無言のまま、ひたすら単調に腰を動かす。
見下ろす瞳は驚くほどに冷たい。

突き上げるたびに響く水音。
押し殺したうめき声。

一体何をしているのか。

それは紛れもなく愛の行為だというのに。


そして事が済むと、無言のまま突き放し
さっさと衣服を身に着け
振り向きもせず立ち去って行く。

昨夜も、その前も。
もう何日も、何日も・・・ずっと・・・・・。


日中は平然とBBAに現れて、何事もなかったように監督面を。
タカオや大地、キョウジュ等は何も知る由などない。

嫌になるくらい元気にじゃれ合うタカオと大地と愉快な仲間たち。
そんな彼らにとって監督は時に厳しく、時に優しく、理想的な保護者だった。
とても微笑ましい光景だった。

しかし夜になると
そんなあたたかな風景とは真逆の世界となる。

仁はやってくる。
カイの元へ。

そして毎夜毎夜・・・・。





──なんなんだ、一体!!














「何故・・何も言わない、木ノ宮仁・・・。」

そんなある日の夜。
まだ息も整わず朦朧とした意識の中
絞り出すような掠れた声で、カイはたまりかねて尋ねた。
いつものようにカイに背を向け、シャツに袖を通していた仁に。
このままでは気が狂いそうだった。

それに対して仁は、ボタンをかける手を止めもせず
相変わらず背中を向けたまま、瞳だけをカイに向けて。

「何か言ってほしいのか?」
「・・・・!」

仁は凍り付くような瞳でカイを見ていた。
それがまたカイを苛立たせた。

仁が何を言いたいのか。
何故、こんな事をするのか。

見えそうで見えない。
届きそうで届かない。
心のどこかでは、もうわかっているような気がするのに、それが何なのかわからない。

焦燥感を抑えられないまま、時だけが流れていく・・・・。


カイは乱れた髪の隙間から、必死の形相で仁を見据えるが
仁はいつものように全く構わず、そのまま立ち去ってしまった。





ただ一人残されたカイは、やりきれない想いを拳に載せて叩きつけるしかなかった。

「くっそ・・・・!!」
























そして───────────。










明け方の防波堤。
激しく打ち付ける波しぶきの中、カイは一人、水平線の彼方を見つめていた。


眼前には、どこまでも広がる海。
この海と空は、遠いロシアにまで繋がっている。
あの冷たい・・・凍れる国に。



──あのロシアを懐かしむわけでは決してない。
   だが、あれから・・・
   何かが違うような気がしていた。

   タカオ達と共に戦ううちに、とても大事なものを得ることができた。
   それは間違いのない事実。
   しかしそれと同時に、何か重要なものが失われたような気がしていた。

   そんな事を漠然と感じながら・・・日々を過ごしてしまった。





気配に振り向くと、その人はいた。
BBAの監督、木ノ宮仁。



「やはり行くのか。」

打ち付ける波の音にも掻き消されることなく、よく通る仁の声。
その声の響きがカイの心をかすかに揺らしたが、後戻りするつもりは最早なかった。

「・・・・。」

カイはゆっくりと仁を見上げた。

炎を秘めた紅い瞳がまっすぐに仁を捕え、仁は思わず息をのむ。
瞳の輝きが、昨日までとは全く違っていた。
そんなカイの眼差しが、固い決意を何よりも物語っていて、仁の予感が間違っていなかった事をつきつけていて。

──そうか・・・ようやく、決めたのか。




「よく言う。散々焚きつけたのは貴様だろう。」

仁の言葉に対し、カイは煩わしげに皮肉を言い、そして。




「俺の行く道を決めるのは誰でもない。俺自身だ。」

言いたい事はそれだけだとばかりに
カイは仁に向かってキッパリと言い放ったのだ。






こうなることを最初に望んだのは、他ならぬ仁だ。
今、目の前にいるカイは
昨日までの迷いの中にいたカイとは、全く別人のようだった。
くすぶっていた炎は蘇った。

それを嬉しく思う気持ちと
あんなにまでして焚きつけたにも拘らず
いざ、カイが去ってしまうとなると
やはりどうしても寂しく思う気持ちが芽生えてしまう・・・・その狭間で。

強がっているわけではないのだろうが、自分の道は自分で決めるんだと言うカイが無性に可愛くて。
今すぐ抱きしめてしまいたい衝動が込み上げるが、ぐっと堪え
仁は暫くの間の後、少し表情を崩し苦笑を浮かべながら言った。

「タカオが悲しむな。」
「・・・・。俺には関係ない。」

そっけなく立ち去ろうとするカイに。

「すぐに発つのか。」
「決めた以上、もうここには用はない。貴様にも、だ。」

貴様にも、とはどういう事だろうかと・・・思い当たる節が多すぎて内心苦笑した仁だが。

そして今度こそ。

「世話になった。」

そう言ってカイは仁のすぐ横を通り過ぎ、その場を後にしようとした。
カイの柔らかな髪が、仁の鼻先をくすぐるようになびいていく。

限界だった。

考えるより先に手が伸びて
立ち去るカイの腕を、仁は素早く引き寄せ・・・抱きしめていた。


「何を・・・。」
「・・・・。」

情けない事に、言葉が出てこない。
素直すぎる行動に出てしまったと、仁は内心後悔するが・・・。
腕の中のカイは、仁から見ればまだまだ華奢で儚くて。
無条件に愛おしさが込み上げてくる。

