子供の頃、楽しみで楽しみで仕方のなかったクリスマス。
イブの夜はなかなか眠れなかった事を覚えている。
絶対にサンタさんに会うんだ、と言って頑張って夜更かししたものの、結局は眠ってしまって。
翌朝目が覚めてから、昨夜眠ってしまった事を後悔するんだけど
大きなクリスマス用の靴下の中に、ちゃんとプレゼントが入っているのを確認すると
もう、眠ってしまった事なんかすっかり忘れて大喜び。

母ちゃんが生きていた頃や、父ちゃんや仁兄ちゃんが世界に旅立つ前は
母ちゃんが父ちゃんが、仁兄ちゃんが・・・・・。
そして父ちゃんと仁兄ちゃんが世界へ旅立ってしまってからはジッちゃんが
俺のためにサンタになり代わって・・・・・・。

とてもあたたかな、大切な思い出。



「木ノ宮、いつまでそんな所にいる。いくらお前が馬鹿でもさすがに風邪をひくぞ。」
「・・・ひっでーな〜、もうちょっと別の言い方、できねーのかよ。」

ここはカイと一緒に暮らしているマンション。
正式には俺がカイのマンションに居候させてもらってる。
大学に通う為に。
俺の家からは、さすがに遠すぎて。

ささやかながら、二人でクリスマスを祝った後。
シャンパンを飲んだので、ちょっと酔いを醒ましにベランダへ出たのだった。
街の、家庭のクリスマスのイルミネーションをベランダで眺めながら、つい思い出に浸ってしまっていた。
風邪をひくぞ、と言われて初めて寒さに気が付いた。
「う〜・・・・、寒っ!!」
急いで部屋に戻ろうとした、その時だった。


「あ・・・。」
俺の声にカイも窓の外に目を向けた。
「雪・・・か。」

今日はやけに冷えると思っていたら。
俺は空を見上げた。
次々に舞い降りる雪、雪、雪。

予期せぬ自然の演出に、カイもベランダへ足を運ぶ。
「・・ほら。」
小さな子に母親がするように、カイは暖かい上着を俺の肩に掛けてくれた。
「・・・サンキュー・・・。」
俺は素直にそれに袖を通す。

そして一緒に街を、空を眺めた。

俺の子供の頃のクリスマスの思い出は、あたたかなものばかり。
ジッちゃんと二人だけのクリスマスで少し寂しく思った事もあったけど。
カイは、俺なんかとは比較にならないだろう・・・子供心に思った寂しさは。
あの火渡家で・・・しかも幼い頃にロシアに送られて・・・・。
進さんがまだ火渡にいた頃なら、幸せな思い出があるかもしれないけど。
・・・聞けないよな、とても。
カイの・・・クリスマスの思い出なんて。
それに何よりも、こういった同情・・・ではないつもりだが・・・・・
こういった気の使い方をカイは一番嫌がる、というより軽蔑する。
そんな環境の中で、カイは強くあろうとした。幼い頃から常に。


俺は空を向上げるカイの横顔をそっと窺った。

・・・・。
ちくしょー。
横顔までカッコいい。
今、気づいた訳じゃないけどさ。

「どうした?」
俺の視線に気づいたカイ。
「別に。このまま積もるといいな。そしたら明日はホワイトクリスマスだ!」
「ガキが・・・。」
「積もったら一緒に雪だるま、作ろうな?」
「お断りだ。」

街はみるみる雪に覆われていく。
美しいものも醜いものも、何もかも雪に覆われて一つの世界をつくり上げる。

俺とカイも・・・この雪景色のように
過去の喜びも悲しみも、全て雪で覆い尽くして
二人で新しい世界を、幸せを作っていけたら・・・・。


と、その時、手を握られた。
「こんなに冷えて・・・この馬鹿。」
「馬鹿馬鹿って、さっきから!」
大きなカイの手でしっかりと俺の手を包み込まれて、それがとても暖かくて。
俺はなんだか嬉しくて恥ずかしくて幸せで・・・・。
でも、照れ隠しからわざと怒って見せると。
「馬鹿だから馬鹿と言った。この手も、この頬も・・・。」
そう言って俺の頬に手を添えて。
「この唇も・・・・・。」
そして今度は唇を・・・・。
「こんなに冷たくなってしまった。」
唇を離した至近距離で、俺はカイを恍惚と見上げる。
「この体も、こんなに冷えて・・・。」
カイはそのまま俺を抱きしめた。

