安らかな眠りから意識が浮上したばかりの朝。
心地よい、まどろみの時間。
薄っすらと重い瞼を開けると、もう部屋には白い光が差し込んでいた。
でもまだ大丈夫。
まだ・・・こうしていたい。
その時間はまだある筈。
眠りながらも俺の背に回された、キーンの太い腕。
この、ぬくもり。
胸の鼓動が、規則正しい寝息が直接俺の躯に伝わってくる。
そして見上げると、そこにはキーンの寝顔。
俺の方がキーンより早く目覚めるなんて珍しい。
そんなに起こり得ることじゃないので、ここぞとばかりに観察してみる。
綺麗に整った容姿。
本当に・・彫像か何かじゃないか、と思うこともある。
それにしても。
起きている時は、あの憎たらしい性格がこの顔に滲み出ているくせに
寝顔は・・・とてもあどけなくて、可愛いと言ってもいいほどだ。
薄く開いた唇。
ここからいつもとんでもない毒舌や
思わず殴りたくなるような恥ずかしいセリフが出てくるんだ。
いつもこの口から出てくる言葉に俺は翻弄されて・・・・。
それを思い出すと、ムカつくような、幸せなような・・・複雑な気持ちになる。

キーンが少し身じろいた。
さっきより少しだけ俺に覆いかぶさるような状態になって。
キーンのぬくもり、重みをさっきよりずっと感じる事が出来て
さっきまでよりずっと、キーンの存在を実感できて、それがなんだか嬉しくて。
俺は思わずその背に腕を回してそっと抱きしめて
幸せをかみしめるように、自然と湧き出るように、愛しい人の名を小さく呟いた。

「キーン・・・・・。」

その時だ。
携帯の音が鳴った。
と、同時にキーンがビクッ・・と目を覚ました。

この着信音は。
「あ、俺だ。」
もう少しだけ、朝のこの幸せを満喫していたかったのに、と残念に思いながら
俺は慌ててサイドテーブルに手を伸ばす。
俺に覆いかぶさるように眠っていたキーンは体を起こした。

「はい・・・。・・・ええ、まあ・・・・はい・・・はい・・・・・わかりました。」
そして通話を切った。

「どうした。」
「ボスが、なんか話があるってよ。」
「・・・・・。そうか。」

朝の甘い時間もこれで終わりだ。
電話のお陰で余韻もヘッタクレもあったもんじゃない。

・・・ちょっと残念だけど、仕方が無い。



「・・・・。メシにすっか。」


それにしても。
何も身に付けず、そのまま眠ってしまった時の翌朝といったら
バツが悪いにも程があるな。
もぞもぞとベットを降りて、素っ裸で下着を探してパンツを穿いてる姿なんて特に。


カーテンを開けると、青い空に太陽が眩しかった。
今日もいい天気だ。

顔を洗ったら朝食の準備。
キーンはおかず担当。
俺が作ると栄養のバランスが最悪だ、と言って俺には作らせてくれない。
だから俺がする事といったら、トースターにパンをぶち込んでコーヒーの為にお湯を沸かすことくらい。
コーヒーの淹れ方にもキーンには拘りがあって、俺には絶対に淹れさせてくれない。
コーヒーメーカーのは不味くてとても飲めないんだとさ。
そこまで自信たっぷりに言うだけあって、同じ豆を使っているのにキーンが淹れたコーヒーは確かに美味い。

それを言うと
「砂糖やミルクをそんなに入れて、味など分かるとは思えんがな。」
なんて、憎たらしい事を言われるんだけど
砂糖やミルクを入れたって、キーンが淹れた方が美味いんだから仕方ないだろう。
何を入れようが、美味いもんは美味いんだ!


同じマンションにそれぞれ部屋を持ってはいるが
大抵はどちらかの部屋で一緒に寝て一緒に起きる。
片方、いらないんじゃねーの?ってくらい・・・俺達は殆どその生活を共にしている。

共に生活しているから、互いのちょっとした癖とか拘りとかが
空気のように当たり前になってきて
そしていつの間にやら互いの仕事の分担が生まれて・・・・。

こういうのって・・・・なんかいいよな。

いつもの目覚めた後の甘い時間を、無粋な電話のせいで邪魔されちゃったけど・・・
おいしそうな朝食の湯気の向こうに
キーンの浅黒い端正な顔を見てると、やっぱり幸せ。

「何をニヤニヤしている。早く食べろ。冷めると不味くなる。」
キーンに指摘されて俺は慌てて平静を装って言った。
「いただきま〜す!」
しかし。
「おい!なんでこんなにグリンピースが入ってんだよ!俺が嫌いな事、知ってるくせに!!」
「子供のような事を言うな。グリンピースは栄養が豊富なんだ。つべこべ言わずにさっさと食べろ。」

やっぱり憎たらしい・・・・!!

「そーいう事なら!お前も納豆食えよ?
納豆はよく知らねーけど栄養の宝庫である事だけは間違いないんだからな!
今度、日本食材店に行ったら、たくさん買ってこなくちゃな!
やっぱ、朝食は納豆に味噌汁だよな〜〜!!」

キーンが恨めしそうに睨み付けているが、知ったことか。

そしてガツガツと食べ始めた。
俺は、ああ言ったものの、グリンピースも頑張って食べた。
だって、キーンが俺の為を思って作ってくれたものだから。



俺達の朝は、大体こんな感じ。
あ、早朝の電話は普通はないけどな。
その代わりに、大抵は・・・
重い瞼のまま抱きしめあって、朝のキスをして・・・そして時と場合によっては・・・・・・・・。





毎日、本当に幸せだ。

野球は絶好調!
ホーネッツは今年は優勝を狙える位置にいる。
そして私生活はキーンと共に・・・。

こんな生活がいつまでも続けばいいと・・・思う。
こんな毎日が、これからもずっと続いてくれるなら・・・・・・
これ以上の幸せはない。

愛しい人と、これからもずっと────────。














end


吾郎に血行障害の症状が現れ始めて
ワッツはFAで他チームに移るらしいという話を聞く。
そんなある朝、ボスから電話があり、そして吾郎はクローザーを勧められれる。
その辺りのアニメを見て妄想したものです。
この話を書いた日記にはシャワーシーンがどうの
ベッドでの吾郎が原作ではパジャマだったのにアニメでは裸だった
と激萌え&NHKに感謝の末、妄想したと書いてありました(笑)。
とはいえ、小ネタ後のコメントには
「アニメのシーンから妄想したんですが、血行障害は絡めずにやってみました。
なんというコトのない話ですが、そんな日常がなんとなく書きたくなって。」と。
これから忍び寄る影を何とか振り切って欲しいと願って書いた事を覚えています。
幸せな朝、幸せな毎日。
そんな毎日を続いて欲しいと・・(涙)。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
(2010.9.12)



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