夢みたものは ひとつの幸福
ねがつたものは ひとつの愛
それらはすべてここに ある と







「あ!いたいた!お前、こんな所で何やってんだ!早く病院行くぞ!」

いい天気だったので野原で寝転がり空を眺めていたら、騒々しい声に邪魔をされた。
俺が不機嫌そうに睨むと、動じたふうもなく飄々と続ける。

「今日は包帯が取れる日だろ?
ようやくこんなモノとオサラバできるってーのに、こんな所で寝てちゃーダメじゃねーか!
ったく、お前ときたら動けるようになったと思ったら病院を脱走するわ、包帯は勝手に取るわ・・・。
で、今度こそ正式に包帯が取れるってーのにこんな所で居眠りしてるし・・・、訳わかんねー。」

小姑のように口うるさい。
コイツはいつからこんなに口うるさくなったんだろう。
自己管理もロクにできないお前にだけは言われたくないセリフだ。
俺の体のことは俺が一番良く分かっている。
もう入院している必要はないと思ったから病院を出たのだし
傷だってもう放っておいてもいい状態まできたと思ったから、包帯を取っただけだというのに。


「頼むから医者がいいって言うまで包帯だけは取るな! こんなに綺麗な顔に傷でも残ったらどうすんだ!」
などと凄い剣幕でコイツが言うものだから。
お節介にも火渡の者にも念を押しやがって。お陰で執事のヤツのうるさい事と言ったら・・・。
女じゃあるまいし傷の一つや二つ、残ったとてどうと言う事はなかろう。

そんな事を考えながら、自然、口元が緩んでいるのに気がつく。

だが・・・・・・。
コイツとこんなふうに過ごすのも・・・・悪くはない・・・。

「さ、行こうぜ?」

タカオが手を差し伸べる。
涼やかな笑顔。
この手を取ったら・・・・どこへでも飛んで行けそうな・・・そんな気がした。






シュルルルルル・・・・・・・。
看護士が包帯をほどいていき、医師がまず傷の状態を見た。
それからレントゲンやらを取られてもう一度診察・・・。
・・・・面倒だ・・・。

「お前、面倒だと思ってるだろう。でも絶対逃がさないからな?」
「・・・・・逃げはせん。ただ、もっと手際よくできないものかと考えていただけだ。」

タカオにすっかり見透かされていたようで慌てて返事をした。



「もう・・・大丈夫でしょう。
傷も殆んどふさがりましたし、骨の方も綺麗にくっついたようです。」
「本当か〜?あ・・・いや・・・ですか?」
自分のことのように喜んでいるタカオに医師も看護士もクスクスと笑った。

「カイの傷、残んない・・残らないですよね?」
「処置が早かったですからね。大丈夫だと思いますよ。
但し、薬は私が「よし」と言うまでキチンとつける事。飲み薬も飲んで下さいね。
1週間後、また診せてください。もし何かあったら・・・些細な事でも構いませんから・・・いつでも来て下さい。」
そう言って医者はニッコリと笑った。

「あ・・・ありがとうございました!!」




「ふん・・ふふん・・・・ふんふん・・・♪」
「・・・・上機嫌だな。」
「ったりめーじゃん!もう殆んど治ったっていうし、傷も残んねーみてーだしvv。
カイって綺麗だもんなー。顔も体も!」
「な・・・・!恥ずかしい事を大声で言うな!!」

すれ違ったヤツが、ギョッとしてこちらを見ている。
コイツの辞書には「恥」という文字はないのか!

