タカオの盛大な告白より数日。
カイから連絡はない。
告白して両想いだということが分かった。
それはタカオにとっては天変地異的な出来事だった。
もう、嬉しいなんて言葉では言い表せない。
この数日、天にも昇るような気分で
気がつくとあの日のカイと自分を思い出して
にへら〜〜〜〜と笑っていたように思う。
かなり怪しい。
でも・・・・・。
この先一体どうすりゃいいんだ?
というのが告白後数日して
少し状況を考えられるようになったタカオの正直な心の内だった。
電話してデートの約束?
「今度ぉ〜、一緒にぃ〜、バトルしませんかぁ〜〜?」
・・・・・はははは・・・・・ありえね〜。
カイは今度電話すると言っていた。
・・・・待っていればいいんだろうか?
カイは忙しいから・・・・・・。
それもちょっと哀しい気がした。
それに・・・・それだけじゃない。
今、幸せ過ぎるぐらいな筈なのに・・・・
時々・・・不意に感じる・・・・・不安・・・・・。
これは・・・・一体・・・・・・?
「何かあったんですか?」
「・・・・へ?」
突然思考から現実に戻されたタカオは声をかけた主、キョウジュを凝視した。
そうだった。キョウジュと学校から帰る途中だった。
「へ?じゃないですよv。何か良いことがありましたね?」
「・・・・なんで分かるんだよ〜!」
「分かりますよ。元々タカオは分かりやすいですし。
それに。長い付き合いですからね。
・・・・なんだか悩んでもいるみたいですねv。」
そう言ってキョウジュは笑った。
「・・・ったく、敵わね〜な〜、キョウジュには。」
頭を少し掻いて頬を染めた。
「で、何があったんです?」
嬉しそうに聞くキョウジュだったが
「・・・・えっと・・・・。内緒・・・・秘密!秘密だ!!
こればっかりはいくらキョウジュでも教えらんね〜!」
「え〜〜〜〜〜!!良いじゃないですか〜〜〜〜!
教えてくださいよ〜〜〜〜〜!!!」
「ダメったらダメ〜〜〜〜〜!!!」
暫くじゃれ合う二人。いつもの光景だ。
この二人の夫婦のような仲の良さは、学校では既に有名だった。
そうこう言っているうちにキョウジュの家に近づいてきた。
「タカオ、私にできることなら何でもしますよ。
話せるようになったら話してくださいね。」
「・・・・ありがとな、キョウジュ・・・・。」
「まあ、嬉しい悩みみたいですから心配はしませんけど。」
「・・・・・。」
なんだかキョウジュには全て見抜かれているような気がした。
キョウジュと別れ一人歩きながら考えてみる。
カイのこと。自分のこと。
カイとタカオの・・・・・これからのこと。
あれ?
また・・・・チクッと・・・胸が痛んだ。
・・・・・・・・・・・・。
タカオは溜息を一つついて思いなおす。
だいたい数日前までは
俺はカイへの気持ちを胸に秘めたまま墓に入るんだって思ってたんだ。
カイも俺のこと・・・・・す・・すす・・・・・好きだった・・・・って知って、
まるで突然天地がひっくり返ったような出来事で。
この先どうするかって聞かれてもわかんね〜よ。
ただ・・・・・会いたい・・・。
今まで何年も我慢できたのに
カイと会ってからまだ数日だって〜のに・・・・・。
会いたいんだ・・・・・。
それじゃあ、ダメなのかな・・・・・・・・。
それに、あれが本当に現実だったのかどうか
最近分からなくなってきた。
あまりにとてつもない出来事で。
もしかしたら
遂に頭がおかしくなった俺が見た白昼夢だった・・・・
なんてオチは勘弁してくれよな〜?
いつの間にか木ノ宮家に到着していた。
なにウジウジしてんだ?俺。
よし!と気合を入れなおして
門をくぐり、玄関の戸をガラガラガラ・・・・・っと開ける。
「ただいま〜、じっちゃん!」
いつものように祖父に声をかけた。
「お、タカオ、帰ったか。お客さんだぞい。」
「え?」
「久しぶりじゃの〜、カイくんじゃ。暫く見ぬうちに立派に・・・・こら!タカオ!
廊下を走るんじゃない!」
タカオは祖父の言葉もろくに聞かぬうちに客間へとドタドタと駆けていった。
バタバタバタ・・・・・ピシャッ!
