ポンッ・・・・と勢い良くシャンパンの栓を抜く。
それだけでタカオは大喜びだ。

細長いクリスタルのグラスにシャンパンを注ぎ、そして。

「メリー・クリスマ〜〜〜ス!!」







ローストチキンはタカオ初めての作品であるにもかかわらず、とても美味しかった。
勿論ミネストローネも海鮮サラダも。
シャンパンを飲み過ぎないように注意して。

色々な話をして
タカオが笑いカイが微笑む。




家には帰りを待っていてくれる愛しい人がいて
共にクリスマスを過ごす為の準備をしてくれている。

暖かな料理、暖かな空間そして穏やかな時間。

今まで
家族で過ごすクリスマスが、こんなに暖かだった事はなかった。
火渡の屋敷はただ広く、そして冷たかった。


いや・・・・。
遠い昔、まだ父も母もいた頃
こんなクリスマスをした事も・・・・確かにあったような気がする。



今はタカオが傍にいて
共に暖かな時間を過ごす。


タカオは昔から変わらない。
これからは、タカオが俺の・・・・・・・・・。






「あ〜美味かった!!満足満足〜♪俺、料理の才能もあるかもな〜♪」
「・・・・他に何か才能などあったか?」
カイがからかう。

「ひでーな〜!ベイだろ?剣道だろ?それにあんなに成績悪かったのに頑張ったら国立大学入っちゃうしv。
俺って、もしかして天才かもな〜♪」

「・・・・・・・・・(呆)。と・・・・ところでそろそろデザートにするか?」
「おおっ!!そうそう、ケーキだ!」

タカオの頭は一瞬にしてケーキへと切り替わった。
とことん、お気楽に出来ている。

「気に入るかどうか、分からんが・・・・。」

可愛くラッピングされた箱のリボンを解き、
開けてみるとそこには粉砂糖で雪化粧された、ドライフルーツタップリのケーキが入っていた。

「・・・・お前は生クリームをタップリ使ったイチゴのケーキの方が喜ぶだろうとは思ったのだが
それでは俺が食べられないので・・・・・・・
せめてお前の皿には生クリームをタップリ添えてやる。それで・・・勘弁してくれ。」

そう言ってカイは先程持ち帰った袋からタッパーを取り出した。
どうやら中身は生クリーム。


「カイ・・・・まさか・・・・これ・・・・・。」
「・・・。ああ。火渡の料理長の指導の下、俺が作った・・・・。」

「・・・・・・・!!!カ・・・・・カイ〜〜〜〜!!!」
タカオは感極まってカイに抱きついた。

カイは甘いものが苦手なのに
でも一緒にケーキを食べた方が、俺が喜ぶのを分かっているから・・・。
忙しいのに・・・・こんな事までしてくれて・・・・。

「カイ、俺、すっげー嬉しい。ありがとな?」
タカオはカイに抱きつきながら
うるうる、くりくりの蒼い瞳でカイを見上げた。

ああ、そんな瞳で見つめられたらカイの理性が・・・・・。
だが理性がブチ切れるのにはまだ早い。
カイにはもう一つ、大事な企みが残っていた。

「い・・いや・・・。とにかく食おう。」
カイは頬を染めてそそくさと台所へ去って行ってしまった。



暫くしてケーキを用意したカイが現れた。
タカオの前には暖かな香り高い紅茶とともに、
生クリームをタップリ添えられた先程のクリスマスケーキが置かれる。

タカオはカイの動作をワクワクしながら見守った。
紅茶の香りと風味豊かなケーキの香り。
もう、タカオは我慢の限界!

