レイやマックス、キョウジュに囲まれてあまりの懐かしさに大喜びだったタカオだが
急に思い出したように表情を曇らせた。
「レイもマックスも・・・キョウジュも・・・・・もしかして無理やりここに?」
「ん?ははは・・・まあ・・・・な。」
「私は大学から連行されました・・・・。」
「ボクも似たようなもんネ〜。」
「でもマックスやキョウジュならともかく、よく俺の居場所が分かったものだな。」
「ふふふ。僕らの情報網を甘く見ないで頂きたい。」
オリビエが優雅に笑った。
「ははは・・・・お前たちも相変わらずなようだな。」
レイが笑う。
「まあね〜。」
とジャンカルロ。
「レイ、マックス、キョウジュ。悪かったな。なんだか巻き添え食らわしたみたいで。」
タカオがしゅん・・と、うな垂れた。
タカオがうな垂れると何故かピンピンはねた髪までうな垂れる。
「なに、大したことじゃないさ。驚きはしたけどな。」
「そうネ〜。気にするコトないヨ!
カイとタカオの結婚式をやるって言われたら、何があろうと駆けつけるのは当然ネ〜!」
「な・・・!?」
目を見開いて同時に同じ言葉を発したカイとタカオ。
「何ネ?違うノ?ボクはそう聞いてきたケド・・・・。」
「俺もそう聞いたぞ?」
「私も。」
そしてまた、二人同時に驚きの形相で元ユーロチームの方へと振り向く。
たった今、ふざけて「結婚式をしよう!」と言っていた所ではないか。
まさか・・・・冗談ではないのか?
「貴様等・・・初めから・・・・・そのつもりで・・・!」
「ふふ。まあ、そういうことさ。」
「君らの事だから式なんて絶対挙げないだろうからね〜、強行手段を取らせて貰ったのさ。」
「・・・・・・ジョニー。まさかとは思うが・・・・先ほどの・・・火渡のヨーロッパ進出の話は・・・・・・
この「結婚式」とやらの為だけに提案された事じゃ・・・ないだろうな?」
「ヤダな〜。バレちゃったよ〜。」
ジャンカルロがおどけて見せた。
「だって、そうでもしないと式なんてしないだろ?」
「君らは式など挙げても挙げなくても同じだと思うだろうが、
人生の要所要所のケジメはきちんとつけておいたほうがいい。」
ラルフが尤もらしく言う。
馬鹿だった・・・・・。
こいつらに一瞬でも感謝の気持を抱いた・・・・俺が馬鹿だった・・・・!!
こいつらは・・・・・こんな奴等だ!!昔から・・・!!
「来なければマクレガーの総力を用いて火渡を潰す!」と脅され
(おかげで父や重役連中は縮み上がってしまった)、
タカオ共々無理やりロンドンまで来ることとなり
しかもヨーロッパの主要財閥(こんな奴等が当主では先々が思いやられる)との連携の約束までして
(ヨーロッパの未来にも関係してくるほどの事だということをこいつ等は分かっているのだろうか?)
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
それらは全て・・・結婚式を挙げさせる為だと〜〜〜〜!?
ふざけやがって〜〜〜!!
カイが震えている。勿論寒いのではない。
怒りで震えているのだ。
「カ・・・・カイ!落ち着け〜!」
タカオは咄嗟に後ろからカイに抱きつき、怒りに震えるカイを制止した。
「俺、何とも思ってねーし!それどころか久しぶりにみんなに会えて嬉しいよ!
レイやマックスにも久しぶりに会えたじゃないか!
それに・・・・それに・・・・・・!
