「・・・・。試合ができないかもしれないってどういう意味だろう?」
偵察に来ていた三船リトルのメンバーがそそくさと帰ってしまう後姿を眺めながら涼子が言った。
「さあ・・・。」
「寿也君。」
「?」
「吾郎くんと会ってみようか。」
涼子がニッコリと笑う。
「べ、別に僕は構わないけど・・・。」
寿也は戸惑いを覚えた。
最近寿也はおかしな想いに悩まされていたのだ。
それは幼きあの日から、何年もたって吾郎に再会してからだった。
吾郎に会えたのが嬉しかった。とても嬉しかったのだ。
だから横浜リトルに吾郎が入らない、と聞かされた時
心から悲しく思った。
それから。
吾郎が絡むと感情の振幅が激しくなる事に最近気づいた。
合宿で会えた時にも感じたが、この湧き上がるような喜びや悲しみはなんなのだろう?
また吾郎に会える。
それが嬉しいような会いたくないような・・複雑なこの想い。
そしてその日はやってきた。
3人でバッティングセンターに行ってハンバーガーを食べて。
とても楽しかった。
吾郎が笑う。涼子が笑う。寿也も笑う。
そんな小さな一つ一つの出来事がとても嬉しく、そして輝いて見えた。
涼子があの爆弾発言をするまでは。
「帰る。」と宣言した吾郎、真実を聞き追いかける涼子。
さらにそれを追いかける寿也。
涙する涼子に渡されるハンカチ、涙の和解。
それを少し離れた所から眺めていた寿也。
チクリ・・・と胸に痛むものを感じた。
───そうか・・・・。僕は・・・・・。
寿也がはじめて想いに気づいた瞬間だった。
寿也は嫉妬していた。吾郎に、ではない。
涼子に、だ。
寿也の知らないうちに二人は出会ってハンカチを貸した。
寿也の知らない、二人の時間。
───そうか・・・そういう・・・・事か・・・・・・。
それで今までの全ての感情に納得がいった。
───僕は・・・・吾郎くんが好きなんだ・・・・・・。
寿也は自分がマイノリティだった事に少々戸惑いを覚えた。
だが。
この気持ちは確かなものだ、そういう妙な確信があった。
───吾郎くん・・・試合で会えるのを楽しみにしているよ。
寿也は人ごみに紛れていく吾郎の背中に心の中で話しかけ
そしてニッ・・と強気に微笑んだ。
end
アニメ第1シリーズを見ていてなんとなく思いついた話です。
多分この辺りで寿也は自分の気持ちを自覚したんじゃないかと思って。
ここまで読んで下さりありがとうございました!
(2008.9.2)