「いただきま〜すvv。」
にぱ〜〜〜〜vvと笑って宣言すると、添えられていた生クリームをのせて一口・・・・・
ブランデー漬けのドライフルーツの味がしみ込んで、それ程甘くはなく、
生クリームがやんわりとそれらを包み込んで・・・・もう・・・・文句なしに・・・・
「お・・・・美味しい〜〜〜〜!!!」

「そうか・・・。良かった・・・・。」
カイが安堵の表情を見せた。

「ホント、美味いぜ?そんなに甘くないのに、こんなに美味しいなんて!」
タカオがパクパクと食べながら賞賛した。

そしてカイも一口食べてみる。
確かに・・・・美味い。
カイは密かにほくそ笑んだ。

だが、カイの企みはこれからが本番v。







「美味しかった〜♪もう、お腹いっぱいだ!」



満足げにふんぞり返るタカオにの元へ、いつの間にかカイが歩み寄っていた。


「タカオ。」

タカオの手をとり、立ち上がらせる。

「?なんだ??」

疑問の言葉を口にしながらも、カイの真摯な面持ちを見れば
とても大事な事であるらしいことは、なんとなく分かった。

カイは無言でタカオの左手をとると、その薬指に指輪をはめた。

「!!」
「・・・・クリスマスプレゼントだ。」

それは少し厚みのあるプラチナリング。
リングの両端には細かな模様が浮き彫りにされており、
その模様に溶け込みよく調和した形で、小さなダイヤモンドが埋め込まれていた。
そのデザインといい造りといい、かなりの品である事はさすがのタカオでも簡単に理解できた。

「こんな・・・凄いもの・・・・。」

タカオは戸惑いながらその蒼い瞳に、指輪とカイを交互に写した。
そんなタカオをカイはそっと抱きしめて。

「今更改めて言う事でもないし、こんなモノに何の制約も拘束力もない。だが・・・・・。
・・・・タカオ、生涯俺の傍にいてくれ。俺の・・・伴侶として。」

タカオの体がびくっと硬直するのをカイは感じた。


突然の重大事に、タカオは震える指で必死にカイにしがみついて。

・・・つまり・・・この指輪には・・・・・そういう・・・意味が・・・・?



「タカオ、返事は?」

返事を促すカイに
ハッとしてタカオは言葉を発しようとするが

「・・・・・・・・・・。カ・・・・・・〜〜〜!!」

体が・・・震えて・・・うまく口を動かせなくて。
涙がこみ上げてきて・・・堪えるのが精一杯で、言葉が出てこない。
驚いて・・・嬉しすぎて・・・・どうにかなってしまいそうで。


ギュッとしがみ付く指に力を入れて・・・搾り出すように・・・ようやく・・。

「・・・・・そんなの・・・・・・Yesに・・・決まってるだろ・・・・?」

ポロポロポロッ・・・・と、堪えていた涙が一気に溢れ出した。

想いあっているとはいえ同性で、
気持ちは決まっていても、これからの事はやっぱり不安で。
カイの気持ちを疑った事なんてないけれど。
やっぱり・・・・確かなものが欲しくて・・・・・・・・・・・・。


カイは何も言わずに、そんなタカオを愛しげにさらに強く抱きしめた。
タカオはカイの胸で震えながら泣いた。

幸せを噛み締めるように、カイは微かな笑みを浮かべ
タカオの涙を受け止めて・・・・。






「タカオ、俺にも指輪、はめてくれるか?」
「・・・・うん!」
涙をゴシゴシとぬぐい、ニッコリ笑って答えるタカオ。


聖なる夜に
お互いにお揃いの指輪をはめ合って。
なんだかとても神聖な気持ちになる。

法的に結婚は無理だけど
これは立派な・・・誓いの証。



・・・・・・満ち足りた笑顔で見詰め合った。












が、突然。


「あ〜〜!そうだ!!」
突然すっとんきょな声を上げるタカオ。

「なんだ?」
「ゴメン、俺だけプレゼントもらっちゃって・・・。俺、何にも用意してねーや・・・。」
「・・・・・・。気にする事はない。」

こんな時にそんな事を気にするタカオ。
タカオらしい・・・・・と苦笑を漏らす。

さっきのタカオの返事。
こんなにも暖かなクリスマス。
もう、十分すぎるほど・・・・・・・。

だが。


カイはニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。
カイがこんな顔をする時は、ロクでもない事を考えている証拠である。

