「やっぱ、火渡カイっていえば・・・・これだよな!!」
タカオが満足げにカイを見つめている。
上から下まで。
後にまわったり横から見たり。


カイは今日、久しぶりにバトル服に身を包んだのだった。
以前着ていたものとは少々デザインが異なるが
その傾向は変わっていない。しかもマフラーは健在だ。
勿論、頬にペイントも施してある。


「カイだ〜〜〜〜!!ばんざ〜〜〜〜い!!!!」

うるうるな瞳で人の目の前で万歳三唱をやっている・・・
このバカを誰かどうにかしてくれ!!




「(怒怒怒・・・・・・!!)
いつまでもそんなバカな事やってると、おいて行くぞ!」

カイはマフラーを翻し、一人スタスタ行ってしまった。

「あ・・・・!待てよ〜〜〜!カイ〜〜〜!!」






事の発端は
タカオの何気ない一言だった。

「カイ〜、昔着てたあのバトル服、もう着ね〜の?」
「着ないことはないが・・・・。」
「え!?ホント!?着て見せてくれ!
俺、もう一度カイがあの服着てるとこ、見たい!!
マフラーたなびかせて、ペイントしてよ〜・・・・・
鳥肌立つくらいカッコイイんだぜ〜?お前、知らないだろ〜?」
遠い瞳・・・・うるうるの瞳で話している。
まるで夢見る乙女だ。

「・・・・・知るか・・・・。」
カイは呆れて言い放ったが・・・・。

結局こういう羽目となった。







カイとタカオのデートにはベイバトルは付き物だった。
二人とも既に引退したとはいえ、タカオは3度の飯よりベイバトルという人間だったし。

カイとて大人たちに振り回されていたとはいえ
好きでなければ、ああまで特訓を重ねることはできなかったろう。


ベイバトルをする場所は色々だった。

カイの家だったり(ベイスタジアム完備!)、
タカオの家やそこらの野原だったり。

二人の実力は世界のトップクラス。
何処でだろうと有意義なバトルができた。

カイとバトルができれば・・・タカオは何処でも良かった。
カイとのバトルは他の誰とバトルするより楽しかった。
・・・・幸せだった・・・・・・。





今日は久しぶりにBBAへ来てみた。
タカオは昔からBBAには入り浸っていたので、久しぶりなのは勿論カイである。

カイとタカオ。
昔とさほど変わらない姿でBBA内を歩いていると
時間が一気にあの頃に戻ったような、そんな錯覚を覚えた。


変わったことといえば
お互いに伸びた背丈。
そして二人の関係。





二人がBBAの練習室に顔を出した時
「ワオ〜〜〜〜!タッカオ〜待ってたヨ〜〜〜〜〜!」
一人でシュート練習をしていたマックスが嬉しそうに走ってきたかと思うと、タカオに飛びついた。
抱きつき癖は健在である。
「今日は来るんじゃないかって思ってたネ〜・・・・・・・カ・・・・カイ〜〜〜〜!」

マックスに抱きつかれて苦笑を漏らすタカオの少し後ろに
数年前に会ったきりのカイを見つけ、マックスは飛び上がった。
「久しぶりネ〜〜〜〜!元気デシタカ〜〜〜!?」


マックスの母、ジュディはPPB研究所所長で、今も日本とアメリカで行ったり来たりだが、
家族仲(夫婦仲もvv)はとても良いらしい。
マックスの変わらぬ明るさがそれをよく物語っていた。
マックスの家はタカオとは少し離れたところにあったので、
タカオとは違う中学に通っていたが、タカオとマックスは今も大の親友だった。

タカオからは何も聞かされていなかったが
カイとタカオが二人でBBAにやってきたのを見て、
マックスは瞬時に全てを理解した。


全く・・・・。やっと・・・・ネ。
昔から・・・、傍から見たらお互い想いあってるのは一目瞭然ナノニ。
不器用なんだから・・・・。でも、ヨカッタネ!タカオ!


「フッフ〜〜〜〜ンvvvv。」
ニヤニヤとタカオの肩に腕を回し、耳打ちした。
「タカオvヨカッタデ〜スネvv。カイとデートですか?」
「な・・・・!?」
真っ赤になってあたふたするタカオを見て
「タカオ〜、可愛いネ〜〜〜〜vv。ね?カイもそう思うデショ?」
「あ・・・・いや・・・。」
突然図星を指され、少し顔を赤らめて珍しく口ごもるカイ。

