「勘違いするな。俺はお前が好きだと言った覚えなどない。」

事の始まりは、カイのこの言葉。
何を今さら、と思った事は言うまでもないが
カイがその気なら、「好き」だと言わせるまでだ。
それはそれで、なかなか面白いかもしれない。

レイは一人、強気の笑みを浮かべた。







それは、アメリカ大会前夜祭のチャリティマッチでのこと。
なんと、大統領がベイバトルをするという。
大統領チームには当の大統領と
ハリウッドの大スター、キャシー・グローリア
ボクシングのヘビー級チャンピオン、タイフーン・ルイスの3名の、夢のようなメンバー。
大スター達の登場に、会場は大いに盛り上がった。

その大統領チームとのバトルに出場する、選抜チームのメンバーに
カイを是非、という要望が実行委員からあったのだが
カイは、「そんなお祭りには興味はない」と辞退。
代わりに誰が・・・という事になった。

最初に「出たい」と言い出したのはタカオ。
ルイスのファンだからと。
そして俺。
何故って・・・キャシー・グローリア!
あんなに綺麗でセクシーな人とバトルできるなんて、夢のようじゃないか!!
こんな機会、そうそうあるもんじゃない!!
見つかってしまった、キャシー・グローリアのサイン(キスマーク付き♪)。
慌てる俺、呆れるタカオ。
気合の入ったジャンケン勝負に、突如参戦したマックス。
結局、出場するのはマックスと決まった。

その時、カイがチラ・・と、俺が大事そうに抱えた色紙を一瞥すると
そのまま、フイ・・と立ち去ってしまった。



「カイ!」
俺は慌ててカイを追いかけた。
カイの腕を後ろから掴むと。
「・・・・。」
不機嫌そうな眼差し。
ここは、とにかく謝るしかない!!
「・・・その・・・。すまなかった!!」
と、盛大に頭を下げた。
「何の事だ。」
「何って・・・だから・・・・・。」
思わず言葉に詰まる。
嫉妬しただろ、だなんて言える筈がない!!
「カイ・・・。俺が好きなのはお前だけだ。」
「・・・。」
「ただ、ハリウッドの大スターとやらが、あんまり綺麗だったから・・・・。」
それでポーッと見とれて、キスマーク付きのサインまで貰った挙句
あの人とバトルしたい!なんて言いだしたのは事実だから
下手に弁解しても仕方がない。
「すまなかった!!決して目移りしたんじゃない!俺はカイが好きなんだ!だから怒らないでくれ!!」
すると、カイは。
「馬鹿馬鹿しい。何故、俺がそんな事で怒らなければならない。」
「・・・・。」
「勘違いするな。俺はお前が好きだと言った覚えなどない。」
「・・・!!」
さすがにこの一言はショックだった。
何を今さら、とも少し思ったが。

カイはそのままどこかへ消えてしまった。

一人残された俺。

ショックを受けつつも・・・・不思議と、口元に笑みが浮かんだ。

面白い。
カイがその気なら、「好き」だと言わせるまでだ。
それはそれで、なかなか・・・面白い。








意思疎通ができたのは
いや・・・カイに言わせれば、あれは違うのかもしれないが。
とにかく俺が「通じ合えた」と思ったのは・・・・。

中国大会の為に中国にやって来たはいいが
白虎族の昔の仲間と色々あって、白虎が俺の元を去ってしまった。
白虎が去った以上、皆と共にはいられない。
そう思って、俺がBBAを出ようとした、あの時。
散々キスしたし
カイは
「お前は俺を裏切らないと誓えるか?」
なんて言ったくせに。
これが「好き」という意味でなければ、なんだというんだ。

あの晩、あんなにいい感じだったのに・・・・・。

今回のこれは・・・・カイの言う「裏切り」になってしまうのだろうか。
違う。断じて。
俺はもう、カイの事しか考えられない。
あの日の、「俺に寄りかかればいい」との言葉は突発的に出た言葉じゃない。
俺はカイを支えたい・・・。
圧倒的な強さを誇りながら、どこか危なっかしいお前を、守りたい・・・・ずっとそう思っていた・・・・・。
この気持ちに気づく前から・・・・心のどこかで・・・・・ずっと・・・・・。

・・・・・・。
大体、あんなに綺麗なハリウッドスターに、「サインあげるv」なんて言われたら
(しかも、目の前でキスマークをつけてくれるんだ!!)
世界中のどんな男だって、デレデレと貰いに行くと思うぞ??
・・・カイはしないだろうけど・・・・
それと、実際の恋愛は全く別のものじゃないか!
そんなの、誰にだって分り切ってる事だろ??

