世界には強いヤツが山ほどいる。

外の世界は予想以上だった。





そしてそこには
今まで出会ったことのないような
おもしろいヤツがいた──────────。



いつもと変わらぬ朝。
だが、今日は・・・・。

「おはよう。今朝は寝坊しなかったんだな。」
「あったりまえだろ?なんたって・・・今日は特別な日だもんな。」

石のベイスタジアムでドラグーンが回る。


「いよいよだな。」
「ああ。いよいよ決勝戦だ。」

ドラグーンをキャッチして二人、笑いあった。

「へへっ!」


「それはそうと・・・。タカオ、足は大丈夫か?」
心配そうに尋ねるレイに、タカオは呆れてしまった。
「・・・・お前ってホント、お人好しだよな。それは俺のセリフだろ?」
「あ・・・そうだったな。」
改めて気づいたようなレイの表情を見てタカオは心底呆れ、溜息をついた。

「・・・・大丈夫だよ。俺は。
昨日お前があんまりうるさく言うから、お前の目の前でキョウジュが湿布を張りまくってくれただろ?
そのお陰かな〜。昨日はあんなに辛かったのに、今はホント、なんともないんだぜ?
ありがとな?レイ。お前のお陰だよ。」
「そうか・・・・・。良かった・・・・。」


レイの心からの安堵の表情に、タカオはなんだか嬉しくなってしまった。
レイはそんなに自分のことを心配してくれたのだろうか?

「俺のことよりお前こそどうなんだ?まだ・・・痛むか?」
「俺も大丈夫だ。今はなんともない。」
「ホントか?」
「ああ・・・!」
力強くレイが言うので、タカオもホッとしたように笑った。

タカオのそんな表情は
最近・・・いつもレイの心をあたたかなもので満たす。

穏やかに微笑むレイ。



タカオはその綺麗な微笑みに、月のような瞳に、吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥った。

レイの容貌は不思議な魅力に溢れている。
タカオはそう思っていた。

顔の作りは勿論、何よりもその瞳。
虎を思わせる美麗な容姿で牙を覗かせて・・・
吸い込まれそうな金色の、瞳孔が細くなった瞳で見つめられたら・・・・誰であろうと、目をそらせない・・・・。



俺・・・・一体どうしちゃったんだろう・・・・。








タカオはレイに魅入っていた自分に気づき、ハッと我に返って慌てて言った。

「・・・あ・・そろそろみんな起きるかな・・・。」







そろそろ朝食の時間だった。







いつの頃からだろうか。
レイとタカオは一緒にいることが多くなった。

レイはタカオを元々おもしろいヤツだと思っていたが
レイを追いかけてあの急峻な山を登って来たあたりから
少し・・・別の気持ちも加わってきたように思えた。


レイは今まで色んな人に出会ってきた。
村を出て、世界を旅して・・・・・。
だが、タカオのように、こんなにも他人の事で必死になれるヤツは初めてだった。



驚きは憧れに変わり・・・・・そして・・・・。









気がつけば、何故かタカオが可愛くて。

ついついちょっかいを出したくなった。
昨日の唐辛子の件も。

昨日の一件。
表向きはタカオの寝坊が原因であったが
レイにも責任があることはレイ自身、気づいていた。

唐辛子まではともかく、その後。

あのままタカオをバスに積んで出発しても何の問題もなかった筈だ。
むしろその方が自然であろう。
しかし、レイは後からタカオと二人で追いかけると言った。

何故?


心のどこかで
タカオとの時間を共有したいという願望があったから・・・・。



別に何をしようという訳でもないが、
ただ・・・。

タカオに関わっていたい。
出来れば二人きりで。

タカオといると心が安らぐ・・・・。






結果、あんなとんでもない事態に陥ってしまった訳である。




あれは、俺の責任だ・・・・・・・・・・・。


後になってレイは気づき、愕然とする。




何故・・・・何故俺はこんなにタカオに惹かれるんだろう・・・?










「レイ・・・。レイ・・・!?」
「あ・・・すまない。」
「どうしたんだよ?ぼーっとしちゃって。」
「いや・・・ちょっと考え事を・・・・。」

中国に来てから、レイは考え込むことが多くなった。
白虎族の村を出て、ライ達と揉めている事はタカオも十分理解していたが。


「なあ・・・。聞いてもいいか?」
「なんだ?」

「白虎族の村って、どんな所なんだ?ライの話は覚えてるけど・・・・・・。」

知りたかった。

「俺の・・・・村?」

レイの事ならなんでも。

「聞かせてくれよ。」

少しでも・・・・近づきたい・・・・・・・・・・。


やっぱ、俺、変かも・・・・。




「タカオ・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
白虎族の村は高い山々に囲まれた場所にある。
周りの山々はあまりに険しいから、山の中の絶海の孤島のような場所だ。
外の世界へ通じる道はたった一本。それでもかなり険しい道なので滅多に人は訪れない。



俺たちはそこで完全自給自足の生活をしている。
畑を耕し家畜を育て・・・・。

そして古来より伝わる技を受け継ぐべく、日々鍛錬している。

ライも言っていたように、白虎族は古来より皇帝や要人のボディガードのような仕事をしてきた。
場合によっては暗殺なんてこともしていたらしい。

だから。
秘術を漏らさぬ為、今までは外との接触を殆んど絶ってきた。



・・・・・・・・・・・・だが・・・時代は変わった。」



それは、タカオの知る日常とはあまりにかけ離れていた。

「外の世界に出てみて、世界はなんて広いんだろうと思ったよ。
強いヤツは山ほどいたし。タカオのようにな。」
そう言ってレイは笑った。

「あ・・・・。」
タカオは柄にもなく照れる。

「他の色々な面でも驚きの連続だった。正直カルチャーショックだったよ。
そして改めて村の良さも実感できた。


とても良い所だ。空はどこまでも高く緑が綺麗で。水も豊富で湖や滝があって・・・。
一度タカオにも見て欲しいな。タカオなら・・・きっと気に入ってくれると思う。」



ドキン!

な・・・・!お・・俺・・・一体どうしちまったんだ?
見て欲しいって・・・・いつか連れてってくれるって事か・・・?
それって・・・・。

ヤバイ・・・。 心臓が・・・ドキドキが・・・・!
こら!収まれ!!



レイはそんなタカオの様子に気づいたのかどうか。
最後にこう締めくくる。

「俺は・・・・やっぱりあの時、村を出て良かったと思う。」







「そっ・・・・か・・・・・。」
なんとかそれだけ言うと、タカオは一つ小さく深呼吸をした。
落ち着け・・・・、と自らに言い聞かせるように。


「じゃ、やっぱり今日は何が何でも絶対勝たなきゃ〜な!?
レイがやって来たことが無駄じゃなかったって証拠を見せてやるんだ!」

力強く拳を握り締めるタカオに、レイが穏やかに微笑んだ。



そして改めて。
「レイ。今日は絶対勝とうな!?」
「・・・・ああ!」

今度はレイも力強く答えた。









ベイブレードアジア大会決勝。

遂に白虎族との決着をつける日。

頑張らなくては。勝たなくては。
もう、白虎族が変な言いがかりでレイを追いかけてこないように。

そのために・・・・。








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前置きが長くてすいません・・・。