「元気そうだね、タカオ。」
出迎えてくれたのは懐かしい好敵手であり大切な旧友。
「オ・・・オリビエ!」
タカオは嬉しくなって駆け寄った。
機内の料理は美味かった!さすがオリビエ!などと称賛している後ろから静かにカイもやって来て。
「やあ、カイ。久しぶりだね。」
「フン・・・・貴様もグルか・・・・。」
「ふふ・・・まあ、そんな所だね。お疲れの所申し訳ないが、もう少しご辛抱願えるかな?」
オリビエはあの懐かしい・・何を考えているのか分からない侮れない微笑みを浮かべ
タカオとカイを今度はヘリコプターへ案内し、30分ほど飛ぶとようやくマクレガー邸へ到着した。
「ウヒョー!お城みたいだ!」
「お城さ。女王陛下の第一の騎士を代々務めてきた・・・ね。
そして今も女王陛下の右腕にしてマクレガー財閥当主のお屋敷。」
「フン・・・御託はいい。さっさと用件を聞かせてもらおうか。」
「相変わらずせっかちだね。日本の茶の湯の精神では・・言わずとも全てのものに思いを馳せて感謝する・・というものがあったはずだが・・・?」
「チッ・・・。」
・・・・・・相変わらずのらりくらりとかわされる。
オリビエではいつになっても話の核心にはたどり着けまいと判断するカイがいた。
話しているうちにマクレガーの若き当主がようやくのご登場だ。
「実際に会うのは久しぶりだな、カイ。僕のお招きがそんなも気に入らなかったとみえる。」
「・・・当然だろう・・突然ロンドンへなど。
無理難題と突きつけてしかもタカオを連れて来いとは・・何を考えている。
返答次第ではただでは済まんぞ?」
「カイ・・俺は気にしてないから・・・。」
ジョニーとカイ。想像通りの険悪ぶりにタカオは苦笑しつつも小声でなだめるが全く無駄なようだ。
「タカオ〜、久しぶりだね。」
ジョニーの後ろからヒョイ・・と・・・まるでいたずらっ子のように現れたのはジャンカルロ。
「ジャンカルロー!変わってないな〜!元気だったか〜??」
「タカオも相変わらずなようだな。」
そして最後に現れたのはラルフ。
タカオは懐かしい好敵手達の輪に入り、まるで同窓会のように大喜びだ。
カイはそんなタカオを見ると・・・どこかで和んでしまいそうな自分を発見し苦笑する。
カイにも懐かしい想いがないわけではない。
勿論ジョニーだけでなくこの連中がカイやタカオに悪意で近づいてくる事などありえない事もよくわかっていた。
だが、ケジメはケジメである。
カイも・・・ジョニーにしろオリビエ、ラルフ、ジャンカルロにしてももう子供ではない。
それぞれの家督を継ぎ責任を負わされている身である。
キッチリその用件とやらを聞かせてもらわなくては。
「どうやら貴様等共犯のようだな。答えろ。用件はなんだ。まさか同窓会がしたかったわけではあるまい?」
「いやだな〜もうバレちゃったよ。」
とジャンカルロ。
「そのまさかさ。」
と肩をすぼめるジョニー。
「なんだと?」
「先日久しぶりに4人で食事をする機会があってね。その時に君らの話となった。
そう・・・・はじめて出合ったBBAの連中はとんでもない奴等だったと・・・・。」
ラルフが説明する。
「そしてついつい・・・話が盛り上がっちゃって。また、会いたいな〜なんてネ!」
嬉しそうにジャンカルロ。
「するとジョニーがちょうど火渡と取引をしているという話を聞いたので・・・それならそれを引き合いにこちらに招待してはどうだろう・・・と、まあ、こんな訳なんだ。」
最後は流暢にオリビエ。
「招待だと?貴様等・・・・揃いも揃って・・・・・・・・。」
カイが震えている。勿論寒いのではない。怒りで震えているのだ。
当然だろう。
来なければマクレガーの総力を用いて火渡を潰すなどと物騒な事を言い出されて。
カイは勿論本気にせず「放っておけばいい。」とクールに対処したのだが
社長(カイの父)はじめ重役連中がパニックと化してしまって。
渋々ながらに従いロンドンくんだりまでやってきて、その用件とは
「久しぶりに会いたかった。懐かしいな〜。」では・・・・。カイでなくとも怒るだろう。
「カ・・・・カイ!落ち着け〜!」
タカオは思わず後ろからカイに抱きつき、怒りに震えるカイを制止した。
「俺、何とも思ってねーし!それどころか久しぶりにみんなに会えて嬉しいよ!