・・・・。

そこまで頭の中で一気に繰り広げて、俺は溜息をついた。


強がってるだけ。
ガラにもなくヤキモチやいちゃったもんだから、照れて引っ込みがつかなくなっただけ。
わかってるさ、そんな事は。

そんなカイも可愛いんだが。

しかし、このままって訳にもいかない。
引っ込みがつかなくなって、そのまま突っ走られても困る。
俺はカイが好きなんだ!

だから。
言わせてみせる。
「好き」だと。

覚悟しろ?










大統領や大スターとのドリームマッチは、マックスが出場した選抜チームの勝利に終わった。
大統領チームは、ベイブレード素人の集まりだったにも関わらず
チームワークが素晴らしく、戦略も相当練ってきていた。
選抜チームは正真正銘の即席故
互いの信頼関係が全く成り立っておらず、最初は苦戦を強いられたが
タカオの激励もあってかマックスが自分の戦い方を思い出し
チームメイトを助け、のびのびとバトルし始めて、一気に勝利へと導いた。


それを見届けて・・・・・。











「・・・、・・っ・・・!」
ビルとビルの合間の路地裏に、カイを引き込んだ。
不意を衝いて。
そしていつかのように壁際に追い詰めて
動きを縫いとめる。
カイの、この驚いた顔。

──そそられる・・・。

「なんのつもりだ。」
鋭い紅い瞳で凄むカイ。

──この瞳・・・たまらない。

俺は無言のまま、唇を押し付けた。
「貴様・・っ!」
必死の抵抗。
しかしカイには体勢に分が無さすぎる。
それに力なら、俺の方が上。

──逃がさない。

カイは首をひねり、キスを避けようとするも
あえなく捕まる。
俺は唇を重ね、逃げ惑う舌を追った。
ちゅく・・と水音が響く。
優しく、ゆっくりと摩ると
ジン・・・と、熱く痺れていく。
きっと、カイも同じように・・・感じて・・・・。
「カイ・・・・。」
「・・んっ、・・は・・、放せ・・っ!」
この期に及んで、まだそんな言葉を吐く唇を、もう一度唇で塞ぎ
俺を引き剥がそうと、もがくその手を取り、指を絡めて壁に押し付け縫いとめて。
「・・・好きだ・・・・カイ・・・・。」
「・・・っ!」
「・・・お前が・・・誰よりも・・・・・。」
唇の合間に、熱く囁く。
心からの想いを。
そしてカイには答える隙も与えずに、また唇を塞ぐ。
「・・・っ、・・・!!」
尚も抵抗するカイ。
しかし、いつかのように舌を噛まれたりはしなかった。

──いける。

執拗に舌を絡める。
カイの舌が、吐息が甘くて・・・たまらない。
時に激しく、時に触れるか触れないかという程に、絡ませ、摩り・・・・。
互いの唾液が混ざり合っていく。
水音が、やけに大きく響いて・・・キスに酔っていく・・・・・・。

「・・、・・・!!」

呼吸が出来なくて、カイが苦しそうにもがくので
少し隙を与えると
カイは涙の滲んだ虚ろな紅い瞳で、喘ぐように酸素を取り入れた。
その顔に。

ドクン・・・!