「さてと・・・・。ボク、用事思い出しちゃっタ。
今度皆でバトルしまショ?じゃ、バ〜〜〜〜イ!!」

マックスは足取り軽やかに去っていき、
尻餅をついた体勢のまま真っ赤な顔のタカオと
どこかバツの悪そうなカイが残された。

だが二人顔を見合わせると、どちらからともなく笑い出した。
「マックスのヤツ・・・・。」
「はははは・・・!今度はマックスと皆でバトルしような?」

マックスが気を利かせてくれたので、BBAのバトルルームに二人きり。


「レイもいたら言うことないのにな〜。どうしてんのかな〜、アイツ。」
何年も会っていないとはいえ、やはり長い世界大会を共に旅してきた仲間である。
レイもマックスも・・・掛け替えのない仲間である。


レイは中国の白虎族の村に一度戻ったが、
その後は武者修行で世界中を旅しているらしい。
日本にも何度か来て、タカオの家に世話になっていた。
タカオの家は古いが広かった。
部屋ならいくらでもあったので、ずっと居てくれてもいいとタカオも祖父も言ったのだが、
「同じ場所に留まるのは苦手なんだ。」
と牙を覗かせて笑い、飄々と行ってしまった。
相変わらずの根無し草である。
そしてまたふらっと突然現れるのだろう。




「じゃ、やるか?」
「ああ・・・・。」

そうやって始められた今日のバトル。




「いっけ〜〜〜〜〜!!ドラグ〜〜〜〜〜ン!!」
「させるか〜〜〜!!」






壮絶な必殺技の応酬の末・・・・・・。
最後まで回っていたのは・・・・ドランザー。

「くっそ〜〜〜〜!!また負けちまったぜ!」
「ふっ・・・。」
「カイ〜〜強すぎるぜ〜!ホントに今まで(タカオと付き合い始めるまで)
ベイに触ってなかったのかよ〜!」
「ふん、貴様が弱すぎるんだ。」
「なんだと〜〜〜!?もう一度勝負だ!カイ!
今度はギッタンギッタンに負かしてやるぜ!」
「ふん・・・・よかろう。」

爛々と燃える、闘志むき出しの瞳をぶつけ合い、
もう一度ベイを構えた。

恋人同士の甘い囁きとは無縁のこの状態。
だが、タカオにとってもカイにとっても、
何にも換えがたい幸せな一時に他ならなかった。










「ほらよっ!」
タカオはカイにスポーツドリンクを放り投げた。

何回かに及ぶベイバトルはカイの全勝だった。

だがカイは知っている。
公式戦の土壇場におけるタカオの力を。
追い詰められたタカオは信じられないほどの力を発揮する。
・・・こうして練習している時、それはなかなか開放されないだけである。
それがタカオの甘さだと・・・何度カイは昔言ったことだろう。


タカオはカイが見事にペットボトルをキャッチしたのを見届けると
自らも栓を開け、ゴクゴクと豪快に飲み始めた。

「カ〜〜〜〜ッ!バトルの後はやっぱ、これに限るよな〜!」
タカオはニカーっとした笑顔をカイに向けると、再びスポーツドリンクを飲み始めた。

タカオの日に焼けた喉が晒され、ドリンクを飲み込むたびに波打つ。
口の端から飲みきれなかった雫がつーっと素肌を伝う。

その姿を見た瞬間・・・・

どくっ・・・!

カイの中に激しい衝動が沸き起こった。


押し倒し、動きを拘束し、その喉に喰らいつきたいような・・・・。





こんな衝動に襲われたのは一度や二度ではない。
タカオと付き合い始めてから・・・・何度も何度も・・・・・。

「くっ・・・!」
それを押し込めるかのように、カイは一気にスポーツドリンクを飲み干した。


タカオは能天気にカイに笑顔を向け話し続けている。
久しぶりに会ったマックスのこと、
先ほどの自分達のバトルのこと・・・・・。





タカオの話をどこか遠くで聞きながら・・・カイは・・・・。

タカオは・・・・手を伸ばせば届く場所にいる。
すぐにも触れられる・・・・・。



・・・・タカオは全くカイからの返答がないことに、ようやく気づいた。

「カイ?どうかしたのか?」
と昔から変わらない大きな蒼い瞳で、カイを覗き込んだ。

カイの内なる葛藤に気づくはずもないタカオを少し恨めしく思った。
密かに拳を握り締め、一つため息をつき、なんとか欲望に蓋をするが
相も変わらず大きな瞳で、
顔いっぱいに「?」マークを貼り付けたような顔をして覗き込んでくるタカオに
カイは限界を感じた。


「・・・・・・・・・。今日はこれで勘弁してやる・・・・。」
と妙に熱の篭った声で低く呟く。

「は?」
という間もあればこそ・・・・・・・。

次の瞬間には、カイはタカオを強く抱きしめ唇を重ねていた。
空になったペットボトルがタカオの手から滑り落ち、コロコロと転がってゆく。

「カ・・・カイ・・・。」
「黙れ・・・。」

タカオの柔らかな頬・・・・唇が・・カイのそれと密着する。
タカオの匂いと・・・ほのかに汗の匂いがした・・・
嗅覚からもタカオを感じ、カイは舌を差し入れたい衝動に駆られた。
逃げ惑うタカオの柔らかい舌を絡め取りゆっくりと這い回り・・・・。

