・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



どうしてしまったというんだ。
こんなのは俺じゃない・・・!

俺が・・・あんなに・・・・・・・乱・・れる・・・・なんて・・・・・・!!!

思い出したくもない・・・!!
記憶から抹殺してしまいたい!

俺は・・・なんでこんな事に?
一体、いつからおかしくなった??





「カ〜〜イvv。」

コイツだ。
人の名前に事もあろうかハートマークを幾つも付けて呼ぶ、この変態スケベ野郎・・・。


「どうしたんだよ?そんな顔して。」

貴様のせいだ・・・。

「カイって怒った顔も可愛いのな〜v。あ〜もう!タマンね〜!」
「こら!抱きつくな!!人に見られたらどうする!」
「いいじゃん、別に。どうせみんな知ってるし〜。」

それが大問題だというんだ!!

「なあ、今度は道場でヤッてみね〜?
みんなが起きるかもしれないってスリルがあって、いつもの何倍も燃え上がるかもしんねーぞ?」
「貴様・・・・。」
「あ、でもやっぱダメだ!
あんなに色っぽく乱れるカイは俺だけのモンだ!誰にも見せたくね〜。
昨日のカイは・・・セクシーで綺麗で、も、最高・・。思い出しただけで俺、ご飯3杯くらいイッちゃいそうーだぜ・・。」
「・・・・・ッ!!」
「あれ?カイ、どうしたんだ?震えてっぞ?顔も赤いし・・風邪か?」
タカオは戸惑いもせず、自分の額を俺の額にピタッ・・と付けてきた。

「な・・・!」

触れるな・・・。
何時どこから誰が来るかも知れぬところで。
しかもまだこんなに陽が高い。
お前が触れた場所から・・・勝手に熱が思い出されて・・・俺は・・・・・。

なのにコイツときたら全く気付いたふうもなく、俺の身を案じている・・・。
無性に・・・・腹立たしい!

「・・・。熱はないみたいだな。」
そして至近距離でニカッ・・と笑った。

バカが・・・。
熱がないと分かるとすぐに・・・。

「カイ・・・・。」
マヌケな顔が近づいてくる。
うすく閉じられたコイツの瞳に思わず吸い込まれそうになる。
心のどこかでこの展開を望んでいた俺がいて・・・愕然とする俺がいる。


違う。
こんなのは・・・・俺じゃない!!



バキッ・・・!!!





気がつけば俺はタカオの頬に右ストレートを決めていた。
タカオはぶっ飛ばされて庭に倒れてピクピク・・とバカ面で気を失ってしまっている。

去年の世界大会以来、カイはプロテクターをご解禁。
そのパンチの威力は凄まじかった。



「どうした?何かあったのか??」
木ノ宮家に居候中のレイが騒ぎを聞きつけ、駆けつけてきた。
「タカオ!一体どうしたんだ??カイ!」
レイはカイを振り返るが
「ふん・・・。」といつもの捨て台詞でスタスタと立ち去ってしまった。

ふう・・・・・。レイは溜息をつく。
「ったく、痴話ゲンカは犬も食わんというが、困ったものだな・・・・。」




「・・・・オ・・カオ・・・・おい、タカオ!!」
ゆさゆさと揺り起こされて、タカオはようやくゆっくりと意識を取り戻した。

「・・・・・。あ、レイ・・・・。カイは?」
「さあな。何処かへ行ってしまったよ。」
「・・・。そっか・・・・・。」

タカオはよっ・・と立ち上がるとレイと共に縁側へ腰を下ろした。

「お前達、どうなってるんだ?」
「何が?」
「だから・・・。」
レイはもう一度溜息をつく。

「お前たち、もう行き着くところまで行ってるんだろ?」
「へへっ・・・。わかる〜?」
タカオは頬を染めてニカーッ・・と笑った。レイは思わず引き攣り笑い。

「ま・・まあな。タカオ、一つだけ、いいか?」
「なんだ?」
「まあ・・・・なんだ。
俺は多分お前やカイに比べたら、そういった事に関しては色々と・・・な。
修羅場を潜り抜けてきたから・・・・。」
「よっ!百戦錬磨の色男!」
「ははは・・・・。だから・・だな。ちょっと心配なんだ。」
「何が?俺とカイは何時だってラブラブ絶好調だぜ?」
「お前のような単純バカはいいんだよ!
だが、カイみたいに真面目なヤツは、割り切るまでが大変なんだ。」
「???」
「いいか?女ってーのはだな、初めての場合は特に・・・・・・。
あ、勿論カイは男なんだが・・・・。」

