優勝、胴上げ。そしてシャンパンファイト。
その後シャワーを浴びてサッパリすると、各テレビ局から引っ張りだこ。
少しは休ませろ、とでも言いたげにギブソンJr.は愚痴がてら、寿也にぼやいていた。
ぼやきながらも、Jr.は優勝の喜びを隠しきれない。
しかし寿也は、あの接戦を制して優勝できたにも関わらず、ちっとも楽しそうに見えなかった。
というより。
寿也がレイダースに来てから、寿也が心から笑っているのをJr.は見たことがなかった。

野球をしている時の寿也。
捕手の時は緻密なリード。
取りようによっては、人を食ったようなリードをすることも。
そんな寿也だが、大抵は寿也のリードが良い結果を生んだ。
打撃に関しても申し分ない。
Jr.と1,2を争うほどの打率、得点率。
レーダースファンは、とんでもない日本人がやって来た!と大はしゃぎ。
それに対して。
寿也はインタビューされても営業スマイルを浮かべるだけのように見えた。
心から笑っていないことは共にプレイしていればわかる。
とはいえ、マスコミやテレビの向こう側の人々を騙す事はできた。
甘いマスク、さらに笑顔は女性の心を鷲掴みにするほど魅力的だ。
しかし、マスコミに背を向けた瞬間の寿也の顔を見たら、大抵の人間なら背筋が凍る。
寿也は一体何と戦っているのだろう。
遠い日本からはるばるアメリカまで来たのだから、双方を納得させるだけの結果を残すために?
それは十分過ぎるくらいに果たしている。
一体、彼は何の為に、何と戦っているのだろう。


「お前、優勝の夜くらい、楽しそうにできないのか?
シャンパンファイトの時だって、「義務でやってます」ってのが見え見えだったぞ?」
「そう?僕は十分楽しんでるけど。」
寿也はニッコリと笑う。
が、瞳が少しも笑っていない事には、Jr.でなくとも気づくだろう。
ため息がてらにJr.は続けた。
「・・・・・。
お前、本田Jr.の幼馴染で親友だそうだが・・・・性格は大違いだな。」
「親友?僕が・・・彼の?はは・・・・!」
「違うのかよ。」
寿也の意外な答えに、また寿也の笑みが嘲笑にも聞こえてしまって
Jr.は少々ムッとして突っかかった。
「幼馴染なのは確かだけどね。でも親友なんかじゃない。」
そう言いながら、前を見据える寿也の翠玉のように美しい瞳。
その瞳に輝きが増した。
ぞっとする程、強く冷たい光だった。

───佐藤がこんなになっているのには茂野が大いに関係している?

それはJr.の直観。

───茂野への対抗意識?
    幼馴染よりいい成績を残したい?
    
しかしそれは的外れなように思えた。
そんな単純な想いで済まされるようなものではないだろう。
では一体?


ホーネッツは現在2位。
首位とのゲーム差は0.5。
最近のホーネッツには勢いがある。
このまま突き進めば・・・・恐らく・・・・・・。

ホーネッツが出てきたら、その答えがハッキリするだろうか。

少なくとも・・・幾度かのW杯で対戦した寿也はこんなではなかった。
吾郎とは、どう見ても息のぴったり合った仲の良い素晴らしいバッテリーだった。
あの時の寿也の笑顔は心からのものだった。
なのに。
何が彼をこんなにも変えてしまったのか。




後日。
消化試合でのロッカールーム。
TVではホーネッツの中継が流れていた。

「来い。さっさと勝ち上がって来い・・・。僕の前に。今度こそ、逃がしはしない・・・。」

寿也の呟き。
小さな呟き。しかも日本語。
他のメンバーには聞こえたとしても意味は分からなかっただろうが
その顔、その瞳を見れば、寿也の強い想いを感じ取ることはできただろう。
それほどまでに、寿也は自分の強い気持ちを隠そうともしていない。
そういえばチームメイトは、いつの頃からか
「あいつは頼りになるけど、なんとなく怖くて近づけない。」と言うようになっていた。
Jr.は日本語も堪能だったので、この寿也の言葉を聞いて
怨念と言ってもいい位の不気味なもの、燃えるような強すぎる意志がしっかりと伝わってきてしまって、悪寒が走った。


───コイツ・・・皆が言うからじゃないが・・・・恐ろしい・・・。
    見てると寒気がする。
     人間相手にこんな風に思ったのは初めてだ。
     佐藤寿也・・・何者だ、一体。
     ホーネッツに、茂野に何があるというんだ?
 




















end

これも二年以上前に日記で書いた話です。
Jr.から見た寿也が書きたくて書いたように覚えています。
日記ではJr.を争奪戦に加えようか迷ってますが、今にしてみてみると、これはやめた方がいいかな(笑)。
ますますややこしくなってしまう・・・。
まあ・・のんびり書いていきたいと思ってます。
ゆっくりお付き合いいただけると嬉しいです。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
(2013.2.22)


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