理性がぶっ飛びそうになった。
熱が・・・一気に中心へ集まるのを自覚した。

──ヤバイ・・・。

その、熱の欲するままに、体を更に押し付けて掻き抱くように抱きしめた。
そして唇をしっとりと包み込んだ。
ようやく解放されたカイの手は・・・・やがてゆっくりっと、俺の背に回された。
やっと・・・カイが俺を受け入れてくれた瞬間。

「カイ・・・・。」
欲情を抑えきれず、囁く声が低く掠れる。
熱が篭る。
カイはその微かな変化に、瞳を見開いた。
唇を合わせたまま。
至近距離でぶつかり合う視線。
金の瞳と紅い瞳。
カイの柔らかな舌を、そのままゆっくりとなぞると。
「・・ふ・・っ、ぁ・・・・。」
紅い瞳が揺れる。
甘い痺れに、虚ろになっていく。

「目を・・閉じないで・・・。」
舌を交わしながら囁くと
閉じかけていた瞼が、微かに開いた。
「俺を・・・見て・・・・カイ・・・。」
「・・・・ぁ、・・っ・・・。」
カイの表情が、微かに歪む。

意地にならないで・・・・素直に・・・真っ直ぐに、俺を見て・・・・・
お前が好きだ・・・・好き・・・・・・・・・
誰よりも・・・お前を愛している俺を・・・・見て・・・・・・・・・。

そんな想いを込めながら、ひたすらに・・・。

「好きだ・・・お前が・・・愛して・・い・・る、・・・カイ・・・・・・。」
「・・・・!」

息ができなくて、苦しくて・・・でも、差し出す舌を止めようとは思わない。

「お前が・・・好き・・・・だ・・・・。」
「・・・っ、・・・。」

舌を絡める。

「好きだ・・・カイ・・・・。」
「・・・・・、・・ぁ・・・・。」

カイも・・・・・絡めてくれる・・・・必死に・・・・・カイ・・・・・・。

「好き・・・お前が・・・・。」

混ざり合った唾液が、口の端から伝って落ちていく。

「・・・・ッ、・・・・。」

甘い・・・・どこまでも甘美な・・・・・・俺の・・・・・・・・。

「カイ・・・・。」
「・・・ッ!・・・レ・・・ィ・・ッ・・・・。」

俺の背中に回されたカイの手に、より一層、力が篭められた。
その指をしがみつくように、にじらせて。


一つの塊のように、重なる二つの体。
濃厚なキスは止まらない。
絡み合うように抱きしめ合って
交わす唇も舌も、響く心音さえ・・・・もう、どちらのものか分からない。

そのうちに、ようやく唇を離したものの
甘く互いの名を呼びながら
名残惜しげに舌先だけを交わしあった。
熱い吐息交じりに・・・ひたすらに・・・・慈しみあうように・・・・・。

いつまでもいつまでも・・・・・。










やがて・・・俺は素直な言葉を口にした。

「カイ・・・抱いても・・・・いいか?」
「・・・!」
ピクッ・・とカイの体が反応を示した。
「抱きたい・・・お前を・・・・。」
「・・ここで、か・・・?」
それは、とっさの・・・しかし正直な反応。
俺は思わず目を見開いた。
「・・・・。それは・・・今、ここでなければ・・・いいって事か?」
「!!」
動揺するカイ。
きつく抱きしめていなければ、逃げられていただろう。
幸せで・・・自然に笑みがこぼれる。
「さすがに、ここで・・・って訳にはいかないだろうな。」

初めてだし(カイとは・・ははは・・・)
・・・ちゃんとベッドでシたい。
そのほうが、カイだって・・・・。

「ま、紛らわしい言い方をするな!」
「ごめん。でも、本当は・・・・今すぐにでも抱きたい。」
「・・・・。」
「抱いても・・・・いいか?」
「・・・・。」
「今夜・・・。」
「・・・・。」
「カイ・・・。」
「・・・・。レイ、お前、まるで盛りのついた虎だ。」
「・・・!酷いな〜・・・。」
俺が苦笑したところで、カイは俺をゆっくりと押しのけた。
そして一二歩踏み出して背中越しに。

「・・・・・・好きにすればいい。」
「・・・!!」

かわされた、と思ったら・・・・!