「放せ。」

カイは静かに抗議の言葉を口にした。


「・・・・。」

一体なんと言ったらよいのだろう。
たった一人で旅立とうとしているカイに。


本当ならば、もう少しカイを堪能する時間が欲しかったが・・・。
大体、ロシアになど行ってしまえば、滅多に逢瀬もかなわない。
だからと言って、このままカイを手元に置いておくほど
仁は利己主義者ではないつもりだった。

そうなのだ。
カイはここにいるべきではないのだ。
ここにいたら、カイは成長できない。
このままではカイの炎は死んでしまう。
仁はそう思ったからこそ、カイをけしかけた。
方法には若干問題があったかもしれないが・・・。
そしてカイもそう思ったからこそ、迷いを断ち切り旅立とうとしている。



──わかってる。
   お前は羽を休めていただけなんだ。
   今この時だけ、俺の腕の中に存在する気高い孤高の魂は・・・。
   この手を放したら、お前はすぐにも
   もっともっと高いところへと羽ばたいていくのだろう。
   そんなお前を、俺は見たかったんだ。


無意識のうちに抱きしめる腕の力を強めると、少し窮屈そうにカイが身じろいで
そんな様子にも、なお一層愛おしさが募ってしまって。


──ダメだ。
   こんなことをしていては、かえって別れが辛くなる。
   悲しいことに辛いのは俺の方だけ・・・なんだろうが。

仁はそんなことを思って、ちょっと苦笑した。


──だから。
   もう・・・この手を放さなければ。
   カイをけしかけたのは俺だ。
   お前は、もっともっ強くなる。
   美しく舞い上がる朱雀のように。




一瞬のうちに様々な想いが去来したが、長々と言葉にするのは性に合わない。

「頑張れ、カイ。・・・行ってこい。」

優しい響きだった。
そんな仁の声がカイの鼓膜に甘く響いて、カイは思わず瞳を見開いた。

いつもの人を食ったような仁とは、また、冷たく人を突き放すような仁とは全く違った。
仁とは色々な事が・・・思い出したくないような事が本当に色々あったが
今初めて、何も纏わぬ素のままの仁に触れたような気がして。
カイは戸惑いを覚えた。
あんな日々だったにもかかわらず、その夜ごとの出来事ででさえ得られなかったぬくもりを今、初めて感じてしまって
そのまま仁にしがみついてしまいたいような衝動すら込み上げてきて焦った。
そんな気持ちを切り捨てるように、カイは敢えて舌打ちをすると、仁の腕から逃れようともがいて見せた。
逃げようとされると、本能的に仁はカイを逃すまいと腕の力を強めてしまう。
そして本能的にカイの唇に己の唇を押し付けてしまった。

──しまった・・・つい・・・。

甘い感覚に酔いしれる間もなく。

仁が内心、そう思ったその隙をついて
カイはひらりと身をかわし、仁の手を逃れた。

再びできた、少しの間。
わずか一歩踏み出せば、再び触れあうことができる距離。
今なら、まだ・・・。

しかし。
今度は仁は動かなかった。
カイが離れた、その体勢のまま
両手を軽く広げ、抱きとめるとも羽ばたかせるとも取れる体勢のまま
仁は少し哀しげに微笑んで。


──頑張れ。行ってこい。

   お前は己を極限まで追い込んで
   その限界の果てでこそ、最も高貴な輝きを放つんだ。
   ここではないお前の場所で、お前はお前の輝きを取り戻せ。
   そしてお前の真の炎を、俺に見せてくれ。
   畏怖の念すら抱くほどの、圧倒的な炎を・・・・。




「木ノ宮・・・仁・・・・。」


──お前は・・・結局最後まで何も言わない。
   それがお前の・・・・・。


仁の想いを受け取ったのだろう
全てを悟ったようにカイは小さく笑むと。

「行ってくる。」

そしてくるりと背を向け、今度こそ歩き出した。

新たな世界へと。














カイの姿が見えなくなるまで見送った仁は、再び海に目を向けて。

「さて・・。タカオになんて説明したもんだか・・・。」

少し困ったような顔で自らの頭をクシャ・・と掻くと、帰路に就いた。










そして。


──しまった・・・・。
   こんな事なら、昨日、もう一回○っておくんだった。
   次はいつになることやら。


と、つい思ってしまって。
仁は一人、盛大に溜息をついた。




















end




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Gレボ第8話の冒頭部分からの捏造です。
今更な話を申し訳ございません。
先日、自作DVDのこの部分をたまたま見て激萌えで、手が止まらなくなりました。
ホント今更ですよね・・・すみません!!

この話、最初は冒頭のアブナイシーンはなかったのですが
書いているうちに、冷たくカイを抱き続ける仁が頭に浮かんで止まらなくなり
結局それもくっつけちゃいました(笑)。
仁ならやっていそうで・・・。
大変失礼いたしました。表ギリギリくらいでしょうか(汗)。

仁は明らかにカイを煽ってましたよね。
この時、カイがBBAを離れることはカイにとって必要な事だったと思いますが
それを煽るのは、この時のタカオはまだ幼すぎて無理ですよね。
全てを見通す大人である仁でないと!!

Gレボでの仁とカイって、肝心な所でいつも心が通じ合っていたように思えて。
仁カイも大好きな私にはタマリマセンでしたvv。

ところでアニメのこの部分
仁の方を振り返ったカイの胸の部分が肌色に塗られていて、激萌えだったのですが(笑)
公式DVDでは修正されちゃってるんでしょうか?
このミスも腐には嬉しかった〜〜vv。
色々と、Gレボは美味しすぎるシーン満載でしたねvv。

あ、つい長々とすみません!
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
(2013.5.7)