「だが。どうしてもプレゼントしたい、と言うのなら・・・・・。」

カイはケーキの箱にかけられていたリボンを手にすると

「もらってやらない事もないがな。」

タカオの首にリボンを巻きつけ蝶結びを施した。

「へ?」

キョトンと大きな瞳をさらに見開いて
何が起こっているのかサッパリ分からないという顔のタカオ。

かなり・・・可愛い・・・・・・・・・・。


カイはタカオを姫抱きにすると、ゆっくりと歩き出した。
向かう先は勿論、寝室。

「な・・・・!カイ!ちょっと・・・!!」
「ガタガタうるさい。プレゼントが騒ぐな。」
「こらっ!・・・何考えてんだ!このスケベ〜〜〜!!」
「なんだと?」
「ちょっと待てって!・・せめて・・・風呂に入ってから・・・!!」
「心配ない。風呂の後、また頂く。」
「そういう問題じゃ・・・・はなせ〜〜〜〜!!」

タカオの抵抗虚しく、寝室の扉が閉じられた。

パタン・・・・vvv。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。














「雪が降ってきた!このまま積もれば、明日はホワイトクリスマスだv。」
カイは窓辺へ走り寄ろうとするタカオをちょっと引き止め、共にシーツをまといベッドを降りた。


成る程。
空からは雪が舞い踊り、街は既に白い。

カイは雪があまり好きではなかった。

雪は・・・・あの遠い国
夢も希望もない、闇の底
あの遠い修道院を思い出すから。


何の色彩もない雪景色。

それは絶望の象徴だった。





だがタカオや奴等に出会って。



いつの頃からか、暖かい雪景色もあることを知った。








「今日はイエス・キリストが生まれた日なんだよな〜。
俺、クリスチャンじゃないし、お祭り騒ぎが出来ればそれで良いと思ってたけど。
クリスマスにこんな綺麗に雪化粧された街を見てると
神様の仕業かな?って思っちゃうよな〜、カイ?」



カイはタカオを抱き寄せ空を見上げた。


お前がいなければ
この世はなんの意味も成さない。
お前がいなければ
世界は色のない雪の国。

そんなお前に、俺は出会えた。

これは奇跡だ・・・・・・。




「そうだな・・・・神など信じた事はないが・・・・。
お前に出会えた奇跡にくらいは
感謝してもいいかもしれんな・・・・・。」





降り積もる雪。

家々から漏れる明かりは
ただ優しく、暖かく・・・。



きっと明日はホワイトクリスマス。


街では子供達が雪だるまを作ったり雪合戦を始めたりで大騒ぎだろう。


そしてタカオも。

「なあ、明日雪だるま、作んね〜?」

「・・・・・・・。」

どう答えたら良いものかと思案のカイ。










聖なる夜に・・・・・・・・・・・・。











end
novel top


長すぎですね・・・。
指輪は不要だったかな〜と。やたら恥ずかしいし!

実はボツネタですが、カイにはクリスマスプティングを作ってもらって、
その中に指輪を入れてもらおうかな?と考えていました。
ヨーロッパではプティングにコインや指輪、指貫を入れておいてそれが誰に当たるか、
という遊びをするそうです。
コインが当たったら「お金持ち」、指輪は「結婚」、指貫は「一生独身」。
これをやってもらおうと思ったのですが、やたら回りくどくなったのでやめました。
この案をボツにした時点で指輪もやめときゃよかった・・・・反省・・・・・。

ええっと・・・・。
クリスマス、何か書けないかな〜?と考えた時にまず、カイのラストのセリフが頭に浮かびました。
形に出来て嬉しいですが・・・・やっぱ・・・・長すぎ・・・・誰もここまでたどり着いてくれないんじゃ・・・・(汗)。

そして肝心な所(?)をサックリ飛ばしてしまいましたが、
もし要望があればもしかしたら頑張ってみるかも(?)です(笑)。

それでは・・・・よくぞここまで読んでくださいました!心から感謝いたします!
良いクリスマスを!   (2005.12.1)



追記。後になって気付きましたが大学、普通はクリスマスなんかに講義ありませんよね。
・・・私の大学というより学部は超忙しい所で夏休みも冬休みもないと言ってもいいような所だったので自分の感覚で書いてしまいました。
理系ならともかく二人とも文系だろうしな〜。クリスマスに大学なんて、まず行きませんね。大変失礼を致しました。