ふむふむ・・・とタカオは真剣にレイの言葉に耳を傾けた。
















何故・・・何時から俺はおかしくなった・・・・・・。

やはり体を重ねるべきではなかった・・・ということか?


気がつけば、カイは海を眺めていた。
世界大会後、久し振りにタカオと再会したあの展望台で。




俺の・・・この馬鹿げた気持ちに気づいたのは去年のロシアでの一件だ。
あまりにも馬鹿げていたから抹殺しようとした。
せめて封印を・・・と試みた。
ベイも・・・ドランザーも。何もかも。
片耳のピアスは封印の証。
無意識に蒼を選んでしまう、その愚かさを自らに科すために。
だが、運命は俺を放っておいてはくれなかった。

ワケの分からん連中が動き出し、そして・・・・・・・。
だが俺は・・・・心の奥底では喜んでいたんだ。
これで木ノ宮に会いに行く「理由」ができた、と。


馬鹿馬鹿しい・・・・。あまりにも・・・・!!








道場に布団を並べ、その日はもう休もうとしていた、その時だった。

「カイ・・。俺のバカ面が見たくなったって・・・言ったよな。」
「・・・・。ああ。」
「どのくらい?どのくらい見たかった?」
「・・・。」
正直、俺は焦った。

「別に。久し振りにベイに触れたら、バトル馬鹿なお前を思い出しただけだ。」
心にもないセリフが次々と。

「・・・・。ひっでーな〜、相変わらず。」
タカオは苦笑いだ。

「ふん・・・・。」
「俺は・・・さ。会いたかったよ。お前に。会えば・・・わかるんじゃないかって・・・思った。」
「・・・?何をだ?」
「・・・・・・。俺・・・・さ。」
「・・・??」
チラッと俺を窺い見た、その頬が少し染まっていたので・・・不覚にも俺は動揺してしまって。

そんな事は、ありえよう筈がない。
くだらない妄想が見せた産物だ!と自分自身に喝を入れ

「・・・・。どうした。ハッキリ言ったらどうだ。」
平静を装って無関心そうに言ったことを覚えている。

だが、タカオは・・・・。



気がつけば唇が触れていたんだ。

タカオの・・・柔らかな唇が、俺の・・・そこに───────。





そしてそのまま抱きしめられて・・・・。


俺は、ただ
涙が出そうなほどに幸せで─────。


その後のことは、よく・・・・覚えていない。






父に捨てられ
母にも・・・。
爺が無用の長物と言わんばかりに母を追い出してからは会ってもいない。
以来、あたたかなものとは無縁の状態だったのに
アイツ等に出会ってからは俺のペースが明らかに乱れていった。
特にコイツ・・・・木ノ宮タカオに出会ってからは・・・・・。


人など信ずるに値しない。
親にさえ見捨てられた。
唯一傍にいた祖父は、俺を道具としてしか扱わなかった。

だが、それは別に構わなかった。
祖父は勝者。
父は敗北した者。

力だ。
力さえあれば自由は手に入る。
俺の望むものは・・・・・・・力。
ただ、それだけだった。


それは間違いだと全身でぶつかってきたのが、木ノ宮タカオ。


俺など放っておけばいいものを。
俺などに関わってはこいつの清浄な輝かしい未来までもが汚れてしまう。


俺に・・・・・関わるな────────────!!











