暖かな日差しが麗かな午後。
木々や花々が美しいマクレガー邸の広大な裏庭の一角にその場は設けられた。
大理石のバージンロードが敷き詰められ、その脇には可愛らしい花が植えられて。
その先には牧師と
タキシードをスマートに着こなしたカイが、少々複雑な面持ちでタカオを待ち構えていた。


事ここに至って、まだ・・・・迷う。

本当にこれでいいのか。
必ず誰かが嗅ぎつけるだろう。
そうなったらどうなるか・・・・・・・・・・・。

タカオを幸せにしたい。
ただ、それだけなのに・・・・・・・・・・・。


参列者は元ユーロチーム、そしてBBAチームのみ。

野外に設置されたパイプオルガンが美しい曲を奏でると
オリビエがデザインしたという衣装を身に纏ったタカオが現れ
その姿には誰もが息を呑んだ。



ウエディングドレスではない。

基本は細身のテイルコート(燕尾服)なのだが小柄なタカオが着るとなんだかそれだけで可愛らしい。
スマートな上着の後ろ身頃がスラッと長く、細身ラインのズボン、胸元にはネクタイの代わりに清楚なリボン。
それらの色は白なのだが、色々な白・・・上品な生地、レース、リボンなど見事に使い分けられていて何ともいえず可愛らしく美しかった。
タカオを引き立たせるよう細かな箇所に至るまで、オリビエのセンスが随所に窺われた。
そして肩からは長いマントが。そのマントは透き通った薄い生地で造られており
美しく繊細な刺繍が施されていた。
それはまるで花嫁のベールのようにふんわりと広がり、気持ちの良いそよ風に靡いていた。

一見お伽の国の王子様のように見えなくもない。
こんな可愛らしい燕尾服は、タカオ以外ではとても着こなせないだろう。
タカオの・・・もう二十歳だというのにあどけない少年らしさが残っていて・・・その清々しい魅力を良く引き出していた。


「タカオ・・・・・。」

カイは胸にこみ上げるものを感じた。

とても不思議な感覚。
タカオの、この姿を見た瞬間
カイの中に強い決意、覚悟が生まれた。

幸せにしなければ。
幸せにならなければ。二人で。

清楚な可愛らしい姿。
・・・・女じゃない。
女なんかより・・・ずっと無垢で気高く・・・強い存在。
俺の・・・生涯の伴侶・・・・・・・・・・。



新婦(?)の父親役を務めるのはマクレガー卿。ジョニーの父親が買って出てくれた。

「おじさん、こんな面倒な役、頼んじゃって・・・その・・・すみません。」
「なーに、息子の大事な親友の結婚式だからね。私も嬉しいよ。
これを機に、今後は私の事をロンドンにいるもう一人の父親だと思ってくれると嬉しい。」
そう言って、マクレガー卿はウインクして見せた。
どこか攻撃的に見えるジョニーとは対照的に、とても穏やかなイギリス紳士。

「ありがとう・・・・おじさん・・・。」
タカオは涙ぐんだ。
「泣くのはまだ早い。さあ、行こう。カイ君が待っている。」
「はい。」

バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」にあわせてマクレガー卿の腕を取り、ゆっくりとバージンロードを進んで行く。
向かう先にはカイがこれ以上ないような優しい微笑で迎えてくれた。
父親役のマクレガー卿がタカオの手をとり、そしてカイへとタカオを送り出す。

「カイ・・・。」
「・・・よく・・似合っているな・・・。」
へへっ・・・と照れくさそうに、いつものようにタカオが笑った。

そして改めて牧師の方へと向き直る。


もう、迷いはなかった。
共に戦い、共に支えあい・・・・共に生き・・・・。
たとえ死が二人を分かつ時が来ても・・・・・・・・・。





健やかなる時も、病める時も
愛し、敬い、慰め、助け
命の限り、魂が続く限り・・・愛しぬく事を・・・・・・


誓います。






澄んだ声が麗かに響き渡る。
今、ここに永遠の愛を誓い合った二人の影がゆっくりと・・・一つに重なった。


ちょっと照れくさそうにそれを見守っていた参列者達。
そして次の瞬間、心からの盛大な拍手を送った。



おめでとう!おめでとう!おめでとう・・・・・!!