カイだって久しぶりの休日じゃないか!旅行だって久しぶりだろ!?」
「つもる話は後でゆっくりと。まずは部屋へ案内しよう。」
そして案内されたのは最上のゲストルーム。
ベッドルームにリビング、小さなキッチン、バストイレ全て完備され、どれをとっても豪華だった。
「・・・・・・。」
「うっわ〜〜!今度は豪華だな!昔ラルフんとこで無理やり居座った時に放り込まれた部屋とは雲泥の差だぜ!」
「・・・・・・・。木ノ宮。」
「ん?」
カイは基本的にタカオのことを「木ノ宮」と呼んでいた。
それは子供の頃から・・・そして現在のような関係になってからも変わらない。
「タカオ」と名前で呼ぶのは、とても大事な時と・・・・それから・・・・愛を囁く時。
「ああいった連中だ。先ほどの話が全て真実とは思えん。」
「ああ、俺もそう思う。」
「・・・・そうか・・・。」
タカオも意外に鋭い。カイはタカオの返事を聞いて満足げに笑んだ。
「まあ、いいんじゃねー?取って食おうとはしねーだろ。
もっとも・・・拉致状態でイギリスに連れてこられる程の用事とも思えねーけど。きっと大切な事だよ。俺はそう思う。」
ふ・・・とカイが笑む。
「勿論、みんなに会えて嬉しいし。これも立派に大事な事だ!」
「・・・・そう・・・だな・・・・。」
「だから・・さ。楽しもうぜ?俺・・・久しぶりにずーっとカイといられそうで・・・ホント嬉しいし感謝してる。」
タカオは珍しく自分からカイの首に腕を回した。
ちゅっ・・・と唇を交わして二人笑いあい
「さあ、行こうぜ?すぐお茶にするって言ってたよな?
その後はバトルだろ?あ〜〜!ワクワクするぜ〜!
カイ!お前にもぜってー負けねーからな?覚悟しろよ?へへっ・・!」
「・・・・ほざけ・・・。」
自信溢れる不敵な笑み。カイのこんな笑みも久しぶりに見たように思えてタカオは嬉しかった。
思えばカイとバトルどころか、ベイブレード自体タカオにとっても久しぶりなのである。
用件はともかく、ヨーロッパの旧友たちに心から感謝したいタカオだった。
マグレガー邸裏庭。
広大な庭園の一角にベイスタジアム。
その脇の木陰にテーブルが用意され、お茶のしたくが整っていた。
まるで絵に描いたようなイギリスの伝統的なティパーティ。
美味しそうなスコーンやケーキにクッキー。
香り豊かな紅茶。
咲き乱れる花々に美しく刈り込まれた木々。
小川のせせらぎが聞こえてくる。
小鳥のさえずりも聞こえ、実にのどかな休日を演出していた。
「え〜〜〜!?じゃあ、ジョニーだけじゃなくって・・・
ラルフもジャンカルロもオリビエも・・・今は立派に財閥のトップをやってるんだ〜!!」
「ふふ・・・まあね。」
「は・・・・ははは・・・・ただの学生って・・・・俺だけ?」
「タカオはそのままでいいんだよ。」
オリビエが優雅に微笑みながらそう言うのに
「そうさ。君はそのままで充分魅力的なんだから。」
ジャンカルロが楽しそうに付け加え、
「それに、タカオには無理だろう。能天気だからな。」
ジョニーが鼻で笑う。
「ば・・・・馬鹿にしてんのか〜?」
「そうじゃない。皆・・・タカオのことが好きなだけなのさ。」
最後にラルフが締めくくった。
「さあ・・・これだけのメンバーが揃って静かにお茶を飲むだけというのもおかしな話だ。
そろそろ・・・・どうだい?」
ジャンカルロが不敵に笑い、ポケットからアンピスバイナ取り出して見せた。
「待ってました〜!!一番手は俺!俺!な?いいよな??
く〜〜〜〜〜っ!!久しぶりだぜ・・・腕がなる〜〜〜!!