なのに。
タカオに触れられて。

その小柄だが、よく鍛えられた逞しい腕に抱きしめられて。


頑なに守り通してきたものが
いとも簡単に・・・浄化され
あたたかな光の粒となって俺の中を満たしていく・・・その感覚に・・・・。


いけないと・・・わかってはいた。

だが。

泣きたくなるほどの幸せに
抗う事ができなくて・・・・・・・・・・・・・。




こんなのは俺らしくない。

わかっている。
わかっているんだ・・・!!



毎晩抱かれるたびに

俺の中の何かが確実に浸食されて
麻痺していく。

コイツの色に、染められていく。



こんなのは俺じゃない。
こんなのは・・・・・火渡カイじゃ・・・・ないッ!!


















「カイ・・・・。」
「・・・・木ノ・・宮・・?」

振り向けば、木ノ宮が似合いもしない神妙な顔で俺の背後に佇んでいた。

「・・・。レイに・・・・さ。怒られちゃったよ。」
「レイに?何のことだ?」
「だから、さ。」

タカオはちょっと困ったような顔をしたが、ふいにその腕が伸びてきて俺の顔を捉え

ちゅ・・・。

「へへっ・・・・。」

そしてイタズラっ子ような顔で笑った。



・・・・・。


一瞬にして満たされたような気持ちになってしまう。
コイツの・・・・キスで・・・何もかも・・雲散してしまうような・・・。

だが・・。



「カイ・・・。大好きだ。」
「・・・・・。」
真直ぐな眼差しを受け止めきれず、思わず目を逸らすと
その先には広大な・・・コイツの瞳のように、どこまでも深く澄んだ碧い海が広がっていた。


「ゴメンな?俺、どうやら舞い上がってたみたいだ。」
「・・・・。」
「前に言ったと思うけど、初めてなんだよ。誰かを好きになんの。
カイも俺の事、好きだってわかって俺、無茶苦茶嬉しかった。
でも付き合うって言ってもどうしていいか分かんなくってよー。
ただ、いつでもカイといたくて。カイに触れていたくて。
お前があんまり色っぽくて綺麗だから、よけい歯止めがきかなくなっちまって・・・。」
「だッ、誰が綺麗だと!?」
「カイに決まってるだろ?」

・・・・わかってない。コイツはやっぱりわかってない!!


「あれ?カイ、何怒ってんだ?」
「お・・俺は・・・!!お前とそんな事がしたかった訳じゃない!!」
「・・・・・。」

「俺は、ただ・・・・・・・・・。・・・・・・・・・。俺・・・は・・・・・!!」

必死の眼差し。
情熱的なカイの紅い瞳が不安そうに揺れる。


俺はタカオに会って何がしたかったのだろう?
そもそも、気持ちが通じ合えるなどとは思ってもいなかった。
実際通じ合ってみて・・・俺は・・・・一体・・・・・・・・。


「・・・・・わからない・・・・・・。」

静かに呟いた。
それが、今の正直な気持ちだった。


「お前のことは、恐らく、好き・・・なんだと思う。
だが。お前に・・・その・・・・。」

少し頬を染めつつ、くっ・・・!と唇を噛む。

「・・・・・・・・・。
だから・・お前と・・・そういうコトになってからの俺は・・・好きではない。」

ようやく・・・
それだけをようやく告白した。


「・・・・・・・・。
みんなの前でもつい、キスしようとしたり毎晩抱いたりしたのは悪かったと思ってる。
もっとこう・・・良識・・っつうの?そういうのを持って付き合うべきだよな。
それは・・さ。反省してる。

さっき、この事でレイに怒られちゃって・・・参ったよ。
俺みたいなヤツだと「カラダ目当て」って思われても仕方ないってさ〜!
あいつ、相当場数踏んでるよなー!」

はははは・・・とタカオは盛大に笑った。


人が必死の思いでようやく素直に語ったというのに、コイツは・・・!!

