきり高らかに笑うと
「我が火渡が先頭に立って戦争しようとしていると貴様は言うのか?ふん、あまりにも馬鹿馬鹿しい!」
と、吐き捨てた。
今度は大転寺がそれに答えた。
「先頭には立たなくても、「死の商人、闇の組織」として暗躍する事は十分にありうる事です。
それに、おっしゃる通り戦争など確かに馬鹿馬鹿しい。無駄も多いですしね。
貴方が考えているのは、むしろ戦わずして、あらゆる技術を駆使しながら秘密裏に四聖獣の力も存分に使って
この世界の陰の王として君臨し、世界を貴方の思い通りに動かす事・・・・でしょうか。」
チラリ・・と大転寺はその視線を総一郎に投げかけたが、総一郎は表情も変えずに黙ったまま。
その沈黙がかえって恐ろしい効果を生み出していたが、大転寺はそのまま先へ進めた。
「極秘情報ですが・・・・貴方は既に、とんでもなく恐ろしい技術を手にしている。でも、完全ではない。
どんなに素晴らしい技術者でも研究者でも、それを完成させるのは非常に難しい。いや、不可能だ。
そこで貴方は・・・・その不完全な極秘技術に加えて四聖獣を利用する事を考えた。四聖獣の持つ神秘の力を用いれば、証拠は残らない。計画は完璧。」
暫くの間の後、総一郎は余裕たっぷりに、笑みさえ浮かべながらゆっくりと口を開いた。
「だとしたら・・・・貴様等はどうするつもりだ。」
一見優しげな態度だが、圧倒的な迫力。恐怖によって有無を言わさず目の前の者を従わせる威圧感。
「さて・・・どうしましょうね。」
しかし大転寺もなかなか食えない男である。そんな挑発には乗らず、また悠々と紅茶をすすった。
そんな大転寺を総一郎は忌々しげに睨み付けると、腹の底まで響くような恐ろしい声で再び問うた。
「もう一度聞く。白虎はどこにいる。カイは、タカオやマックスはどこにいる。」
「残念ながら白虎は我々も探している最中なのです。」
「・・・・。仮にそれが真実だとしても、貴様等は青龍、朱雀、玄武を手にしている。
四聖獣が惹かれあう法則を考えたら、間もなく白虎の方から寄って来るだろうな。
となると貴様等が四聖獣全てを手にすることになる。貴様等こそ、どうするつもりだ。」
「先ほども申したように、私達は彼等に何かをさせようとは思っておりません。」
それに答えたのは仁だった。
「ただ、考えて欲しいのです。今まで二人までは揃った事はあったがそれ以上はなかった。
しかし今、三人揃った。これには何か意味がある筈です。
総一郎さん。貴方はこれをどうお考えですか?」
「意味、だと?そんなものはありはしない。
過去の歴史を見てみても、ただ単に周囲に崇められ神に祭り上げられただけだっただろうが!」
総一郎が食いついてきた。
しめた、と仁は思った。
「確かにそうです。私も考古学者の端くれなので古文書を幾つか読ませて頂きました。
確かに貴方の仰るとおり、時々現れた四聖獣の一人は神として崇められ祀られた。
人々を守るために、その力を使ったこともあったようです。
そしてまた人々は起こされた奇跡に心を打たれ感謝し、そして益々神として崇める。
しかし、古文書に残っている限りでは、神として崇められはしたが、君臨はしていなかった。
そして自分は勿論、周囲の利害の為に動く事もなかった。
ただ、ひたすら清い世界を願ったと、どの時代のどの事例からもそう読み取れました。」
「何が言いたい。」
「あ、そうそう。人間の考える事はいつの時代も同じなんでしょうか、こんな事例もありましたよ。
ある皇帝がその四聖獣・・確か白虎だったと思いますが・・・
その白虎の噂を聞いてその者を捕らえ、皇帝の望むままに力を使わせようとした。
その目的は領土拡大、国民の皇帝への絶対服従。他にも・・・皇帝の野心は止まる事を知らない。」
総一郎の表情はみるみる険しいものへと変わっていった。
「・・・・・もうよい!」
響き渡る怒声。
「ご存知でしたか。」
総一郎は今度は静かな声で続けた。
「皇帝は白虎に決断を迫った。従わなければお前の家族、親族、親しい者達の命はない、と。
それで渋々白虎は皇帝の申し出を受けることにした。」
その後は仁が続ける。
「・・・・・しかし、その瞬間。白虎はその捕らえられた男の元を去ってしまった。
その男の体から白虎が抜け出して、空を駆け、天へ消えていった様子が古文書には見事に綴られていました。」
「・・・・それがただの伝説、下らない昔話でないとどうして言える?
大体、古文書に書かれている事が100%信じられるとでも?
歴史なんてものは後の権力者の都合の良いように常に書き換えられ続けてきたのだ。
ほんの50年やそこら前の事ですら、いや、今現在も、都合の悪い事は闇に葬られたり書き換えられたりしておるではないか。
そんな太古の昔の古文書が、一体どれだけ信用できるというのだ!!」
「残念ながら・・仰る通り、書物として残っている歴史なんてものは、そんなものが多い事は確かです。
しかし・・・私は四聖獣について書かれたものを色々読んで、これだけは間違いないと思います。
その世界・・・少なくとも四聖獣のいた地域・・・国レベルまでかどうかは分かりませんが・・・とても美しく幸福な世界だったと。
そして火渡さん、確かにその古文書に書かれていた事が単なる「御伽噺」である可能性は高いと思います。
しかし、「もし」、真実だったらどうするのです?
全て真実ではないにしても、殆どが作り話である御伽噺に
ほんの少しの真実を織り交ぜて後世に残す、という事もよくある話です。
あなた自身が、その真偽を証明するおつもりですか?
有史以来、初めて揃った四聖獣のうちの三人。
彼等から青龍、朱雀、玄武が去ってしまってからでは遅いのですよ?
そしてもしかしたら白虎も現れるかもしれない、というこの状態。
これには必ず・・・何か壮大な意味があるはずです。
なのに貴方一人の為に、この有史以来のこの奇跡を無にしてしまうかもしれない、という愚行をなさるおつもりですか?
他の誰でもない、朱雀の祖父である貴方が!」
仁は一気にまくし立てた。
火渡総一郎ともあろう者が言葉に詰まった。







時の彼方 6→


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実はこの第5話を書いたのは一年以上前の事です。
本当はもうちょっと先まで書いてありますが、今回は取りあえずここまで。
なんだかんだで「上げよう、上げよう」と思っているうちに日が過ぎまくってしまいました。
・・・・・・。
第4話を上げてから3年弱・・・(汗)。
その間・・・特にこの半年で世界が大きく変わってしまいました。
なので、この話をどうしたものか、かなり悩んだのですが
まあ・・・どのみち未熟者の私が書く話なので、もう開き直ろうと決めました(笑)。
見ての通り、「超」が付く程ののんびりペースですが、なんとか頑張りたいと思っています。
一応ラストまで頭にあるので。
なので、のんびりお付き合い頂けますと嬉しいです。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
(2011.8.21)