「また来よう、って言ってから・・・2年も経っちゃったね。」

あれはそうだ、夢島を卒業した直後の夏休みだった。
あの時は束縛され続けた生活からようやく解放されて
そしてようやく二軍に上がる事が出来て
一つの大きな階段を登ることが出来た
未来へ向けて夢と希望に溢れていた・・・懐かしい、素晴らしい、大切な・・・時間。

「あの後は誰もが一軍入りを目指して大変だったし、
俺も海堂を飛び出しちまったし・・・それどころじゃなかったもんな。」
「あれから二年か・・・・。時が過ぎるのって早いね。」
「ああ。あっという間さ。だからその瞬間、瞬間を全力で生きなきゃ・・あっという間に爺さんになっちまう。」
寿也は笑った。
「お爺さんは大げさだな〜。でも、君らしいね。」
そして、寿也は俺を真っ直ぐに見つめた。
「思いっきり暴れておいでよ。吾郎くんなら大丈夫だ。」
「ありがとな、寿。」

本当なら、俺は横浜か巨仁に指名される予定だった。
もしかしたら寿也とバッテリーを組めていたかもしれなかった。
だけど俺は思い出してしまった。
アイツの事を。

「吾郎くん。」
「・・・ん?」
「好きだよ。」
「な、なんなんだよ、いきなり・・・!」
「君がどこへ行こうと・・そう、アメリカに行こうが、どんなに離れていようが・・・僕は君が好きだ。」
「・・・わかってるよ、ンな事は・・!」

俺は照れ隠しに、瞳をそらした。
俺の瞳に映る景色が、ゆっくりと下へ動いていく。
俺達は今、2年前夢島の仲間達と皆で遊びに来た遊園地の観覧車に乗っていた。

あの時は夕暮れ時で
夕焼けが綺麗だった。

今は夜。
しかも特別な日・・・クリスマス・イヴの夜。
あんなに夕日が綺麗だった海のある方向には、無限の闇が広がっていた。
海と反対方向に目を向ければ
街の灯やクリスマスのイルミネーションがキラキラと輝いて・・・とても綺麗だった。

あの頃と今は違う。
同じ観覧車に乗っても、見える景色は違う。
俺達の立場も違う。
二年前の・・・あの頃の俺達は、ほんのひよっこ。
でも・・・同じ夢を見つめて、寿也とも皆とも未来を語り合った。
思い出せば、つい微笑みが漏れる、そんな時間。

今の寿也は、日本中の誰もが知っている甲子園のスター。
そしてドラフトの華。
来年の春には華々しいデビューが待っている。
対して俺は全くの無名選手。
無謀にも単身アメリカへ飛んで、トライアウトを受けるしかない身。

来年の俺達はきっと、いや間違いなく今の俺達とはかなり違ってくるだろう。
でも、どんなに違ってしまっても、どんなに離れてしまっても・・・・・。

「俺も・・・お前が好きだ、寿。」

海堂を飛び出して、寿也のすごさを改めて思い知った。
そして寿也とこういう関係になって初めて離れ離れになって・・・
やっぱり俺はお前が好きなのだと・・・思い知らされた。

俺はお前が誇らしい。
お前に認められる自分が誇らしい。
そしてお前を誇らしく思ってるだけじゃなく
当然!
自分のビッグな夢を叶えるために、単身アメリカへ、メジャーリーグへ殴りこみをかける。

お前はきっと新人ながら活躍して素晴らしい結果を残すだろう。
俺はその頃にはメジャー入りを果たしてる!

違う国、違う生き方、違う未来。
でも俺達はここにいる。
生き方は違っても
今、この瞬間は同じ場所にいて、そして同じ想いで・・・・・。

引き寄せあうように唇を重ねた。

あの時と同じように。
でもあの時とは全てが違う。



好きだ・・・好き・・・・こんなに好きになっているとは思わなかった。

寿也の瞳。
深い海の色のように綺麗な・・・不思議な色合いの瞳。
その瞳には今、俺だけが映っている。

離れても、違う生き方をしても
また必ず、俺達の道が交わる時が来る。
この瞳に俺だけが映る時間が訪れる。
絶対・・・訪れる。



「吾郎くん・・・。」

寿也の唇がずらされて行く。
耳へ、首筋へ。
寿也の唇、吐息、抱きしめる腕。
俺は寿也にしがみついた。
だめだ・・・こんなんじゃ全然・・・でも、こんな所でこれ以上は・・・・。


「寿・・・。ホテル、行こ・・・。」
俺は寿也の耳元で囁いた。
「え・・?」
「クリスマスプレゼントは・・・お前以外、ありえねえ。
俺・・・もっと・・お前を・・・これじゃ、まるで寸止め・・このままじゃ、生殺し・・・・。」
俺はしがみつく指に力を込めて、精一杯、心からの願いを言ったのに。
寿也はクスッ・・と笑った。
「なんだよ、おかしいか?」
俺は照れ隠しにわざと怒ったように言ったが。
「違うよ。僕も同じ事、考えてた。」
俺達は瞳を見合わせると、クスクスと笑いあった。

そしてもう一度、触れるだけのキスを・・・。

「メリー・クリスマス、吾郎くん。続きは後で、ゆっくりと・・・ね。」





大きなクリスマスツリーのイルミネーションを輝かせた観覧車は、ゆっくりと回っていく。

その一室で。

俺と寿也の・・
遠い未来まで、間違いなく大事な思い出となって心に残る時間が
静かに、ゆったりと流れていった。



先の事は分からない。
これから俺達は同じ野球の道だけど異なった道を行く。
まさに新天地。
がむしゃらに頑張るだけだけど・・・
自分がどうなっていくのか、不安が全くないわけではない。
来年会う時は、間違いなく・・・今の俺とは違う。
今の寿也とも。

でも今、このひと時は
俺達は同じ時間を共にして同じ気持ちでいられる奇跡を噛み締めていたい。


そしてそんな奇跡は、きっとこれからも何度も訪れるだろうと確信している。




寿也。
大好きだ。
誰よりも誰よりも・・・自分でもおかしいんじゃないかってくらいに
お前を愛している。
そんなお前に出会えた事は・・・
二年前、お前が話してくれたように、きっととんでもない奇跡。


違う国、違う生き方、違う未来。
それぞれの生き方をしっかり生きながら
俺達はこれからもずっと・・。
心は、心だけはお前の傍で、お前と共に生きていけるよう・・・願いを込めた

クリスマス・イヴの夜。














end


この話は「同じ時を君と」の続きの話です。
出来ましたらそちらから読んで下さると嬉しいです。

夢島の後の馬鹿騒ぎなノリの話から、今度は進路が決まったその後のクリスマス。
夢と希望と不安で・・大変だったでしょうね。
トシゴロは離れ離れな事が殆どでしたが、ここまで離れた事はない。
しかも、多分海堂時代にねっとりしょっぽりした仲になってしまって
そんな状態になって、初めての超遠距離。
そんな事を思いながら書きました。
なんだか収拾がつかない話になってしまって申し訳ないのですが・・・。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!!
(2010.5.27)
↑季節外れにも程がありますね・・・すいません!!





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