「何があった。」
夜の帳がすっかり下りて、部屋は暗闇に包まれていた。
窓から差し込む淡い月明かり、窓際で暖かに光るリース。
静かだった。まるで時間の断片に迷い込んだかのように。
ヤツも一言放ったままピタリと動きを止めてしまって。
少し前から降り始めた舞い踊る雪の影だけが、俺に時の流れを感じさせた。
「・・・なんの事だよ。」
俺はキーンにいつものごとく押し倒されて
唇があと僅かで触れる、そんな距離で昼間と同じ事を問いかけられた。
早く触れて欲しいのに、キーンの熱のこもった吐息だけを頬に感じて。
じれったくなって自分から触れようとしたら
キーンのヤツ、力ずくで俺を押さえつけやがった。
「とぼけるな。」
ヤツの瞳は真剣だった。
昼間よりずっと真摯な黒い瞳。
「・・・・・・。」
吸い込まれそうだ。
ヤツの瞳に魅入っていたら、さっきは人を押さえつけてキスを拒んだくせに
今度は唇を押し付けてきて。
俺は・・・やっと欲しかったものを得る事が出来て
無我夢中でキーンの舌を追い求めた。
力いっぱい絡み付いてきたと思ったら、じりじりと摩られて
たかがキスだというのに熱く痺れて、感じてしまって。
唇が離される時はつい、その舌を追ってしまって。
銀色の細い糸が二人の間を繋ぎ、そして無常に切れる。
まだキスに酔っていた俺に、また同じ問い。
「何があった。」
キーンの唇の動き、囁かれる低い声。
スローモーションで瞳に焼き付けられて。
逆らえない・・・・・・。
「ギブソンの試合を見に行った。」
「・・・ギブソン。マイナーでプレイしているとは聞いていたが・・。」
「ああ。そのマイナーの試合だ。」
俺は中断するな、とばかりにヤツの首に回した手を引き寄せて唇を交わす。
キーンの唇は分厚くて柔らかくて・・・癖になりそうなほどの唇付けをくれる。
キスの合間にキーンの手がジーパンのボタンを外し、シャツを捲り上げて・・。
そしてもう一度、唇を。
舌の感触が、たまらない・・・・・。
「あの・・・オッサンは・・・ただ・・・・・・。」
───野球が好きだから走り続けるだけなんだ。
俺はキーンの口内だけに
舌を絡み合わせたまま、途切れ途切れにそれを言葉にした。
飲みきれない唾液が口の端を伝って落ちる。
ゆっくりと唇を離したキーン。
口元の唾液を手の甲で拭う俺。
どちらからとも無くニッ・・・と笑んだ。
「実に単純な答えだな。」
キーンが言う。
「いいんだよ、単純で。」
俺が答える。
「めでたく理由が分かったところで、もう一度キスしてやる。」
「なんだよ、偉そうに。」
「お前がそんなにキスが好きだとは思わなかった。」
「・・・・!」
図星されて思わず頬を染めてしまった。
暗闇で気付かれていないことを願いつつ。
「・・・・キス・・・・だけじゃないだろうな・・・・。」
小声でこっそり呟くと
唇をまた押し付けてきたキーンが
「安心しろ。どこもかしこも・・・可愛がってやる。」
今度は俺の口内だけに、途切れ途切れに囁いた。
やっと、静かに確実に・・・二人の時間が動き出す。
end
ところでキーンの瞳の色って本当に黒でしたっけ?
書いてから「そういえば・・」と気付いた次第です。
もし違っていたらすいません!
ここまで読んで下さりありがとうございました!
(2008.12.12)