「カイ〜!」
「なんだ?」
「・・・・・。いや、なんでも〜!」
はははは・・・と笑いながら去っていくタカオ。
「?」
「カイ〜〜〜!!」
「どうした。」
「・・・・・。あのさ、俺になんか用・・・とかなかったか?」
「?特にないが。」
「・・・そっか。ははは・・・じゃーな!」
そしてまた走り去るタカオ。
「??」
「カイ〜〜〜〜!!」
「え〜〜〜い、一体なんだというんだ!」
「・・・・・・。カイ。ホントに俺に用事、ないか?」
「ないと言っとろうが!!」
「そっか・・・・そうだよな。悪かったな、カイ。じゃーな?」
「カイ〜〜〜〜〜〜!!」
ギン!!と睨みつけるカイ。
バックには炎が、朱雀が・・そしてその手にはドランザーが!
「う、うわ〜〜〜〜!!だから・・・今度は俺が用事!!俺がカイに用事!!」
「・・・・。なんだ。」
カイは取り合えず構えたドランザーを下ろした。
「えっと・・・・さ・・・・・。」
「さっさと言え。」
「うん。じゃー、言うけど・・・。カイ、今日って何の日か知ってるか?」
「今日だと?」
「やっぱカイだよな〜。ま、期待した俺が馬鹿だっか・・・。はい!」
タカオは綺麗にラッピングされた小さな箱をカイに手渡した。
「なんだ?これは。」
「なんだって・・・チョコレートだよ。今日はバレンタインデーだろ?」
「・・・・・・・。」
カイ、目を見開いたまま、身動きできず。
「ほら・・・受け取ってくれよ。」
「・・・・何故、貴様が俺にチョコなど・・・・・。」
「か〜〜〜〜〜ッ!!やっぱカイはコレだから。
バレンタインに『何故チョコなど・・・(カイの口真似、顔真似をして)』なんて聞くヤツ、他にいね〜よ。
理由は一つしかないだろ?
俺が!お前の事!好きだからに決まってんだろーが!!」
「・・・・お前・・・俺が好きだったのか・・・・?」
「好きだったの!気づいてなかったのか?」
呆然・・。というよりどう対応したらいいか、真剣に困っている様子のカイ。揺れる瞳。
そんなカイを横目で見つめるタカオ。
「あー・・、まー・・・・なんだ。無理に答えなくていいからさ。
それから、チョコ。お前が甘いモン苦手だってーのは知ってたから
できるだけビターなのにしたんだけど・・一個でもいいからさ、食べてくれよ?じゃーな?」
そしてまた走り去ってしまったタカオ。
カイは箱を開けてみた。するとたった数粒のビター生チョコ。
タカオなりに考えて選んだのが良く分かる。
「フン・・・・あの・・馬鹿が・・・・・。」
カイは口元だけで微笑むと一粒口にしてみた。
「・・・・甘い・・・・。」
一方タカオ。
「なんか玉砕・・って感じだな〜。ま、相手はカイだし〜?」
はははは・・・・と笑いつつ自室のベッドに寝転んで天井を仰いだ。
さっきのカイの様子を思い出す。
目を白黒させるカイ、どう対応したらよいのか真剣に悩むカイ。
「やっぱ、カイって真面目だよな〜。あんなに困っちゃって。
・・・・・・・。可愛かったな・・・・・・・。」
やっぱり、好きだ・・・と自らの気持ちを再確認するタカオ。
「でもまー、ハッキリ断られた訳でもないんだし!
ゆっくり地道に攻めていくとするか!!明日から覚悟しろよ〜、カイ!
ぜって〜、落としてみせるからな〜〜〜〜〜!!!」
タカオは拳を握り締め、まるで宿敵と戦うかのごとく、メラメラと闘志の炎を燃やすのだった。
*********************
さて。どうしたものか────。
火渡邸、カイの自室。
カイにとってバレンタインデーといえば。
四方八方から突進してくる女、女、女───それらを全て電柱か何かのように無視。
いつの間にか鞄の中に詰め込まれたチョコをゴミ箱に放り込み
ロッカーに詰め込まれたチョコの山も即処分
火渡邸に届く膨大な量のチョコレートは、いつも全てメイドたちの手によって処分され
カイの目に留まることさえなかった。
なのに───、だ。
目の前にはひとつだけ受け取ってしまったチョコの箱。
3粒入りのうち、一粒は既にない。
信じ難いことに、その場で口にしてしまったのだ。
そのチョコを見つめながら、カイは考えていた。
何故、俺は・・・・?
