「吾郎くん、吾郎くん。もう、いい加減起きなよ。」
「ムニャ・・・もうちょっと・・・。」
いくらオフだからって生活習慣を変えるのは良くないよ?ほら、もう年賀状が届いてるよ。」
「お前の・・・・せいだろうが・・・・・もうちょっと、寝かせろ〜・・・・・。」
そして次の瞬間にはもう、吾郎は規則正しい寝息をたてていた。
幸せなその寝顔。
寿也は諦めて吾郎の頬に唇を落とした。

ところで「お前のせい」、とは。
昨夜・・・正確には年が明けた早々。
「今年、最初のセックスだねv。」
と寿也は吾郎に迫ったのだった。
そして・・・・・・。

「・・・。仕方ないかな。ちょっと昨夜は僕も頑張りすぎて・・まだ眠い。」
寿也は欠伸をして、そして年賀状の仕分けを始めた。
「僕の・・・吾郎くん・・・吾郎くん・・・・僕・・・。あ、おじいちゃんからだ。」

「今年も寿也の活躍を楽しみにしています。体にだけは気を付けて。」

寿也は幸せそうに微笑んだ。

そしてまた仕分け始める。
「えっと・・・僕・・・。え・・倉本?倉本・・・誰だったっけ・・・聞き覚えはあるんだけど・・・。」
そう言いながら寿也は年賀ハガキを裏返した。

「久しぶり。元気か?驚かせてゴメンな。おまえのお爺さんに住所を聞いたんだ。
お前、本当に夢を叶えたんだな。すごいよ。
あの時、一緒に三船高校へ行こう、って約束したのに海堂へ行っちまったお前を恨んだ時もあったけど、今となっては良い思い出だ。
三船には優秀なキャッチャーや野手がいたから俺はポジション争いに負けて結局野球をやめてしまったし。
時々、友ノ浦の時を思い出すよ。あの時が一番楽しかった・・・・。
寿也、頑張れよ!俺はどこにいてもお前を応援している。
今はお前だけが俺の誇りだ。」

「・・・倉本・・・友ノ浦・・・・・・そうだ、僕は・・・・・。」
寿也は遠い過去を思い出した。
あの時は吾郎に対する敵対意識ばかりで周りに目をやる余裕がなかった。

「そういえば言ったっけ・・・皆で三船で野球をやろうって・・あいつ、また僕と野球ができるって泣いて喜んで・・・・・・。」

寿也は思わず引き攣った笑いを浮かべた。
すっかり忘れていたのだ。
自分は吾郎を追うばかりで、自分をあんなに慕ってくれた倉本を綺麗サッパリ忘れていた・・・・・・・・・・。

「や、野球・・・やめたんだ・・・今、何やってるんだろう・・・・。」
そう思った寿也だったが、それを聞くのはちょっと怖かった。

  ・・・・・・。
  当たり障りのないように、丁重に返事をしておこう。

寿也はニッコリ笑って気を取り直す。


「吾郎くん・・・僕・・・・・吾郎くん・・・・・。」

年賀状に混じって一通の封筒があった。

「あれ?僕に・・・封書?元旦から?しかもエアメール・・・一体誰から・・・。」

差出人を確認。名前を見て凍りついた。

「Jeff Keene・・・・・。アイツが一体、僕に何の用が・・・。」
正月の穏やかな気分を台無しにされて不快げに封を切る。
そこには一枚の写真とメモが一枚。

写真。
それは裸体の吾郎。
間違いなく事後。
ベッドで気だるそうな顔をして横たわっている。
胸などには幾つかの跡、そして白い液体。

「・・・・・。」

そしてメモには。
「新年には日本へ行く。とても楽しみだ。」

寿也の顔から表情が消えた。
不気味に光る、氷点下の瞳。

寿也には見えるようだった。
キーンの自信に満ちた笑みが。
思わず写真とメモを破ろうとした時。

「ふぁ・・・・・。おはよ、寿。」
吾郎が頭をボリボリ掻きながら、寝室から出てきた。
何が起こってるかも知らないで。
知らぬが仏とは、正にこのこと。
吾郎はテーブルの葉書の山を見ると。
「お、年賀状か。」
吾郎は楽しそうに自分宛の年賀状を手に取った。

吾郎は寿也の変化にはまだ気づいていない。


その時だった。

ピンポーン。

呼び鈴が鳴った。

「誰だよ、元旦の朝から・・・。」
吾郎は迷惑そうにぼやく。
もう、「朝」と言うには遅い時間だったが。
「え〜い、居留守だ、居留守!元旦ぐらいのんびりさせろっつーの!!」

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン・・・・・・!!

「はいはい、・・・ったく、居留守使わせねー気かよ。なんて奴だ!文句言ってやる!!」

吾郎はインターフォンのボタンを押した。
文句を言う気、強気満々だった吾郎だが
画面に訪問者の顔が映し出されたその瞬間。
その、よく知り過ぎている顔に驚き慄き・・・・そしてゆっくりと背後の寿也へと振り向いた。

寿也は、これまた見覚えがあり過ぎる、ブラックスマイルを浮かべていた。
どうしたらいいんだ、と吾郎はその悪い頭で必死に考えたが。

「茂野、何をしている。早くロックを解除しろ!」
「え・・・あ、ああ・・・。つか、なんでお前がここ(日本)にいるんだよ!!」
「先に手紙で知らせたが・・・まだ届いていないのか?」
「手紙?」

寿也は立ち上がる。
そして吾郎にその「手紙」を押し付けると、吾郎に代わってインターフォンに出た。
吾郎はその手紙、写真を見て飛び上がり恐怖に縮みあがったのは言うまでもない。

「Happy New year , Mr.Keene!
手紙は今、見た所なんだ。というより・・・・今日届くように送ったんじゃない?」

ブラックモードの寿也と毒舌キーンがインターフォン越しに話を続ける。
その光景は恐怖以外の何物でもない。



そして結局。

「よ、よう。よく来たな、キーン。」
吾郎は引き攣りながらキーンに、ソファーへ座るよう勧め、
「散らかっててゴメン。僕らは今、起きた所なんだ。でもなんでまた、わざわざ日本へ?」
と言いながら寿也はコーヒーを出した。

一見、にこやかに交わされる会話。
穏やかな正月の風景。
しかし寿也の翠の瞳とキーンのブルーグレーの瞳は完全に臨戦態勢。

「茂野の生まれ育った国を見てみたかった。
中でも「ショウガツ」は日本の文化に触れる、もっとも良い機会の一つだからな。」
「・・・・あんな写真を送りつけといて、日本の文化?ハハハ・・・。」

互いの思惑など明らか過ぎて。
棘のある会話は続く。

下手に口出しも出来ず、傍観者となるしかない吾郎は気が気じゃありません。


一体これからどうなる?

穏やかな正月は・・・・とんでもないものに変わってしまうのだろうか??
元旦早々、惨劇が起きるのか??
・・・以下はお好きなようにご妄想下さいvv。












end

2011年の正月に日記に上げた話です。
正月だし何か書けないかな〜、と思いつくまま書き始めた話です。
その後、とんでもない修羅場へ突入しそうになって焦りました(笑)。
この先を書いても、毎度おなじみのパターンになりそうだったので、ここで切る事にしました。
日記語りが残っていて申し訳ないです!!

ここまで読んで下さりありがとうございました!
(2012.12.07)
 




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