ジョニーたちだって・・・・俺たちのこと考えてくれたから、こんな事したんだろ〜〜〜〜!?」
「そうさ、感謝して欲しいくらいだね。」
ジョニーがいけしゃあしゃあと言う。
「衣装も用意できているよ。さすがにウエディングドレスという訳には行かないが・・・
タカオに似合いそうなものを精一杯デザインしてみた。きっと気に入ってくれると思う。」
とオリビエ。
「どちらにしろ君たちは生涯一緒にいる気だろ?我々に任せてくれ給え。悪いようにはしない。」
最後はラルフ。
それはそうだ。
カイはタカオを生涯離すつもりなんてない。
・・・・タカオが心変わりでもすれば話は別だが・・・・・・・・。
そんな事はあり得よう筈がなかった。
結婚という言葉に惹かれた事がなかった訳じゃない。
ただ同性であったし日本では同性婚は認められていない。
それどころか・・・・。
だから自分たちには無縁であると諦めていただけ。
互いの気持ちさえ決まっていれば、そんな形式はどうだっていい・・・・・。
本当はこいつ等が言うようにヨーロッパに移り住んだ方が楽なのだろう。
しかし逃げ出す気はない。
だがこの件であえて自ら騒ぎを起こすつもりもなかった。
そもそも日本という国で人と違う事をするのは難しい。
なんでも同じでなければ安心できない。そういう国民なのだ。
日本では、同性でそんな関係であることを不必要なまでに忌み嫌う。
それが同性婚などということになったら・・・
面白おかしくマスコミに取り上げられ叩かれるのは目に見えている。
そんなものにタカオを晒す事など・・・・俺には耐えられん・・・・・。
ならどうしたら良いのだろう。
逃げたくない。公表もできない。
カイの思考はいつもここでストップした。
幸せにしたい。日陰者にだけはしたくない。
掛け替えのない・・・愛しいタカオを。
どうしたらいい・・・!?
今まで散々考えてきた。
未だ最善策など思いつかない。堂々巡りだ。
間違っても最善策が結婚式などありえない!
だというのに・・・・。
ジョニーにしろ他の連中にしろ・・・
タカオの幸せを願っているならこんな所で結婚式など・・・・何故提案できる!
カイの怒りのオーラは凄まじい。
「貴様等・・・・・何を考えている。
たとえ内々であっても・・・こんな所で式など挙げたら、日本ではどんな騒ぎになるか・・・
予想できない筈はなかろう!」
カイの問いにはユーロの誰も答えようとはしなかった。
ただ真面目な顔で成り行きを見守る。
それから見て取れるのは・・・皆、本気だという事。
からかおうと思っての事ではないという事。
心からの気持ちが伝わるよう、これから先はただ、見守る。
「カイ・・・・。」
タカオはカイの手をとり、心配そうに見上げた。
「・・・・・・・・・。俺はお前を・・・・守りたいんだ・・・・・。そんなこと出来るはずが・・・。」
絞り出すように言葉を紡ぐ。
タカオへの想いが強いからこそ・・・。
カイのそんな顔を見るのは辛い・・・・タカオは思わずカイの手をギュッと握りしめた。
カイにこんな顔・・・・して欲しくない。
「・・・逃げ出したくない。
カイと一緒に頑張っていこうと・・・・・決めたから・・・・・・。
さっき、そう言ったよな?
俺、守られてばっかじゃイヤだ。一緒に頑張りたい。
でも頑張るって・・・・具体的に何をするんだろう?
俺たちの関係をひた隠す事じゃないような気がする。」
タカオは一度言葉を切った。
皆が次なるタカオの言葉を待つ。
カイは嫌な予感がした。
「俺はともかくカイは火渡の社長になる人間だから、ずーっと結婚せずにいたら、遅かれ早かれバレるよな。
どうせバレるなら・・・・いっそ先制攻撃かけるのも悪くないかな・・・って。」
「おい・・・・・・・・。」
カイが目を見開く。
「そう、つまりせっかくジョニーたちがお膳立てしくれたんだからさ。
いっそここで既成事実を作っちゃった方が手っ取り早いんじゃねー?
まあ、色々言われるだろうけどよ。
後からバレてうろたえるよりも堂々と式を挙げちゃった方が、いっそ清々しいんじゃねーの?
勿論、式なんて挙げたって法的には何の効力もないのは分かってるけどさ。
ま、いつかは考えなきゃいけないことだし。」
事の重大性が分かっているのだろうか?
