「綺麗だね・・吾郎くん。」

春、うらら。
あまりに見事な、一面の桜に
共に歩きながら桜を見上げていた吾郎に声をかけた寿也だったが
そこにいる筈の吾郎はいなかった。
「あれ?吾郎くん??」
振り向くと、少し離れた場所で吾郎がうずくまっていて。
「吾郎くん、どうかしたの?」
もしかして急に体調でも崩したのかと思って、寿也は慌てて駆け寄ると。
「吾郎くん?大丈夫?どこか・・・。」
と、その時。
俯いていた吾郎は顔を上げて悪戯っ子のように、ニヤリ・・と笑った。
たった今、吾郎の身を案じていた寿也なのに
「い・・ッ!」
一瞬で嫌な予感が全身に走り、その表情が豹変、寿也は思わず身構えた。
吾郎はニヤリと笑ったと思ったら、大量の桜の花びらを大空にぶちまけて
「桜のシャワーだ〜〜〜!!」
寿也の頭には、あっという間に花びらの山が。
それを指差して笑い転げる吾郎。
呆気にとられる寿也。


こんなふうに笑い転げる、無邪気な君が好きだ─────。

と寿也は・・・あまりに子供じみた事をする吾郎に溜息をつきつつも、改めて思う。

そして、君がその気なら!

寿也は吾郎に襲い掛かった。
桜の花びらが舞い踊る中、じゃれる様に取っ組み合って、心の底から笑って。

「わかった!やめろって!!寿!!」
「君からあんな事しておいて、もう降参?甘いよ、吾郎くん!!」

  久方の 光のどけき 春の日に・・・・。

あたたかな日差し。
抜けるような青い空に・・・今を盛りに咲き誇る桜、桜、桜・・・・・。
そして響く笑い声。

その声が止んだと思ったら。


「吾郎くん・・・。」
気付けば寿也は吾郎を組み敷いて、満ち足りた瞳で吾郎を見下ろしていた。
吾郎は、当たり前のように瞳を閉じる。
そして当たり前のように、寿也の唇が降りていく。


誰もいない、桜の名所
しづ心なく・・・舞い、散りゆく桜の中
ほんのひと時の、この幸せに

叶うことならば、時間よ、止まれ─────────。

















end



まず桜の中で、じゃれあうトシゴロが浮かんでしまいました。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
(2010.4.7)




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