火渡家、カイの自室。

そこには呆れ顔のカイと
体じゅうリボンでグルグル巻きにされて、碌に身動きもできないタカオがいた。

そう、今日は──────。




「・・・。なんのつもりだ、木ノ宮。」
「し、知らねーよ!皆がいきなり現れて、リボンでグルグル巻きにされて
「お前がプレゼントになれ!」なんて、ワケわかんねー事言われて
問答無用でここに運び込まれたんだから!!こっちが聞きたいくらいだ!!」
カイは溜息をついた。
(ったく、余計なことを・・・。)
カイはタカオの、まるでミイラのようにされたリボンを解いてやると。
「ほら、これでお前は自由だ。さっさと帰れ。」
「・・・・。」
「どうした、早く行け。」
「お前、今日が誕生日なんだってな。」
「だからどうした。」
「なんで俺がプレゼントなのかサッパリだけど、せっかくだから・・・俺にできる事、ないか?」
「ない。」
カイはキッパリと言い放った。
「即答すんなよ・・。」
素直に落胆してしまったタカオ。
落胆すると、髪までしぼんでしまう所は昔からちっとも変わらない。


・・・・・。
あの世界大会から何年過ぎただろう。
あの時、カイはタカオへの想いを自覚した。
が、想いを告げる気にはならなかった。
・・・告げたところでタカオを困らせるだけだろうと、わかっていたから。

見守るだけでいい。
タカオとどうこうなろうとは思わない。
この先、何があっても
タカオが誰かを好きになっても
恋をして結婚して・・・家庭を持っても・・・・
生涯、見守り続けると。
しかし何かあった時には、全力でタカオを守ると・・・・。

世界大会が終わったロシアで、カイはそう心に決めたのだ。





それなのに、だ。

今、カイの自室で
「プレゼント」だと押し付けられたタカオを目の前にして
つまり、密室に二人きりで。
どうしろというのだ。

カイは苛立ちすら感じていた。

とにかく。
こんな茶番は早く終わらせるに限る。

「誕生日など、くだらん。一年たてば誰でも年をとる。当たり前のことだ。」
「でもさ、十○年前の今日、お前が初めてこの世に生れ出てきたんだぜ?
これって、凄いことだと思わねーか?」
カイは再び溜息をついた。
「では聞こう。お前は俺に何をしてくれる?プレゼントなのだろう?お前が。俺は並大抵のことでは喜ばんぞ?」
「そうだな〜・・・・う〜ん・・・・。」
タカオは必死に考え始めた。

さあ、どんな結論を出す事か。
カイは少しだけ待ってみることにした。


椅子に腰かけ、机に肘をついて、悩むタカオを見守ってみる。
百面相をしながら、立ったり座ったり歩き回ったり。
何故、こいつはこうも表情が豊かなのだろうと、思わないではいられない。


タカオとカイは正反対だ。
こんな時、カイは改めて感じてしまう。
あまりにも違いすぎる。

───違い過ぎて、滑稽だ・・・。

カイは心のうちで、深くため息をついた。





それでも。
さすがに部屋に二人きりでいると
よからぬ欲望が顔を出すものだ。

カイの目の前にはタカオが。
手をほんの少し伸ばせば届く位置にいる。
プライベートな時間だから、メイドは絶対に来ない。

例え抱きしめても、唇を奪っても、誕生日の冗談と取り繕うことはできないか?
タカオ自身がプレゼントだと言ったのだ。
そんな発言をした以上、そうなって然るべきではないのか?
そして「お前がなかなか帰ろうとしないから、からかってみただけだ」とでも言えば・・・・・・。

百面相をしながらカイを喜ばせようと悩み続けるタカオが、あまりにも健気で。
二人きりのこの部屋で、何をしても何を話しても誰にも気づかれそうもないこの状態。
つい、そんな誘惑が頭をよぎってしまう。

やはり・・・・駄目だ。
取り返しがつかないことをしてしまう前にタカオを追い払わなくては。

「つまらん事を言ってすまなかったな。俺は誕生日など、気にしたことはない。
だからお前は何も気にせず帰れ。」
とその時、カイの言葉を遮ってタカオが叫んだ。
「そうだ!なんで気づかなかったんだ!!バトル!バトルしようぜ?」
考えてもいなかった事を提案されて、カイは珍しくその紅い瞳を見開いてしまった。
「嫌か?」
「嫌ではないが・・・。」
「な、バトル、しようぜ?最近全然できなかったし!」
タカオは既にその気満点。
ただでさえ大きな蒼い瞳をキラキラ輝かせ、子犬のようにカイを見上げていた。
そんなタカオの顔を見て。
カイは自嘲気味の笑みを浮かべた。

やはり・・・タカオだな。
これでいい。
これでまた・・・下らん想いを封じ込める事が出来る。

そしてカイは気を取り直して言った。
「そうだな。確かにそれが一番かもしれん。」

タカオはどこまでも清流のごとく、清らかであれ・・・。
恋慕の情など・・・ましてや同性同士の、そんな情などとは・・・最も遠い存在・・・。

「だが木ノ宮。バトルがプレゼントという事は・・・
バトルしてやる、と・・・そういう事か?聞き捨てならんな。」
苦笑しながらカイが言うと。
「だ〜〜〜〜っ!!もう、違うったら!・・ったく可愛くね〜〜〜〜っ!!
バトルするのか、しねーのか、どっちだ!!」
「するに決まっているだろう。」

カイは不敵な笑みを浮かべた。
鋭く光る、紅い瞳。
たった一瞬で、この迫力。
タカオは思わずハッ・・と目を見張った。

これだ、この感じ。
くっそ〜〜〜!!ゾクゾクする!!

腹の底からふつふつと湧き起こるような喜びと興奮。
タカオは久しぶりに感じる心地よい高揚の中
バトルルームへ向かうカイの後姿を眺めながら
ふと・・・思った。


───カイと初めて出会ってから何年経つだろう。
     あれ以来・・・・・
     誰よりも誰よりも
     一番バトルしたいって思うのは、いつだってカイだ。
     カイとのバトルは特別。
     あんなバトル・・・カイとでなきゃ、絶対にできない。
     俺にとってカイは、最も大事な、本当にかけがえのない存在・・・なんだと思う。

そこまで考えてタカオは、前を歩くカイの背中を見ながら思い出したように微笑んだ。

───そんなこと言ったら、カイは絶対に「ふん、下らん・・」って鼻で笑うんだろうな。
     でも・・・ホントなんだけどな〜。





火渡家、バトルルーム。

カイはドランザーを取り出した。
タカオもドラグーンを取り出して構える。
カイの瞳には、もう迷いはなかった。
二人の顔に浮かぶのは、全力でバトル出来る、全てをぶつけ合える喜び。

「3,2,1・・・・go shoot!!」



全身全霊をかけた真剣勝負。
ベイを通じて心が通じ合う。わかりあえる。
溶け合ってしまうがごとく・・・一つになれる。
そんな相手はタカオ、お前以外には存在しない。

俺達は、きっと、これでいいんだ。
今も・・・これからも・・・・ずっと・・・・・。

木ノ宮タカオ。
お前という存在こそが
天が俺に与えてくれた
最高の・・・プレゼント・・・・。



















end


二年ほど前に日記に書いたものに、大幅修正を加えたものです。
非公式だそうですが、8月2日がカイの誕生日だと、その時初めて知りました。
誕生祭まで開かれて盛り上がったようです。
火渡さん、愛されてますね!!
そんな訳で、私もちょっとでもお祝いしたくて書いた駄文です。
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいですv。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
(2014.4.24)


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