飄々ととんでもない事を言い出すタカオにカイが「待った」をかける。
「ま・・・待て!・・・大学で何を言われてもいいのか?世間も見る目が変わってくるぞ?
マスコミで取り上げられるかもしれないんだぞ!?
・・・・・・・・・・・・・・・。
俺はお前を・・・下品で興味本位な視線になど晒したくはない。」
カイは必死だ。
タカオもカイの気持ちは良くわかる。わかるが・・・・。
踏み出してみなきゃ変わらない事もある。
「・・・・・・・・・。やっぱカイ、そんなふうに思ってたんだな・・・・。
大丈夫だよ。俺、そんなに弱くないぜ?
俺、カイが好きだから。俺にはカイしかありえないから。
たまたまカイと俺が両方とも男だったってだけなんだ。それだけのことなんだよ。
誰に何を言われたってさ、俺たち、悪い事なんて何にもしてないんだぜ?堂々としてようぜ?
ヘタに隠れようとするから世間も面白がるんだよ。
だから・・・さ。そんなことくらい俺、平気だよ。
勿論、カイが平気なら・・・だけど。」
「・・・・タカオ・・・・・・・・・・・・・。」
平気な訳はない。
でも戦おうと決めた。だから戦う。
いつかは通る道。
ユーロの仲間はきっかけを作ってくれただけ。
俺は・・・俺たちは、悪い事なんてしてない。
ただ真剣に・・心から・・・・カイが好きなだけなんだ。
「とんでもない騒ぎになるぞ?世間も今までの友も態度を急変させるだろう。それでもいいのか?」
「覚悟は出来てる。」
「お前にはなりたいものがあるのだろう?
同性愛者だと知れ渡ればお前の就職にも恐らく支障が出る。それでもいいのか?」
「・・・・それが俺だから。誠意をもって臨めば・・・きっと分かってくれる人が出てくると思う。
日本人ってさ・・・・人情にも弱いんだぜ?根っからの悪人なんていないんだよ。」
「・・・・・・・辛い・・・戦いになるぞ・・・?」
「ドラグーンは昔から攻めて攻めて攻めまくる攻撃型なんだ。知ってるだろ?」
「・・・・・。」
「今度は一緒に戦おうぜ?そうだな・・・・タッグバトルだ!俺とカイのタッグなら最強だぜ!」
タカオが拳を握る。
こんな時のタカオは何を言っても無駄だ。
決意と希望に溢れる蒼い瞳。
タカオは既に、この新たなる戦いに・・・ワクワクしている。
カイが溜息をつくようにフッ・・・と笑った。
「・・・・全く・・・・お前は正真正銘の・・・・馬鹿だ・・・・。」
遂に・・・・・・・カイが折れた。
「じゃ、決まりだね!」
「おめでとう〜〜〜!!!」
パンパンッ!パンッ!
どこにいつから用意してあったのか、ジャンカルロたちがクラッカーを鳴らした。
そして皆が一斉に手を叩く。
「さあ、忙しくなるな。」
「式は昼過ぎでいいね?」
「昼過ぎって・・・・もう10時だぞ?」
「ふふふ・・・。抜かりはないさ。さあ、タカオ、お召し換え願えるかな?カイもね。」
「君達は時間まで適当に寛いでいてくれたまえ。」
そう言って主役の二人を連れ去り、ユーロの面々はそれぞれの準備に消えた。
残されたのはレイ、マックス、そしてキョウジュ。
急にガラン・・・としてしまった部屋。
残された3人は暫くポカン・・・呆気にとられていたが
「ぷっ・・・くっ・・・はははははは・・・・!!」
3人顔を見合わせると盛大に笑った。
「あいつら・・・本当に変わらないな!」
「全くです。あの奇想天外で大掛かりな計画、その根回しの良さは・・・。」
「でも!おかげでカイとタカオの結婚式が見られマ〜ス。ボク、それが何よりも嬉しいネ〜。」
そして・・・・・・・・。