「タカオ!カイ!おめでとう!!
僕たち、いつもキミ達の事、考えていたヨ?
キミ達が幸せになれたらいいなって。
日本じゃこれから色々大変だと思うケド・・・・・
カイとタカオの絆は僕達が誰よりも分かってるつもりネ。
僕達に出来る事ならなんだってするヨ!頑張るネ〜!」

「まあ、な・・・・・・・・・。
だが誰がなんと言おうと、俺たちは、俺たちだけはお前たちを応援する。
とにかく頑張れ!」

「私も・・・こんな席に立ち会えた事を光栄に思います。
私たちが二人の証人です。
カイ、タカオをよろしくお願いします。タカオの世話は大変だと思いますが・・・。」

「なんだよ、それ・・・・。」
タカオが苦笑する。

「みんな、ありがとな?でもカイと二人ならきっと頑張っていけるから!応援頼むぜ〜?」
カカカカカカ・・・・・!とタカオが笑った。

「・・・・・私は益々心配になりました・・・・・。」
心配性のキョウジュは健在だ。

そんな懐かしいようなやり取りを、カイは微笑を浮かべながら見守っていた。


そして・・・・・・・。

「おい。」
元BBAと大騒ぎしているタカオから一人離れ、カイはジョニーに声をかけた。
「まさかマクレガー卿まで引きずり出すとはな。」
マクレガー卿は息子ジョニーに家督を譲り、自身は政界に乗り出していた。次期首相ともいわれる大物。
それを聞いてジョニーが笑んだ。
「それに俺は顔を見ただけでは分からんが・・・・まさかあの牧師にオルガン奏者は・・・・。」
「・・・・・。さすがだな。ま、そういうことさ。」
「なるほどな・・・・。どこまで手が込んでいる・・・全く・・・・・。
だが、今回はどうやら感謝した方が良さそうだな。」
フン・・・とジョニーが鼻で笑うと
「恨む事にならなきゃいいがね。」
どこまでも素直でないジョニー。そして
「俺たちにできるのはここまでだ。あとはお前が頑張るんだな。」
「・・・・この借りは必ず返す。」
カイはそう言うと静かに立ち去った。
ジョニーはカイの後姿を眺めつつフッ・・と笑むとシャンパングラスに口をつけた。




「さあさあ!食事もほぼ終わったようだ。
このメンツが久しぶりに揃ったんだから・・・やることは勿論!」

「バトルだぜ!!」
タカオが唸る。

「という訳で、ベイスタジアムを用意させてもらった。」
「試合形式はどうする?個人戦?タッグバトル?それとも・・・・・」
「勿論!このメンバーっつったら・・・チーム戦だ!!あの時と違って今回は4対4でエンドレス〜〜!!」
タカオは既にノリノリである。






「3,2,1・・・・go shoot!!」


「いっけ〜〜〜〜!!ドラグ〜〜〜〜ン!!」





























翌日。
「火渡エンタープライズ次期社長、同性婚!」のニュースは英国はじめヨーロッパ中を駆け巡った。
しかしその内容はどれも好意的なものだった。
元ユーロチームが事前に相当根回しをした結果であろう。
式にしてもそうだ。
マクレガー卿がタカオの父親役を買って出た点。
式を執り行った牧師、オルガン奏者はかの王室直属の○エストミンスター寺院から秘密裏に派遣されたという点。
これだけを取り上げても相当な事である。
恐らく根回しに次ぐ根回しが完璧になった段階でジョニーがカイにケンカを売るような発言(今すぐタカオとロンドンへ来なければ・・・というアレである)をしたのだろう。
それも恐らくカイのスケジュールに比較的余裕のある時を見計らって。

ともかくも「火渡エンタープライズ次期社長、同性婚」はヨーロッパの人々、メディアをも味方につけた。
「現代のロミオとジュリエット」と報じるところもあったらしい。






その後何日かヨーロッパで過ごしたカイとタカオは、今度は火渡の自家用ジェットで帰国した。
報道陣の待ち受ける成田へなど降りたくなかったからである。


そして。




「なんか慌ただしかったな〜。
まさかこんな事になるなんて、大学から連れ出された時には想像もしてなかったぜ!」
タカオはやっと帰って来たカイのマンション・・・いや、二人の新居のベッドに寝転んだ。
あれよあれよと事が進み目紛るしい旅行だった。
住み慣れた場所へ帰ってくると、心からホッとする。
もう・・・ここは二人の「帰り着く場所」。