「だって、本当の事だろ?俺、カイより綺麗なヤツ、見たことないぜ?
勿論、もし傷が残ったとしても、俺にとってはカイが一番綺麗だし一番大事だけどなvv。」

コイツには何を言っても無駄だと諦めて吐き捨てる。
「・・・・・・一生言ってろ・・・・。」

当然だが俺の言葉を気にしたふうもなく、気持ち良さそうに空を見上げるとタカオは
「なあ、ちょっと散歩しようぜ?せっかくいい天気だし、包帯も取れたし。」




そしてなんとなくやって来たのは・・・・俺とタカオが初めてバトルした場所。

そう。ここで・・・初めてコイツに出会った。
あの時のタカオは・・・・チビで・・・威勢だけは良かったが弱くて・・・俺の相手ではなかった。
だが・・・なぜだか・・・・コイツの瞳だけはやけに印象に残って。
今まで瞬殺してきた奴等と何の変わりもない筈だったのに。

「ここだったよな〜。初めてカイに会ったのって。
お前、信じらんねーくらい強くて、参ったぜ、あん時は!」
「ふん・・・。」
「でもまさか、こんなことになるなんてな〜。」
「・・・・・・。」
「俺、多分あん時からカイの事、好きだったと思う。まだガキだったから気付いてなかったけど。」
タカオが嬉しそうに言う。

「お前はどうだ?」
「知るか・・・・。」

そんな事など考えた事もない。
最初は・・・ただの負け犬だと思っていた。
だがコイツの瞳だけは妙に心に残っていて。
バトルトーナメントで負けてからは、コイツにリベンジする事だけで。
お調子者でいつも前向きで・・・
見ているとイライラしたが・・・共に旅を続けるうちに、気がつくと目で追っていた。
・・・・・・・・・・気持ちに気付いたのは・・・・・・ロシアでの一件。
だが・・・・こうして改めて思い出してみると・・・・もしかしたら俺も・・・・・・。




「なあ、なあvv。お前も初めて会った瞬間、俺に惚れた?」

考え込んでいたら突然図星を指されて慌てた。

「・・・!!ば・・・馬鹿か!そんな訳あるか!!」
「ちぇ!素直じゃね〜な〜。まあ、いつもの事だけどvv。
後でしっかりと素直な体の方に聞かせてもらうからな?久しぶりだしーvv。」

とニカニカととんでもない事を、タカオは言う。

「貴様はさっきから・・・よくもそんな恥ずかしい事をぬけぬけと・・・・!!」
「だってよ〜。俺、本当に嬉しいんだ。
カイの傷が治って。カイが俺ンとこ帰ってきてくれて。もう絶対離さないからな?」

そう言って、軽く唇で俺のそれに触れた。

「へへっ・・・。」
そして幸せそうに笑う。

もう・・・それで・・・文句を言う気力も何も失せてしまう。

不思議だ・・・・。
コイツの笑顔を見ていると、いつの頃からか俺は・・・・・。





タカオに促されて川原に腰を下ろした。

川はあの時と何も変わらず、さわさわ・・・と流れている。
あれから何年も経っているというのに、ここはあの頃のまま。
太陽の光が反射してキラキラと・・・・。

暫く川の流れを無言のまま眺めていたら、タカオがそっと顔の傷にふれた。

「俺、もっと・・・強くなりたい。二度とカイをこんな目にあわせないように。」
「・・・・・。これは俺が弱かったからだ。お前のせいじゃない。」

急に真面目な顔をして大事そうに傷に触れる指が照れくさくて・・・フイと顔をそむけた。
こんな時のタカオの瞳は・・・見ていると吸い込まれてしまいそうだ。
まるで海のように深く蒼い。

だがタカオは静かな笑みのまま続ける。

「俺さあ・・・カイがいなくなってから・・・・・色んな事考えた。」

俺は川の流れを見つめながらコイツの告白に耳を傾けた。

「世界大会の予選が終わった時・・・・お前と二人でタッグを組めるって・・メチャクチャ嬉しかったのに
お前、俺に黙ってユーリんとこ行っちまうし。
なんでユーリなんだ、なんで俺じゃないんだって・・・ダメになっちまうくらい悩んでさー・・・。

