中国大会、BBA宿舎。
それぞれが思い思いに時間を過ごしていた、ある日の午後。
レイは厨房にいた。

なにやら怪しげな笑みを浮かべながら、何かを作っている様子。
禍々しいオーラを放つ、それをかき混ぜながら
時々味見しては不気味に微笑むその姿。
まるでお伽噺に出てくる魔女のようだ。






「こんな所にいたのか、レイ。・・・。一体何を作ってんだ?」
あちこち探した末
もしかして腹が減ったのかな?
と思い至り、厨房へやって来たタカオは
ようやくお目当ての人を見つけてホッと安堵した。

「おう、タカオ!何って・・・唐辛子ジュースだ。」
レイは牙を光らせてニヤッ・・と笑った。
「唐辛子〜〜〜??なんでそんなもん・・・!」
唐辛子と聞くと、タカオはどうしても思い出してしまうのだった。
寝坊をしたあの日、レイに唐辛子を丸ごと口に入れられ、そして大変な目にあった。
皆にもレイにも散々、迷惑をかけてしまった。
あの一件があったお陰で
レイとの信頼関係を更に深める事ができたのではあるが
やはりタカオにとって、唐辛子は鬼門である。

レイはタカオの様子に気づいて言った。
「大丈夫だ。あの時は丸ごとそのまんまだったろ?
今度はちゃんと味の調整をするから、あんな事にはならない。」
「で、でも・・・!!」
タカオは不満げだ。
「唐辛子は適度に取ると体にいいんだぞ?
疲労回復、血行促進、消化吸収アップ・・・。
世界大会を勝ち抜き続ける為には、良い事づくめじゃないか!・・・っと・・・・、できた。」
レイは最後にスプーンで味見をして満足げに微笑んだ。

みるみるうちに、赤い不気味なオーラを放つ液体がドクドクとコップに注がれていく。
タカオはその様子を、ただ恐れおののきながら見守るしかない。

なみなみにジュースが注がれたコップを無邪気に差し出して。
「ほら、タカオ、飲んでみろ。」
「う・・・。」
戦慄のタカオ。
「美味いぞ?ほら!」
更にグイ・・・とタカオに押し付けるように差し出すレイ。
「お、俺はいい!」

頑なに拒むタカオに、レイは表情を曇らせ悲しそうな顔をした。
「・・・タカオは、俺が信用できないのか?」
「え・・・。」
「俺はいつだってタカオの事を考えて行動しているつもりだが・・・。」
「・・・!」
「このジュースだって、タカオの為を思って・・・。
あの時の疲れが、まだ残っていたら大変だと・・・・。」

タカオはレイの様子にすっかり狼狽えてしまった。
そして決心した。
「わかった、レイ!俺、飲む!」
「本当か?」
レイの顔がパッと明るくなった。
こんな時のレイの顔は、まるで猫のようだ。
タカオは思った。
レイの笑顔がやっぱり大好きだ!と。

すると。
「そうだ。」
レイは何かを思いついたようだ。
「ちょっとでもタカオが辛くないように・・・。」
レイはコップの唐辛子ジュースを口に含んだと思ったら
タカオをグイ・・と引き寄せ、そして・・・。
タカオは予期せぬ展開に慌てるが、レイの腕力にタカオが敵うはずもない。
そもそも・・・レイがタカオを引き寄せるのに、タカオが本気で抵抗するはずもない。



唇が・・・触れる・・・・・。

未だキスに慣れないタカオは、全身を硬直させてレイの唇を一心に感じた。
あたたかく柔らかな唇を触れ合わせるだけで、心が満たされる。
胸がいっぱいになる。

そんなタカオの様子に、レイはいつも新鮮な歓びを感じ
レイもまた、心がいっぱいになるのだった。


しかし今日はもう一歩踏み込んでみようと、レイは思った。


今まで突破できなかったタカオの唇を舌で軽く押してやると
タカオは少し唇を開いた。
その僅かな隙間から、レイは口内への侵入を果たし
そして唐辛子ジュースを送り込んだのだ。
初めての深いキスに
どうしてよいのかわからないタカオの舌をレイが追い
ゆっくりと摩る。
柔らかな舌と舌が絡み合う。
そこに存在する、ピリッと刺激を感じる唐辛子ジュース。
でも甘い。

