その日は朝からとても良い天気で。
抜けるような青空が心地よく
降り注ぐ太陽の光が木々の緑をより美しく輝かせていた。






吾郎くん──────。

君にはじめて出会ったあの日から、20年近く経ったね。
多分僕は、気付いていなかっただけで
初めて君に会ったあの日、恋に落ちたんだ。
その気持ちに気付いたのはずーっと後になってからだけど
幼いあの日から、この日が来るのを僕は待ち望んでいたように思う。

君はいつもピュアでアグレッシブで。
そしてどこまでも野球本位。
そんな君の生き方に怒りを感じた事もあったけど
それは僕が君を好き過ぎたあまり
君を僕の元へ置いておきたくて・・・そんな気持ちからの僕の我侭だった。

僕はいつだって
あの幼き日の、あのままの
立ち止まらない君が好きなんだ。

どこまでも自由にのびのびと、思う存分暴れておいで。
アメリカと日本じゃ会う事もままならないけど
大丈夫。
僕達の絆は毎日会ってなきゃ切れてしまうような、そんな安っぽいものじゃない。

あの日、君に会えたのも運命。
決して偶然なんかじゃない。
そして今日、この日を迎えたのも・・・・。

愛してるよ、吾郎くん。
これからは二人で生きていこう。
どんな困難も君となら乗り越えられる。
何があっても僕が君を守るから・・・・。
これからもずっと、二人で・・・・。



これ以上の幸せはない───────。

僕はそんな思いで
バージンロードをゆっくりと真っ直ぐに、僕の元へ歩いてくる吾郎くんを見つめていた。













ここはカナダのとある教会。

そこには正装した吾郎とギブソン。
「私が本田の代役を務めることになろうとは・・・本田が天国で怒ってるかな。」
「・・・それはないと思うぜ?それより俺の相手が男だって事の方が問題かもな。」
「・・・。同性愛の事は私には良くわからんが、Jr.もお前にご執心のようだったし
お前にはそういった魅力があるのかもな。」
「な、なんだよ・・それ!」
「とにかく。おめでとう。この晴れ舞台に吾郎の父親役ができて嬉しい。」
「・・・・ギブソン・・・。」
「さあ、行くぞ。Jr,の仇が待っている。」
「・・・。あのなー、もうちょっとマシな言い方、ねえのかよ・・・。」
俺はその発言に呆れながら、父親代役のギブソンの腕を取った。



当然と言えば当然だが、親父は最後まで反対だった。
苦肉の策としてその役をギブソンに頼んだ。

でも、きっと心の奥底では許してる、って
母さんがメールで伝えてくれた。
結局は好きなヤツとでないと上手くいきっこない、ってブツブツ言ってたって。

ありがとな、親父。
そして本当にすまねえ。
血の繋がりもないのに実の息子みたいに愛してくれた。
恩を仇で返しちまって・・本当にすまなかったって思ってる。
日本じゃ日陰者だよな。笑い者だよな。
わかってる、俺だってそれくらい。
でも、俺も寿も生半可な気持ちじゃねえ。
・・・親父、母さん。
今までありがとう。


落ち着いた深い赤色のバージンロードが真っ直ぐに伸び
その脇には花々が飾られて
向かう先には神父とそして俺の生涯の伴侶。
そこを目指して俺はギブソンとゆっくり歩いていった。

神秘的な光を彩るステンドグラス、美しく響くパイプオルガン。
この曲、なんていう曲だろう?
聴いた事はあるんだけど・・・ま、俺が知ってる訳ねーか。
そんな事を考えながら進んでゆく。

そしてふと見ると、そこには寿也がこれ以上ないくらいの穏やかな笑顔で俺を迎えてくれていた。

・・・・・・それにしても。
寿也のヤツ、何考えてんだよ!!
ウエディングドレスなんて女の着るもんだろーが!!
・・ったく、なんで俺はこんな変態なんかと・・・・。

微笑む寿也を殴ってやりたい衝動に駆られるが、ここはじっと我慢。

神父の所まで来るとギブソンが俺の手をとり、寿也へと送り出してくれた。

そして共に神父の前に立つ。


神父が何か言ってる。
俺と寿也に返答を促している。

・・・・。
・・・言いたくねー・・・。
こんなヤツとずっと一緒にいたら俺の身が持たねーっつーの!!
あんな目やこんな目・・・様々な場面が思い出されて
そして今、現在の自分の姿を思うと自然、拳に力が入る。
絶対に言いたくね〜〜!!