勢いよく客間の襖を開ける。
「カイ・・・・・・・。」
学校帰りらしいカイが制服姿で座っていた。
「突然すまなかったな。」
「いや・・・・・・。」
さっきまであんなに会いたかったカイを目に前にしているというのに
何も言葉が出てこない。
カイ・・・・カイだ・・・・・。
俺・・・・おかしいのかな・・・・・。
カイの一挙一動が・・・・制服の衣擦れの音が・・・
カイを包む空気までもが・・・・キラキラ輝いて見える。
「あ・・・・お・・・・俺の部屋、行くか?」
「ああ。」
やっぱり・・・あれは夢じゃなかった。
だってカイが・・・俺の家に・・・・。
タカオは今にも飛びついてしまいたい衝動をぐっと押さえ込み、部屋へ案内した。
「まさかお前の方から来てくれるなんて。」
「・・・少し時間が出来たのでな。」
なんでもないようにカイは言ったが・・・・・
きっとこの時間を作る為に
ここ数日、いつもの倍のノルマをこなしたりしたんだろうな・・・・とタカオは思った。
そしてそうまでしてくれたことをとても嬉しく思った。
でも、どうしよう?
畳の部屋にカイと二人座って・・・・・・何をしたらいいんだろう?
コレが何年も前の出会ったばかりの頃なら
バトルあるのみ!
それこそ倒れるまでバトルだ〜!
なんだけど・・・。
「あ・・・でも。何しようか?」
素直に言ってみた。
「・・・・・ナニ・・・しようかだと?」
いつの間にかカイが至近距離にいた。
あと・・・・数cmで・・・・唇が・・・・・。
「わ〜〜〜〜!!わ〜〜〜〜!!!!そうじゃなくて〜〜〜!!!」
タカオは大慌てで飛び退いた。耳まで真っ赤である。
「騒がしいヤツだ。」
「だ・・・・誰のせいだよ〜〜〜〜!!いきなりそんな事するからだろ!?」
「ではいきなりでなければいいのか?」
カイはニヤリと笑うと
また・・・・いつの間にか至近距離に・・・・。
「タカオ・・・・。」
真っ赤な顔でカイを睨みつけているタカオの頬に手を添え、少し上に向かせる。
タカオはまだ睨んでいる。
カイは、ふっ・・・と・・・微笑んだ。
「!」
タカオが滅多に見られない綺麗な・・優しい微笑に目を奪われた・・・・その瞬間
カイはそっと唇を重ねた。
柔らかい・・・甘い感触・・・・。
何もかもとろけてしまいそうな・・・・。
唇が離れると、先ほどまでカイを睨みつけていたタカオの表情は消え、
打って変わってトロンと虚ろな表情をしていた。
そんな表情で甘い吐息を漏らす。
「ん・・・・。」
たまらずカイはタカオを抱きしめた。
「木ノ宮・・・・・・。」
タカオもおずおずと・・・カイの背中に手を回した。
カイの暖かさ・・・・心臓の音を感じた。
不思議だ。
カイとこうしているだけで
今までの不安やモヤモヤが全て吹き飛んでしまったみたいだ。
何もしなくても・・・カイとこうしているだけで・・・・・。
こんなに幸せで・・・いいんだろうか?
そう・・・・・思った途端。
いいようのない・・・・・恐怖。
気づいてしまった、その正体。
これは片想いだと思っていた時から心のどこかにあったこと。
気づいていなかっただけで・・・・。
何もこんなに幸せな時に、不安の・・・恐怖の正体に気づかなくても・・・
こんなに幸せだからこそ・・・・怖くなる。
本当の意味での
カイとタカオの・・・・これから。
カイは腕の中のタカオが急に硬くなったのを感じ、
「どうした?」
と尋ねた。
「あ・・・・ご!ごめん!」
ハッとしてカイに預けていた体を起こす。
その顔は、瞳は・・・不安そうに揺れていた。
「何を・・・考えている?」
タカオの様子に只事ではないと感じ取る。
至近距離でカイの紅い瞳が心配そうにタカオの蒼い瞳を覗き込んだ。
カイの・・・この瞳に誤魔化しは利かない。
こんな時に気づいてしまった自分が悪いんだと・・・観念した。
どちらにしても、いつかは確かめなければならない事。
口に出すのが恐ろしい。
この幸せが一瞬にして消え去ってしまいそうで。
「・・・あのさ・・・・。」
意を決したタカオが不安そうにカイを見つめて言った。
「俺、カイの傍にいても・・・・いいのかな?」
「・・・どういうことだ?」
「カイは・・・・将来火渡の社長になるんだろ?