レイは味を調整したと言っていた。
だから甘味も加えたのだろう。
だが、そんな事より。

甘い────────。






どれくらいそうしていただろう。
ようやく唇だけが離された、至近距離で。

「どうだ?」
「ん・・・。」
「甘い・・・だろ?」
「うん・・・甘い・・・・。」


タカオは朦朧としていた。
深いキスと唐辛子ジュースに酔ったようだ。
潤んだ瞳でぼーっとしながらも、荒い息を必死に整えるその姿に。

可愛いっ・・・・!
レイは心の底で拳を握りしめ、歓喜の雄叫びを上げた。

「今の・・・って・・・。」
タカオはとろんとした蒼い瞳でレイを見上げる。
「うん。今のがディープキス。」
レイは幸せそうに微笑んだ。
「・・・。」
そう聞くと、タカオはみるみる頬を染め、恥ずかしそうに瞳を逸らした。


タカオ・・・可愛い・・・可愛すぎる・・・・っ!!
レイが内心、感激の涙を流した事は言うまでもない。


「もっと・・飲むか?」
早く次を味わいたくて、レイは急かすように言うが
タカオはちょっと迷った。
欲しい、と言ったら
もう一度、キスで飲ませてほしいと言っているようで。
さすがにどうかと思ったからだ。
でも・・・。

レイの腕の中で、タカオはレイを見上げた。
優しい、あたたかな・・・タカオが大好きな金の瞳。
その瞳孔が既に細い。
この瞳で見つめられると・・・タカオはいつもレイが欲しくなる。
レイの何が欲しいのか、と言われるとよく分からない。
ただ、もっともっと・・・レイを感じたくなる。
こんな気持ち、レイと心を通じ合わせる前は知らなかった。
とても逆らえない・・・・。

レイ・・・・。

「飲む・・・。」
まるで何かに操られるように、タカオは答えた。





一方レイは。


───もう一度・・・早くタカオを・・・・唇を・・・・・!!

まるで盛りのついた猫だ。

レイは逸る気持ちを抑えきれずに
片手でタカオを抱いたまま
もう片方の手でたどたどしくコップを手に取ると、唐辛子ジュースを口に含み
そしてまた唇を寄せた。

再び柔らかな感触が二人を襲う。

甘くて、辛くて。
キスから感じる甘美な痺れなのか
唐辛子ジュースからの刺激なのか。
だんだんと、わけがわからなくなる。
唇が、舌が、熱い。
甘くて熱い。
躰が・・・熱く火照っていく・・・・。

「タカオ・・・。」

囁く息さえも、熱い・・・。

「レ、イ・・・。」


激しく絡み合ったと思ったら、今度はゆっくりと摩られる舌。
互いの口内で転がる唐辛子ジュース。
ちゅく・・・と響く水音。

「ん・・・っ、ふ・・・・!」


───なに・・・俺、今、変な声・・・・。

タカオは戸惑いを感じた。
感じながらも・・・止まらない。

───レイ・・・俺・・・なんか、おかしい・・・・・レイ・・・・・。




レイの白い中国服をギュッと掴んで必死にしがみつき・・・。
ともすれば、気が遠くなりそうになる。
甘く痺れる麻薬が脳に直撃して全身に回ってしまったような・・・
まさに未知なる感覚で、もう・・・たまらない。
初めての深いキスが、たまらなくタカオを狂わせる。

まるで病み付きになったように
ただひたすらにレイの舌を追い、感じて・・・・・。


ジュースをすっかり飲み干してしまった後も
名残惜しげに舌先で触れあい・・・・。
銀色の細い糸が、二人を繋ぐ。

半ば恍惚状態で見つめ合い・・・・。


───これが・・・ディープ・・・キス・・・・・・。








一方レイは、先ほどから自らの異変に気が付いていた。
深いキスに酔ったのはタカオだけじゃない。


「・・・ん・・・・っ。」

時々洩れる、今まで聞いたことのないタカオの艶のある声が
レイの頭の中で幾重にも重なって響き渡り・・・クラクラする。

ガッチリと強くタカオを抱いていたレイの腕は
いつの間にか本能の赴くままに
タカオの全身をまさぐるように這い回されて
気づけば足までも絡みつかせるように密着させて。

このままタカオの服の中へ己の手を滑り込ませてしまいたい・・・。
という衝動に駆られたが
それだけは最後の理性でもって、なんとか食い止めたものの。

溢れる欲望に、どう対処したら良いのか。
もう熱がソコに集まってしまって制御不能に近い。

今までのレイなら、この先へ進むことに躊躇は無かった。
こんなに欲望を押さえつけた記憶は、レイにはない。



───タカオだから・・・大切にしたいから・・・・・・・。


無邪気に笑うタカオ。
元気にバトルするタカオ。
唐辛子を食べさせてしまったあの時
足をくじいたレイをおぶって歩いてくれたタカオ。
あんなに小さい体で、自分より大きなレイを・・・あんなに一生懸命・・・・。


