「カイ〜!」
良く知った声に振り向くと、物陰から木ノ宮が手招きをしていた。
「ちょっと・・・いいか?」
「なんだ。」
「こっち、来てくれよ。」

何の用だか知らんが、何をこそこそと・・・・。
またこの馬鹿は何か企んでいるらしい。
ウンザリ・・という態度を取りながらも、口元にはつい笑みを浮かべてしまう。
結局その物陰へ足を運んで
そして木ノ宮を目の前にした訳だが
木ノ宮はこれ以上ないくらいにニコニコ上機嫌。

「・・・?なんなんだ、一体・・・。」

木ノ宮は綺麗にラッピングされた箱を俺の目の前に差し出した。
リボンまでかけてある。

「これ、チョコレート。」
「・・・。」
「カイ、大好きだ!」
「は?」
「は?って・・・今日はバレンタインデーだろ?」
「バ、バレン・・タイン・・・・。お前が・・・俺に?」
「そう!」

木ノ宮はニコニコ全開だ。
バレンタインデー。チョコレート。
その意味を考え、そして理解した瞬間
俺は何も考えられなくなった。
頭のてっぺんから足の先まで何かが駆け巡り、そして一気に体温が上昇。

「き、きのっ・・・きのみ・・・っ!」
「・・?どーしたんだ?カイ。顔が赤いぞ?熱でもあんのか?」
「い、いや!だから!・・・お前が・・・俺に・・・こんな・・・・!」
「ああ、チョコ?うん、俺、カイが好きだから!」

また、ニッコリ。
目の前が花畑と化した瞬間だった。
そしてその直後。
ボルケーノエミッションが俺の頭で炸裂したような気がした。


その後の記憶が、ない・・・・・。
記憶の彼方で、木ノ宮が慌てて誰かを読んでいる声が聞こえたような・・・・・・。



  「カイ!カイ!」
  美しい花畑で戯れる木ノ宮、俺を呼ぶその声。
  どんな綺麗な花よりも、木ノ宮、お前の方が可憐で可愛い・・・。
  待て、木ノ宮、どこへ行く?
  そっち行くな、俺の傍に・・・・俺の傍にいてくれ・・・・木ノ宮!!

  すると今度は何故か木ノ宮は俺の目の前にいて。
  頬を染めた木ノ宮がおずおずと綺麗な箱を差し出した。
  「カイ、大好きだ。俺の気持ち、受け取ってくれ!」
  「・・・・・・木ノ宮・・・・。」
  「好きだったんだ、ずっと。カイ、お前が好きだったんだ!」
  頬を染めた木ノ宮が、ゆっくりとその瞼を閉じ、俺は・・・・。



「木ノ宮!!」
俺は叫びながら飛び起きた。
すると
「なんだ?」
全くいつも通りの木ノ宮の愛くるしい声が聞こえた。
そこで初めて、ハッ・・と我に返った。

そこは。
花畑などではなく、木ノ宮家の和室。
俺はそこに寝ていたようで、夢を・・・見ていたようだ。
・・・・・。
それにしても、なんて夢を!

「あちゃ〜、カイ、凄い熱だ。39度8分。
飛び起きたりすんなよ。ほら、早く横になって!」

木ノ宮が俺の肩に手をかけて寝かせようとした。
俺は夢の余韻か、思わずその手を掴んでしまった。

「だから、寝てろって言っただろ?手も・・・こんなに熱い。」

しかし木ノ宮は普段通りの態度でこんな事を言う。
ついさっき、俺にチョコをくれたばかりで・・・
その、つまり・・・・愛の告白をした直後に・・・・
何故こんな態度がとれるんだ!!と思ったら。

「タカオ、カイなら心配ない。熱もすぐに下がるさ。」
「そうそう!原因がわかれば、あっという間にさめちゃうネ〜。」
「心配しなくて大丈夫ですよ、タカオ。私が保証します。」

レイにマックス・・・そしてキョウジュ?いたのか?
振り向くと、そこには見覚えのある、綺麗にラッピングされリボンまでかけられた箱を手にしたBBAの3人。
ハッ・・として俺は自分の箱を探すと、枕元にそれはあった。
ホッ・・としたものの・・・何故同じものをこいつ等が持っているんだ?