世界チャンピオンだって、もてはやされてたけど
まだまだ・・・・弱いよな〜〜。

俺、カイの事好きすぎて、一緒にいるのが当たり前になっちまって基本的な事忘れてた。

俺もお前も一人のブレーダーなんだって。
そんな簡単な事、思い出すのに随分かかっちまって。

その頃カイは一人で頑張ってたっていうのに。」

「・・・・・・。」


「俺・・・・・もっと強くなりたい。
もっともっと強くなって・・・・お前の事、いつでも受け止められるように。」

タカオは真直ぐ前を見据えて静かに語った。
揺ぎ無いタカオの蒼い瞳。
決意の程が伺われる横顔。



・・・・・もう・・・・お前は充分強い。
ベイだけじゃなく・・・・・。

いつも・・・誰もが・・・お前に救われてきた。
俺だけではない。
ユーリ・・・・ブルックリン・・・・・。
他にも・・・・キリがない。

俺は・・・いつも気がつけば半歩前を行くお前に追いつきたくて、追い越したくて。
お前の度量の大きさを見せ付けられるたびに・・・。

とても追いつけないと・・・気付かされる。


「BEGAの時も。
前の決勝戦でお前の気持ち、痛いほど分かったから、俺、もう荒れたりしなかったけど
でもあのヴォルコフの元で・・って思っただけで俺、胸が潰れそうな程心配したんだぜ?」

「・・・・・・・。」

「でも、お前は・・・・俺が思ってたよりも、ずっとずっと凄かったし強かった。
火渡カイは・・・・最高だよ。
俺・・・すごく・・・・誇らしい。」

タカオは俺の方を向いて微笑んだ。


「でも、お前、もうちょっとで死んでたかもしれないんだ。
あの場で・・・・俺にできたのは、ただ祈って願って・・・そんなモンだけだったけど。
やっぱり。
やっぱり俺、もっと強くなって・・・・カイを守りたい。」

「・・・俺はお前に守られて喜んだりするものか!
それに・・・・。」

あの時の事を言われ、胸を突かれた。
あの時は・・・あの時こそお前がいてくれたから・・・俺は・・・・。

「ブルックリンとのバトルで・・・・ブラックホールに吸い込まれた時
お前の声が聞こえた。
お前の手を・・・・・掴んだ。

お前は充分・・・・俺を・・・・・・・・。」

素直に語るのには慣れていない。
これが俺には精一杯の・・・・。



タカオは必死に告白する俺の拳をそっと両手で包み込んで穏やかな瞳で見つめた。
その目は「大丈夫。お前が言いたい事は全部分かってるって。」とでも言っているように。

俺は・・こんな時でも・・・・タカオに・・・助けられてしまうのが・・・
その瞳に甘えてしまいそうな自分がはがゆくて・・・・
苦し紛れに俺の拳をそっと包むタカオの手を見た。



この手。
そう・・この・・・手だ・・・・・。
この手にいつも俺は救われる。

その度に気付かされる。

俺の求めるものは・・・・全てここにある・・・と・・・・。





俺も・・・・・俺は・・・・・・・・・。
もう、ずっと前から・・・
タカオがいない世界など・・・・・・・考えられない・・・・・・。







だが・・・俺は・・・・・・お前に・・・・・・・・!!



俺はタカオの手を引き剥がして・・・呟いた。

「俺はきっとまた・・・お前を裏切る。」

「・・・そうだろうな。」
タカオは別に驚いたふうもなく答えた。

「・・・・・。」


「いいよ。何度裏切っても。それに関してはもう、俺、諦めた・・・っつーか悟った。
関係ねーよな、そんな事。
カイがチームメイトだろうが敵だろうが、俺の一番大事な人って事に変わりはないんだし。

