大晦日。

僕は吾郎くんにコーヒーをマグカップに注いで渡して、二人で飲んでいた。
温かい部屋、温かな飲み物で体の芯から温まる。
紅白歌合戦にはあまり興味がなかったし、なんとなくお笑い番組も見る気がしなかった。
だからテレビは消してラジオで穏やかな音楽を聴きながら、静かに年の瀬を過ごしていた。
そんな時。
「あ・・・。聞こえる?吾郎くん。除夜の鐘だ。」
僕がそう言うと、吾郎くんも耳を澄ました。
「ほんとだ。聞こえる。」
遠くに厳かな鐘の音が響く度に、より一層の静けさを感じた。
外の痛いほどの冷気を感じた。
そして過ぎゆく年を、来たり来る年を想った。
それから。
僕は吾郎くんをしみじみと見つめた。
「な、なんだよ。」
「こういうのって、いいなって思ったんだ。」
「・・・。」
「吾郎くんと二人きりの大晦日。もうすぐ今年が終わる。
色んなことがあったね。
来年も色んな事があるだろうけど・・・。
来年も、再来年も、こうして一緒に除夜の鐘を聞けたらいいな、って思ったんだ。
そして来年も再来年も・・これからもずっと・・・
その年最後に会う人は吾郎くんで
次の年、最初に会うのも吾郎くんだったらいいなって・・。」
「な、なに下らねー事言ってんだよ!」
吾郎くんの顔はみるみる赤く染まっていき、その顔を誤魔化すように怒ったように言った。
僕はそんな吾郎くんに、くすくすと笑った。
心から、幸せを感じた。
「でも・・・。
やっぱ、いいよな、こういうのって。来年もよろしくな?寿!」
「こちらこそ。あ、そう言ってるうちに・・・。」
年が明けた事を、ラジオが告げていた。
「あけましておめでとう、吾郎くん。」
「おう!」
「今年もよろしくね?」
そう言いながら唇付けた。
今年最初の唇付けを。
来年も再来年も、これからもずっと
君と共に、こうして新年を迎えられるよう願いを込めながら。













end

2年以上前に日記に上げた話です。
大晦日、静かに年の瀬を過ごすトシゴロが頭に浮かびました。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
(2014.4.24)
 




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