「吾郎くん、吾郎くん・・・。」
朝日が差し込み、白く輝く部屋。
小鳥のさえずりも聞こえてくる、二人の部屋の・・爽やかな朝。
「吾郎くん、起きて。」
幸せそうな顔をして眠る吾郎。
寿也もそんな吾郎の眠りを、できる事なら妨げたくないのだが。
「ほら、早く!今日はアメリカに発つ日でしょ?」
・・・と言われて飛び起きた吾郎。
「・・・そうだった・・・。サンキュー、寿。」
「どういたしまして。」
そして「おはようのキス」を交わす。
「早く準備しなきゃ!こんな日に寝坊だなんて、・・ったく吾郎くんは!!」
そう言って急かす寿也に
「・・お前が言うか?なかなか寝かせてくれなかったのは寿也だろうがっ!」
「え?」
「俺が何度も何度も、「もう限界!」って頼んでんのに
ちーっとも離してくれなかったのって・・・誰だったっけ・・・・・。」
どよ〜んと寿也を睨み付ける吾郎。
「い、嫌だな〜。これで当分会えないから、1シーズン分抱いてくれって言ったのは吾郎くんだろ?」
「だからってあんなにされるとは思ってねえっつーの!」
「その割には感じてたよね。もっと、もっと・・・って強請ったのは君の方だったろ?
あんな顔をされたら、誰だって放したくなくなる。」
真面目に言い切る寿也に吾郎は思わず頬を染めた。
そんな顔でそんな事言われたら・・・昨夜の事を思い出してしまう・・・。
「アメリカへ行っても寂しいからって別の男にあんな顔、しないでよ?
特に・・・あの男、ジェフ・キーンの前では。」
「・・・・・・!!」
「約束できる?」
寿也はあと数cmで唇が触れる、という至近距離で吾郎を見つめた。
「あ、アイツはとっくに俺なんかお呼びじゃねえよ!」
吾郎は慌てて答えるが
「そう思ってるのは吾郎くんだけだよ・・。
残念ながら・・君にその気があろうがなかろうが、君は男を惹き付けるから。」
「・・・・。」
寿也の吾郎への執着心がその言葉には込められていて
その不思議な色合いの綺麗な瞳で見つめられて
自然に・・・胸が高鳴ってしまって・・・・。
寿也もそれに気付いたのだろうか、そのまま僅か数cmの距離を詰め、唇付けた。
多分これが最後の唇付け。
これを限りに半年以上は会う事も出来ない。
「君は・・・僕のものだ。離れていても・・・・。」
触れた場所が、唇が・・熱い・・・・・。
「寿・・・・。」
しつこいくらいに舌を絡ませて、摩り合わせるとすぐに熱を思い出してしまって
体の中心がジン・・と痺れてしまって。
「だ、だめだ、寿・・・・俺・・っ!」
「ゴメン、シたくなっちゃうね。さすがにそんな時間、ないもんね。」
「俺、大丈夫だから。お、俺・・・・お前が・・・好き、だから・・・・。
もう、誰にも・・触れさせやしない・・から・・・・。」
吾郎が言っても説得力がない、と思ってしまった寿也だが・・・信じるしかないのだろう。
魔性の吾郎を愛してしまった、それが自分の定めだと・・・寿也は思うしかなかった。
でも、たとえ誰かに抱かれてしまったとしても
吾郎は寿也を選んでくれた。
吾郎が寿也の元へ帰って来る限り・・・・寿也はそれでよし、とするしかないのだろうと・・・半ば諦めていた。
「ありがとう、吾郎くん。」
そしてもう一度、今度は触れるだけのキスをすると
「とにかく!早くしなきゃ!!飛行機に乗り遅れたら大変だ!!」
「おお、そうだそうだ!!」
慌ただしい朝。
愛する者から離れる寂しさを、この慌ただしさで紛らわして。
「パスポート持った?」
「ああ。」
「チケットは?」
「大丈夫だって!ガキじゃあるまいし。」
「じゃ、行こうか。」
「・・・・ああ。」
そうして、二人の部屋のドアをパタン・・と閉めた。
今度ここへ帰って来るのは・・・・ずっと先。
今度ここで寿也に抱かれるのは・・・・・途方もなく・・・・・・。
吾郎は胸に沸き起こる寂しさをどうしてよいのか分からなくなった。
もう引き返せない、でも・・・。
ドアの鍵を閉めた寿也。
その一つ一つの動作がスローモーションのように吾郎の目に焼きついて。
寿也の姿・・・
その穏やかな甘いマスクとは正反対のガッチリした体、厚い胸板、鍛え抜かれた太い腕。
ちょっとした仕草、癖、そして甘く囁く声。
軽くカールした髪。指でその髪を梳くと柔らかくて気持ち良くて・・・。
何もかもが愛おしくて・・・・何もかもが辛くて・・・・・・・。
感情が溢れてたまらなくて・・・吾郎は思わず寿也に抱きついた。
「ご、吾郎くん?」
「抱いてくれ・・・・強く・・・・っ!」
「吾郎・・・くん・・・・・。」
「強く・・・・もっと・・・・・壊れるくらいに強く抱いてくれ・・・っ!!」
寿也も気持ちは同じだ。
離れたくない。放したくない。
これからの半年が永遠のように思える。
「吾郎くん・・・吾郎、く・・・ん・・・・・・!!」
互いに互いの体を抱きしめる腕の力を刻み付け合い
愛しい者の体温を、匂いを感じ
途方もないほどの愛おしさを、この最後の時に必死に胸の奥にしまい込んで・・・・。
そして、どちらからともなく・・・ゆっくりと離れ・・・・。
「行こうか。」
「おお。」
寿也の車は吾郎を乗せて、真っ直ぐに空港へ向かった。
哀しみには蓋をして、そしてこれから始まるシーズンへ気持ちを向ける。
長いレギュラーシーズンが今年も始まる。
end
以前、日記に書いたものに修正を入れたものです。
夢の設定です・・・(涙)。
寿也と吾郎は同居。事実上の結婚(号泣)。
そして二人の住まいからアメリカへ旅立つ吾郎。
その朝。
半年以上も愛する者と離れ離れになる、というのは相当辛いでしょう。
最後の最後まで互いを感じていたいでしょう。
そんな事を考えながら書きました。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
(2009.8.19)