様々なタカオがレイの脳裏を駆け巡る。


───タカオは無垢な・・・どこまでも無垢な存在だから・・・・・。
     そんなタカオを、俺は好きになった・・・。

     こんなに新鮮で気持ちのいい恋愛は初めてだった。
     タカオと一緒にいると、世界が輝いて見えた。
     青龍と同じ音である、清流のように
     清らからかで聖なる風が、俺の世界も変えてくれた・・・・。
    
     何も知らないタカオ・・・。
     タカオを汚したくない・・・壊したくない・・・・。

     俺は・・・・!!





キスと・・・タカオに酔わされて
それはもう、普段では考えられないくらいの急激な高まりようで。

だからこその、強烈な葛藤に。





レイは意を決したように、タカオの肩を両手で掴み己から引きはがした。

「レ、レイ?」
この突然の変化に、タカオは虚を衝かれたような顔をした。

「あ、・・・すまない。」
「え・・・。」
「その・・・ちょっと用事を思い出した。ジュースは好きなだけ飲んでもいいぞ?」

それだけ言うと、レイはふらっ・・・と部屋から出て行ってしまった。




「レイ・・・。」

一人残されてしまったタカオ。

息を整え、落ち着きを取り戻すと
先程の自らの様子を思い出し・・・・青ざめた。

───俺が・・・変な感じになったから・・・かな。
     気持ち悪がられちゃったかな・・・・。

     どう考えても、誰が見ても
     アレは気持ち悪い・・・・。
     絶対・・・気持ち悪い・・・・・・。
     ・・・・・・。
     どうしよう・・・・・・。





と、そこへ。
「あれ?タカオ、そんな所で何してるネ?」
マックスが帰ってきた。

「あ・・・マックス。これレイが作ったんだ。唐辛子ジュース。」
「ワオ!でも唐辛子とは、また強烈ネ!」
「そんな事・・・ない。美味かった。」
「そう?じゃ、ボクも一杯。
・・・・。
ほんとーだ、美味し〜ネ〜!!さすが・・・ゴクゴク・・・レイ・・・ネ〜!!」

そこへ今度はキョウジュが帰って来た。


「キョウジュ!こっち来るネ!コレ、美味しいヨ!」
「どうかしたんですか?マックス。」
「唐辛子ジュース!レイが作ったんだって!ね、タカオ!」
「あ、うん。」
「唐辛子?なんでまた・・・。」

そんなやり取りをやっているさなか、タカオは音もなく出て行った。
帰って来たカイとすれ違うが、タカオは気づいた様子もない。
カイはタカオの様子がおかしい事が、少し気になった。



「カイ!おかえり!美味しい唐辛子ジュースがあるネ!」
「唐辛子・・・だと?」
「ええ。レイが作ったそうです。唐辛子なのに、とーーっても美味しいですよ!」
カイはそのジュースと、厨房に残る唐辛子やレモン、蜂蜜などをぐるりと見まわして
ふと・・・ある事に思い至り、呆れたように溜息をついた。
「俺はいい。」









その頃、レイは木陰で頭を冷やしていた。

───そういえば、唐辛子の効能に「強精」というのがあったか・・・。
     すっかり忘れていた・・ああ、完全に墓穴だ・・・・!!

     しかし・・・こんなに効くなんて、誰が想像できる??
     即効性があり過ぎるだろ!!


ダン・・・!と・・・
レイは込み上げる想いのままに、木の幹に拳を叩き付けた。


───それくらい・・・タカオの反応がヤバかったんだ・・・・・・・。


そしてくるりと体を反転して、そのままヘタヘタと・・・木の根元に背中を預けて座り込み、空を見上げた。

最近は青い空を見上げると、レイはタカオしか思い出さない。
もう、手の施しようがないほどのタカオ馬鹿である。

「タカオ・・・。」

タカオを想い、その名を口にすると
どうしても、つい先ほどのタカオの様子を思い出してしまって・・・。
すると更に元気になってしまうソコ。


───なんてこった・・・・。
     俺ともあろう者が、例え唐辛子の強精効果があったとはいえ
     たかがディープキスで、こんなになってしまうなんて・・・・。
     そこまで俺はタカオを求めていた、という事か。

