夏休み。

誰にとっても待ち焦がれた夏休み。
当然タカオにとっても例外ではなく、毎日夏休みを謳歌していた。



だが、カイは違った。
学校に行かなくても良い分だけノルマは増え、
また会社関係に顔を出さねばならぬことも増えた。
勿論学校で出される宿題は普通の公立高校に比べれば、質も量も段違いだったが
カイにとってそんなことは大したことでは無いようだった。



そして。

最近は毎日の行事と化していた、夜の電話。

付き合い始めて間もない頃、カイがタカオに携帯電話を渡したのである。
カイは色々忙しく、なかなか連絡が取れないかもしれないからと・・・・。



その携帯電話で、
タカオは自室でカイと話していた。


「今、A県で開かれている博覧会に行かなければならなくなった。」
「え〜〜〜〜〜!?
いいな〜〜〜!アレ、俺も行きたかったんだ!マンモスとかよ〜、一度見てみたいと・・・。」
「行くか?」
「・・・・・え!?俺も行ってもいいのか!!??」
「まあな。
俺の用事は午前中で終わる。その後は自由だ。どうする?」
「行く行く行く行く〜〜〜〜!!絶対行く〜〜〜!!」
「但し、朝は早いぞ?大丈夫か?」
「うん!!大丈夫!俺、目覚まし5つかけて寝るから!」
「・・・・お前、それだけ目覚ましかけても起きられないって言ってなかったか?」
「う・・・・・・!大丈夫だって!カイと万博行くのに寝坊なんかするかよ〜!」
「では・・・・。明後日、朝7時に迎えに行く。それまでに泊まりの荷物を整えておけ。」



「と・・・泊まり?」
「ああ。翌日の休みももぎ取った。お前さえ良ければ泊りがけで万博見学だ。」
「・・・・・う・・・うん、分かった!」
「では・・・・明後日、7時だ。寝坊するなよ?」


タカオは携帯を切り、そのままベッドに放り投げた。

泊まり・・・・泊まりがけで・・・・カイと・・・・デート・・・・・????

タカオはボンッと顔から火を噴いたかと思ったらそのままベッドに倒れこんでしまった。





最近はカイの家に泊まることが増えたが、
旅行してどこかに泊まるのは、やはり新鮮でドキドキする。

・・・・・・・昔は毎日旅行でカイと一緒に泊まってたんだけどな。
レイやマックス、キョウジュも一緒だったが。

今にして思えば、あの世界大会の間、何て幸せだったんだろう?
いつも・・・・毎日、カイと一緒。
今から考えれば夢のようだ。




なにはともあれ・・・・・。
明後日はカイと旅行だ・・・・・・。

タカオは、ちょっと気を許せばニヤニヤしてしまう顔をなんとか押さえ込み、眠りについた。











そしてあっという間にその日がやって来た。

「じゃーなー、じっちゃん!行って来るぜ〜♪」
「これ、あんまりはしゃぎすぎて、カイ君に迷惑かけるんじゃないぞい!」
「わ〜かってるってvv。」

そしてカイの家の黒塗り高級車に乗り込み2時間ほど。
あまりに早起きしすぎてタカオは車中ぐっすりと眠ってしまったが、
万博会場に着く頃には、むにゃむにゃ〜〜っと目を覚ました。


「起きたか・・・・。着いたぞ。」
「え?もう?」
カイは心底呆れた。
車に乗り込むなり高いびき。
タカオは祖父と別れてまだほんの数分しか経ってないとでも思っているのか。

「見ろ。」
カイが車の外を指差した。
数々のパビリオン、観覧車・・・・。そして、人、人、人・・・・・。
「うわ〜〜〜〜〜!!テレビでみたのと同じだ〜〜!!すっげ〜〜〜〜!!!」





VIP専用の駐車場に車を止め、入場門とは全く違う方向に向かうカイに
「おい、カイ!入り口、こっちじゃないのか?」
「・・・・それは一般用だ。関係者用の入り口はこちらだ。
第一・・・・アレだけ並んでいては、何時になったら入れるか分からんぞ。」