「まあ・・・な。」
カイはタカオの隣に横になり、片肘をついた。

「ユーロのみんな、初めから俺たちに結婚式させる気だったんだな〜。
日本のマスコミにも圧力かけたみたいな事言ってたし。」
「・・・・・・・・・。」

実はカイはそれらの点が少々気に入らなかった。
勿論結果的には良かったのだが・・・・。
やはり、自分がそのように動くべきだったと思う。
今回のおんぶに抱っこのような展開は、正直好むところではない。
だがそのようにカイが動くとなると、どうしても「火渡の力」が必要になる。
恐らくカイはそんなものを振りかざす自分を良しとはしなかっただろう。
それを見越しての奴等(ユーロチーム)の行動・・・・。
だからこそ腹立たしかった。



結局、今回も仲間の力に助けられた・・・ということか。

公表することを・・・・マイナス面でしか捉えていなかった。
まず一歩踏み出さなければ何も変わらない。
それをユーロの奴等と・・・・そしてタカオに教わった。



俺とカイのタッグなら最強だぜ!



思い出して、ふふ・・・とカイが笑む。
確かにそうだ。俺とお前のタッグなら向かう所敵なし・・・。
何を恐れる事があるというのだろう。

「どうしたんだ?」
「いや・・・・。」

キョトン・・・として見つめるタカオを、カイは静かに組み敷いた。

「この魂の続く限り・・・・お前は俺のものだ。」
「へへっ・・・!カイも俺のモンだぜ?」


幸せそうに笑いあい、そしてゆっくりと唇を重ねた。










本当の戦いはこれから。

世間の目は冷たいだろう。
会社も・・・大学も・・・・・・・・。

でも大丈夫。

貴方と一緒なら頑張れる。


なぜなら私達は悪い事など何一つしてないから。
真に愛した人が、たまたま同性だっただけ。






これからもよろしく。

愛しい人。


貴方に会えて

よかった─────────。


















end

結婚しちゃいましたね・・・。はははは・・・・笑うしかない。すみません。
はじめはそんなつもりじゃなかったんですが。
ただ剣道をするタカオ、タカオの大学にやって来たカイ。
そんなのが書きたくて。
でもなんでカイが来るの?どんな用事?
と妄想を続けるうちにこんなとんでもない展開になってしまいました。

そしてお詫び。
結婚式に牧師を呼んでしまいましたが、イギリスでは同性婚法は認められたものの、
教会で同性同士の結婚式は出来ないそうです。 つまり牧師に式を行ってもらう事は無理みたいで。
でもやっぱりオルガンが流れて牧師の前で誓約の言葉を言わせたかったので・・・。
まあ・・・同人二次小説だし・・・やりたいようにやってしまいましたv。
それに有名人やマスコミを味方につけても言うヤツは言いますし叩くところは叩きますよね。
無理やりな・・甘ちゃん的な展開で申し訳ないです。ド素人の自己満足だと思って許して頂けると助かります。

ユーロチームは大好きです。
あのとんでもないところ。結構お節介な所。
今回レイやマックスは完全に脇役で良い所ナシですみませんでした。
それから参列者としてマイケルに飛行機からダイブしてもらおうかと思ったのですが 無意味に長くなるのでやめました。
ユーリから祝電が届いたりとかね。
ボツにしたとはいえ、あの世界大会の時の仲間はみんな祝福してくれていると信じております!

ところで結婚してしまったので完結・・・というつもりは今のところありません。
次なる妄想も今のところありませんが。
まあ、気の向くまま、のんびりまったり続けていこうと思っています。
これからもどうかよろしくお願いしますv。

それから・・・・・。
かなりふざけたボツネタが残っていたので一応載せておきますね。

ボツネタ『カイを説得するレイ』   レイファンは読まないほうが良いと思います・・ゴメンなさい!

それでは。こんな長い話をここまで読んでくださり・・・・本当にありがとうございました!
心から感謝いたします!
(2006.6.21)


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