     汚したくないと言いながら
     やはり心は体は・・・こんなにもタカオを抱きたいと求めている・・・。

     あんなに純粋で無垢で・・・何も知らないタカオを、俺は・・・・・。



レイは自分がとんでもなく卑俗な人間に思えて、嫌になった。



───しかし・・・。
     タカオだっていつまでも子供じゃない。
     いつかはタカオだってスルんだ。
     いつかは誰かと・・・・。
     その、いつか訪れるその時の相手は、自分でありたい・・タカオ・・・。

     タカオだって、いつかは・・・・あ〜んな事や、こ〜んな事を・・・・・・
     いつかは・・・・誰かと・・・・タカオが・・・・・。

     ・・・・・・。

     いや、俺以外となんて有り得ないだろ!!
     俺より先にタカオを抱くヤツがいたら、そいつを殺してやる!!
     俺以外のヤツに、タカオのあ〜んな姿や、こ〜んな姿・・・見せられるか・・・・っ!!
     いつであろうとも、タカオに手を出すヤツは生きていられると思うな・・・・・!!
     タカオを抱くのは、俺だけだ!!
     タカオのあ〜んな姿や、こ〜んな姿を見るのは・・・この俺・・・・!!
     タカオ〜〜〜〜〜〜!!!!



「あ・・・。」

レイは少々、妄想が先走り過ぎた事に気づいて苦笑した。



その時。
レイはすぐそばにカイがいる事に、初めて気づいた。

「うわ〜〜〜〜!!!カイ!いつからそこに!!」
「心配するな。今来た所だ。」


───今って・・・心配するなって・・・・!どういう意味だ!?
     俺があらぬ妄想を繰り広げていた時、ずっとそこにいたんじゃ・・・!?
     ・・・・。
     そうだ、カイ・・・・。
     こいつみたいなヤツが・・・本当は・・・・・・。


突然、レイはカイをビシッと指差した。
「お前みたいなヤツが危ないんだ!」
「なんだと?」
「お前みたいにクールでストイックでカッコよくて、恋愛なんて興味ありませ〜ん、て顔してるヤツが、実は一番危険なんだ・・・・・!!
気づけば美味しいところを、いつもいつもぶんどって行くのは
いつだってお前みたいな、一見クールなスケベ野郎・・・!!」
「誰がスケベ野郎だ!」
「カイ!タカオに手を出したら、いくらお前でも許さんからな!!」
「出すか!貴様と一緒にするな!」

カイは盛大にため息をついた。
そして。

「木ノ宮がひどく沈んだ顔をして出て行った。」
「え・・・・。」

───タカオが・・・何故・・・?

レイが思わず真剣に考え込んだところで、カイは。

「馬鹿が・・・。唐辛子の効能と己の適性くらい考えろ。」
「・・・・!!」

───バレてる・・・・・?
     ど、どこまで??
     唐辛子の効能と、俺の適性・・と言ったな・・・。
     は、はは・・・。
     ヤバい・・・鋭いカイの事だ・・・きっと、完全に読まれてる・・・・・。

「は、はははは・・・!」
もはや、笑うしかない。

しかしレイにとって、更なる追い討ちが待っていた。

「ソレが治まったら、とっとと行ってこい。」

ソレ、とは。
胡坐をかくように座り込んでいたレイの中心で元気にそそり立っている・・・ソレである。
一目瞭然。弁明不可能。

「あ、いや・・・その・・・!!」
大慌てでソレを両手で押さえ込み、胡坐から内股へ座り方を変え、必死に平静を取り繕う、その様子。
なかなか面白い光景だったが、カイはそんなレイには一切構わず、そのまま行ってしまおうとしていた。

「待ってくれ、カイ!タカオの様子、もうちょっと聞かせてくれ!」
「俺はすれ違っただけだ。」
「それだけで分かるくらい、タカオは・・・・。」

レイが考え込んでいる間に、カイは既に数歩歩いて立ち去りかけていた。
その後ろ姿にレイは急いで声をかける。
「あ、カイ!」
カイは少しだけ振り向いた。
「ありがとう。タカオの様子を知らせてくれて・・・。」
「勘違いするな。木ノ宮が不調なら、明日の試合に響く。それは避けたかった。それだけだ。」

お決まりのセリフで締めると
カイはマフラーをたなびかせ、今度こそ行ってしまった。




レイはカイの不器用な優しさに感謝しつつ、立ち去るカイを見送ると
タカオを探さなければ、と立ち上がった。
タカオが心配のあまり、ソレはもう、しっかり治まっていた。

───タカオが落ち込んでいた・・・一体何が・・・・・?