だがそれをしてしまったら、もう抑制が効かなくなる・・・・・。
体の奥で疼く熱を必死に抑え込むと
長い触れるだけのキスの後、
タカオの形のいい唇を啄ばみ、そして頬や目元にも唇を落とし、ようやくタカオを開放した。

「カ・・・カイ・・・・・?」
真っ赤な顔で熱い吐息を漏らしたタカオが潤んだ瞳でカイを見上げる。
どうやら本能的にカイの異変に気づいたらしい。
タカオが不安そうに見つめていた。

しっかりしなくては・・・・。
一瞬目を閉じ拳を握り締め、カイは自らを叱咤すると
いつも通りの意地悪な笑みを浮かべて言った。
「どうした?足りないか?」

「だっ・・・・だれが・・・・!!」
タカオが真っ赤な顔で、未だ潤んだ瞳のまま睨みつける。


その顔が・・・・誘っているのだと・・・何故気づかないんだ・・・。
この俺が・・・・・・・・・・!
貴様のせいだ・・・・・タカオ・・・・。


そんなタカオの顎をクイッと上向かせた。
タカオの顔に期待の色が混じったのをカイは見逃さなかった。
「ふっ・・・。もっとキスして欲しいって書いてあるぞ?」
「な・・・・!?カイのバカ〜〜〜〜!!!」

タカオは火山の噴火の如く怒って耳まで真っ赤になって走り去ってしまった。




どうやら持ちこたえることができた・・・・・・・。

カイはホッと溜息を漏らした。


だが・・・・いつまで持つか・・・・・・。


カイはそろそろ・・・己の限界を感じ始めていた。









「はぁ・・・・はぁ・・・・・・・。」
タカオはカイの元を走り去り、BBAの廊下の突き当りまで来ていた。
壁に手を突いて息を整える。

「・・・やっべ〜・・・・・。カイのやつ・・・・あんな顔するなんて・・・・反則だ・・・・。」

先ほどのカイの妙に熱の篭った顔。
触れるだけの・・・でもいつもよりずっと熱い・・・・キス。

「カッコよすぎだってーの・・・・!」

タカオは体の向きを反転させ壁にもたれかかる。
そのままズルズルと座り込み
「・・・・コラ!収まれ!このままじゃ、カイんとこ、戻れねーじゃんか!」

タカオは自らの、耳まで真っ赤になってしまった顔や激しい動悸を収めようとした。
そして何よりも収めねばならないのは・・・・
・・・・・・元気になってしまったタカオの中心。

タカオは廊下にペタンと座り込み、天井を見上げ昂ぶりが去るまで待った。






「そろそろ・・・・いいかな?」
タカオは見事(?)収まった自身を確認すると立ち上がった。



「俺・・・・ヤバイのかな・・・・・。」
最近カイを見ると・・・熱がアソコに集まってくるような感じがする・・・。


夜、一人で熱を逃すのも・・・・そろそろ限界のように感じ始めていた。


だからといって
どうしたらいいのか、タカオには見当もつかなかった。



とにかく。
こんな感情、カイにバレたらおしまいだ。


タカオは自らを叱咤し、何事もなかったようにカイの所へと走っていった。











「カイ、外、行ってみね〜?
いい天気だし。どっかいこ〜ぜ?」

「ああ・・・・そうだな。」









青空の下。
爽やかな日差し、緑の野原。

健全なる青少年が、ここに二人。




同じ想いをひた隠し

いつまで我慢が持つのやら・・・・?












end


カイにバトル服着せて「カイだ〜〜〜!」と喜ぶタカオと
健全デート(バトル)してる二人が書きたかっただけなのですが・・・・。
健全どころか・・・・こんな方向へ・・・・。
無意味に長くてすいません。えっと・・・だから「多彩なる一日」なんです。(言い訳)

コレは裏の「はじめての・・・」に続きます。
興味のある方、裏も読んでみてくださいねv。

途中、カイかタカオをトイレに駆け込ませようかと悩みましたが、
それをやってしまったら表に置けなくなるので止めておきました。

男女のカップルならいざ知らず、男同士、しかもタカオだって健康な中学生ですから。
考えることは一緒ですって、カイ様v。

でも暫く同じ悩みで悶々するのね〜〜〜vv。可愛いわ〜〜〜vv。
(プリンセスチュチュ、りりえ談 知らない方、すいません!)

それでは、こんなふざけた話にお付き合いいただき、ありがとうございました!!

(2005.8.2)
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