「こ、これは・・・・!」
寿也の手の中の数々のお守りの中には「恋愛成就」のお守りが。
「それは特にご利益があるんだよ。」
「彼女が出来たら紹介してね。」
寿也はお守りを机に置くと、何時にも増して真剣な瞳で祖父母を見つめた。
「ん?どうした、そんな顔をして。」
「おじいちゃん、おばあちゃん。話があるんだ。」
「まあまあ・・まさかもういい人がいるの?」
祖母は嬉しそうに尋ねた。
「・・・。うん。そんな所かな。・・・でも彼女じゃない。」
「?」
寿也は言葉に詰まった。

───これからこの人たちを傷つけてしまう。
    両親に捨てられた僕をここまで育ててくれた大恩人を。

「・・・寿也?」
「僕には好きな人がいる。もう、ずっと前から。」
「片想いなの?」
「違う。向こうも僕を好きだと言ってくれている。」
「まあ、良かったじゃないの。お祝いしなくちゃ。」
「違うんだ!」
寿也が語気を強めた。
「・・・・寿也、もっと分かりやすく話してくれないか?」
祖父が少しの間の後、訪ねた。
「僕が好きなのは・・・僕が誰よりも好きなのは・・・・・・。」
言わなくては・・・でも言えない・・・・そんな寿也の葛藤が簡単に見て取れる。
寿也が苦しむ姿など、祖父母は断じて望んでなどいない。
苦しい恋でもしてるのだろうか?祖母は思った。
だが・・・祖父には直感で分かってしまった。
「寿也が好きなのは・・・もしかして男の子かい?」
「・・・・・。」
呆然と祖父を見詰める寿也の瞳。その瞳がそうだと・・何よりも物語っていた。
「そうか・・・・。」
長く溜息をつく祖父、オロオロとうろたえる祖母。
そして言うべき事を言ってしまい、天の采配を待つ心境の寿也。
暫くしてようやく祖父は口を開いた。
「・・・それは一緒に海堂高校に行こう、と誘ってくれた・・・あの彼かい?」
寿也がハッ・・とした表情をした。
「・・・そう・・・なんだね。」
「・・・おじいちゃん・・・・・。」
「何をそんな、済まなそうな顔をするんだ?わし等は寿也が幸せならそれで良いんじゃ。」
キッパリと言う祖父に驚く祖母。
「・・・・ごめん・・・・なさい・・・・・。」
俯く寿也の声は震えていた。
「謝る必要なんかない。顔を上げなさい、寿也。」
寿也の目には涙が浮かんでいた。
「それが寿也の選んだ道なら・・・わしらもそれに従うよ。だが・・・・。それを貫くのは辛いぞ?」
「わかってる。」
祖父を見つめるその瞳には決意の色が漲っていた。
「僕は吾郎くんが誰よりも大切だから。大丈夫だよ。」
まっすぐ前を見てそう語る寿也。涼しげなその表情。

───大きくなったな、寿也。

祖父は独り立ちをする息子を見送るような、そんな心境になった。


帰り道。
夕日の中、手を振る寿也の姿はやけに清々しく輝いて見えた。
「おじいさん、あんな事言って・・・。私は賛成できませんよ。」
「・・・・・。」
「ひ孫の顔を見るのが楽しみだったのに・・・・。」
祖母は寿也が見えなくなってから涙を流した。
「ばあさん。恋愛も幸せも人それぞれじゃ。親がそれを押し付けてどうする。」
「でも・・・・。」
「実は・・・昔、わしの友達でもいたんだよ。男同士でそういう事になったやつ等が。
二人ともとてもいいヤツだった。
とても幸せそうだったんだが・・・・やっぱり両方の親が大反対でな。
結局無理やり引き離されてそれぞれ普通の女性と結婚したよ。」
「まあ・・・・。」
「だが、両方ともうまくいかんでな。結局離婚してしまったらしい。
その後の事はわしも知らん。密かに付き合い続けたかもな。」
「・・・・・・・。」
「これだけの人間がいるんじゃ。みんな一人一人違うんだよ。
世間で言われている事が必ずしも寿也にとって幸せかどうか分からん。」
「おじいさん・・・・。」
「だが、人と違う道は辛くて厳しい。わしらが応援してやらんで誰が寿也の味方になれるんじゃ?」
「・・・・そうですね・・・。」
「なんだかんだ言っても惚れたヤツと一緒になるのが一番なんじゃ。だからわしはとても幸せだぞ?」
「ま、まあ・・!おじいさんったら・・・!」
「はははは・・・・。」祖父は珍しく恥ずかしがる祖母をみて楽しそうに笑った。

「でも寿也は・・・。アメリカに行ったほうが良いかもしれんな。
州によって考え方が違うようだが・・・日本よりは珍しがられる事もないだろうから。」
「そうですね・・・。でも、そうなったら・・・寂しいですね・・・。」
「なに、息子が幸せならそれでいいじゃないか。なんならわしらもアメリカに渡って弁当屋を開くか?」
「あら、いいですね、それ。楽しみが増えましたよ。」



追記 その1
「ところでお爺さん、寿也は・・・。」
「なんだい?」
「その・・・『受け』なのかしら、それとも『攻め』なのかしら。」
「なんだ?その『受け』とか『攻め』とか。」
「まあ、知らないんですか?お爺さん。男同士のカップルで男役を『攻め』、女役を『受け』と言うんですよ。」
「ばーさん、どこでそんな知識を・・。」
「そんな事、どうだっていいじゃありませんか。で、お爺さんはどう思いますか?寿也は・・。」
「寿也は可愛い顔をしているからの、『受け』じゃないのか?」
「まあ、おじいさん、甘いですね。」祖母の瞳がキラリと光る・・・。
「なにがじゃ?」
「寿也は『攻め』ですよ。間違いなくね。
時々見せるあの黒さ・・・『攻め』に決まってるじゃないですか。腐腐腐・・・・v」
「ば、ばーさん!」
腐に目覚めてしまった寿也祖母。

追記 その2
「おじいさん、おじいさん。」
「なんだい、ばーさん。騒々しい。」
「前の寿也の仕送り、あんまり多すぎたからこんなの買ってきちゃいましたよ。デジタルハイビジョンビデオカメラ。」
「そんなものどうするんだ?」
「まあ、お爺さんったら、決まってるじゃないですか。
寿也の部屋に隠して設置するんですよ。
そしてシーズンオフに寿也とあの茂野という子が帰ってきたら、さりげなく私達は旅行へ行く。
するときっと寿也はあの彼を呼びますよv。」
「ま、まさか隠し撮りする気じゃ・・・・。」
「はい、そのまさかです。腐腐腐・・・・vv。」












end

おばあちゃん、そのビデオ、ダビングして私にください!是非にも!!
じーさん、ばーさんの話を長々と大変失礼いたしました。
ちょっと都合よすぎの展開が気になります、すいません・・・。
ここまで読んで下さりありがとうございました!
(2008.9.8)



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