「タカオ・・・。」
ようやくタカオを見つけたレイは、ホッ・・・とため息をついた。

「レイ・・・。」
レイに気づいたタカオはハッ・・・とレイを見上げたが
その様子が、やはりおかしい。
いつもであれば、元気一杯、はちきれんばかりの笑顔でレイを迎えてくれるのであるが
今は・・・喜び半分、哀しみ半分、といった顔だった。

「タカオ、どうした。何があった?」
「え・・・?」
「え・・・って・・・・。」

自分でも気づいてないのだろうか。
タカオと離れてから、ほんの少しの間に
そんなに落ち込んでしまうようなことが、タカオの身に起きたという事か・・・・。
一体、何が・・・・。


「レイ、用事はもう済んだのか?」
「え?」
そう言われて初めてレイは、さっき慌ててタカオに言った嘘を思い出した。
「ああ。もう、済んだ。」


───タカオ・・・自分はこんなに落ち込んでいるのに、俺の心配をするなんて!
     なんて心優しいんだ・・・っ!!
     なのに俺は今まで一体、何を!!

健気で、いじらしくて、可愛くて・・・愛おしくて・・・・・
そんなタカオに何があったのか、何がタカオにこんな顔をさせているのか・・・・心配で心配で・・・・・
天地がひっくり返るほど、心配で・・・・・・
レイは心のままにタカオを抱きしめた。


ふわり・・・と
レイの腕に包まれて、レイの胸のぬくもりを頬に感じて・・・・。

嫌われたかもしれない。
そうでないまでも、気持ち悪いと思われてしまったかも・・・・。
そう思ってしまって落ち込んでいたタカオだが。
そのレイに抱きしめられて
暗い考えが霧のように消えていくのをタカオは感じていた。
たったこれだけの事で・・・・・・
地獄の底から天国へと引き上げられたような思いがした。
レイの腕の中で・・・・
今はただ、泣きたいくらいに幸せだった。

「タカオ・・・何があった?俺にも言えないような事か?」
「レイ・・・ありがとう。心配させてゴメン。何でもないから。」
そう言って微笑むタカオの顔は、先ほどとは打って変わって安らいだものだった。
レイは、腕の中のタカオの顔を見て、ようやく安心したが。
「タカオ・・・良かった・・・・。
でも、タカオにあんな顔をさせるなんて・・・・。
タカオ、何があったか聞かせてくれないか?
タカオのあんな顔、もう見たくないんだ・・・・・。」
そう言われて。
タカオはみるみる頬を染めた。
「いや・・その・・・ホント、何もないって。」
その顔、その仕草。
明らかに何か隠している。
しかし、今のタカオの様子を見る限り、それほど悪い事ではないようだ。
では一体・・・・。
「タカオ・・・。」
レイはタカオに口付けた。
先程はじめてしたように、タカオの口内へと舌を進めた。
いたわり、慈しむように、ゆっくりと舌を絡めて・・・・。
タカオにレイの想いが伝わるように・・・愛していると、伝わるように・・・・・。

「タカオ・・・言って。何があったんだ。」
吸い込まれてしまいそうに美しい金の瞳で
僅か数mmしか離されていない唇からそう言われて。
「あ・・・、その・・・・。」
まだ躊躇しているタカオに、レイはもう一度口付けると。
「タカオ・・・頼む・・・・。」
もはや折れるしかない。

「俺・・・気持ち悪かっただろ・・・・。」
「え?」
予想だにしなかったタカオの言葉。
レイはタカオが何を言っているのか、正直サッパリわからなかった。
「さっき・・・唐辛子ジュースを飲んでキスした時・・・
俺、おかしくなっちまって・・・その・・・
レイに気持ち悪いって思われちゃったかなって・・・・・。」
「・・・・。」
ようやくタカオの言わんとするところが、だんだん分かってきたが・・・
驚きのあまり、レイは声も出ない。
「だから・・・俺、レイに嫌われたかもしれないって・・・・・。」
ポカン・・と口を開けたまま、固まってしまったレイだが。


