これが・・・・。
己の強さだけを求めて、仲間を平気で裏切った者の・・・末路か。
いや、俺はそもそもこいつらを「仲間」だと思ったことなど一度もなかった。
一度も・・・・。
それでもチームを組んだ以上、してはならない事を俺は平気でやってのけた。
これは・・・正しい・・・神の制裁。
ふふ・・・ははは・・・・・。
おかしい。
これが笑わずにいられようか。
これ以上ない程の、俺の最期じゃないか。
ははは・・・・。
俺は・・俺は馬鹿だ。
最期にそれを自分自身で知る事が出来た。
それだけでも・・・きっと・・・良かったのだと・・・・・・。
ああ、足が重い。
鉛のようだ。
もう、感覚がない。
このまま、俺は・・・・。
世界一美しく透明な湖、バイカル湖。
それにしても、笑わせてくれる・・・・。
俺に最も似つかわしくない場所で、俺は永遠の眠りにつくのか・・・・。
はは、はははは・・・・・。
俺は誰も信じなかった。頑なに。
最期は俺が裏切った奴等の目の前で・・・・・。
なんて、無様な・・・・。
「手を、手を掴め〜!!」
何を言っているんだ?コイツは。
「何故、俺を助けようと・・・。」
もう俺はこれ以上、無様な姿をさらしたくはない。
木ノ宮。
哀れな男。
俺などを信じて、振り回されて。
最強とはなんだ。
俺は多くの聖獣を手に入れた。
ブラックドランザーも手に入れた。
けれど適わなかった。
こいつに、こいつらに。
「一人ぼっちのお前には、俺達には勝てない!」
一人、一人・・・。
一人の何が悪い?
所詮、人間はいつも一人だ。
どんなに友情や愛情を強調した所で
人は所詮、自分の事しか考えられない。
そして、こうして・・・死に行く時も・・・人は、一人・・・・。
「仲間の危機を見過ごせるか!手を掴め〜〜〜!」
仲間?俺が?
木ノ宮のこの顔。
本気だ。本気でコイツは俺を助けようと・・・。
己の危険を顧みず。
こいつは馬鹿か?共に死ぬ気か?
次々に皆が木ノ宮を支える。
手が、更に俺に向かって伸びてくる。
これ以上伸ばしたら、バランスが崩れたら皆で溺れてしまう、なのに。
仲間・・・・。
これが・・・「仲間」という事・・・・なのか?
「カイ!お前を想って・・・泣いてるんだ〜〜!」
先程のバトル。木ノ宮の言葉。
泣く?朱雀が?
朱雀に感情があるとでも?
しかし木ノ宮に操られた朱雀は見た事もない輝きを放っていた。
そしてブラックドランザーが敗れたあの時、
朱雀が、青龍が、玄武が白虎が一つとなって襲い掛かってきた。
四聖獣、とはいえ、俺はもっと多くの聖獣を手にしていた。
なのに・・・俺は負けた。
あれが・・・仲間の、信じる心が生んだパワー?
そう・・・なのか・・・・・?
「手を・・・手を掴め〜〜〜〜!!」
俺は・・・俺は、なんという愚かな。
最強とは、力だけを言うのではなかった。
どんなに強くなっても、どうにもならない壁がある。
友を信じ、真に思いやり・・心が一つになった時に生まれた力は
まさに最強。
俺は・・・目の前に、すっと欲したものがあったのに
それに気づく事も出来ずに。
俺は・・・・馬鹿だ・・・・!!
溢れた涙と同時に掴んだその手。
そしてその手を掴んだ瞬間に生まれた、最強のパワー。
気づいた時には
俺は皆と共に氷の上で倒れていた。
皆で俺を助ける為に、死をも恐れず・・今は、こんなに激しく息を乱して。
そして、さっきまで俺が立っていた場所の沈みかけていた氷は
俺の目の前で今、音を立てて粉々に割れてしまった。
まさに間一髪。
一瞬遅ければ、あの氷のように俺は・・・。
こいつらの、・・・・・仲間のおかげで、俺は・・・。
「余計な事を・・・。」
大切な事に気付けた日。
しかしだからといって、性格まで変えられる筈もない。
「カイ、忘れ物だぜ?」
木ノ宮が俺に投げて寄こしたもの、それはドランザーだった。
ビットの朱雀が、心なしか輝いているように・・そう、喜んでいるように見えた。
俺はそれを握り締めて口元だけで、でも心から微笑んだ。
まだ、帰れない。
帰る前に決着を付けておかなくては。
「一緒に帰ろうぜ?」
木ノ宮の言葉。
他のメンバーも心は同じだと、瞳が語っていた。
なんて馬鹿な連中だろう・・・・。
こんな無様な俺だが・・再び帰ったその時は
この、愛すべき馬鹿な仲間達と共に、歩いて行けるだろうか。
父親への復讐のためだけに、俺は生きてきた。
爺の言うがままに爺の手先となって生きてきた。
俺はいつも一人だった。
でも・・・こんな俺の事を仲間だと言って
命を顧みず必死になってくれる馬鹿が・・・ここに4人もいる。
仲間と共に戦えば、まさに最強。
それはバトルだけの事ではなく、全てにおいて、人生において。
真に欲しかったもの、真に願ったものが、こんなに近くにあったなんて。
まるで・・まだ俺が幼かった頃、母が読んでくれた本「青い鳥」のように・・・。
もう俺は大事なものを見失ったりはしない。
俺は俺の「青い鳥」と共に、俺の道を行こう。
誰のためでもない、俺の道を。
仲間と共に──────。
end
あるテレビを見ていたら
氷の池に落ちた人を助ける、という話がやっていて。
思いっきり「バイカル湖の決闘」とシンクロ!
テレビではそんな寒い地域の
氷が張った池に落ちる事がいかに危険で
助ける事がいかに難しいか、切々と語ってくれて
そして初めて。
あのシーンは・・そこまで切迫した・・本当に本気でカイの命に関わった・・
そして助けるタカオ達もヘタしたら死んだかもしれない中
カイを救った、という・・そこまでのシーンだったんだ!!
と今更ながら感動しちゃって。
いや、当然沈んで放っておいたら死ぬ事は分かっていましたが
自分ではどうにもならない程
とんでもない状態になってるとまでは思ってなくて。
そうなるとあのシーンは、あのシーンの重要性は、カイタカ度は〜〜〜!!と、感動してしまって。
命に関わるシーンだとは分かっていても
服着たまま溺れると大変だとは良く聞きはするものの
いくらバイカル湖とはいえ
見た感じ、氷の穴は小さく水溜りっぽい感じだったし
カイなら自分でなんとかできるんじゃ・・・
という考えが、どうしても過ぎっちゃってたんですよ。
ああ、ゴメンなさい、すみません!!
ここはそれ程のシーンだったんですね!?
それをタカオはなんの迷いもなくカイに手を差し伸べて・・・っ!!
なんというカイタカっ!!
そんな訳で、勢いで日記に書いてしまいました。
これはそれを修正したものです。
とはいえ・・これは「カイタカ」、と言うよりは「カイ&タカオ」ですね・・。
今更な話ですが、ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
(2010.2.17)