あのコロッセオのバトルを思い出すな、ジャンカルロ?」
「あの時のような無様な負け方はしないよ。僕もアンピスバイナも成長したからね。」
ベイを構え喜びと闘志の炎を秘めた瞳で見つめ合う。
ベイが好きなのはここに集った誰もが同じ。
「3,2,1・・・・go shoot!!」
「いけ〜〜〜〜〜っ!ドラグーーーン!!」
「行け!アンピスバイナ!!」
バトルは延々続いた。
子供の頃、はじめてバトルした時のことを思い出しながら。
勝ったり負けたり。
こうやって何もかも忘れてベイバトルをしたのはいつが最後だったろう?
タカオは時々BBAに顔を出して後輩とバトルする事もあったが
これ程楽しく、力を出し尽くすバトルなど最近した事がなかった。
悲しい事に後輩たちは昔のタカオ達ほどの力はないようだったこともある。
日本では唯一真剣バトルができる相手であるカイも、
去年まではともかく大学4年になってからは会社へ顔を出す機会もぐっと増え
大学のない時は会社で過ごす事が多くなった。
カイがマンションに帰って来るのは夜も遅く、それからも大学や会社関係の仕事や勉強に追われて。
そんなことでは体を壊してしまうのではとタカオは密かに心配していたのだが。
ベイブレードはとても特殊とはいえ
元スポーツ選手が体を動かせない状態が長く続くという事は拷問に等しいのではと・・。
だがヨーロッパの友人たちの突然の招き(?)により、
予期せぬ休暇を楽しむ事ができ、タカオはどこかホッとしていた。
今、ここでバトルをするカイは水を得た魚のように生き生きとしていた。
ベイに触るのも随分久方ぶりだというのに
流れるように体を動かし技のキレも良く、まさに炎のような圧倒的な強さを見せ付けた。
久しぶりに見る朱雀も心なしかのびのびと楽しそうに見えた。
勿論、タカオの青龍も。
こんなカイを見ることができて
カイと、そして懐かしい好敵手達と久しぶりに魂のぶつかり合いのようなバトルができて。
タカオは感謝の気持ちでいっぱいだった。もう、これだけで充分だった。
結局皆、バトルを通じてわかり合えた仲間だから
何年ぶりに会っても、やっぱり言葉よりもバトルの方がわかりあえる。
俺たちは・・・・たぶん一生、そうなんだろう・・・・・。
そう思うと・・・・・なんだかとても幸せに思えた。
ベイブレードをやっていて良かったと・・・・心から思った。
だが。
ただ・・・・・一つだけ残念な事が。
・・・・カイはバトルスーツを持ってきていなかったのである。
まあ、あの慌ただしい出国では無理な話であろうが。
でも!こんなにカッコよくバトルするカイがマフラーをつけていないなんて!!
うるうると・・・泣きたいような感情に襲われてしまったタカオだった。
そして。
「ここにレイやマックス、キョウジュがいないのが残念だな〜。
もしいたらまたあの時みたいにチーム戦ができたのに〜。」
「・・・。なんなら呼ぶかい?」
オリビエが平然と言い出すのを慌ててタカオが断った。
「いい!いいって!!気持ちだけ、ありがとな?」
このユーロの旧友たちは涼しげな笑顔で信じられない事をいとも簡単にやってのけてしまう。
周りがなんと思おうが全くお構いナシに。
レイやマックス、キョウジュを半分拉致状態で連れて来るなんて事は朝飯前といったところだ。
そう、今のタカオやカイのように。
旧BBAチーム。
レイは相変わらず神出鬼没でどこにいるのかサッパリ分からない。
たまに突然日本にもやって来てタカオの家にしばらく泊り込んだ事もあった。
今も・・・・恐らくは武者修行中だろう。
マックスはアメリカの大学で勉強しながらジュディと共にPPBで研究に没頭しているらしい。
研究といえば勿論キョウジュも、某名門国立大学工学部で勉強中でBBAにもしょっちゅう顔を出していた。
卒業後はBBAの研究員に迎えられる事が約束されている。
「そうかい?僕らも会いたいから丁度いいと思ったのだが・・・。」
本気で呼ぶつもりだったようだ・・・・・・。
「アハハ・・・・。」タカオは思わず苦笑してしまった。
それを横目で見ていたオリビエは意味ありげな表情で、口元だけで小さく笑んだ。