タカオはこの炎天下、鮨詰めになって並ぶ人たちを遠目に見ながらカイを追った。



無事入場し、まずやって来たのは「HIWATARI館」。
大きなドームのような建物に驚くタカオを、また関係者用の入り口へ案内した。

「少し待ってろ。」とカイは更に中の小部屋へと消えた。

事務のお姉さんが出してくれたジュースとお菓子で時間をつぶす。

そういえば、カイの用事ってなんだろう?
俺、カイとお泊り万博デートができるって舞い上がっちゃって
肝心なこと、何にも聞いてねーや・・・・。

と考えていると、小部屋のドアが開いた。

現れたのは、品の良いスーツに身を包んだカイだった。
上品な生地で誂えた、オーダーメイドのスーツはカイを更に引き立てていた。
でも、そんなことより・・・・・・。

「・・・・・・!!!」
めちゃめちゃ・・・・カッコイイ・・・・・!!

タカオはカイに見惚れてしまった。
どこかの王子様だといわれたら、何の疑いもなく信じてしまうだろう。

「・・・どうした?」
「あ・・・・・、いや、その・・・。よ・・・良く似合ってるぜ?それ。」
「そうか?」
カイは何でもない事のように答えた。

カイのヤツ・・・全く自覚してない。
こんなにカッコイイヤツ、他にいないって。
現に・・・・事務のお姉さん達の視線・・・・・・。

タカオは内心溜息をついた。


そして、
「そういえばお前の用事ってなんだ?」
「ああ、まだ話してなかったか。
○△◇国の第一王子が来るので相手をしなければならん。」
「・・・・・・・・・!!!!????」
な・・・なんだって〜〜〜〜!!
せ・・・・世界が違いすぎる・・・・・。○△◇国・・・・って・・・。第一王子・・・だって・・・??

「そうだ。お前も着替えろ。まともな服装をしていれば、ついて来ても構わん。
王子と一緒にHIWATARI館を案内してやる。」

タカオは一瞬遠慮しようと思った。
堅苦しいことは苦手であったし。

だが。

仕事してるカイ(しかもスーツ姿vv)を見る絶好のチャンスだった。

「・・・・でも俺、服なんてないぜ?」
「心配ない。すぐに揃えさせる。時間はまだ充分あるしな。」



そう言ってカイは事務のお姉さんの一人に
「頼んだぞ。」
と言付けると
「すまないが打ち合わせがある。暫く外で遊んでろ。」
と言い残し、奥の部屋へ入っていってしまった。

揃えさせるって・・・・カイ〜〜〜〜!

不安そうな目をしているタカオに、お姉さんが近づいてきてニッコリ笑って言った。

「大丈夫ですよ、木ノ宮さん。ちょっとサイズを計らせてね。」

そしてメージャーで色々計ってメモを取って出て行ってしまった。





1時間ほど経過・・・・・・。
お姉さんが用意してくれた服は当然オーダーメイドではなかったが、
既成の服とはいえ、とても上品で質の良いスーツだった。

慣れないモノに着替えて小部屋から出てきたタカオ。

驚いた・・・ピッタリだ・・・・。

お姉さんを見ると、自らの見立てに間違いはなかったと満足げに微笑んでいた。

「可愛い貴公子さん、カイ様の打ち合わせももうすぐ終わりよ。なんて仰るか楽しみね。」
そう言ってブラシで髪を整えてくれた。




奥の部屋のドアが開き、カイが出てきた。

「・・・・・・!!」

今度はカイが言葉を無くしてしまった。
タカオの可愛さ、無邪気さ、少年っぽさが
このちょっと背伸びして着てみたスーツ姿に良く現れていた。
すぐにも抱きしめてしまいたいくらいに・・・タカオの魅力を引き出していた。

「馬子にも衣装とは・・・この事だな・・・。」

「ひ・・・・ひっで〜〜〜〜!!」
タカオが怒っているのか悲しいのか複雑な表情で訴えると
カイは
「・・・冗談だ。良く似合っているぞ?」
と優しく微笑み軽く頬に触れた。
「・・・・!!」
タカオは思わず真っ赤になって俯いてしまった。