「タカオ、チョコレート、サンキューネ!」
「早速、食わせてもらった。美味かった。」
「甘いものは研究に疲れた頭には何よりもいいんです。ありがとうございます、タカオ!」

俺は何が何だか分からなくなった。
木ノ宮は俺を好きだと言った。
そしてチョコレートを・・・・。

「タカオ、カイに水でも飲ませてやれ。熱を出すと喉が渇くからな。」
「あ、そうだな。ちょっと待ってろよ?カイ!」

そして木ノ宮は台所へと走った。

待て、木ノ宮、水などより・・・・。

「カイ、very cuteネ〜!」
「全くだ。」
「カイでも早とちりすることがあるんですね!」
「そう言うな、カイは真面目で頭が固いからな。」

何が何だかわからずに残されてしまった俺に
こんな失礼な事を皆で言うので。

「な、何の事だ!」
と、慌てて突っかかると。
「何って・・・カイ、バレンタインにチョコを渡すのは、何も恋している相手だけとは限らないだろ?」
「そうそう。外国ではむしろ親愛のしるしとしてお菓子を送るネ!」
「まあ・・・カイはロシアで育ったと言ってもあの修道院にいたんじゃ、そんなものとは無縁だっただろうから・・・仕方ないけどな。」
「日本では、「義理チョコ」とか「友チョコ」とか、色々言いますね。」

そこまで言われて、ようやく彼らが言いたいことを理解し、俺は全く早とちりだったことを知って・・・・・・。
そして俺がどう勘違いしてしまったのかがコイツ等に完全にバレていると知って
今度は恥ずかしさのあまりに憤死しそうになった。

ワナワナ・・・と真っ赤な顔で震える俺を見ながら、奴らは情け容赦なく追い打ちをかける。

「でも!来年はタカオから本命チョコを貰って見せるネ!」
「ふん。マックス、お前、ホワイトデーはどうする気だ?
俺はプロ級と言われたこの腕で、手作りの美味い菓子をタカオに食わせてやろうと思っている。甘々のトロトロのやつをな!」
「私は新型ドラグーンをプレゼントします!お菓子なんかより絶対に喜んでくれますよ!」

顔は笑っていても、目が、瞳が殺気に満ちていた。
互いを牽制しまくっていた。
抜け駆けは許さない!とその瞳が強く語っていた。
そしてその瞳は俺にもしっかり向けられて。

「カイ、本当のバトルはこれからネ!」
「百戦錬磨のこの俺が、金の瞳で見つめたら誰だって・・。タカオが俺に落ちるのは時間の問題だな。」
「私には培ってきた技術があります。タカオを真に支えられるのは私だけです!」

レイ、マックス、キョウジュの迫り来るこの圧力。
皆の目が、「タカオは俺の、ボクの、私のものだ!」と言っている。
敵は・・・思いも寄らぬところに、俺の一番近くに三人もいたのだ。

奴らの心の声が聞こえるようだ。
「カイにはタカオを喜ばせる、どんな武器がある?」と。

ふふふふふふ・・・・・・。

四人が睨み合って、悪魔のような微笑みを浮かべていたら。

「カイ〜、大丈夫か〜?」
渦中の人、タカオが麦茶を作って持ってきた。
その途端、四人の表情は豹変、瞬時に穏やかな雰囲気へと変わる。

「ほら、カイ。」
タカオはカイにコップを手渡した。
「ありがとう。」
カイはコップごと、タカオの手を握る。
それに敏感に反応し、目くじらを立て血管を浮き立たせるレイ、マックス、そしてキョウジュ。

「へ〜・・。病気の時はカイも素直になるんだな・・。カイがお礼を言うなんて、初めて聞いた。」
「失礼な。俺はいつだって素直だ。」
そう言いながら、木ノ宮が作ってくれた麦茶を飲んだ。
焦りまくってぶっ倒れた後だけに、適温の麦茶がとても美味しく感じられた。
木ノ宮が俺の為に作ってくれた麦茶が、渇ききった喉を潤してくれる幸せに浸りきってしまった。
そんな俺の様子を見て木ノ宮は。

「調子、良くなってきたみたいだな。手もさっきほど熱くないみたいだし。」
「そうか・・・。」
飲み干して、盆にコップを戻す。

「ちょっとゴメン。」
何がゴメンなんだ?と思う間もあればこそ。
タカオの額が俺の額に当てられて。
鼻がかすかに触れ合う・・・木ノ宮の蒼い瞳がすぐすこに・・・
唇だとて、たった数cmしか・・・・木ノ宮の息が・・・顔に・・・感じて・・・・・!!

