うねりを上げる豪速球。
空を切るバット。
凄まじい手ごたえで寿也のミットに収まったボール。

「ゲームセーーーット!!」

今日、勝てた事でマジックがまた一つ減った。
しかし順調に優勝できてもクライマックスシリーズが待ち受けている。
その後は日本シリーズ。
まだまだ気は抜けない。

そういえば今日は寿也の誕生日だ。
自分でも忘れていた。
ヒーローインタビューの時に
「今日は佐藤選手の誕生日ですね?おめでとうございます!
誕生日に3ラン、勝利に貢献できてどうですか?」
そう聞かれて初めて気付いたくらいだ。
「・・・・そうでしたね。すっかり忘れてました。」
スピーカーでそのセリフが球場全体に流れ、ドッ・・と笑いが起こった。
「佐藤選手といえば、とても几帳面なイメージがあるんですが
佐藤選手でもこういう事ってあるんですね。
でも、それだけ自分の事よりチームの勝利の事しか考えてなかったんでしょうね。」


誕生日だと言われても、もう子供じゃないのだから。
そう思いながら寮に戻ると大量の贈り物が。
日付指定で皆、9月9日に届くよう設定された宅配便の山。
直接寮に届けに来た子達も多かったようで
ぬいぐるみや花束やケーキ等の山。

「よう!誕生日おめでと!相変わらずモテモテで羨ましいね〜!!」
チームメイトに盛大に背中を叩かれた。
「い、いえ・・・。」
「いいな〜俺、こんなにプレゼント、届いた事ないぞ?」
冷やかされ茶化されて。それに苦笑いで答えて。
そして皆で手分けして部屋まで運んでくれた。
ケーキ等は運ぶのを手伝ってくれたチームメイトや寮の職員におすそ分けをして。
あっという間に少女趣味な部屋に変貌した寿也の部屋。
花が咲き乱れ、ぬいぐるみが転がり無数のリボンに乙女チックな小物が・・・・。
そして包装紙やら空き箱の山・・・・。

「・・・・。参ったな・・・・。」

寿也は盛大に溜息をついた後、一応メッセージのチェックを始めた。
見ず知らずの人には申し訳ないが、一々返事などしていられない。
しかし、知人からのものもあるかもしれない。
失礼があっては大変だ。

「あ・・・・。」
それは祖父母からの手紙。
「おじいちゃん、おばあちゃん・・・・・。」
無理はしてないか、ちゃんと栄養のあるものを食べているか
内容は寿也を気遣うものばかりで埋め尽くされていた。
苦笑いしつつ手紙を読むが、ジーン・・とこみ上げて来るものもあって。

祖父母がいたから今の寿也がここにある。
金銭的に厳しいにもかかわらず、祖父母が海堂へ行け、と言ってくれたから・・・・。
実の両親は寿也を捨てたというのに・・・・祖父母は・・・・・。

───ありがとう。おじいちゃん、おばあちゃん。

後でお礼の電話をしよう、と思いながら次のメッセージに手を伸ばした。


そして。
「これは・・・・。」

それは、吾郎からのエアメールだった。

「よう!寿也。元気か?
そろそろお前の誕生日だったな〜と思って
珍しく手紙なんてもんを書こうと思ったんだけど
慣れない事ってするもんじゃねえな。
何、書いていいか分かんねえや。
ま、とにかくおめでとう!!
今年は巨仁、優勝できそうだな。
クライマックスシリーズでコケるなよ?
今年は俺のほうも順調だ。
今年こそワールドシリーズに出てワールドチャンピオンになってやる!
じゃ、お互い頑張ろうぜ!

P.S 裏の写真。カッコいいだろ。
この俺が絵葉書になってるなんて信じられるか?
記念に贈ってやる。ありがたく思えよ!」


裏面を見ると、投球直前の吾郎を写した写真。
寿也はクスクスと笑いが堪えられなかった。

───相変わらずだね、吾郎くん。
    
この色気の全くない文章。
そして球場で売られているのであろう、自分の絵葉書を無邪気に送ってきたり。
何もかもが本当に吾郎らしくて。

でも野球以外には全く興味を示さない、あの吾郎が
このご時世にわざわざ絵葉書を送ってくれた。
今日、届くように考えて送ってくれたのだろうか?
それとも今日届いたのは幸運な偶然?
どちらにしても、吾郎なら寿也の戦績ならともかく
誕生日を覚えていてくれた事がまず驚きで。
自分でさえ忘れていたというのに・・・。
それに現在ではメールという便利なものがある。
なのに。
あの、どう考えても筆不精な吾郎が手書きの絵葉書を送ってくれて。
それが無性に嬉しくて。
どんな高価なプレゼントよりも、この一枚の絵葉書が嬉しかった。

───ありがとう、吾郎くん。


寿也は早速便箋を取り出して返事を書き始めた。
寿也も自分の絵葉書にしようか一瞬迷ったが、それは止めておいた。

吾郎を思い出すだけで、胸がいっぱいになり幸せを感じるが
それと同時に会いたくて会いたくて、苦しくなる。
早く会いたい。
会って・・・抱きしめてキスをして・・・・。

でも今はそれよりもチームの優勝。




遠い空の下、同じように野球に全てをかけている
誰よりも誰よりも大切な人を想いながら・・・・
寿也はペンを滑らせた。


───お互い、頑張ろうね。
    堂々と君に会いに行けるように、今は必死に頑張るだけだ。



遠い空の下でも、同じ空の下。同じ地球の上。
どんなに離れていても、想いは一つだから・・・・。








Happy Birthday,Toshiya!







end


寿也の誕生日、9月9日と言えばお互いにまだシーズン中だな・・・
と思ったら自然に書けてしまいました。
二人を会わせてイチャイチャさせられなくて申し訳ありません!!
ああでも、寿也はきっとその絵葉書を握り締めながら・・・・おほほvv。

それから。
寿也はすでにチームの攻守の要なので
普通なら試合前に既に
「今日は誕生日ですね!自らにプレゼントできるようなプレイができるといいですね!」
みたいな事を言われてますよね。
ヒーローインタビューまで気付かなかったなんて事は有り得ないと思いますが・・すいません!!

それでは。ここまで読んで下さり、ありがとうございました!

(2009.9.9)


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