「いよいよだね。」
「ああ。なんかこう・・・身震いするぜ。」



ひかりのどけき春の日に・・・・。

明日からは二人、海堂高校へ。

ここは二人がよくジョギングに来る川原。
あのセレクション以来、吾郎と寿也は二人でトレーニングがてら会ったりすることが日課となっていた。


「海堂に入ったら・・・もうこんなふうにのんびりできる時間なんてないんだろうな。」

寿也はその言葉とは裏腹に満足げに希望に満ちた瞳で呟く。

「あ〜、楽しみだ。眉村みてーな奴等がゴロゴロいるんだぜ?きっと。」
吾郎は大きく伸びをして川原に寝転んだ。

「ははは・・・。相変わらずだな〜、吾郎くんは。」
「ったりめ〜だって。あんなスゲ〜奴見ちまったら、倒さずにいられるかって。
見てろよ〜!すぐに眉村をエースの座から引きずり下ろしてやる!!」

寿也は思わず苦笑した。

「な〜に人事みてーに笑ってんだよ。寿、お前も一緒だぜ?
二人で海堂のバッテリーを乗っ取ろーぜ!」

「・・・・・・・・。」

「なんだよ。しおらしくなっちまって。」

「・・・・・。吾郎くんは相変わらずだね。昔からちっとも変わらない。
だが・・・・・。
海堂のバッテリーを乗っ取るなんて、簡単な事じゃない。」

「怖気づいたのか?」

「まさか。僕も身震いするよ。」
寿也がニッコリ笑う。

「さすがトシくん!」





穏やかな日差し。
空は何処までも高く青い。
なみなみと水を湛え、流れ行く川。
太陽の日差しを反射してキラキラと輝いている。

こんな日はつい・・・・様々に・・・思いを馳せてしまう。



「ねえ・・・吾郎くん、覚えてる?君が僕をはじめて連れ出した日のこと。」
「どうしたんだよ、急に。」

それには答えずニッコリ笑うと寿也は続けた。

「・・・・・・。僕は時々考えるんだ。
あの時君に出会ってなかったらどうなってただろうって。
もしかしたら野球をやってなかったかもしれない。」
「お前、お勉強ばっかしてたもんな〜。」
「・・・・・・・。」
寿也は過去を思い出したのか哀しげな笑顔をみせた。

「野球を知らなければ知らないでそれなりに生きていたとは思う。
でも・・・・野球に出会えて・・・・君に出会えてよかったと・・・・思ってる。」

寿也は目の前のゆったりと流れる川の水に負けないくらい美しく澄んだ瞳を吾郎に向けた。

「・・・・・。」
寿也は時々とても良い表情をする。
確固として揺ぎ無い・・・・。吸い込まれそうに深い・・・瞳。
その瞳の奥に宿る輝きは。きっと吾郎と同じ。

だが、最近そんな寿也を見ていると妙に落ち着きが無くなるのを吾郎は感じていた。
照れ隠しにぶっきら棒に答える。

「な・・・・何言ってんだよ、ガラでもねー・・・・。」

「ふふ・・・。本当だよ。感謝してるんだ、君には。
ずっと前から・・・いつか・・・・吾郎くんに言おうと思ってた。
ありがとう。あの日、僕を連れ出してくれて。
僕に・・・・野球を教えてくれて。」


「トシ・・・・・・・。」




あの日。
窓から隠れるように吾郎を覗き見ていた寿也。
おどおどして・・・母親の顔色ばかり伺っていた。

誰に・・・何人に声をかけたか、そんな事はもう覚えていない。

ただ誰かと一緒に・・・。
野球にならなくても・・・せめてキャッチボールがしたかった。
寿也にも・・・あの時、正直大きなものを期待した訳ではなかった。

でも。
はじめてボールを握ったにもかかわらず吾郎の球を受け、しっかりとした球を放った。




あの時の喜びを・・・吾郎も忘れた事はない。
はじめて、おとさん以外の誰かとキャッチボールをした日。


その後の不幸な出来事で寿也とは離れ離れとなったが
再会を果たし・・・今度は共に野球の名門へ殴りこみをかける。




一種、運命的なものを吾郎も感じていた。




「俺も・・・感謝してるよ。
元々俺は野球馬鹿だけど、お前に会ったお陰でずっと野球が楽しくなったしな。
横浜リトル戦にしても、友ノ浦ン時も、すっげーワクワクした。
そして今度はお前と二人で海堂だ!
あの時から夢に見た・・・・お前とのバッテリーが叶うかもしんねー。
いや、絶対に叶えてやろうぜ?
海堂のエースで4番は俺!んで俺の恋女房は寿、お前しかいねーからな!?」

「ふふ・・・・エースはともかく、4番は僕が頂くよ?」

「言ってろよ!へへっ・・・・。
オレとお前はそうやって野球馬鹿やる運命なんだよ。だからあの時出会えたんだ!」

吾郎は無邪気に笑った。





運命・・・・・。
そうかもしれない。

人生において無数に存在する「 if 」。

もし・・・・あの時吾郎くんの誘いに乗って外へ出て行かなかったら。
もし・・・・吾郎くんがいなくなっても野球を続けていなかったら。

いや、それよりも・・・もし・・・・・・あの小さな子供の頃、僕達が近くに住んでいなければ・・・・・・。


間違いなく僕の人生は違ったものになっていた。

そして、今・・・・・。





隣にいる吾郎は楽しそうに笑いながら、海堂での無茶苦茶なサクセスストーリーを展開中だ。
その中には僕も一緒になって語られている。

なんにも不安なんてない、その無邪気な笑顔は子供の頃からちっとも変わらない。


可愛いと・・・・その笑顔をいつまでも見ていたいと・・・思った。


よく・・・・分からないが・・・・そう・・・・思った。



そして明日からは吾郎と二人、共に野球三昧の日々を送る。


そう思うと・・・胸の奥底から湧き上がるような喜びを覚えた。















「じゃあ、明日。遅刻しないようにね?」
「誰が遅刻なんてするかよ!待ちに待った海堂初日だってーのに。」

「ふふ・・じゃあ。また明日。」
「おう!明日、な?」





それは海堂高校入学前日のこと。

七部咲きの桜が美しい、うららかな春の日。



希望溢れる未来に想いを馳せて・・・・。














end

タイトルはアニメ第1シリーズのEDから頂きました。
寿也にはきっと・・・。あの日連れ出してくれなかったら・・・そんな想いはあるだろうな〜と思って。
だから「ありがとう」と寿也に言わせたかったんですv。
ここまで読んで下さりありがとうございました!
(2006.4.12)

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