「君が・・・君がついていながら、なんでこんな事に!!」
寿也はキーンの襟元を掴み食って掛かる。
「・・・・・・。」
「君には分かっていたはずだ。いつも傍にいた君なら!!」
「・・・・すまない・・・・・。」
睨み付ける寿也の視線をそらし、力なく呟くキーン。
寿也の知っているキーンとは全く異なるその様子。
寿也は忌々しげにその襟元を突き放した。
「・・・。君は本当に気付かなかったのか?吾郎くんの異常に。」
「おかしいとは思っていた。」
「なら何故問い詰めない?吾郎くんの性格は君だって良く知っているはずだろ?」
「・・・・すまなかった・・・・・。」
あのキーンがこんなに小さく見える。
あの、キーンが・・・・。

寿也がキーンと吾郎の関係に気付いたのと同時に
キーンも寿也と吾郎の関係に気付いた。
問い詰めるうちに・・寿也もキーンも吾郎の体に自らを刻み付けたあの時。

ジェフ・キーン。
ホーネッツで吾郎とバッテリーを組む男。
冷静沈着、計算され尽くしたリード。
バッティングもいい。
悔しいが、ここまで自分と似たタイプも珍しい、と寿也は感じた。
自信に溢れているが決して驕らない。
毒舌家だが真実しか語らない。
信頼に足る男だ、と・・・。

あの時、結局、吾郎からの答えは得られなかったが
キーンが吾郎を思う気持ちに偽りがない事だけは分かった。
吾郎は男を引き寄せる。
アメリカへ単身渡ったら、いずれそういう相手が出来るだろう事は簡単に予想できた。
予想していながらも止められなかったのは自分。
悔しかった。
吾郎をとことんまで問い詰めて謝らせて跪かせて、そして寿也だけのものにしておきたかった。
でも、ダメだった・・・・。
吾郎にその気がなくても、周りが放っておかない。
「この男なら・・・・。」
だからその日、寿也は苦渋の思いで・・・そう、判断した。
吾郎に対する想いが本物で、しかも冷静な観察眼を持つこの男なら・・・
吾郎が日本にいれば、こんな選択などしなくて良かったのだが・・・
認めたくなかったが、この男なら・・・・吾郎を任せても心配ない、と・・・・寿也は思った。
自分の胸にそう言い聞かせた。
なのにこの結果はなんだ!!
寿也は腹の底から沸き起こる、この怒りをどうしてよいのかわからない。
「俺のミスは認める。お前になんと罵られても仕方がない。」
「・・・・!」
「だが、まだ諦めるのは早い。」
「何か心当たりでもあるのか。」
「・・・・今から調べる。絶対に探してみせる。茂野を治せる医者を。」
「・・・・・。」
「お前は日本の医者を探せ。日本の医療レベルも相当のものだ。
そしてお前も日本のトッププレイヤーだ。そういうツテは幾らでもあるだろう。」
「・・・・そう・・・だね。」
「俺は全米を、ヨーロッパを・・考えられるツテは全部使って調べる。」
キーンの瞳に輝きが戻っていた。
「・・・・わかった。」

怒りが収まった訳ではない。
吾郎が治ると決まった訳でもない。
だけど・・・・・・。
吾郎がアメリカにいる限り、
自分が日本にいる限り・・・・キーンなら・・・・・・。


吾郎・・・・くん・・・・・・。










end

♪あの日の僕はまだ
君を繋ぎとめておける言葉 見つけられなかった〜
今ならきっと 迷わずきっと
君に伝えられるだろう
胸にしまって言えなかった I love you♪
って所でしょうか。
残された身は辛いですね、寿くん。

この話は、吾郎の病気が分かった直後、サンデーを立ち読みしただけで書いてしまった話です。
そんな訳で、その後の展開と違ってきています。
私はサンデー読んだだけで突っ走って小ネタを書くことが多くて・・
すいません・・・。

ここまで読んで下さりありがとうございました。

(2009.2.18)
 




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