それなら・・・そのうちどっかの令嬢と・・・・結婚とか・・・・。」
カイの顔色が急変した。
「待て。・・・それ以上言うな。」
冷たい・・・・声だった。
やっぱり・・・・俺とは・・・・別れが約束されたモノ・・・・なんだ・・・・。
わかっていたとはいえ、仕方ないこととはいえ
目の前に突きつけられるとやはり・・・・ショックだった。
だが
「そっか・・・・。そうだよな。わかった・・・。」
タカオは精一杯ニッコリと笑った。
カイは・・・・カイは・・・・火渡の大事は存在だから
俺なんかとずっと一緒にいられる筈なんてないよな。
どっかの社長令嬢と結婚して跡継ぎを産んで・・・・・。
火渡を盛り立てなきゃ・・・いけない。
それでも・・・・たった一時でも
カイに好きだって言ってもらえただけで・・・・俺・・・・。
「バカか!貴様は!!」
タカオの思考を突然カイが断ち切った。
タカオの肩をガシッと掴み、血相を変えてタカオを・・・見据える。
タカオはハッと驚いたような顔で、ただカイを見つめ返した。
「カイ・・・・・?」
タカオのそんな様子に我に返ったカイは
「・・・・すまない。そういう意味で「言うな」と言った訳ではない・・・・。」
ゆっくりとタカオの肩から手を放す。
そして自らを落ち着かせるとカイは静かに語り始めた。
「俺はただ・・・お前に下らんことを考えさせたくなかっただけだ・・・。
だが・・・・こういう事は、はじめに話しておいた方がいいかもしれんな。」
また、暫くの沈黙。
タカオは最期の審判が下されるような・・・そんな心境でカイの次なる言葉を待った。
「俺は・・・・結婚などするつもりはない。」
「カイ・・・!!」
ハッと見上げるタカオに小さな笑みを向け、更にカイは続けた。
「お前と・・・こういう関係になれなくても・・・結婚するつもりなんてなかった。
爺にもそう言ってある。
偽装結婚など、真っ平だ。
第一・・・お前以上に大事な存在など、現れるはずはないからな。」
「カイ・・・・。」
タカオは正直嬉しかった。
でも、やはり信じられないとでも言うように続ける。
「でも・・・・火渡はどうするんだよ。跡継ぎだって・・・・・。」
「だから父には言ってある。「励め」と。」
「は!?」
突然のカイのこの突拍子もない発言に、真っ白になるタカオ。
「跡継ぎには火渡の血さえ流れていればいい。
俺の息子だろうが弟だろうが関係ない。」
「お・・おと・・・・うと・・・・・・って・・・・・。
お父さんはそれでいいって言ったのか?」
「まあな。父は俺に負い目もあるからな。」
「!」
カイの父親のことは以前聞いた事がある。
昔、あの火渡総一郎と意見の食い違いから決裂し、火渡を出たと。
カイを・・・・置き去りにして・・・・・・。
その後カイはロシアへと送られそしてそして・・・・・・・。
みんな出会った。
あの世界大会後、総一郎は会長職を辞任し、カイの父親が社長に就任したと。
とはいえ、未だ火渡総一郎の影響力は相当のものらしいが。
「そのくらい、好きにさせてもらってもいいだろう。
そのくらいの代償を貰わなければ・・・・割に合わんからな。
なにも火渡を出ると言っている訳ではない。
次期社長となることは構わんと言っているんだ。
仕事は結構・・・・性に合っているから悪い話ではないしな。
その次は俺の弟が火渡を継げばいい。
それだけの・・・・話だ。」
タカオは完全に呆気に取られ口をポカン・・・・と開けている。
「火渡の事は・・・俺の事ではあるが・・・それが全てではない。
俺は・・・・お前の前にいる・・・これが全てだ。
・・・・・・。
だから・・・・お前はつまらん事など気にするな。」
タカオは涙が出そうになった。
それ程、嬉しかった。
しかし、カイはまた、更に続けた。
「・・・・・・・・・・・・・。
だが・・・・・勿論・・・・これは俺の話であって・・・・・
木ノ宮・・・・もし・・・お前が他の・・・・女を好きになったら・・・・
遠慮なく行けばいい。」
「な!!」
カイの・・・想像もしていなかった言葉に、
喜びのあまり、泣いてしまいそうだったタカオが
突然表情を険しくした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・!!!