カイは怒りで震えつつ拳を握り締めた。

「だからさー、お前。俺に抱かれて乱れまくってる自分が嫌になってんじゃないかって。」

ギクリ・・・。

「毎晩のようにアンアン言っちゃってる自分の事、信じらんネーって自己嫌悪に陥ってるだろ?」

目を見開き真っ赤になってうろたえる俺に

「バカだな〜。そんなの、好きなヤツに抱かれたら当然の事だろ?
それに乱れたカイって・・・もう・・・無茶苦茶綺麗で色気があって・・・・俺、ますます好きになったっつーか・・・。
そんなカイを見てると、俺、脳天キちまって・・・・思い出しただけでもう・・・・。」

ふざけた事をぬかしながら、コイツの目が既に本気だ。
俺の肩に手をかけて性懲りもなく抱き寄せようと・・・!

「き・・・貴様・・・・・!!」
「も〜、カイってばvv殺気を込めて睨むその顔!すっげーソソル・・・。」
「やめろ!」
パシッ・・・と、俺はタカオの手を叩き落とした。

「やはり間違っていた・・・・・。
貴様のような阿呆になんぞ付き合ってられるか。
この俺が直々に地獄へ叩き落してやる・・・覚悟しろ!!」

カチャ・・・。
ドランザーを静かに構えると。

「わ〜〜〜〜!!待て!待てったら!!
悪かった!!ふざけて悪かったよ!!真面目に話すから!!」












「で・・・と。それはそれとして。」
タカオは大真面目な顔で咳払いを一つする。

「俺が本当に言いたかった事は・・・・・・。」

どうせまたロクでもない事だろう・・・と、半信半疑でタカオの次なる言葉を待った。





「カイ・・・。お前・・・自分は不幸じゃなきゃダメだと思ってないか?」

・・・・・・!!

「不幸というか・・・・修羅に身を置いてなきゃいけないって・・・思ってないか?」

何の覚悟もないままに
いきなり心の奥底を鷲掴みにされたような、そんな衝撃。

タカオが溜息をついた。
「やっぱりそうか・・・・。」

・・・・・・。
そんなふうに考えた事などなかった・・・が・・・。


「なんかさ、お前見てると・・そんな気がしてたんだよな・・・。」

そう・・なのか・・・?


「人間は誰しも幸せになる権利を持っているんだ!さあ、夕日に向かって走ろう!
なんて言ったら、それこそドランザーの餌食にされそうだし
どうすりゃーいいのかな〜・・・・って、実はずーっと考えてた。」

確かに俺は・・そんなものは負け犬の遠吠えだと・・・いつもどこかで自らに科してきた。

でもそれは、あのロシアでの出来事までの俺だ。
あれ以来、俺は変わった・・・・筈だ。



「でもさー。ちーっともいい考えが浮かばねーんだ。」

タカオはバツが悪そうに笑う。

「俺、色々考えてて、フッ・・と気づいたんだよ。
俺はカイの事、何にも知らないんだな〜って。
いろんな事があって、お前の家の事もちょっとだけだけど知る事ができて
俺の兄ちゃんも絡んでたなんて、かなり驚きだったし・・・本当に色々ビックリするくらいにとんでもなくて。
俺なんかが簡単にどうこう言える話じゃないけど、だけど・・・・さ・・・・・・・・。」

火渡の事は・・・・コイツの御気楽な頭じゃ無理だろう。
積年の膿と欲が溜まりきったような所だ。
タカオのように清廉な者には・・・想像もつかない世界。


タカオは俺とは正反対だからなのか
コイツと共にいると・・・何故か、俺は・・・・・・・・・。

全く現実味がなく、どこか夢を見ているように思える事がある。



計り知れない恐怖と隣り合わせの・・・・
まるで刀の上を素足で歩いているような不安定感。

このままでいられる筈などないのだと・・・
遥かな高みから見下ろして、神か悪魔が嘲笑っているような・・・・・。





このままでいられる筈などない・・・・・。

このまま・・・・。

タカオと・・・ずっと、このまま・・・・・。





・・・・・。








そう・・・・だ。








俺・・・は・・・・・・・・。












抱かれて乱れる自分が嫌だった・・・のではなく
抱かれている・・その瞬間の幸せは、かりそめに過ぎないのではないかと・・・
無意識に終極を恐れたが故・・・・。

父も母も俺を捨てた。
タカオだとて、今は好きだと言っているが

・・・・・・・・・幸福など、続くはずもない。


いつか終わりが来る。
そして俺はまた奈落の底へ・・・・・・。

それこそが俺なのだと──────────。




確かに俺は、安穏とした場所などよりも
修羅に身を置いていた方がホッとする。安心できる。
・・・・・・。
それは、もうこれ以上悪い事になどなりえないから──────。




ならばいっそ、はじめから関わらなければよかったのか?
はじめから奈落にいれば・・・失う恐怖を味わう事もない・・・と??






