「ここで今年日本から移籍の佐藤、2アウトカウント2-3から逆転3ラン
  更に○回表、ギブソンJr.の3ベースヒットで追加点
  序盤は苦しみましたが、終わってみれば7-2でレイダース、快勝
  これでマジックはまた一つ減り・・・・。」



「今年はレイダースが出てきそうだな。」
そろそろシーズンも終盤。
ホーネッツはこのまま行けば優勝できそうだ。

キーンは意地の悪い笑顔を浮かべながら吾郎を見つめた。
その顔には吾郎もカチン、とくるものがあった。

────遠まわしな言い方しやがって。

寿也がレイダースに移籍してから、吾郎と会ったのはただの一度だけ。
その時の苦い思い出が、吾郎の中で今も疼いている。

「Jr.に寿也じゃ、間違いなく強敵だ。」
しかし吾郎はわざと陽気に返した。
「随分ご活躍だな、お前の幼馴染は。」

────この、ワカメ頭・・・!!

「・・・当然だろ。あいつの実力は誰よりもこの俺が知ってる。」
敢えて、話題を野球のみで返してみるが。
「そしてそのテクニックは誰よりも、この体が知ってる・・・・という訳か。
もしお互い順調に進んでWシリーズで顔を合わせることが出来たら・・・久し振りの再会。楽しみだな。」
「しつこいヤローだな!!
お前がその手で直々に寿と断絶状態にしたくせに、まだンな事、言う気かよ!!お陰でこっちは後味悪ぃーったらねーぜ!!」
吾郎はすっかりふて腐れてしまった。






────そうなのだ。
・・・・・・・・。
レイダースとの交渉も纏まり、親友に会いに来た・・その佐藤の目の前で俺は茂野を抱いた。
あの時の佐藤の瞳。
柔らかな物腰、優しそうな爽やかな笑顔が一変したあの瞬間。

ジェフ・キーンともあろう者が・・・あの瞬間、悪寒が走った・・・佐藤のあの迫力。
正直、驚かされた・・あの豹変振りには。

佐藤はあの時と全く同じ瞳でプレイ(野球)している。

TV中継であっても、佐藤の想いは伝わってくる。
その強い想いが。

佐藤の活躍の全ては俺への挑戦状。
佐藤の内なる炎が、こんなに離れていても・・・感じる。
あらゆるものを、己さえも滅ぼしかねないほどの紅く激しく燃え盛る炎が。
そしてその炎は・・・もう、目の前に迫りつつある。
必ず、ヤツは・・・レイダースは出てくる。



「あ、あいつは・・・・。昔から怒ると手に負えねーんだよ。」
苦し紛れに茂野は言った。

────昔から・・・・・か。

その「昔から・・」の茂野にも会いたかった。
子供の頃からの茂野を、佐藤は独り占めしている。
そんな事にさえ嫉妬を感じてしまう。
今、茂野をこの手にしているのは俺だと言うのに。

その頃、出会っていたら・・・今が違っただろうか・・・。
出会いたかった。
そして共に少年から大人になりたかった。




「そして怒りに任せて・・少年のお前を抱いたんだな、佐藤は。何度も何度も。」
気付けばキーンはソファーで寛いでいた吾郎の両側に腕をついて。
「お、おい・・・・。」



何度──────。
何度抱いても・・・・安らげない。
アイツがアメリカへ来て以来。

佐藤の目の前で、茂野は俺のものなのだと
あんなにハッキリと見せ付けてやったのに、何故・・・・。

あの時、決定的な敗北を味わせた筈なのに
あの時・・・・
驚くほど澄んだ翠の瞳には、強烈な決意を思わせる鋭い光を湛え
口元には笑みさえ浮かべながら・・・佐藤は無言で立ち去った。
あの時も感じた。
佐藤は敗北者の筈なのに・・・全てを焼き尽くしかねない、心の炎。

・・・・・・。
あれからは佐藤と茂野は会うどころか、電話やメールすらないらしいが
恐らく・・いや、間違いなく・・まだ、終わっていない。
勝負はこれからなのだ。

・・・あの時は見せ付けて佐藤を蹴落としたつもりだったのだが
思い返せば、あれが宣戦布告。
そして佐藤は受けて立った。
アイツの活躍はその証。
何よりも、佐藤の翠玉の瞳が、戦う瞳が・・・それを物語っている。


決戦は・・・・そう、Wシリーズ。
だが、それもただの第一戦に過ぎないだろう。
長い戦いになりそうだ・・・そんな予感がした。


しかし。
それもなかなか・・・面白いかもしれない。

茂野は渡さない。
20年の歳月が何だというのだ。
そんなもの、俺が一晩で拭い去ってやる。
ヤツにとってもただ一人の存在なのだろう、茂野は。
しかし俺にとっても・・・茂野は間違いなく唯一無二の存在なのだ。
もう、他の人間など・・・考えられない。





キーンに突き上げられながら、いつものように悶える吾郎。
その顔を見下ろしながら・・・・キーンは口角を吊り上げて微笑んだ。


キーンの中の蒼い炎が
ゆっくりと静かに揺らめき始めた。




















end

MAJORのラスト近くで、トシゴロで居酒屋で話してた
「バッテリーを組むんじゃねーのかよ」
「吾郎くんを倒してからさ」
の、「吾郎くんを倒してからさ」が見たくて書き始めた話です。
書いたのは2010年10月1日の日記でした・・・もう二年以上経ってるよ・・・今頃のアップで、すみません!!
これも、できたらのんびり取り組んでいきたいですが・・・・。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
(2012.11.30)


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