「・・・という訳で、初夜だな。」
 カイは既にタカオを組み敷いた状態でニヤリと笑う。
「初夜って・・・ずっと一緒に暮らしてんだぞ?今更何言ってんだよ。それに昨日だって、カイに散々・・・おかげで俺は・・・!!」
「何をいつまでも、そんな昔の事を。それより初夜とは新婚夫婦として迎える最初の夜の事だ。間違ってないだろう?」
「新婚って・・・。何の前触れもなく、突然みんなが現れて、訳が分からないうちにウエディングドレスなんて恥ずかしいものを着せられて、まるで見せ物っつーか、体を張ったギャグというか・・・あれが結婚式だとでも言うのかよ!?」
「違うとでも?牧師の前で愛を誓い合っただろう。指輪の交換もしただろう。誓いのキスも。」
「だから!!レイやマックスが・・寄ってたかって皆に雁字搦めの羽交い絞めにされて、「はい」って言わされて、そして指輪を押し込んで、俺がどんなに「人前でそんな事できるか!!」って抵抗しても、頭まであいつらに固定された上で、お前に問答無用で唇を押し付けられた、あれが・・・誓いのキス??」
 タカオは涙目で力説する。
「まあ・・・進行に若干のトラブルがあったことは認めよう。しかし神の前で愛を誓い合った事は事実だろう。あれを結婚式と言わずして何と言う。それにその後は、お前も花嫁になりきってブーケを投げていただろうが。」
「あれは!ヤケクソって言うんだよ!!で、・・・。」
 散々息巻いていたタカオだが、ふと思い出したように笑った。
「そのブーケをぶん取ったのは仁兄ちゃんだったけどな。あの、何があっても結婚なんて絶対ありえない兄ちゃんが、忍者の早業でブーケをキャッチして。ヒロミやエミリー、マオやミンミン、ジュリアや、あの淑やかなマチルダまでが兄ちゃんを呪い殺さんばかりの形相だったよな。」
タカオは、くすくすと笑った。すると、気づけばカイが静かな微笑みを浮かべてタカオを見下ろしていた。こんな顔を見せられては、文句ばかり言っていた、その舌の根も乾かぬうちだというのに、つい見惚れてしまう。そしてカイは愛情溢れる仕草で、タカオの頬にそっと触れた。
「タカオ・・・。お前は生涯、俺のものだ。」
「俺は・・モノかよ・・・。」
 悪態をつきながらも、喜びは隠しきれない。
「という訳で・・・初夜だ。」
「初夜だろうが、なんだろうがスるくせに。」
「ならば今日は特別仕様にするか?」
「え?」
カイはどこから持ってきたのか、今日、タカオが着た(着せられた?)ウエディングドレスを取り出した。
「これを着ろ。」
「はい?」
「男の夢、ウエディングドレス・プレイだ。」
 カイは高らかに宣言した。タカオは思わず絶句する。
「どうした。なんなら着せてやるぞ?ウエディングドレスを丁寧に着せていくのも、また一興かもしれん。」
 そう言いながら、カイはタカオのパジャマのボタンを外しにかかった。そこでようやく我に返ったタカオ。
「一興じゃ、ね〜〜!!何考えてんだよ、この変態!!」
「諦めろ。初夜とは、そうしたものなのだ。」
「誰が言ったんだよ!!聞いた事ねーぞ!?絶対、嫌・・・・。」
 カイはその文句を唇ごと絡め取ってしまった。そしてたっぷりと舌を絡み合わせた後に。
「タカオ・・・頼む。今夜だけだ、こんな事をするのは・・・。」
 息がかかる程の至近距離で、真摯な紅い瞳でこんな事を言われては。
「・・しょ、しょうがねーな、もう・・・。でも、着るのは俺が自分で着るから!」
「・・・そうか。仕方がない。」
 カイは一瞬、残念そうに表情を曇らせたが、すぐに口角を釣り上げて笑んだ。タカオは嫌な予感がした。

「俺の目の前で着替えろ。一度全裸になって、下着から一枚一枚丁寧に着るんだ。視姦プレイ。これも男のロマン!そしてその後はウエディングドレス・プレイ!!完璧だ・・・。」
 カイは拳を握り締め感無量、と言わんばかり。そしてベットから降り、傍にあった椅子に腰かけて、タカオが脱ぎ始めるのを優雅に待つ態勢に入ってしまった。
「う・・・。」
「どうした。早く脱げ。そして着ろ。一部始終を見届けてやる。」
「い、嫌だ・・・!!」
「見苦しい。お前が自分でそう言ったのだろう。男なら、一度言った言葉を簡単に覆すな。」
 もはや選択肢は残されていない。カイは既にご満悦。タカオは仕方なく、おずおずとパジャマを脱ぎ始めた。
 (初夜なんて・・初夜なんて・・初夜なんて〜〜〜っ!!)
 タカオの心の絶叫をスパイスに、カイは時々茶々を入れながら上機嫌。こうしてカイとタカオの初夜は更けてゆく。最初からこれでは先が思いやられるが、兎にも角にも・・・二人の未来に幸多からんことを!




 END



カイタカアンソロの企画で結婚ネタ、という事で書かせて頂いたものです。
本編の方はかなり四苦八苦しましたが、こちらはとても楽しんで書いた事を覚えています。
あ、ページ内に何とか収める為には苦労したような。
下らない話で、申し訳ありません。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
(2016.10.17)