じりじりと照りつける太陽。
歓声が・・・遠い。



ミットを構えるチームメイトと・・・
バッターボックスに立ちはだかる強打者。

この試合、最大の見せ場・・・ってヤツ。




俺は額の汗を腕で拭い、唇を舌で舐める。
この汗は暑いからじゃない。
どっちかってーっと・・・・・・・・冷や汗だ。



プロ野球の選手になるより、大事な何か。



たとえ肩がぶっ壊れても・・・・俺は・・・・・・!!!














その瞬間、瞼の裏には・・・・・
死力を尽くして戦った横浜リトル戦、あの日仰いだ青い空
そして三船リトルの・・・掛け替えのない仲間。

それから・・・・・・・。


寿也────────────。
























空が・・・青い・・・・・。
俺に何があっても、どんな気分でも
あの日と同じように・・・空は・・・・・・・・。

「・・の・・・・げの・・・・・・・茂野!!」
「・・・!!あ、はい!・・・・え、え〜っと・・・・。」

そうだった。ここは教室、そして授業中。

急に現実へ引き戻されて呆然とする俺に
先生は怒るというより呆れ顔。

「もういい。座りなさい。」
「・・・・はい。」
「・・・・茂野・・。いい加減シャキッとしろや。」

ボンヤリ見上げる俺に溜息をつき元気付けるように背中をポン・・・とたたくと
先生は何事もなかったように授業の続きを始めた。
先生は野球好きでおとさんのファンでもあったらしく以前から応援してくれていた。
そして、きっと今は心配してくれてる。


元チームメイトや監督も。
かーさんもオヤジも。
そして先生も。

心配してくれてるのはわかるんだ。
まるで腫れ物にさわるみたいに。

ダメなんだ・・・。

今の俺は・・・元気なフリどころか
心をどっかに置き忘れちまったみたいに
抜け殻のように───ただ、生きているだけだった。








何もかも・・・・・終わったんだ─────────。





















あの日から何日過ぎたのか何ヶ月たったのか。
その間に何があったのか


全くの空白。





学校から家に帰る途中の大きな川沿いで
何を見るともなく、考えるともなく、ただ───時がたつのも忘れて景色をながめる。

それが最近の日課だった。

ふと気がつくと辺りは薄暗くなっていて。

「・・・・そろそろ帰んねーと・・・かーさんがうるさいからな・・・。」
誰に呟くともなく呟いて家路へとつく。


ここにあの清水でもいたら怒鳴られ背中をバシッと叩かれそうだが、清水も小森もここにはいない。

「あれ・・・俺、何考えてんだ・・・。懐かしいのか?・・・・ガラでもね〜・・・。」


寿也がいたら・・・・なんて言うだろう。

寿也・・・。
寿・・・くん・・・・・・・。



そうだ。こんな事が前にもあった。
そう。ずーっと前。
あれはおとさんが死んで、かーさんと暮らす事になった・・・・あの日。
 
野球をやめようと思った。
見るのも辛かった。
大好きなおとさんを、どうしても思い出してしまうから・・・。



でもあの日、寿也が泣きながら叫んだんだ。


「最後にこのグローブで、もう一球だけ吾郎くんの球、捕らせてよ!!」

「ダメだよ、吾郎くん!野球やめちゃ!!
会えなくなっても僕は吾郎くんに教わった野球はやめない!!
だから吾郎くんも・・・・
おとさんに会えなくなっても・・・・
おとさんに教わった野球をやめちゃ絶対ダメだよ!!」

「寿くん・・・。」

「さあ!!」

「そしていつかまた─────
きっと一緒に野球やろうね!!」

「うん!!」



あの時。
俺は寿也がいたから立ち直る事ができた。

寿也があの時・・・・ああ言ってくれなかったら・・・・・
あの時、別れのキャッチボールをしなかったら・・・・・・・・・。






でも、もう・・・・だめなんだよ、寿也──────。

俺の肩はぶっ壊れちまった・・・・。

俺の人生は俺が決める。
その・・・結果だ。
後悔はしてない。


ただ──────
約束、守れなくて・・・・悪いな・・・・・・・寿・・・・・・・・。























「サウスポー?」

思いがけない言葉。



「やってみる価値はある。」

「いつまでもすねてっとブン殴るぞ、茂野吾郎!!」



オヤジの一言が俺に光明をもたらした。

あの日から。
はじめて一筋の光が俺に差し込んだんだ。


「ダメなら茂治と同じ、野手だっていいじゃねーか。」


あれからはじめて、希望に胸が躍った。





死ぬ気でやって、もしダメなら野手に転向すればいい。



そうだ。
俺、何勝手に決め込んでいたんだろう。


左。
ほとんど使った事のない・・・。


俺には、まだ・・・・。

立派な左肩が残ってるじゃないか───────!!