「・・・・・・!・・・・〜〜〜〜っ!!」

カイは真っ赤な顔で口をパクパク・・・と・・・すっかり錯乱状態だ。

「駄目だ、カイ。やっぱまだすごい熱。
ほら・・・ちょっと体を起こしただけでそんなになって・・・。
もう、帰ってちゃんと寝た方がいい。
俺、迎えに来てくれるよう、お前んちに電話してくる。」

カイと、外野の3人がパニック状態なのに全く気付いていないタカオは
立ち上がると電話をかけるために部屋を出て行った。


「黙って見ていれば・・・・。」
「いい気になり過ぎネ〜。」
「許しません・・・・。」

三人の怒りのオーラは凄まじく。

しかし。
この俺が挑まれて、黙っていようか。

「ふん・・・・。貴様等に木ノ宮は渡さん。」





「はい・・・はい・・・そうなんです。だから出来れば車で・・・。」

タカオの背後のその部屋からは、朱雀、白虎、玄武の聖獣の光が激しく乱射。
タカオは電話をかけている為に気づかず。

「はい、じゃあ、お願いします。」

カチャ・・と受話器を置いたタカオは、その部屋の方を振り返った。
その時には部屋はいつも通り、静寂に包まれて・・・。

「カイ〜、すぐに車で来てくれるってさ!
・・・・あれ?なんでレイ達までボロボロなんだ?」
「いや・・・その・・・・。」
「レ、レイが・・・そう、レイがボクのチョコを食べようとしたネ!タカオがせっかくくれたボクのチョコ!」
「そ、そうなんですよ。それでちょっと・・・その・・・・。」
「ふーん。レイは相変わらず、すげー食い意地だな。そんなに食いたきゃ、まだあるけど食うか?」
タカオの言葉に残りの四人全てが
「食う!!」
「はい?み、みんな・・食いたいのか・・・?」
すると四人が四人、一斉に盛大に首を縦に振る。
「・・・そ、そんなにチョコが好きだったっけ?お前ら。」
四人の迫力に、押され気味のタカオだったがちょうどその時、玄関の呼び鈴が鳴った。
「あ!カイ、多分迎えだ!」
そう言ってタカオは天使の微笑みをカイに向ける。
それを見てレイ、マックス、キョウジュの三人は。

フッ・・・・・・。

と悪魔の笑みを浮かべた。


「待て、俺はもう大丈夫だ、熱など・・・!」
「いけません、カイ様。
ついさっきまで40度近い高熱を出されていたのですから、今日は絶対安静です!」
「こら、離せ!俺は・・・・木ノ宮〜〜〜〜!!」

カイ、強制送還。

「脱落者、一名・・・ですね。」
「あっけなかったネ〜。」
「凄んでた割にはな。」

さあ、残されたのは三人。

「カイは行っちまったから、ま、いいか。はい、チョコレート!」

残された三人は一斉にチョコレートに飛びかかった。

しかし。
こんな所でたかが「友チョコ」を一個でも余計に食べようが、何の関係もない事は
誰よりも彼らが一番よく分かっていた。

本当の闘いはこれから??

チョコレートに群がる、獣と化してしまった友人達を見て
それを呆気にとられつつ傍観するしかなかったタカオは

「カイ・・・大丈夫かな〜・・・あいつ、すぐに無茶するから・・・・。」
と、想いを馳せた。

そして。
「そうだ、明日はカイのお見舞いに行こう!」
と心に決めると
もう一度ニッコリ、天使のごとく微笑んだ。
















end

バレンタインデーに何か書けないか・・・と、突発的に日記に書いたものです。
私のカイタカはラブラブが多かったので、今回はギャグというか総受け的にしてみました。
ありがちな感じですが・・・少しでも楽しんで頂けたなら幸せですv。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!!
(2011.2.24)

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