「は、はははは・・・・!!」
突然、笑い出した。
「レ、レイ・・・?」
タカオは必死の思いで打ち明けたというのに、笑い出すなんて。
「そんなふうにタカオが思っていたなんて・・・。」
尚も笑いが止まらないレイに。
「そんなに笑わなくたっていいだろ!?俺、真剣に悩んでたのに!!」
「いや・・ゴメン。そうじゃなくて・・・・嬉しいんだ。」
「え?」
「タカオ。俺がタカオを嫌うなんて有り得ない。」
「・・・。」
「それから、気持ち悪いなんて思ってないぞ?
むしろタカオの反応が可愛すぎて、俺の方が危うく・・・かなりヤバかった・・・・・。」
「・・・・??どういう意味だ?」
「あ、いや、その・・・!!」
レイはついポロリ・・と本音が出てしまって焦った。
そして慌てて仕切りなおす。
「タカオ。タカオがああなってしまったのは、タカオが感じてくれた証拠だから・・・。
俺のキスでタカオが感じてくれて、俺は凄く嬉しかった。」

嬉しかった────────。
あんな変な感じになってしまった事が嬉しかった、と・・・。
そう言われて。
タカオはどんな顔をしたら良いのか分からなかった。
でも・・・・
くすぐったいような、照れくさいような・・・・。
とにかく。
タカオもとても嬉しくなってしまった。

「だから・・・。もう、気にするな。」
レイはタカオを宥めるように、もう一度、チュ・・と触れるだけのキスをした。

そして見つめ合い、微笑みをかわす。

「さあ、戻ろうか。」
「うん!」



二人はとても幸せだった。

レイの受難は、これからも続きそうではあったが・・・・・
そんなことくらい、なんなのだ!というくらいに
心から幸せだった。








「唐辛子ジュース、まだ残ってるかな。」
「え?」
「マックスやキョウジュに勧めてきたから・・・・。」
「じゃあ、もう残ってないかもしれないな。」
「あはは・・・。」
笑うタカオをレイは愛おしげに見つめていたが。
「また作るさ。」
「・・・・。」
「作ったら、また・・・俺が飲ませてやる。」
「・・・・!!」
レイのその意味ありげな熱のこもった言葉に、瞳に・・・・・
タカオは一気に胸が高鳴り、そして一気に熱が込み上げてくるのを感じてしまった。


───ど、どうしよう・・・!!
     俺・・・また・・・おかしく・・・・・・!!




「どうした?タカオ。」
「・・・・!!」


───レイ〜〜〜〜!!
     お前の声、言葉・・・そして何より、その瞳!!
     時と場合によっては犯罪だ!!




二人はとても幸せではあったが・・・・・・・
二人共に、とても忍耐が必要であったと思われる。

タカオは確かに無知で初心ではあったが
タカオもどうやら・・・成長しているようだ。










レイはタカオと夕暮れの中、仲良く歩いて帰りながら
無邪気に笑うタカオを見つめ、考えていた。


タカオだって、いつまでも子供ではない。
いつか訪れる、その時・・・・・俺が一から丁寧に教えてやればいい。

でも、それはずっとずっと先の話だ──────────。

今は・・・このかけがえのない時間を楽しもう。

きっと大切な思い出になる。
大切な記憶になる・・・・。

タカオと過ごす、清々しい時間────────。














大切な思い出になることは間違いないだろうが
やはり・・・辛い・・・・・・・・。
とも思ってしまったが。




















ところで。

BBA宿舎に仲良く帰って来る二人を、たまたまカイが見ていた。
そのバカップルぶりに。

「下らん・・・・。」


と、お決まりのセリフを吐き捨て
マフラーを翻し、一人どこかへ行ってしまったとか。



























end




novel top



くまいもとこさんの公式ブログというものを見つけてしまって
読んでみると
久川綾さんととても仲が良いらしくvv
先日はご一緒に赤シソジュースを作られたとか〜〜!!
となると、レイとタカオが仲良く、シソジュース!?
なんて素晴らしきリアルレイタカ!!
ああですが、レイタカの場合はやっぱり
シソではなく唐辛子ジュースかな??

そう思って小ネタを・・・と書きはじめたんです。
最初は例の事件を思い出して嫌がるタカオ、勧めるレイ
結局は二人仲良くゴクゴク・・・あ〜美味しかったvv・・・イチャイチャvv
みたいな感じだったんですが・・・だんだんあらぬ方向へ・・・・・。
とはいえ、ありがちな展開で本当に申し訳ないのですが
とにかく長くなってきてしまって。
で、真面目に上げることにしたんです。

さて、レイタカ。
レイがとことんタカオ馬鹿でバカップルなレイタカが書きたかったんです!
中国編のレイタカは、公式で既に見てられないくらいラブラブでしたよねv。
あの公式のまま、普通に唐辛子ジュースを作ってイチャイチャしていそうな気もします。

それでは
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
(2013.8.9)