ポタポタポタッ・・・と抱えた膝に水滴が落ちた。
俺は・・・涙を流していたらしい。

オヤジは何も言わず、そっと抱きしめてくれた。

あの時と同じように。
おとさんと同じ・・・強くて優しい瞳をしていると感じた、あの時と・・・・。










おとさん・・・。
俺、もう一度やってみるよ。

天国からさ
おかさんと一緒に見ててくれよ?


茂野吾郎の・・・・悪あがきを!!





















翌日。




とにかく。投げてみよう。

左手でボールを持っただけでなんだか変な感じだ。
とはいえ、やっぱりボールに触れるのはいいもんだ。
それだけで気持ちが引き締まる。
武者震いのような・・・笑みが思わずこぼれる。
こんなにワクワクすんの、久しぶりだ。


「さあ、茂野吾郎、記念すべき再起の第一球を・・・・・・」

振りかぶって・・・・・・左手を伸ばす────────。

「投げました〜〜〜〜〜〜!!!」

ポーン、ポンポンポン・・・・。

「へへっ・・・。参ったね。これじゃー昔の清水以下だよ・・・・。」

なんだとーーーー!?という女とも思えない怒鳴り声が聞こえてくるようだ。

予想はしていたが相当酷い。
(「オイ!それはあたしがヒドイって事か!?」と聞こえてきそうだが、それはさておき。)

でもっ!
そのほうが努力し甲斐もあるってもんだ!






それからは毎日が楽しくなった。
俺には目的ができたから。

大きな目的。
不可能とも思える壮大な夢。


野球に懸ける情熱なら誰にも負けないって自信がある。
野球のためならどんな事だってできる。

どんな過酷なトレーニングだって、辛いどころか喜びさえ感じるんだ。





日に日にマシになっていく左からの球。

大丈夫。きっとできるさ。


そしていつか───。
必ずあのマウンドへ返り咲いてやる!!





吾郎の左から伸びた球は大きく弧を描き
吸い込まれるように夕暮れの川原に消えていった。




















時は流れ、そして────。



「じゃ、先に行ってっから!」
「ちょっと吾郎!いくらなんでも自転車で福岡から横浜までなんて無茶が過ぎるわよ!
やっぱり、かあさん達と一緒に飛行機で・・・・。」
「大丈夫だって!こんないいトレーニングの機会、逃せるかよ。さあ、行くぞ!ゴロースペシャルU!!」
「ちょ・・・・吾郎!!」
「アッチの俺の部屋、寝れるようにしといてくれよ〜〜〜〜〜!!!」
「吾郎〜〜!!たまには電話くらいしなさいよ〜〜〜〜〜〜!!!」

振り向きもせず片手を上げて大きく手を振り、みるみる小さくなっていく息子に
桃子は満足げに微笑んだ。

「ったくもう!無茶なんだから!」









さ〜て横浜までどんだけかかるかな〜。

三船町に戻るのも久しぶりだ。
引越し以来だからな。やっぱ、懐かしいな。

小森や沢村、清水は・・・まあ相変わらず元気だろうな〜。

一緒に野球、やりてーけど・・・・ここは我慢我慢!




寿也は・・・どうしてるだろ?

アイツの事だ、横浜シニアで活躍してんだろーな。




寿───。

あの日の約束、どうやら破らずにすみそうだ。

お前が覚えてるかどうかは分かんねーけどな。


でも、俺を奮起させたのはオヤジの言葉と・・・・

遠い日の、お前との約束・・・・・・なんだ。



ありがと・・・・・な?

面と向かって言うのは照れるから・・・・でも、感謝してるぜ?



お前に会う日を

楽しみにしてる。




ものすんごく強くなった

お前と・・・・・・さ。












爽やかな春風を切り

颯爽と走るゴロースペシャルU。



吾郎の表情は

その穏やかな春の日差しのように

希望の光に満ち溢れていた。














end



MAJOR 2ndステージの冒頭で、福岡で吾郎が肩を痛める瞬間のシーンがありますよね?
再放送でこのシーンを見て、ヤラレてしまいました。
リトルの頃より少し伸びた身長。でもまだまだ子供で・・苦しそうな喘ぎ声が!
くまいさんの声が〜〜vv。
で、ムラムラと福岡での吾郎を書きたくなってしまって。
とはいえ別段なんということもないシロモノですいません・・・。
CP要素も殆ど皆無だし・・。

ここまで読んで下さりありがとうございました。
(2006.8.8)


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