「カイ・・・。」

俺が感激で、言葉も出せないでいると。

「・・・・。レイ、すまなかったな・・・。」
「え?」
「・・・・。」

なにが、とは聞かなかった。
カイは背中を向けたままなので表情は見えない。
・・・・・・・・・・。
もしかして、ヤキモチの事・・・かな・・・・・。

どうしたらいいんだろう・・・・嬉しい・・・・・・・。



すると、カイはクルッと振り向いて。

「帰るぞ。」
「・・・。」
「そろそろ日が暮れる。奴らが心配し始める前に。」

スラスラと言ってのけるカイだが・・・頬が少し染まっている。
照れ隠しかな。
・・・・可愛い・・・・。

俺は笑顔で答えた。

「ああ、そうだな。」

そして二人、並んで歩き始める。
ビルが立ち並ぶ、夕暮れの道を。







幸せで、幸せで・・・・・。

だけど。
なんだか大事な事を忘れているような・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

そうだ!
結局「好き」って、言わせてないじゃないか!!


「カイ!」
「なんだ。」
「俺はお前が好きだ!」
「・・・。何を今更。」
「お前は?お前は俺が好きか?」
「・・・・・。」
見つめ合う二人。
緊張の一瞬。
しかし。
「くだらない事を言っていると、置いていくぞ。」
カイはスタスタと歩き出してしまった。




・・・・・。
確かに今更だけど。
今更そんなこと、聞かなくてもわかってるけど。
あんなにキスして、好きにしていいって言ってくれて・・・・嬉しかった・・・・・・。
最高に幸せだし
あれが何よりの答えなのは、間違いなくわかっているけど!!


俺は聞きたい。
カイの口から
その綺麗な唇から・・・・聞きたいんだ。

そもそも、それが当初の目的じゃないか!!
なのに俺ばかりが「好きだ好きだ」と言い続けてしまった・・・・なんてこった・・・・・・!!

言わせてやる・・・・。
言わせてみせる、今度こそ!!
俺が「好き」だと!!

今夜だ、カイ・・・・・。
覚悟しろ?
前後不覚になるほど感じさせて、そして!!


「何をしている。本当に置いていくぞ。」



気づけば、カイはだいぶ先まで歩いてしまっていて
俺は一人、ぽつん・・と取り残されて、拳を握り締めていた。

「あ・・・。」

バツが悪そうに照れ笑い。
そして慌てて駆けていく。
カイのいる、場所へ・・・・。





今夜だ、カイ!!
覚悟しろ??
今度こそ、必ず
「好き」だと言わせてみせる──────────!!

























end


無印の見直しをしていて
アメリカ編のキャシー・グローリアの話を見て
レイタカならこんな感じ〜と日記に書いたのに対し
じゃあ、レイカイなら??
と思ってしまったのが始まりでした。

きっとカイは色紙を一瞥してフイ・・と立ち去って
それをレイが追いかけて・・・そしてそして〜〜vv。
で、カイのセリフ
「勘違いするな。俺はお前が好きだと言った覚えなどない。」
「なん・・だって・・・!?」驚愕のレイ。
これが、ボン!と頭に浮かんで。
とはいえ、冷静になって考えてみると、カイは言いませんよね、こんなセリフ。
そう思いながらも、止まらなくなってしまったので、書いてしまいました。

それと、たまたま少し前に「哀しいくらいに」を思い出すキッカケがあって
頭の中がレイカイ一色だった事もあります。
なのでその続きっぽくしてみましたが
アホな話で、すみません・・・・・!!
本当は、書けなかった「好きだと言わせてみせるH」の方が頭に浮かんだんだけど
キスだけで丸く収まってしまったので・・・・・。
一旦ホテルに撤収して、その後に・・・・、となると流れも悪くなるし
かといって路上プレイはさすがに・・・・!!
だから、ここでひとまず終わらせましたが・・・・・・・・・・。
H編、読みたい方、いらっしゃいます??

ひたすら、ちゅーだけシしてた話すが・・・・・・
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!!
(2015.2.5)

追記
H編、書いてしまいました・・・ははは・・・・。
裏にあります。興味のある方はどうぞ。
(2015.8.26)



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