夜。
皆がそろそろ眠りにつく時間。
味気ないホテルの一室に月明かりが差し込みカイを照らしていた。
明かりを灯さないその部屋で
象牙色の肌が月明かりで更に白く輝いて見え、レイは一瞬目を疑う。

「・・・・・・。」
「どうした。」
レイに見つめられてカイが問いかけると
その白く美しいものが、血の通った人間なのだとはじめて気付いたように
驚き焦り、そして照れ笑いを浮かべた。

「月が綺麗だな。」
「・・・・。」
カイは月などに興味はない、と言わんばかり。
空を見ることもなくベッドに腰掛けた。
レイは相変わらず無愛想なカイに苦笑い。
それからふと、イタズラを思いついた子供のような顔をすると、レイが言った。
「なあ、俺のことを『タカオ』って呼んでみろよ。」
レイが何を言おうとしているのか、カイにはさっぱりわからなかった。
「・・・貴様、一体何を言っている。」
すると突然、カイはレイによってベッドへ押し倒されてしまった。
「・・・どういうつもりだ。血迷うたか。」
もっと慌てるかと思ったが、案外冷静でレイは少々拍子抜けだった。
「血迷ってなんかないさ。ただ・・・カイがかわいそうだな・・って。」
「俺が・・かわいそう?貴様、俺を侮辱する気か!」
カイはレイを押しのけようとするが
「そうじゃない。ただ・・・俺で良かったら今夜だけタカオになってやる。」
「な、何を馬鹿なことを!」
タカオと聞いて明らかにうろたえたカイ。
分かってはいたが、目の当たりにすると・・・さすがに応える。
しかしそんな気持ちは露ほども見せずにレイは続けた。
必死に抵抗するカイをレイは力で捻じ伏せ、無理やり口付けて。
「ほら、タカオって・・・呼んでみろ。」
そして首筋に唇を落とす。
「カイは誰に抱かれたいんだ?」
ちゅ・・・と首筋を吸いつつ、手は黒いシャツの中へ・・・
「な、に・・・やめ・・ろ!!」
尚も抵抗するカイに構わずレイは続けた。
「ほら、タカオ・・って・・・。」
胸の飾りを弄りながら、首筋に舌を這わせながら。
さすがのカイも的確に性感帯を攻められれば、たまらない。
体中に走る甘い痺れには逆らえず・・。
そして耳に響く甘い声。
その声に従って・・つい、名前を呼んでしまった。
「き、木ノ・・・。」
「違う、『タカオ』だ。」
確たる意思を持ったその強い口調。
今度はその飾りを舌で弄る。
「・・っつ!・・タ、タカオ・・・。」
「どうしたんだ?カイ。」
ようやくレイの求めに従ったカイに、レイはニヤリ・・と笑むと
タカオの口真似でもって返事をした。
白虎族として、闇に生きる者として他人の声や口調を真似る事は朝飯前だ。
「タカ・・・。」
その、あまりに良く似た口調、声に
ついさっきまで何とか逃れようとしていたカイの動きが止まった。
そしてその紅い瞳から涙が一粒こぼれ落ちた。
「タカオ・・・・。」
そんなカイをレイは抱きしめた。
「無理してたんだな、カイ。俺が全部受け止めてやっからよ・・。」
「・・・・・・。」
どこまでもタカオを演じるレイ。
カイはゆっくりと瞳を閉じた。
涙も感情も、あふれ出したら止まらない・・・・。



    瞳など・・・閉じてしまえばいい。
    何も見えなければ、タカオの腕の中だと・・信じる事もできよう。
    今宵だけ、だ。
    今宵・・だけ、戯言に乗ってやる・・・・・。














翌朝。
「おはよう、カイ。」
レイはいつものように声をかけた。
「・・・・・。」
しかし、カイは不機嫌そうに一瞥しただけ。
「カ・・・。」
「触れるな!」
別に触れようとしていた訳ではなかったのだが・・・。
「勘違いするな。昨夜は・・・。」
「わかってる。カイを抱いたのは俺じゃない。」
「・・・!」
あまりに物分りの良い言い様に、カイはやり場のない怒りを感じた。
「二度と俺に触れるな。」
そう宣言すると、そのまま部屋を出て行ってしまった。

レイはカイの出て行った扉を見つめ、溜息をつきつつ頭を掻いた。
「もうちょっと素直になれればいいのに・・・まあ、カイの場合、無理というものか・・・。」

しかし─────。
昨夜のカイを、レイは思い出していた。

あの様子を見ると・・驚いた事に初めてとは思えなかった。
普通、この年齢であれば異性間であっても未経験者であるのが普通だ。
しかしカイは「抱かれ慣れ」していた。

    どういうことだ?
    一体誰に、あのカイが・・・・?