「カイ・・・。」

タカオの声に深い所で右往左往していた意識が浮上する。


「俺、難しい事は分かんねーけど。
不幸なほうが幸せ・・・・なんて、ダメだよ。」


ああ・・・・。
コイツは何も分かってないような顔をして
どうしていつも突然核心を突く・・・・・・・・・。




「カイは・・・さ。あのロシア以来、時々すごく綺麗な顔で笑うんだ。気づいてたか?

顔の造りとかじゃなくってさ。
あ、勿論カイは綺麗な顔立ちだけど、そういう意味じゃなくって。
本当に綺麗な笑顔でフ・・ッて。

それ見て、俺・・・・さ。
よかったな──────って心から思った。
カイのそんな顔、ずーっと・・・見ていたいな・・・・って。
できたら俺の隣で・・・なっ!へへっ・・!」






だが、矛盾しているが
俺はこうも思っているんだ。

コイツなら
俺を救い上げてくれるんじゃないかと。





バカバカしい・・・。

俺は・・・・そんなにも弱い存在だったというのか─────────!?










「なあ、カイ・・・。俺、やっぱりお前が好きだ。カイ以外は考えられねー。
お前の事、可愛くて愛しくて・・・・・たまんねーよ・・・・・。
お前が俺の事、好きだって言ってくれる限り・・・・
いや、もしカイが俺の事、嫌いになって俺から離れていっても
俺、カイが幸せになれるなら何だってするから!」


だからちょっとだけ・・・・さ。
俺と一緒に、あったかいモン信じてみねーか?

カイのことは俺が
死んでも守るから・・・・・。






この広大な碧い海のようなタカオの瞳。
暖かな太陽の・・柔らかい日差しのように俺を包み込む、タカオの・・・・。


不可能も可能にできる
どんな修羅からも運命を切り開くことが出来る、凄まじいまでの内なるパワー。

俺には到底持ちえない、生気溢れる力。



こんな奴は初めてだった。

蛭田の腐った心を癒し
ユーロチームの凝り固まった心をほぐし
そして永久凍土のようなユーリの心をも溶かし、その心に灯火をもたらした。

そして、この俺もタカオに・・・・。





これが真の強さ。
真の・・・光、だ。

俺は、ずっとその光を見ていたいと・・・・・
あの遠いロシアで想った・・・・んだ・・・・・・・。

できるなら、タカオと共に・・・。

それが、俺の・・・・唯一つの願い・・・だった・・・・・・・。




ふふ・・・・・。

はははははは・・・・・・!!



これが誰かを好きになるということなのか。

・・・そういうこと・・・・か・・・・・・・・・・。



タカオに再び会って何がしたかったのだろう、だと?

簡単な事だ。



俺はただ────。

タカオと共に在りたかっただけなのだ。
タカオとその「幸せ」とやらになりたかっただけ・・・・・なのだ。


そして実際その「幸せ」の片鱗を感じた途端
怖くなった・・・・だけ・・・・のことだ。








可笑しい。
これが笑わずにいられようか。


俺は
こんなにも弱い。
こんなにも・・・・運命に臆病だ。










「カイ・・・?」


突然笑い出した俺を、不思議に思ったタカオが首を傾げる。

「どうしたんだよ?一体・・・。」
「別に・・・。自分自身に幻滅しただけだ。」
「幻滅?ちょっと待て、お前一体・・・・!?」
「いや・・・違うな。ようやく悟ったという所か。」
「・・・?」