女ではなく、よりにもよって木ノ宮がくれたものだから
あまりにも予測不能な出来事だったので拒否する余裕すらなかった。
いや・・・・。
たとえ予期せぬ出来事で不覚にも受け取ってしまったとしても
捨ててしまえばそれで済んだことだ。
だが、捨てるどころか────。
いくら明晰な頭脳の持ち主であるカイも、こういう方面はサッパリだった。
もし、経験豊富なレイが一部始終見ていたとしたら
事細かく解説でもしてくれただろうに・・・その解説をカイが受け入れたかどうかは別として。
それから。
カイはタカオとどう接したら良いのか少々悩んだものの
結局はいつもどおり、なにも変わらなかった。
タカオは相変わらず馬鹿でお調子者で
気がつけば以前よりもずっと、ニカニカ笑って傍にいるようになった気がするが
特に気にも留めなかった。
何事もなかったように日は過ぎていった。
ある、一点を除いては。
そうなのだ。
カイは一人になると、無意識のうちに・・・
時折ではあったが、あの生チョコの味を思い出すことがあった。
ホワイトデーが差し迫ったその日の夜も・・・・・。
カイは全てのノルマを終えて鉛筆を置き、溜息をついた。
ようやく訪れた安らぎの時間。
机からすこし距離をとり、その座り心地の良い椅子にもたれかかって目を閉じる。
「理由は一つしかないだろ?」
「俺が!お前の事!好きだからに決まってんだろーが!!」
「一個でもいいからさ、食べてくれよ?」
あの時のタカオの様子が、勝手に頭の中でリプレイされて
殆ど無意識のままに机の一番上、鍵つきの引き出しを開ける。
そこには小さな可愛らしい箱が。
その箱から一粒・・・・口へと放り込んだ。
「甘い・・・・。」
滑らかで、ほろ苦い・・・・チョコの味。
舌の上で転がすと、じんわりと甘く蕩けていく。
この・・・感覚は・・・・・・・・・例えるなら・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・。
ぐわばっ!!
カイは血相を変えて椅子から飛び起きた。
お・・・俺は・・・・今、何・・・を!?
口元を手で押さえ、真っ赤な顔で目を見開いて。
こんなに狼狽したカイの姿を、誰が想像できるだろうか?
・・・・・・・・・・。
そしてその日はやって来た。
3月14日。ホワイトデー。
いつものようにBBAで練習を終えたカイとタカオ。
タカオはカイが一人になるのを見計らって、帰り道で声をかけた。
「カイ〜!」
「なんだ。」
「あ、あのさー!俺、クッキーもマシュマロもキャンディも・・
そう!雷おこしでもせんべいでも!何でも好きだから!!」
「それがどうした。」
「・・・・・。えっ、とー・・・。はははは・・・・。そんだけ。じゃーな?」
タカオは落胆を隠し切れず、手を振って帰ろうとしたその時。
「待て。」
「?」
「貴様に返すものがある。」
そして鞄から取り出したのは以前タカオが渡したチョコの箱。
「・・・・。お前・・・・。いくらなんでもそれ、キツ過ぎ・・・・。
いいよ、その辺に捨ててく・・・・。」
タカオが言い終わらないうちに、カイはその箱からチョコを取り出して自らの口へと放り込んだ。
「??」
タカオは何がなんだか分からない。ただ目を見開いて次なる展開を見守っていた。
するとカイの手が伸びてきて・・・・・・気がついたときには・・・・・・。
タカオの口の中には甘い・・・甘い味が広がっていた。
唇に触れるこの柔らかな、でも弾力のある・・・これは・・・カイの唇・・・?
俺の口内で・・・動きまわる・・・・暖かなものは・・・・まさかカイの・・・・・!?
タカオは感極まって目に涙を滲ませた。
しかし次の瞬間には本能の赴くままにカイを強く抱きしめ
夢中になってカイの舌を絡め、むさぼり、その心地よさに酔いしれた。
「カイ・・・・・・ッ!!」
カイは想う。
ああ・・・・やはり、だ・・・・・。
滑らかで、ほろ苦い・・・
舌の上で転がすと、じんわりと蕩けていく。
あたたかく柔らかく、そしてどこまでも・・・・・甘い────。
これは・・・例えるなら・・・・・・・
タカオの・・唇付けの・・・・・・味・・・・・・・・・・・。
「お前、大胆すぎ・・・・。」
唇だけを離した至近距離でタカオが囁く。
「・・・そんなことは・・・ない。」
「俺、絶対ダメだと思った・・。あれからお前、いつもと全然変わんなかったし。」
そしてまたタカオが唇付ける。
「・・・ン・・・・。」
「カイ・・・。」
銀色の細い糸が互いの唇を繋ぐ。
「なんだ・・・・。」
「俺、カイが好き・・・大好きだ。そんな言葉じゃ、全然足りねーぐらい。」
カイはただ、タカオを見つめた。
こんなに近くで見ていると吸い込まれそうになる、そんなどこまでも深い蒼。
「俺・・・嬉しすぎて・・・おかしくなりそう・・・・。」
「貴様はいつだっておかしいだろうが・・・。」
「へへっ・・そうかもな。でも俺、本気だから!」
そして今日何度目かの唇付けを交わした。
深く深く・・・・
もうチョコの味など残っていなかったが、どこまでも甘い・・・・。
Happy White Day・・・!
end
これはバレンタインデーとホワイトデーそれぞれに日記に書いたものです。
小ネタには長すぎるので真面目に上げる事にしました。
あまりにも季節外れですいません・・・。
カイは案外色恋沙汰にはうぶで天然なんじゃ・・と思って書きました。
天然故の襲い受け。
これで裏モノも書きたいな〜と思いつつ月日が・・・・(汗)。
ここまで読んで下さりありがとうございました!
(2007.11.13)