・・・・バッ・・・・・バカにするなよ・・・・?」
タカオが少し涙で潤んだ瞳でカイを睨みつけた。
拳が震えている。
「お・・・俺が・・・・どんな気持ちで・・・今まで過ごしてきたと思ってるんだ!
あの・・世界大会でお前のこと・・・・好きになってから・・・今までずっと・・・・・・!!
これからだって・・・・きっと・・・・絶対同じだ・・・・。
俺・・・・・カイが・・・好きなんだ!!
カイでなきゃ・・・・ダメなんだよ!!」
タカオは流れ落ちる涙を止めることはできなかった。
溢れる涙をそのままにカイを睨みつけ、
半分嗚咽交じりで訴えた。
「他の・・・・奴なんて・・・・考えられるわけ・・・・・ねーよ・・・・・!!
何・・・・ワケわかんねー事・・・・言ってるんだ・・・・バカヤロー!!!」
「きのみ・・・・・・。」
今度はカイが言葉を無くする番だった。
だが、幸せそうに小さく微笑むとタカオを優しく抱きしめた。
「すまなかった・・・・・・。」
カイは・・・・タカオといたいと言ってくれた。
火渡の御曹司なのに結婚もしないと。
そんな先のことまで・・・・考えていてくれた・・・・・・。
俺・・・・俺・・・・・カイが好きだ・・・・・大好きだ・・・・・。
タカオはカイの腕の中で暫く涙が止まらなかった。
ただ例えようもない程に、幸せだった。
だがカイは考える。
これからが・・・・・大変だな。
何しろ日本と云う国は異分子を認めない。
他と同じでなければ・・・・安心できない国民性だから。
だが・・・・・タカオと一緒なら
何とかなるような気がした。
より強い相手に本気で立ち向かおうとする心が
隠されたパワーを引きだす・・・・・・・・・。
いつかの自分の言葉をふと・・・思い出した。
木ノ宮に影響されたのは・・・・俺か・・・・。
カイは苦笑を浮かべると
「ひどい顔だな。」
といってハンカチを取り出し涙を拭いてやった。
タカオはバツが悪そうに
「へへっ・・・・」と笑うと、カイにされるがままにしていた。
一通り拭き終わるとカイはタカオの目元に唇を寄せ、
そして額に、頬に、鼻筋に、最後に唇へと触れていく。
涙の味。
先日の青木川での涙の味と
今日の・・・・・。
この味を・・・恐らく一生忘れないだろうと
カイは思った。
それは
今まで生きてきた中で
一番幸せな涙の味だから。
この国でこれからも二人で生きていく。
そう誓い合った日・・・・・・・・・・・・・・・・・。
end
難産でした。かなり長いこと悩んでいました。
それでコレ!?と言わないでいただけると・・・・・・。
始めはただ、「両思いだってーのは分かったけど、だからってどーすりゃいいんだ?」
と悩むタカオが書きたかっただけなんです。
それが何処でどう間違ったのか、こんな方向へ・・・・・。
ありがちな話ですいません。
なんとなくシリーズ化しちゃっているので・・・・この話題は外せないかなと。
跡継ぎといえば、問題はカイだけじゃないんですよね。
タカオだって・・・・道場をどうするか考えなきゃいけないでしょうし。
父親も兄ちゃんも好き勝手やってるからな〜。どうするんでしょう?
仁はそこらじゅうで子供作っていそうだから、そのうちの一人に継がせるとか(爆)!?
ところでカイは何をしに木ノ宮邸に訪れたのでしょうか?
先日のキスの味が忘れられず、気がついたら来ていた(笑)?アブナイぞ!カイ様!!
このまま行くと、ゴウもマコちゃんもタカオが産みそうです(現実逃避)。
それではここまで読んでくださり、ありがとうございました!
(2005.7.31)