今日は7月7日。
・・・・・。
あいつに教えてもらったんだ・・・ずっと前に。

「tanabata・・・・。」
遠い遠い東洋、あいつが生まれた地の伝説。
一年に一度だけ、出会うことを許された恋人同士。
年にたった一度の・・・逢瀬。

元来、働き者であった二人なのに
恋が実った途端、全く働かなくなってしまった為
天の怒りをかって、そんな罰を与えられてしまったらしい。

─────馬鹿な話だ。
セックスばかりして碌に仕事もしなくなれば、親である天帝の怒りをかって当然。
愛だの恋だの奇麗事を並べても、行き着くところは所詮、セックスなのかもしれん。
俺自身、何人の女と付き合ってきたかなど忘れてしまったが
気付けばセックスばかりだった。
そもそも俺は女達を、最初から性欲処理の相手としか見ていなかった。
どうせスるなら美人でプロポーションがいい方が良いと・・それだけだった。
女はどんなつもりで俺に寄って来たのか知らんが、思い出す限り似たような理由だろう。
「愛してる・・。」
そんな言葉はいつも薄っぺらかった。
躯は繋がっても・・・心はバラバラ。
しかし躯の構造上、シたら気持ちよくなる。
そして射精する。それだけの事。

全てがそうだとは勿論思わない。
そうではないカップルもいるだろう、躯が全てでないカップルも。
しかしセックスしかないカップルが世の中に溢れているのも事実だ。
そして、それにのめり込み過ぎる奴らがいるのも事実。
tanabata。
一見ロマンチックに見えて・・・そんな奴らが罰を受けた・・案外、下世話な話。
まあ、俺は茂野にちょっと聞いただけだ。
全く間違った解釈かもしれん。
東洋人に聞かれたら、腰を抜して驚かれ、そして怒られるかもな。


・・・・・・。
俺と茂野は違った。
確かにセックスは俺達の最高の愛情表現の一つであり
実際、茂野とのセックスは・・・言葉にできない程、崇高で甘美で・・・
こんなセックスがこの世にあったのか
セックスをする上で、心がこんなに大事であったとは・・・
茂野と出会って俺は初めて知った。
だから俺と茂野にとってセックスはやはり特別なものだったが・・・しかし俺達はそれだけじゃなかった。

マウンドの上の茂野。
あの緊迫した瞬間。
痺れるほどの凄まじい球。
本気の茂野が本気の俺に投げるジャイロボール。
あいつの球が唸りを上げて俺のミットに吸い寄せられる、あの手ごたえ、歓び。
バットが空を切ったその時、瞳で全てを分かち合い・・・・。
俺達にとっては試合もセックスのようなものだった。
究極の愛情表現。
駆け引き、興奮、快感、そしてエクスタシー。
男同士の性交は何も生み出しはしないが
俺とお前と・・・そして仲間達と戦う、濃厚で充実した、他の何にも代えられないあの時間の先には
夢が、栄光が待っていた。
仲間と共に分かち合える、歓喜の瞬間が待っていた。

その栄光への輝かしい道を、苦難の道を
ずっと、お前と歩いていけるものと思っていた。
危なっかしいお前の手を俺はしっかりと握って離さずに
これからもずっと二人で、お前と共に─────────。



今日は七夕。
茂野に教えてもらわなければ知ることはなかっただろう、七夕。
織姫は機織りがとても上手かった事から
いつの頃からか織物が上達するよう、娘達が願をかけるようになり
現在の七夕の願い事の習慣が生まれたらしいが・・・。

以前、茂野にこの話を聞いた時、俺は言った。
「俺は他力本願は嫌いだ。願いは自分で叶えるさ。」
「・・・願いなら既に叶っている。」
「アルタイルやベガよりも・・・お前のその瞳に願いたい・・。
ずっと、これからも・・・共に・・・・・・。」

思い出すと・・淡く、甘い気持ちと共に・・・胸が締め付けられる。
突き上げられる苦しみに翻弄される、掻きむしられる。
ガラにもなく、涙が溢れそうになる。震えが、体中を駆け巡る。
こんな気持ちは、知らなかった。
茂野、お前を手放すまでは・・・・知らなかったんだ・・・・・・。




今日は七夕。

俺は、やはり他力本願は嫌いだ。
嫌いだが・・・
自分の力では、どうしようもない事もあるのだと・・・・今、つくづく思い知らされている。

アルタイルよ、ベガよ───────。
どうかあいつが・・・茂野が・・・・野球を続けられるよう・・・!!
お前達が魔法使いでないのは承知している。
だから肩を治せ、などとは言わん。
せめて・・・・あいつから野球を取り上げないでくれ。
そして・・・いつまでも野球と家族の幸せが・・・あいつと共にあるよう・・・・頼む・・・・・!!


俺にはもう・・・アイツには何もしてやれないから・・・
遠い異国の地で、祈る事しか出来ないから・・・・・!!


この願いを、七夕の今日、アルタイルとベガの名の下に。


茂野、お前が幸せであり続けられるよう────────────。










end


アニメ6thで怪我をしたキーンがマードックに吾郎を語る!
あの話を見て、キーンが吾郎にメロメロに惚れているのを見て
そして七夕が近いことを思い出したら、頭にこの妄想が・・・。
キンゴロSS「七夕の夜に その1」と関連付けてみましたが、未読でも問題ないと思います。

さて。これは吾郎が肩を壊してメジャーを引退、帰国後の話です。
「七夕」という切っ掛けで、遠いアメリカから吾郎を想う、そんなキーンが頭に浮かんでしまって。
ちょっと未練がまし過ぎるのが気になっています。そして妙に理屈っぽいのも。
キーンはこんなじゃないだろう!!とも思いますが・・でも本気で好きになった相手になら
このくらい・・例えキーンでも未練が・・とも思ったり・・・。

それでは、ここまで読んで下さり。ありがとうございました!
(2010.7.5)





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