リトルリーグ神奈川県大会終了後、暫くしたある日の事。


「吾郎くんっ!」
何をするともなくぶらぶらと河原を歩いていたら、よく知った声に呼び止められた。

「おー!寿也じゃないか!元気だったか〜?」
吾郎は振り返ると予想通りの顔を見つけ、嬉しそうに駆け寄った。

「それはコッチのセリフだよ。肩は大丈夫なの?」
「まあな。」
当然!とでも言いたげに右肩を回して見せる。

「本当に?ちゃんとピッチャーを続けられるの?」
「ああ!ま、当分は大人しくしてなきゃダメみてーだけどな!」
「そう・・・・良かった・・・・・本当に良かった・・・!!」
まるで自分の事のように涙さえ流しそうな表情で喜こぶ寿也に
吾郎はなんとなく照れくさくて
でもこんなに心配してくれた事がどこか嬉しくて、幸せで───。

「ああ・・・・ありがとな・・・・。」
鼻の下に人差し指をこすり付けつつ、静かに笑んだ。


「それにしてもお前って、こうやって話してると人の良いお坊ちゃんみてーだけど
試合になるとすっげーのな!俺、ぶったまげたぜ!」
「・・・・そう?」
ニッコリ笑う寿也がまた怖いような不気味なような。






それにしても───。

「いい天気だな〜。」
「うん。」
二人は河原に腰を下ろす。

「あの日の空も・・・・こんなふうに綺麗な青空だった。」
吾郎は遠い瞳をして呟いた。

「あの日って・・・・僕らとの試合の日?」
「ああ。俺さー、ホームベースに手ついて空を見上げて
ああ、きょうの空って・・・こんなに青かったんだ・・・って思った。
多分あの日の青空は一生忘れない。」

あの日の青空は
これからも、どんな時でも吾郎に勇気をくれるだろう───。



寿也は苦笑した。
自分も多分一生忘れないだろうと。
まさか負けるとは夢にも思っていなかったあの試合。
でも
「最高の試合を見せてもらった。」
「恥じるな。胸をはれ!」と樫本監督に言われて
はじめて・・・・・。

僕も一生忘れない。あの日の青空。
負けたけど自信を持って誇れる・・・なにかきっと大事なものを得たあの試合。



「それにしてもさー。」
吾郎が笑った。
「涼子ちゃんってホント、負けず嫌いだよな?
中学行ったらどうするんだろ?さすがにもうソフトボールしかないのかな。」
「さあ・・・・・。彼女の事だから無理やりにでも野球部に入ったりして・・・・・。」

二人は顔を見合わせて苦笑した。



「ところで涼子ちゃんといえば・・・吾郎くんは涼子ちゃんが好きだったの?」
「なななななな・・・・・・!!何言ってんだ・・・・!?」

急な展開に、吾郎は卒倒しそうになる。
それを楽しそうに観察しつつ寿也は続けた。

「ふーん、やっぱりそうだったんだ。」
「馬鹿!違うって!!」
「ホントに?」
「ああっ!あれはなー、例えて言うなら・・・・『はしか』みてーなもんだよ!」
「はしか?」
「そりゃー最初、惹かれた事は認める!」
何故か偉そうに腕まで組んで語る吾郎。顔が、耳まで真っ赤である。
だが急に真顔になって
「でも・・・ホラ、3人で会った事あったろ。」
「うん。」
「あん時・・・・・・さ・・・・・・・・。」
吾郎も寿也も・・・・言葉にはしなかったが、あの一件を思い出していた。
涼子がギブソンのファンだという事。

そして─────。



「悪気がなかったのは分かってる。
でも・・・・なんていうか・・・・あれからもう、どうでもよくなっちゃったんだ。」
空を見ながら懐かしそうに話す吾郎の横顔。
「・・・・・・・・・。」

「勿論、涼子ちゃんが凄いピッチャーだってのは認めてるぜ?
あと、すっげー可愛いのもな!」
へへへへ・・・・と吾郎は照れくさそうに笑った。

「じゃ、吾郎くんは初恋とかってまだなんだ。」
「は・・・・初恋〜〜〜!?」
またしても吾郎は大袈裟すぎるくらいに驚き真っ赤になって叫んだ。
まさか寿也の口からそんな言葉が発せられるとは想像も出来ない事だったこともある。

「お、お前・・・何言ってんだ??」
「そうそう、同じチームの女の子、清水さんって言ったっけ。彼女は?」
「お前馬鹿か!あんな男女、コッチから願い下げだってーの!!」
「じゃ、他に好きな人は・・・。」
「いねーよっ!!」
「そう。」
ニッコリ笑う寿也。
色恋沙汰の話など全く慣れていない吾郎は
そんな話をするだけで不必要なまでに慌てふためき、心臓がドキドキうるさいくらいに高鳴った。

「じゃあ・・・。」
寿也は口元に笑みをたたえながらゆっくり近づいてきて
「僕にもまだチャンスはあるわけだ。」

そして至近距離でもう一度ニッコリ笑った。

「は?」

そして次の瞬間には・・・・・。



ちゅっ────。





なんだか・・・すごく柔らかくて・・・・甘い・・・・・・感触・・・・・・。

これって・・・・。


寿也はすっくと立ち上がる。
そして爽やかに微笑むと
「じゃあ、またね〜〜!!」
と大きく手を振って去っていった。



「また・・・・ね・・・・って・・・・・・。」


吾郎は暫く硬直状態で身動きできなかったが、やがて我に返ると

「こらー!!寿也〜!!何しやがる〜〜!!
どーゆーつもりだ〜!!
戻って来い〜〜!逃げるなー!!
寿也〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

河原で寝転びジタバタ大暴れをしながらの大絶叫。
付近を歩いていた人たちや、子供を連れた母親はまるで子供を庇うように
そそくさと足早に吾郎から遠ざかって行った。


騒ぐだけ騒ぐと今度は大の字になって空を見上げた。
抜けるような青空が夕焼け色に染まり始めていた。


さっきのあれは・・・・どう考えても・・・・・・キス・・ってやつだよな?
しかも・・・・・もしかして・・・・
いや、もしかしなくても・・・アレが・・・・俺の・・・・・・。

───ファースト・キス。



「バッキャヤロ〜〜〜〜〜〜!!!!」





吾郎は夕日に向かって叫んでいた。










end



覚えてる方もいらっしゃるかもしれませんが、
これは一発ネタとして日記に書いたものに肉付けしたものです。
小ネタにしては長すぎたので、いっそ真面目に上げる事にしました。
元は、ある方のリトル時代のトシゴロイラストを見て妄想しちゃったものです。
感謝しております。ありがとうございました!
ところで夕日に向かって「バカヤロ〜〜〜〜!!」って
一度叫んでみたいと思いませんか?私だけ?(アホですな・・)
あと、念のために言っておきますが私はゴロカオも好きですv。
それにしても河原でのネタが多くてすいません・・・。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
(2007.11.10)



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