何故だろう・・・・。
今、とても清々しく心が穏やかだ・・・・。

以前の俺なら、自分が弱いなどと認めることすらできなかった。





サッパリわからない、という顔をしてキョトン・・・としているタカオ。
鋭い時はイヤになるほど鋭いが、普段はこの通りの馬鹿だ。


「なあ、カイ。悟ったって一体なんのことだ?」



俺は初めて
自分からタカオにキスをした。


「・・・!!!!」

触れるだけの、たった数秒のキス。

タカオときたら普段はとんでもない事を平気でしてくるくせに
今は・・・・。

キスされたくらいで真っ赤になって、まるで茹でダコだ。



俺はフイ・・と離れるとそのまま踵を返した。

「行くぞ。早く帰らんとレイやマックスが心配するだろう。」

「カ・・・カイ・・・・!」
「どうした?」

「い・・いや、その・・・・・。」

タカオは真っ赤な顔から湯気まで出してすっかり、しどろもどろだ。

「・・・・。木ノ宮、すまなかったな。心配をかけた。」


素直に・・・なりたかった。

ようやく自らの心がみえた・・・のだ。
そして何より、せっかく気持ちが通じ合ったのだ。
同性でこのような事になるなど、奇跡に近い。

だが。
素直になるのは・・・・慣れていない。


背をむけたまま
顔を見られないように
精一杯・・・・言ってみた・・・・・。


「・・・・・・・・。
タカオ・・・俺も・・・お前以外には考えられない。お前が・・・好きだ。」

「カ、カイ!!」

「だが!!」

くるりと振り向く。
睨みつけたつもりだが、俺の顔は・・・紅く染まっていたかもしれない。

「・・・・・皆の前では・・・・くっついてくれるな・・・・。」

「カイ〜〜〜〜ッ!」

タカオが涙交じりの顔をグチャグチャにして喜んでいる。
考えてみれば・・・俺の言葉でここまで喜ぶ奴など、今まで見た事がなかった。

なかなか・・・いいものかもしれない・・・・。


と思っていたら。
言った傍からタカオが抱きついてきた。

「カイ〜〜〜〜!!
わかった!約束する!!
これからは絶対みんなの前で抱きついたりしない!!」

「こら!貴様、俺の話を聞いてなかったのか!こんな真昼間から・・・・!」

「なんで?ここ、誰もいねーじゃんv。誰もいなかったら何してもいいんだろ?」

「違ッ・・・こら・・・!!」

「カイ・・・愛してる!もー、絶対はなさね〜〜〜!!」

「こら〜〜〜!!はなせ〜〜〜〜〜!!!」















それは、やわらかな日差しが海にキラキラと反射して輝いて
そんな気持ちの良い、ある晴れた日の午後のこと。

はじめて素直になれた日。
はじめて自分の弱さを認めた日。

















end



カイはずっと「修羅にいるのが心地よい」と。「幸せだとかえって怖い」と感じるのではないかと思っていました。
だからタカオと想いが通じ合えても悩みや葛藤は相当のものだろうな・・と。
それに「受け」という立場への悩みもあるかも・・?とはいえちょっと悩ませすぎたかな・・・。
纏まりが悪い・・難しいです・・・・。

それにしてもカイとタカオに自由に話をさせていたら、なかなか思うように進んでくれなくて苦労しました(笑)。
例えばカイが色々悩んだ末に
「馬鹿げた気持ちのお陰で、俺はもう少しで完全に腑抜けになるところだった。
木ノ宮。世話をかけたな。」
と別れようとしたり、挙句の果てにはバトルを始めちゃったりで・・・。
これはこれでアリかな?とも思いましたが
バイカル湖以来「そういう強さ」だけを追い求めるカイではなくなっているはずなのでボツにしました。
その他にも色々・・・・。
でも妄想するのは楽しかったですvv。

それから書き終えてから気づいたのですが、02では進さん、一応家に帰っていましたね・・。大変失礼致しました!

それではここまで読んで下さりありがとうございました!
(2006.12.17)


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