その光景を前に俺は・・立ちすくむ事しか出来なかった。
ひまわり畑、その中で戯れる茂野。
それはまるで御伽噺の挿絵のような
俺など足を踏み入れることさえ許されぬ、無垢な世界の絵のような・・・・・。
それは、ほんの少し前の事。
いつものように茂野を乗せて車を走らせていたら
「うお〜〜〜〜〜〜!!」
「・・・・なんだ。」
茂野が突然奇声を発したので、少々咎めるように聞いたのだが
「すっげ〜〜〜!!こんなの初めて見た!!」
そこには見渡す限りのひまわり畑。
一面の黄色。
この季節ではよく見られる普通の光景なのだが
日本では違うのだろうか。
「な、ちょっと寄ってくれよ!」
瞳を輝かせ、まるで子供だ。
適当な場所に駐車すると茂野は一目散に駆け出して
そしてひまわりの中へ消えてしまった。
俺はポツン・・・と一人、取り残されてしまって。
さて・・・これからどうしたら良いのか。
時々聞こえる茂野の歓声を頼りに、その方向、ひまわりの中へ分け入った。
しかし・・・・。
ひまわりとは大きく育つものだな。
俺の身長とそう変らないではないか。
ふふ・・。
これではまるで子供の頃に読んだ「不思議の国のアリス」。
確か何かの薬を飲むと体が大きくなったり小さくなったり。
黄色い花が咲き誇り、その中を小人になった俺とお前が彷徨い歩く。
果たして俺はお前のいる所まで辿り着く事ができるのか。
これはゲームだ。
花を傷つけないように、時折聞こえるお前の声だけに耳をすませ・・・・。
・・・・・・・。
ようやく辿り着き、その光景に出会った俺は息を飲んだ。
微笑むような柔らかな表情で、ひまわりに唇付けるお前。
抜けるような青い空と、眩しい太陽の中で
それはまるで一枚の絵のように
そのまま不思議の国へ溶け込んでしまいそうで・・・・・。
俺は・・・見てはいけなかったものを見てしまったような
犯してはならない領域に踏み込んでしまったような・・・
そんな思いがした。
茂野─────。
お前には驚かされてばかりだ。
お前にはいったい幾つの顔がある?
マウンド上のお前から、こんな御伽の国でのお前を・・一体誰が想像できる?
しかし、あまりにもその光景に溶け込んでいたので
俺はだんだん恐ろしくなってきた。
このままお前が帰って来ないのではないか、という・・・
後になって考えてみれば、実に非科学的な馬鹿馬鹿しい不安。
だが、この時の俺には
本当に茂野がWonderlandへ浮遊したまま行ってしまうのでは・・と思えてならなくなってしまったのだ。
俺は後ろから、そっとお前に近づき・・・
そしてその存在を確かめるように力いっぱい抱きしめた。
「My dear Alice・・・」
俺の腕には確かな感触、ぬくもり。
その生気溢れる確かな手ごたえに・・・・。
茂野は今、ここにいる。
確かに俺の腕の中にいる。
いつもなら当たり前のことなのに、それが奇跡のように嬉しくて・・・・・・。
俺は抱きしめる力を更に強めた。
なのに当の本人は・・・・。
「アリス?あのコスプレ女がどうかしたのか?」
「・・・・・・。」
お前の姿に・・お前を取り巻くその世界にWonderlandを感じさせられて
そして今度はお前の一言で一気に・・・・現実へ引き戻されてしまった。
「ふふ・・・はははは・・・・!!」
馬鹿馬鹿しい・・・そんな事、ある筈がないだろうが。
珍しく俺が大笑いするものだから、茂野も驚いてしまって。
「な、なんだよ、一体・・・!」
「いや、なんでもない・・・。」
「は?」
「お前があんまりひまわり畑に溶け込んでいるものだから
このまま・・・Wonderland旅立ってしまうような錯覚がしただけだ。」
「・・・・・。キーン、お前、何言ってんだ?」
「だからなんでもないと言ったろう。」
もう一度強く抱きしめて、茂野の耳に直接言葉を吹き込んだ。
それに感じてしまったお前が少し息を詰めて。
「な、なんだか知らねえけど・・俺はどこにも行かねえよ。」
「わかっている。」
「俺、ホーネッツもみんなも大好きだし・・そして何より・・・お前のそばにいたいから。」
そして茂野が振り向く。
俺は吸い寄せられるようにその唇を俺のそれで塞ぐ。
不思議の国と現実と。
二つの世界の狭間で───────。
end
吾郎は単なる無邪気だと思うのですが、キーンが勝手にそっちの世界に行ってしまった・・
そんな感じが過ぎるような気がしますが・・・すいません!!
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
(2009.7.20)
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