「行くぞ。そろそろ来る。」
カイはタカオの反応に満足げに笑むと、スタスタと行ってしまった。

「あ・・・待ってくれよ!カイ〜!!」

一連の様子をすっかり見ていたお姉さん方。
「カイ様があんなに優しそうに笑うの・・はじめて見た・・・・・・。素敵・・・・・。」
「もう一人の子・・・・木ノ宮クン?・・・・・この子も・・・・可愛い〜〜〜vvvvvv。」
と恍惚の溜息をつく。今にも卒倒しそうだ。








○△◇国第一王子、到着。




その間・・・・・。
タカオは後の方からカイを覗き見ていた。
一国の王子相手に堂々とした態度、立ち居振る舞い。
しかも・・・・カイ・・・・英語で喋ってるよ!
カイって・・・・凄い・・・・。
カッコイイ・・・・・・・。

あ、そういや〜、あの世界大会中もカイは英語ペラペラだったっけ・・・。
レイも世界中武者修行していたとあって、色んな国の言葉を喋ってたな。
マックスはハーフだし・・・・。
俺だけ・・・・・・。



HIWATARI館の展示よりカイばかり・・・。
あ、いや・・・さすがに360℃スクリーンで変なメガネやセンサーで絶滅した生き物と触れ合えたり
大昔の海底や森の中の探検は・・・そりゃ〜もう、面白かったけどv。




見学が終わって王子と挨拶を交わすまで、
カイは一分の隙もなく、迫力負けすることもなく
見事に一国の次期王の相手をこなしてみせた。



タカオはただただ・・・・感嘆するばかりだった。

凄い・・・・凄すぎる・・・・・。





カイは無事役目を終え、火渡の社員に労いの言葉をかける。


そしてポケ〜〜〜〜っと口を開けてカイを見つめているタカオの所へやって来て
「終わったぞ。どうした、そんなマヌケな顔をして。」
「!!・・・・・〜〜〜〜〜!!」

タカオは悲しくなった。
こんな・・・・立派な・・・・凄すぎるヤツと・・・・・
ただの中学生とは・・・・・あまりに・・・・・・。

「・・・・・。」
カイはタカオのマイナス思考に気づいたのだろうか、
タカオの頭に手をおき、くしゃっ・・とすると
「着替えるぞ。この後は自由だ。とりあえず食事をしよう。」

そういって先ほどカイやタカオが着替えた小部屋へと促した。

パタン・・・・。




小部屋の中へ入りドアを閉めた途端、カイはタカオを抱きしめた。

「カ・・・・カイ?」
「バカが・・・・。お前が何を考えているかくらい想像がつく。」
「・・・・・・。」
「お前は・・・・お前のままでいい。
あんなことくらい・・・・訓練次第で誰にでもできる。」

それは違う・・・と思ったタカオだったが・・・。

カイは少し抱擁をゆるめ、軽く・・・触れるだけのキスをした。

それだけで・・・・タカオの心は軽く・・・・穏やかになるような気がした。

「・・・・お前にはこんな見せ掛けだけのスーツより、やはり自然体の格好が一番良く似合う。
着替えるぞ。そして昼食だ。」

タカオの顔がパアァァ・・・・・・っと明るくなった。

「うん!!」




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先日万博に行って参りました。
これがベイの世界なら「HIWATARI館」なんてのがあるんだろうな〜vvと考えた瞬間から
見るもの聞くものカイタカバージョンになってしまって。
かなり怪しいヤツだったかと思います。
万博見学中に、脳内にはほぼこの話の全容が出来上がってしまいましたv。
・・・・何しに行ったんだか・・・・・・。
そうそう、解った方もいるかと思いますが、「HIWATARI館」は「HITACHI館」を参考にしました。
ちなみにトヨタやHITACHIなど、大人気企業パビリオンには行けていません。
とても予約なんて取れませんでしたし、並ぶと4時間はかかるらしいですから・・・・。

それでは。
ちょっと長いですがお付き合い頂けると・・・嬉しいですv。