と思ったものの・・・。
この時、レイは自分が既に経験豊富である事が
一般的見地からすれば、かなり異常である事など念頭にない。
とことん、自分本位な男である。
まあ、それこそ・・・どうでもいい話なので横に置いておいて。

そうこう思いながらもレイは、心のどこかで妙に納得してしまっている部分があった。
カイには妙な色気がある。
同性でもいけるヤツなら、恐らく誰もが抱きたいと思ってしまうだろう程の色気が。

どこでそんなモノを身に着けたのか、一体どんな育ち方をしたら・・・。
日本で普通に育てば、タカオやマックスのような純正の素直なお子様になる筈だと思うのだが。





昨夜、瞳を殆ど開かなかったカイ。
時折、涙を零したカイ。
そして瞳を閉じたまま、たまりかねたようにすがり付いてきたカイ。

カイの今までの境遇は謎だらけだが
カイはかなり無理している。それだけは間違いない。
原因はタカオへの秘めた想いだけではなく・・・
もっと大きな、何かとてつもないものを背負っている・・・そんなふうに思えて。

    俺に、何かしてやれる事はないだろうか・・・。

と考えて、ふっ・・と苦笑した。

    それは俺の仕事じゃない。タカオがすべき事だ。
    タカオもカイの事を想っている事くらい、俺でなくても察しはついている。
    メンバーの皆が知ってる事だ。
    わかってないのはタカオ本人ぐらいだろう。それにカイも・・・か。

    タカオときたら・・・お子様だからな・・・。
    俺のすべき事は、それをタカオに気付かせる事
    そして何とか二人をくっつける事・・・かな。


そこまで考えて、またレイは溜息をついた。

    ・・ったく、俺もややこしい奴に惚れちまったな。
    しかも、まったく望みがないときてる。
    たまにタカオの声真似でもして抱かせてもらわない事には割に合わない。
    それに、カイにはたまに発散させてやる必要もありそうだしな。

レイには自分が都合の良いように、事を考えている自覚はあった。

    俺は、ただ・・・・カイを抱きたかった・・・だけ、なのかもしれない・・・・。

しかしこのままではカイが押しつぶされてしまうのも間違いないように思えて。


それをいい事に、それからも何度となくレイはカイを抱いた。
タカオが気付くまでは自分の仕事だとでもいうように。
取りようによっては、タカオが気付かぬのをいい事に。



「もっと泣いていいよ。いっぱい泣けば涙の分だけ楽になれる。」
「タカ・・・。」
「『俺』はどこにも行かないから。ずっとカイのそばにいるから・・・・。」

カイは涙が枯れるまで『タカオ』の腕の中で泣いた。





カイが少しでも楽になれるなら・・・『俺』はなんだってするから・・・・。


カイ・・・愛してる・・・・・。





    







end





小ネタを整理しようとして、いつ書いたとも覚えていないこの話の原型を発見しました。
10数行程度の。
これじゃ、あんまりだから・・・と修正を加えているうちに、続きまで書いてしまって
結局それなりに長くなってしまったので真面目に上げる事にしました。
いつ、この原型を書いたのかは覚えてないけど
書いた時の気持ちは思い出せます。

無印のカイは・・一見、どんな作品にもいる、クールで無茶苦茶強い典型的なライバルのようにも見えますが
かなり!もろい部分もありますよね。
そして背負っているものも大きすぎる。
記憶に残っていないものを含めると、並大抵の人間では耐えられないほどのもの。
幼い頃の記憶がない、また、総一郎の野望の手助けをしている部分もあるので
他のメンバーにとって、カイは謎だらけ。
それがまた、カイの魅力となるのですが。

でもどんなに大人びていても、色んなものを見聞きしていても
そしてロシア時代にそういう経験を多くしてしまっていても(と勝手に考えています、すみません・・)
まだまだ12歳の子供。
きっかけがあれば、あふれ出すものは止まらずに・・・・。
そんなカイを本当に支えてあげられるのはタカオだけなのですが
無印タカオはとにかくお子様なので・・・・・
そういう感情に気づく筈もなく・・・(気付くのはやっぱりバイカル湖で、だと思っています)。
タカオに無理なら俺が・・・!という訳でレイが頑張るわけですが・・・。
レイも辛い立場にしてしまったな〜。
自分が抱いていながらも、カイはタカオに抱かれているつもりだし
でも実際カイがタカオに抱かれる日がきたら、その「違い」に愕然としそうだな・・。
キスも、愛撫も・・・何もかもこんなにも違う・・・・!俺は一体、何を・・・!?
と悩みそうだ。
そんな話も書いてみるのもいいかもしれない。
・・・・いかん、語りだしたらキリがない!この辺でやめておきます。
最後に、カイをかなり乙女にしてしまって申し訳ありませんでした!

ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
(2009.4.17)



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