木ノ宮─────────。

何故だろう、今はアイツと待ち合わせしているからもあるのだろうが
いつも満開の桜を見ているとあいつを思い出す。
あの開けっぴろげな笑顔。
そして強い・・・ベイもそうだが心が強い・・・あいつを。

桜。
あっという間に満開になり、暫く人々を楽しませた後
儚く散っていく。
しかし、その儚いイメージにも関わらず、桜はなかなか強い。
やっと見ごろを迎えたと思ったら
風雨に見舞われてしまうことは毎年の事。
桜が散ってしまわないか・・と心配していると
意外に全く散っていなかったりする。
そんな所は逆境に強い、あいつのようだ。

今、この場でバトルをしたら、あいつは桜吹雪を舞わせるだろうか?
・・・・ちょっと興味があるな・・・・・。
しかし、そのバトル、俺が相手では、その桜吹雪を全て灰にしかねない・・・・。
それも困る。・・・が。
舞う桜吹雪、それが炎に包まれる・・・そんな情景も捨て難い。

「カ〜イ!」
その声に振り向くと、木ノ宮が手を振りながら走って来る姿が見えた。
ようやく俺の傍に到着した木ノ宮は、笑顔で息を弾ませて。
「ようやく来たか。相変わらず時間にルーズだな。」
俺が苦言を呈しても、ものともせず木ノ宮は続けた。
「どうしたんだ?珍しいな、お前がボーっとっしてるなんて。」
「・・・ボーっとなどしていない。考え事をしていたんだ。」
「考え事?何を?」

そんな事を言われても・・・・さすがに馬鹿馬鹿しくて口には出来なかった。
だから。
「こんなにいい天気で、桜も満開。お気楽馬鹿なお前みたいだ、と思っていただけだ。」
「お気楽馬鹿〜!?失礼な!!俺だって色んな事考えたり悩んだりしてるんだぜ!?」
「お前の悩み?お前に悩みなどあるのか?」
俺がからかって言うと、木ノ宮はぶーっと頬を膨らませて怒る。
・・ったく、この態度。
他のヤツにも、こんな態度をとっているんだろうか?
それはかなり問題だ。
こんな顔をされたら・・・・誰だって・・・・・・・。

「・・・・・・。」
「・・・・っ・・・・!!」

触れただけだというのに。
木ノ宮は真っ赤な顔で口をパクパクさせている。
・・・・だから、その態度も・・・・・・と言っても無駄なのだろうな。
コイツはあまりに天然だ。

「カイ!こんな所で、こんなっ・・・・!!誰かに見られたらどうするんだよ!!」
「別にキスくらい、誰だってするだろう。」
「俺は!人前でキスなんてする趣味はない!!」
「誰もいないようだが・・・。」
「・・・でも!真昼間から、こんな・・・誰がいてもおかしくない場所で・・・。」
「ほう・・・。では、夜、誰も来ない場所でなら、何をしてもいいんだな?」
「・・な・・・っ!!」
木ノ宮の顔は益々赤く染まっていく。
何を思ったのかは、その顔を見れば一目瞭然。

「ふふ・・・。」
「な、なんだよ・・・。」
「お楽しみは夜、たっぷりと・・・・お前が今、想像した通りに可愛がってやる。」
俺は・・恐らく、コイツに言わせれば意地の悪い笑みを浮かべていたのだろう。
そんな顔で木ノ宮の頬を指先で撫で上げた。
「・・・・っ!!カイなんて・・・・だいっきらいだ!!」
木ノ宮は俺に背を向けるとずんずん、と歩き始めてしまった。
俺は苦笑しつつ、その背を見つめる。

どうせ、夜になれば俺の下で悶えるくせに。

俺は口元に笑みを浮かべながら木ノ宮の後をゆっくりと歩き始めた。
暫くすると木ノ宮は振り向いて。
「お〜い、カイ!桜がいっぱい咲いてる場所って、こっちに行けばいいんだよな?」
今さっき「大嫌いだ!」と言ったところなのに・・この切り変わりようはなんなんだ。


とにかく。
今日はようやく取れた休みだ。
木ノ宮と花見をして、それから・・・・・・・。

「お〜〜〜い!!何やってんだよ!!早く来いよ!!」

本当に・・・コイツといると退屈しない。
・・・色々心配にはなるが。



桜。
一年にこの短いひと時だけの夢の楽園。

桜、桜・・・・。

俗世間を幻想的な美しい楽園に変えてしまう
桜の魔術にお前と二人
騙されてみるのも・・・たまには悪くない。

















end


小ネタを整理していて発見しました。
桜の季節は終わってしまった頃でしたが、桜で色々書いた名残で書いたような・・。
もう一つの「桜」がタカオ視点だったので
カイ視点の桜の話を書いてみようと思って書いたように覚えています。
内容は全く違いますが。
桜の中、余裕なカイとお子様なタカオが書きたかったんです。
年齢はカイが高校?タカオが中学?くらいをイメージしましたが
まあ・・お好みの年代で少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

それでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
(2010.4.23)


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