カイが俺から離れていくときは
カイが無茶苦茶がんばってる時だから。

カイは・・・いつでも自分を痛めつけて追い詰めて極限状態までもっていって
そして信じられねーくらい強くなって・・・また俺の前に現れて。

俺、そんなカイと戦う時が一番楽しいしワクワクする。
カイとのバトルは・・・特別なんだ。

カイがいないと寂しいし辛いけど、俺、今度はちゃんと待ってる。
カイにまた会う時の為に俺も死ぬ気で頑張って、強くなって待ってるから。」


タカオの言葉が嬉しいのか・・・辛いのか・・・・・わからなかった。

ただ・・・。
タカオは何かを乗り越えるたびに・・・強くなる。

一回りも二回りも大きくなって
そしていつも俺を包み込む。

それが・・・同じ男として、ブレーダーとして
悔しくて。
嬉しくて・・・。

複雑で・・・・・・・。



「ただ・・・さ・・・お前、時々思いつめちまって必死になりすぎて・・間違った方に行っちまう事、あるからな・・・・。

お前に事前に相談しろっつっても無理な話だろうし・・・・。
どうすりゃーいいのかな〜。」

「・・・・・・・。」

暫くう〜〜〜んと唸っていたタカオだったが、パッと顔を上げると
ニッコリといつもの太陽のような笑顔で

「ま、いいか。その時はその時だ!
俺、どんな時でもお前を見てるから。
何があっても俺がお前を守るから!!」

「・・・・・・・・・。
お前は・・・いつも・・そうやって・・・・・。」

不覚にも・・・涙が溢れてきた。

そうだ。いつもいつも・・・・。
子供の時からずっと・・・・・。
俺が迷い込んだ時は必ず・・・・・・。

俺は・・・・お前がいなければきっと・・・とっくに死んでいた。
バイカル湖の底で・・・永遠に彷徨い続けて・・・・。

どんな時も・・いつだってお前が救い上げてくれるから・・・・・。




「カイ・・・・。」

「俺は・・・・お前が好きだ・・・。
だが・・・・俺はお前を倒したい。
それは多分、一生、変わらない。」

そうやって出会った俺達だから。

「いいんじゃねーの?それで。
俺たちはそういう関係でいいじゃん。
俺も・・・そんなお前を好きになったんだ。
最愛の恋人で伴侶でライバル。最高にカッコイイぜ。」

生涯戦い続けて愛し続ける。

「お前とまた、別次元まで飛んでいった時のようなバトルができたらって思うぜ?
ホント、最高だもんな〜、お前とのバトル。
そうだな〜。お前ン中でイク時とどっちか選べって言われたら、俺、かなり迷うぜ・・。」

「ば、馬鹿か!貴様は!!」
「ははは・・・・!!」

うろたえる俺の姿を見てタカオが盛大に笑う。
・・・・俺も少しだけ・・・・笑ってみた・・・。



「さ、行こうか。」

タカオが立ち上がり、手を差し伸べた。

俺は迷わずその手を取る。


この手を取ったら
きっと・・・・どこへでも行ける・・・・。








夢見たもの
願ったもの
それら全ては・・・タカオ・・・・お前と共にある。














end

novel top

冒頭は立原道造の詩から頂きました。
いえ・・・私が日本文学に詳しいとかそういうのではなくて。
幼児向け教育番組「にほんごであそぼ」をなんとなく見ていたら
「今日の名文」として紹介されていたんです。
これを聞いた瞬間、「コレは・・・カイが言いそうな言葉だ!!」と思ってしまって。
もともと「Gレボ最終回その後」の話は書いてみたかったのですが、
この詩を聞いた瞬間、妄想が爆走しちゃいました。

とはいえ・・・・カイ、ちょっと乙女すぎ・・・。
私の中のGレボカイは乙女なんですが、これはちょっと行き過ぎたかな・・・と反省してます。

Gレボのタカオはホント、カッコよかったですよね〜。
最低な時は最低でしたが。
タカオは懐が大きくていつもポジティブで・・・
ともすればどこかに迷い込んでしまうカイを包み込んで。
カイを包み込める程の男はタカオだけだと!確信していますvv。

それからタカオの瞳、蒼くしちゃいました。Gレボは栗色なのに。
タカオの瞳は蒼。コレはなかなか譲れないな・・・。
すいません。見逃していただけると助かります。

上手く書けたかどうかはともかく
書きたい事は書けたし、まあ・・・満足していますvv。

それではここまで読んで下さり、ありがとうございました! 
(2006.3.17)