鍛え抜かれたカイの体。
抱きしめる逞しい腕。
カイは強い。
体は勿論、心も、とても・・・・。
だって。
カイはずっと紅蓮の炎のように戦い続けてきたんだ・・・・阿修羅の如く。

───カイ、幸せになろうな?二人で。

俺もカイの背中に腕を回した。
そして。
「・・・・あっためてくれよ、カイ。」
俺がこんなこと言うなんて、殆どないのでカイはちょっと驚いたようだ。
カイの体がピクッと反応した。
触れてなければ気づかない程度の小さな反応だったけど
しっかり抱き合っていたので分かってしまった。
俺はなんだか嬉しくなった。

「勿論、そのつもりだ。行くぞ。」
そう言ってカイは小さく笑んだ。
そしてカイに手をひかれて、今度こそ部屋に・・・正確には寝室に。









・・・・・・・。

しまったな〜、まだアレ、用意してなかった。
こんな事してて、俺、明日、カイより先に起きれるかな〜。
ただでさえ、朝に弱いのに。

と、カイに触れられて喘ぎながら、頭の隅では妙に冷静にこんな事を考えた。


「アレ」とは。
大きな靴下に入れられた、カイへのクリスマスプレゼントである。
お金はないから高価なものは送れないけど・・・気持ちだけは込めたつもり。
喜んでくれるといいけど・・・・。

「何を考えている?」
「え?」
ギクリ・・・・とした。
「余裕だな、木ノ宮。」
カイは、俺を見下ろしニヤリ、と笑う。
しまった・・・。
こういう状態で、こんな風にカイが笑うと
間違いなく、前後不覚になる程に鳴かされる・・・!
そして翌朝、自分の痴態を思い出して、猛烈に死にたくなるのだ。
「な、なにも考えてねーよ!」
無駄な抵抗を試みてみても無意味だと分かってはいたが。

「あ、ちょ・・・待って・・・・カイ、あ・・・・・!!」








深々と雪が降り積もる。
クリスマス・イブの夜。
大切な人のためにプレゼントをそっと用意して。
大好きな人が喜ぶ顔を思うだけで幸せな気持ちになれる。
とても寒いけど、あたたかな夜。


さて、タカオのプレゼントであるが。
結局タカオはカイより寝坊してしまったのは言うまでもないだろう。

仕方がないので昼頃にわざとらしくタカオは切り出した。

「あ〜!なんだ?これ?
こんなところに大きな靴下が〜!!あれ?中に何か入ってるみたいだぞ〜〜?」

カイはその紅い瞳を丸くした。
そして思わず吹き出してしまった。

「な、なんだよー!」
照れ隠しにふくれっ面をするタカオだが、カイはそんなタカオを引き寄せて。
「ありがとう、タカオ。」
と、耳に直接言葉を吹き込んだ。



───カイ・・・・・。

頬がみるみる染まっていくのが分かる。
心臓が高鳴る。気が・・・遠くなる・・・・。
カイが喜んでくれた、それだけで・・・・・こんなに、天にも昇る程、嬉しいなんて。



来年も、再来年も
ずっとずっと・・・・こんなふうにクリスマスを過ごせたら。

カイと一緒に、これからも・・・・ずっと。





















end


novel top


クリスマスですね。
いつも何かしら会話のみでも描いてきたからな〜
何か日記に小ネタでも・・と思いを巡らしてみても
最近色々忙しくてなかなか思い浮かばなくて。
苦肉の策として、去年のクリスマスに日記に小ネタとして書いたものを真面目に上げる事にしました(汗)。

一年も前の事ですが、これを書いた時の気持ちはよく覚えています。
タカオの家庭環境は決して幸せなものじゃありませんが、愛をいっぱい貰って育ちました。
小さな子供であったタカオのクリスマスは、容易に想像できました。
でもカイは・・・。
そう思っていたら、自然手が動き出しました。

それでは良いクリスマスを!!
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
(2011.12.23)