しかし、ここまで来て駄々をこねる訳にも・・。
俺は仕方なく、ふて腐れながら答える。
「誓いま〜す。」と。
一方寿也はあの甘い透き通るような声で朗々と答えた。
それを聞いて俺は不覚にも・・・胸がドクン・・・と高鳴ってしまって。
そんな状態のままの俺は寿也と向かい合う。
ヴェール越しに見てもわかる。
幸せな、感無量とでもいうような寿也の表情。
この顔を見たら・・・俺のこの屈辱的な姿も何もどうでも良く思えてくる。
寿也が今、ヴェールを開け、そして近づいてきた。
俺は瞳を閉じる。

柔らかい温かな良く知ったその感触が唇から伝わり・・
今まで何度も何度も数え切れないくらい唇を交わしてきたのに
それなのに未だにドキドキしてしまう。頬が紅く染まっているのもわかる。

唇を離し、寿也が俺を見つめている。俺だけを・・。
この柔らかな笑顔、その瞳には俺だけが映っていて。

・・・・・・。
ちくしょう・・・大好きだ・・・・・・。

俺は・・素直に負けを認めた。



「行こう、吾郎くん。」

促されて見ると、扉が大きく開け放たれていた。
扉の向こうは青空が広がり
友人達によって空に撒かれた、舞い踊る花びら
降り注ぐ太陽の光、鳴り止まぬ拍手。
その様子に驚いていたら、ふわり・・・と体が宙に浮いた。
「おわ・・・!!お前、なにしてんだよ!」
「いいじゃないか、別に。」
「よかねー!おろせったら!!恥ずかしいだろうがっ!!」
ジタバタとする俺に寿也は真顔で言った。
「夢だったんだ。君をこうやって抱きながら教会の階段を下りるのが。」
寿也のこの瞳。
この澄んだ、不思議な色をした・・・吸い込まれそうなこの瞳。
卑怯だ。
そんな瞳で言われたら、俺、逆らえねーじゃねーか!
恥ずかしかったけど、仕方がないからそのままで居てやった。
すると寿也が
「吾郎くん、ブーケ、投げなよ。」
ニッコリと言う。
「早く。」
言われるがままブーケを投げた。
百合の花束が大きな弧を描き落ちていく。
誰が取ったんだろう?
俺は確かめる事が出来なかった。
花束を投げた次の瞬間、寿也に唇を塞がれたから。

俺はこの日の事、絶対忘れない。
この青空、空に舞う花びら、百合のブーケ。
俗に言うお姫様抱っこは恥ずかしかったけど
寿也の腕はしっかりと俺を抱いて・・・なんて言ったらいいんだろう・・・幸せ・・だった。


式が終わり、今度は披露宴。
・・というのは大げさかな。
ちょっとした立食パーティ。
寿也は残念がったんだけど
俺はもう、これ以上こんな恥ずかしい姿は耐えられない!
今度はタキシードに着替えてのパーティだ。

