麗らかな春の陽射しの中で。

あちこちで友達の名を呼ぶ声がする。
自分という存在が、確かにここにいたのだと
今ここにある全てに刻み付けておきたい、と心から願いながら
名残惜しげに、いつまでも・・・寂しさを振り払うように明るく装った声が響いている。

───卒業式。










今日、カイはこの中学を卒業してしまう。
同じ中学で生活できたのはたったの一年。
短かった、あまりにも。

この一年、本当に楽しかったんだ。
学年は違っても毎日カイに会えた。
普通に生活しているカイというのは
俺が中学に入学したばかりの頃はとても新鮮で。
だって俺が知ってるカイは
バトルスーツやマフラーを身に着けて、頬にはペイント。
そして炎のようなバトル。
私服や制服で会う事も、たまにはあったけど
実際、普通の生活をしているカイを見る事が出来たのは本当に・・・・俺にとっては新鮮で嬉しかったんだ。
毎日が幸せだった。
学校に行けば、カイに会えたから。
でも、明日からは・・・・・・。

「そんな顔をするな。」
カイの言葉に、こらえていた涙が一筋、二筋と零れ落ちた。
「ご、ごめん・・・。俺、今日は絶対笑顔でって決めてたのに・・・!」
「いつだって会える。そうだろ?」
「うん・・・わかってる・・・。」
溢れる涙。
でもカイの姿をこの目に焼き付けておきたくて
必死に中学最後の制服姿を睨み付けるように見つめる。
深緑のブレザー。ネクタイは少し緩めていて鎖骨が覗いている。
少し崩した着こなしが、他の者がするとだらしなく見えるが、カイがするとカッコいい。
俺にはブレザーにネクタイの制服はちっとも似合わないのに、カイは何でも似合う。
何を着ても、最高にカッコいい。
上から下まで、忘れないように目に焼き付けて。
でも手にした卒業証書を目にしてしまうと、また込み上げるものを感じてしまって。



あたたかな日差し。
光のどけき春の日に。


カイもそんなタカオを、ただただ見ていた訳ではない。
カイだって辛かった。
カイにしても・・・学校でタカオに会う事はもうないのだ。
学校などあまりにレベルが低すぎて得るものなど何もない、時間の無駄だと思っていたが
この一年だけはカイにとっても特別なものとなった。
休み時間になれば、タカオがやって来た。
タカオはあの性格だ、タカオがいる所には上級生と言えども人が集まる。
そんな中にカイもいる羽目となって、辟易したことも一度や二度ではなかったが、それでも。
無意味だと思っていた学校に、タカオが一筋の光をもたらした。
タカオの天真爛漫な笑顔を眺めていられた事は
カイにとってはかけがえのない、心温まるひと時だった。
それも今日で終わる。
思い返せば・・・・全ての時がキラキラと輝いていたように思える。


「そんな顔をするな。最後に・・・お前の笑顔を見たい。
俺の中学生活最後は、お前の笑顔で締めくくりたい。」

カイの手がタカオの頬に添えられた。
タカオは無意識のうちに、頬に添えられたカイの手に自分の手を重ねた。

カイの手。
大好きな大好きな・・・あたたかい・・・・カイの・・・・・。
このままじゃいけない。
今、卒業していくカイの為に俺が出来る事は・・・・・。

タカオはカイの手に自らの手を愛おしそうに重ねたまま、必死にニッコリと笑った。
笑うと瞳にた溜まっていた涙が一気に零れ落ちたが、それでもタカオは笑顔を崩さなかった。

「タカオ・・・・ありがとう・・・・・。」
カイはタカオの綺麗な涙を指で掬い、その指をそのまま自らの唇に当てた。
「・・・しょっぱいな。」
カイが笑う。
タカオも今度は声を出して笑った。

膨らみかけた桜の蕾。
この桜が咲く頃には、カイはここにはいない。

でも、いつだって会えるから。
俺達はこれからも二人で歩いて行くのだから。
























end




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卒業シーズンだな〜、と考えていたら自然に書けてしまった話です。
日記に載せた話ですが
短いながらも日記語りなしで纏まってたように思ったので真面目に上げました。
カイとタカオが同じ中学って、色々な条件から、どう考えてもあり得ないんですが、その辺はご容赦を!

ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
(2011.3.30)