かつてのチームメイトや今のチームメイトに冷やかされ
昔の話やこれからの話に花が咲き
俺と寿也は肩を組んで心から笑った。













その夜──────。

「はあ〜〜〜〜疲れた〜〜〜〜〜〜っ!!」
そう言いながら吾郎は盛大にベッドへ寝転んだ。
「さすがの吾郎くんも疲れたみたいだね。」
「まあな。トレーニングならどんだけやっても平気なんだけど、ああゆうのは性に合わねえ。」
吾郎のぼやきを聞きながら寿也もベッドに横たわった。
そして。
「吾郎くん、これからもよろしく。」
寝転びながらとはいえ、改まって言われて吾郎は思わず頬を染めた。
「お、おう・・・。」
照れながら答えると
「吾郎くん、そういう時は「不束者ですが、よろしくお願いします。」って三つ指ついて言うんだよ?」
などと言いながら寿也は吾郎を組み敷いた。
「三つ指つかせたいくせに押し倒すか?」
「言ってみただけさ。それに、三つ指ついたって結局はこうするんだし。」
「違いねえ!」
ははは・・・と吾郎は笑ったが。
「寿。」
「なに?」
「あのさ・・・。よろしく頼むぜ?」
「吾郎くん・・・。」
瞳をそらして照れくさそうに言う吾郎が可愛くて愛おしくて。
改めて寿也は喜びをかみしめた。
だが、組み敷いた体勢のまま動こうとしない寿也に
「どうしたんだ?」
半ば急かすように吾郎が聞くと
「うん・・・幸せすぎて怖いなんて事、本当にあるんだね。」
「・・・何言ってんだよ。」
吾郎は笑うが寿也は真面目な顔をしていた。
「吾郎くん・・・君は僕のものだ。一生離さない。」
「俺も一生離れてやんねー!」
そして二人、クスクスと笑いあった。
笑みが途切れると、吸い寄せられるように唇を・・・・。




あの日出会えた事は奇跡でも偶然でもない。
今日、この日を迎える事ができたのも。

こうなる事が、きっと僕らの運命。



これからもよろしく。

一生・・・一緒だよ────────。
















end

ウエディングドレスのトシゴロもタキシードのトシゴロも
どちらも素晴らしく涙ぐんでしまいました。
・・・そして魅入っていたら手が動き出してしまって・・出来たのがこの文です。
結婚しちゃったよ・・あはは・・もう、笑うしかない・・すいません!

ところで。
何故カナダかといいますと・・カナダでは同性婚を認めているので。
現地に住んでなくても式を挙げてくれるそうです。
アメリカの隣だし、ちょうど良いかな・・と。
でも、基本的に教会側は同性婚に反対だそうで
普通は教会での式は挙げられないそうですが
まあ・・素人の作文なのでやりたいように、やってしまいました。
すいません・・。

それではここまで読んで下さりありがとうございました!
(2009.4.28)


オマケ

1R終了後。
「ねえ、吾郎くん、あのウエディングドレス、着てみてよ。」
「はあ!?冗談じゃねえ!二度とあんなモン・・!」
「ウエディングドレスプレイは男のロマンだよ!?」
「な、何考えてんだよ・・・・って・・お前、もう着せる気満々じゃねーか!!」
「だって・・これを着た吾郎くん、すごく綺麗だったよ?
すぐにも連れ去りたいくらいに。
あの時僕がどれだけ我慢したか。少しはわかって欲しいね。」
「わかって欲しいのは俺の方だ!こんなもん着せられてどんだけ屈辱だったか!」
「屈辱?いいね、それ。
ウエディングドレスプレイに屈辱プレイ。ふふふ・・・。」
「やっぱり間違ってた・・・誰がお前なんかと生涯を共にできるかよっ!!」
「ダメだよ。もう神様の前で誓っちゃったんだから。さ、袖を通そうね、吾郎くんvv。」
なんだかんだと結局再び花嫁衣裳をその身に纏わせてしまう。
そして寿也は吾郎を大きな鏡の前に立たせた。
「ホラ、こんなに綺麗だ。」ニッコリv。
そんな吾郎を後ろから抱きしめ唇付けて。
舌を交わしながら寿也の手が妖しく動き始める・・・。
「・・っ、・・〜〜っ!!」
唇を塞がれているので声が出せない吾郎。
そしてそして〜〜〜。おほほvv。






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